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建設ラッシュとクロードの妹

「さて、今日は大公のみんなに集まってもらったわけだけど、屋敷は気に入ってもらえたかな?」


 私が質問するとみんなは満足気な顔をして笑みが浮かんでいた。

 若干一人普通の顔だったけど。


「あの、陛下。ゴードン殿がいらっしゃらないようですが、屋敷を建てていらっしゃるのでしょうか?」


「ああ、ゴードンは今お使い中だから気にしないで。先に話を進めてていいってことだったから。」


 ゴードンは今はシェルフィート王国に出張中だ。

 青蘭に頼んで連れていってもらっている。

 籠に乗って運んでもらうそうだ。

 前にクロードがシェルフィート王国に私を迎えに来たときもそうだったらしい。

 緊急時以外は私以外を乗せるつもりはないということだ。


「じゃあまずみんなにこれを見て欲しいんだけど。」


 そういうって取り出したのは昨日大活躍したジオラマ地図だ。

 王都の様子がジオラマになっていて私が昨日建てた施設や店などがちゃんと再現されている。


「陛下、これは・・・」


「これは王都の縮小版を再現したものだよ。ここにある建物は私が昨日実際に王都に建てたものなの。今日はみんなの領地にもこれと同じように施設を建てようと思っているの。」


「凄いな。まさか1日でほとんど町が出来上がってしまうとは。」


 クロードが驚きの顔してジオラマを見ている。

 他のみんなも同様だ。

 私はちょっと鼻が高い。


「さて、領地に絶対に建てて欲しい施設とできれば建てて欲しい施設を説明します。絶対に建てる施設はほとんどがこの公共区にあるからまずはそちらから上げていくね。役所、衛兵の詰所、病院、銭湯、裁判所、孤児院、あとは冒険者ギルドも公共区に誘致する予定です。あと学校区に小学部と中学部を建てます。商業区に商業ギルドも誘致する予定です。以上が絶対に建てて欲しい施設になります。できれば建てて欲しい施設は、図書館とアパートです。施設の詳しい説明はこの本にまとめたからそちらで確認してください。それでも分からないことや質問があったら受け付けるから。」


 私は昨日のうちに準備しておいた本を大公たちに渡す。

 実はこれ、私の考えをヘルプさんがまとめて作成してくれたものなんだよね。

 説明面倒臭いなーとか思っていたらヘルプさんが準備してくれた。

 いきなり目の前に本が現れたときは驚いたけど。


「アパートとは考えたな。利益にはならないがスラム防止になると考えればいいアイデアだ。」


「病院の医者を用意してくれるとはさすがですな。」


「図書館を建てるなら本もおまけについてくるってこれは建てるしかないじゃない。」


 みんな説明の本を読んで思い思いの感想を述べて色々考えているようだ。


「陛下、少しよろしいでしょうか?」


「どうしたのローラン?」


「この銭湯は私の領地では温泉にしてはいただけないでしょうか?あと、他の施設も和風に統一したいのです。できれば着物も広めたいですね。」


「おお!いいねそれ!ローランの領地の特徴があっていいと思うよ!」


「ありがとうございます。」


 ローランが微笑んでお礼を言った。

 これは昨日温泉に骨抜きにされたんだろうな。

 分からないでもないけど。


「ええと、なにか他にはない?」


「はいなのじゃ!ついに戸籍カードを作るための魔導具が完成したのじゃ!妾の最高傑作なのじゃ!」


「おお!凄いじゃんエレオノーラ!」


「ふふん、妾にかかればこんなものなのじゃ!」


 エレオノーラが自慢気に胸を張る。

 いやこの短期間で本当に凄いと思う。

 さすが伊達に長生きはしてないね!

 エレオノーラの後ろに控えていたバトラーさんが完成した魔導具を机に置いた。

 魔導師は水晶のような形をしていた。


「それぞれの領地で色を変えてみたのじゃ。陛下の希望通り裏に領主の紋章がでるように設定したいのじゃ。まだ紋章は登録していないからできるだけ早く考えて欲しいのじゃ。」


 できるだけ早くか。

 でもまあ早く完成させたい気持ちも分からないでもないけど。

 それにしても紋章か。どうしようかな?


「いかなり紋章を考えるのは難しいと思うからみんな形式を統一させるのはどうかな?」


「そうだな。それならポラリス王国の貴族であることがすぐに分かる。」


 クロードが賛成の言葉を言うと他の大公も賛成してくれる。

 でもなぜか私がその形式を考えることになったけど。


「じゃあ私の故郷に北斗七星っていう7つの星からできる星座があるんだけど。その星座はいつも北極星っていうこの国の名前にもなっている星のいつも側にある星なの。それとその領地の特徴の絵をひとつ描けばいいんじゃないかな?」


