大公の屋敷とダンジョン機能
それぞれの領地の場所が決定した。
いよいよこれからは人が住めるように領地の改革を進めていく。
まずは領地の中心になる大公の屋敷を造ることになった。
本来なら建物を建てる、ましてや屋敷のように大きなものとなるとお金も人手も時間も掛かるけど、私にはそれはそれは便利なダンジョン機能というものがある。
色々カスタマイズもできる上に一瞬で建てられるって凄くない?!
必要なのは私の魔力だけらしい。
あと大切なのは私のイメージ。
それを大公のみんなに話したらみんな驚いて歓迎してくれたけど、ゴードンだけは「儂の屋敷くらい自分で建てる!」とか言って材料だけ要求してさっさと土地を見に行ってしまった。
さすがドワーフ。
でも私のドワーフのイメージは建築よりも鍛冶なんだけどな。
しかも自分の領地までここから結構遠いと思うんだけど。
「えーと、ゴードンのことはひとまずおいておいて大公の屋敷をちょちょいと建ててしまいましょうか。」
「普通屋敷はそんな簡単に建てられるものではないんだがな。」
クロードが苦笑していうことにみんなも頷いて賛同していた。
「まあそうなんだけどね。でも人が住むようになったらあまりこの機能は使えないからね。受け入れを始める前に最低限のものだけ造っていこう。それじゃあ、誰の屋敷から始める?」
「はいなのじゃ!妾の屋敷を造って欲しいのじゃ!」
エレオノーラが手を挙げて真っ先に立候補する。
たしかエレオノーラが一番年長のはずなんだけど一番幼く見えるな。
ほら、後ろでバトラーさんが頭を抱えているよ。
「分かった分かった。エレオノーラからね。どんな屋敷がいいの?」
「立派な城がいいのじゃ!」
「・・・そっかぁ。立派な城がいいのかあ。」
うん。抽象的すぎて全然分からん。
もっと具体的なのプリーズ!
「と、とりあえずよさそうだなと思ったのを選んでくれる?」
そういって差し出したのは地球の中世ヨーロッパの城の本。
元々ある