「この国の側にある7つの星ですか。この国にぴったりですな。大公は7人ですし。さすが陛下です。」


 おお!セリオンさんがなんか格好いいことを考えている。

 なんか深読みされている気がするけど。


「となると問題はその領地を示すものね。どうしようかしら?」


 レティシアが呟いて考えこむ。

 私も考えないといけないよね、王家の紋章は必用だし。


「とりあえず明日までにそれぞれ自分の領地を示すようなものを考えておくことにしよう。」


 そういうことで紋章の話は明日に持ち越そうという話になった。

 今日は施設を建てるのが忙しいからね。


「じゃあ早速それぞれの領地の施設を建てていきます!」









「つ、疲れた~!」


 私は7つの領地全てに施設を建て終わり机にへばりついた。

 さすがにあれだけつくると体力がいる。

 大公全員が絶対に必要な施設だけでなく、できれば建てて欲しいといった図書館やアパートも建てるということだったのでそちらも全て造った。

 しかも建物は大公の屋敷と合うようにしたので全て同じように建てるわけにもいかなかった。

 大変ではあったけど、そのおかげでそれぞれどの領地も個性があって、同じポラリス王国であっても全ての領地を回って観光してみたくなるような感じに仕上がった。

 特にローランの領地はローランが凄くやる気があったこともあり日本でタイムスリップしたような風景になった。

 もちろんローランが経営するらしい温泉宿も造り、私のアドバイスで魔法の力で一年中咲き誇る桜がたくさん植えられた。

 レティシアの領地はまさに南国リゾートみたいで、カミロは私に全て任せるということだっ中華風にしてみた。カミロがあんぐりと口をあけて言葉を失っている様子はとても面白かった。

 エレオノーラの領地はなんというか、全てが豪華というか派手というかまあそんな感じです。思わずあれ孤児院ですか?といいたくなる。

 セリオンさんの領地は自然溢れる町になった。森の中に町があるみたいで様々なツリーハウスがとてもおしゃれだ。

 クロードの領地は私からしたら異世界来たー!というような町だ。

 つまりこの世界の人からしてみれば普通ということだ。

 でも他の町よりは立派な建物だということでダンジョンもあるし全然構わないと言っていた。

 むしろどのようにダンジョンを経営するかということで今は頭が一杯らしい。

 ゴードンの領地は前日のうちにゴードンから色々注文を受け、先に造っていいということだったのでそれを参考に造った。

 なんというかこれもまた普通なんだけどクロードの町と比べて武骨な雰囲気でなんか職人の町って感じだ。


 まあともあれやっと町が完成した。

 これで移住の受け入れを始めることができる。

 その前に冒険者ギルドと商業ギルドに話をつけないといけないな。

 それから最低でも役所で働いてくれる人と学校の先生を雇わなくては。







 ひとまず町が出来上がったことでクロード以外の大公たちはそれぞれの領地を見に行くということだったので転移で送りだし、私は少し休憩をしていた。


「王都の大公の屋敷と領地の屋敷を繋ぐ転移魔方陣でも準備しておこうかな。」


 全員を送りだすのが面倒くさいのでそう呟くとクロードが賛成してきた。


「それはいい考えかもしれないな。緊急時用に使えるかもしれない。但し大公だけ通れるという設定は必要だろうけどな。」


「どうして?家族とか使用人とかも連れてくるでしょ?」


「そういう場合は普通に馬車で来ればいい。貴族が通ることでそこにある村などにお金を落としていくのも大切だ。そうすれば近隣の村も潤うからな。今はまだ村はないが、何年かすればできていくだろうしな。転移魔方陣はあくまで緊急用だ。」


「おー、なるほどね。」


 なんでも便利なのがいいわけじゃないんだね。納得です。

 ・・・あれ?ということはそれは私にも当てはまる?


 コンコン


「失礼いたします。ゴードン様がお戻りになられました。陛下にお会いしたいということです。」


「分かった。ここに通してくれる?」


「かしこまりました。」


 アネットがゴードンが帰って来たことを伝えてくれたので、ゴードンは無事にお使いを果たせたのだろうかと考える。


「ゴードン殿が帰って来たのか。ところで用事とはなんだったんだ?」


「ああ、それは後でのお楽しみだよ。」


 私がウインクをしてそういうと、ちょうどコンコンとノックがしてゴードンが入ってきた。


「おう、戻ったぞ。ちゃんと約束通り連れてきた。儂の知り合いも何人か連れてきたから儂の領地まで送ってくれ。」


「了解。ありがとうお疲れ様でした。後でゴードンの連れてきた人たちも送るから待っていてくれる?ゴードンの領地も必要な施設と図書館もアパートも建てたからちょっとした町になってるよ。でも他の領地みたいに家や店がないからできれば移民を受け入れるぐらい建てて欲しいな。」


「分かった。見てこよう。それにしてももう建ててしまうとはやる気が削がれるのう。」


「大丈夫だって。移民がきたら建設ラッシュが始まるだろうからそのときはドワーフたちにお願いするよ。ダンジョン機能は気軽に使えなくなるだろうから。」


「それもそうじゃな。これからさらに忙しくなりそうじゃわい。では後でな。」


 ゴードンが少し嬉しそうに話ながら出ていくと今度は私より少し年下の黒髪の美少女がアネットに連れられて入ってきた。


「な、なぜ・・・?」


 クロードが驚いて見つめるその美少女は目に涙をためて嬉しそうに微笑んだ。


「お兄様!」


 美少女はクロードに飛び付くとわんわんと泣き始めてしまった。


「なぜエミリーがここに?」


「女王陛下が私を探すようにおっしゃってくださったのです。」


「陛下が?」


 クロードが驚いて私を見るので私はにっこりと笑ってみせた。


「セルジュからクロードに妹がいるって聞いたものだから。ゴードンにシェルフィート王国に行って探してくるようにお願いしたの。」


「・・・本当に、あなたという人は。」


 クロードがうっすらと目を濡らし妹の頭を撫でると私に眩しいほどの笑顔を向けた。


「ありがとう。」


 クロードにしては珍しく穏やかな顔をしてお礼をいうので私はちょっとドキドキしながらも笑顔で頷いた。

 セルジュも嬉しそうに笑顔を浮かべている。

 妹のエミリーちゃんも涙ながらに二人にしがみついていた。


「ほら、エミリー。陛下にお礼を言わないか。」


「ぐすん。もうじわげございばぜん~。」


「だ、大丈夫だから落ち着いてからでいいから、ね?」


 泣きながら喋るものだからエミリーちゃんが凄いことになっている。

 しばらくしたら落ち着いたのか目を腫らしながら私に顔を向けてお辞儀をした。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした。この度は助けていただき本当にありがとうございました。こうしてまた兄たちと再会することができました。このご恩は一生忘れません。」


「頭を上げてください。私はクロードたちにとてもお世話になっていますからそれに報いたいと思っただけです。」


 エミリーちゃんがあまりにも丁寧にお礼を言うものだから私は慌ててしまう。


「女王陛下はとてもお優しいのですね。しかも人々から尊敬されていらっしゃってとても素敵です!」


「そ、尊敬?」


 いきなり尊敬されているとか言われてきょとんとしてしまう。

 なに?私誰に尊敬されているの?


「私を買ったのは傲慢な貴族だったのですが私を手放すことをとても渋っていて、ゴードン様がいくら支払うと言っても耳を貸さなかったのです。ですがゴードン様がわたくしを連れてくるようにおっしゃったのがポラリス王国女王陛下だと聞くと表情が一変していきなり土下座をして怯え始めたんです!」


「は?」


 エミリーちゃんが瞳をキラキラさせて熱弁してくれるけど私は頭が追いついていません。

 どうしてそういう状況になったんだろうか?

 私なんかしたっけ?


「女王陛下は以前、好き勝手していた公爵家を潰したんですよね!女の敵であるその公爵家の子息の家に殴り込みにいってこてんぱんにやっつけて女性を華麗に助け出したとか!本当に素敵です!美人だし格好いいし本当に憧れます~!」


「な!?」


 なんか話が飛躍しているー!

 もしかしてシェルフィート王国ではそういう風に広まっているの!?

 キラキラして話すエミリーちゃんを見て思わず遠い目をしてしまう。

 というかクロード笑いすぎでしょ!


「ま、まあ話に尾びれがついて広まってしまったんだね。ほら、クロード!エミリーちゃんは疲れているはずだから早く部屋に案内してあげて。」


「分かった分かった。もう少し陛下の武勇伝を聞いていたかったけどな。」


「もうそれはいいから早く行きなさい!」


 私はクロードとエミリーちゃん、ついでにセルジュも話したいだろうからさっさと三人を会議室から追い出すと「はあー。」と息をついた。

 それにしてもまさかあんな風に言われているなんて。


「お疲れ様です。これからどうなさいますか公爵家潰しのマスター。」


「なんでいちいちからかってくるかな!?」


「楽しいですよね。」


「べつに楽しくないから!そんなことに楽しさを見いださなくてもいいから!」


「あ、あのー。ゴードン様が陛下はまだかとおっしゃっているのですが。」


 私とシルキーが言い合いをしていると遠慮がちに侍女に声をかけられた。


「あ、ごめん。すぐ行きますと伝えて。」


「かしこまりました。」


 侍女が礼をして立ち去ると「ふう」と息をついた。

 侍女が声をかけてくれて助かった。

 なんでシルキーはいちいちからかってくるかな?


「はあ。これ以上待たせるのも悪いから早くゴードンのところに行こう。」


 そして私はシルキーを連れて会議室をあとにするのだった。



 ・・・本気で専属メイド変えてもらおうかな。

男A「おい、聞いたか?ポラリス王国の女王陛下の噂。」

男B「ん?あの公爵家のぼんくら息子を成敗したたって話か?」

男A「ああ。なんでも女にちょっかいをだしていたら女王陛下がどこからともなく現れて、魔法をぶちかましプライドをへし折り、最後の仕上げとして男として再起不能にまで追い込んだらしいぜ。」

男B「まじか!おっそろしいな!」

男A「ああ。最近じゃ女好きの貴族から奴隷だった女をかっぱらっていったららしいぞ。」

男B「すげえな。そりゃ、女たちがポラリス女王陛下に憧れるのも無理ねえな。」



その後噂が飛躍して広がった結果、「女性を大切にしないとポラリス女王陛下がやってくるよ!」という言葉が広がったとか広がらなかったとか。


花梨「私はなまはげか!」

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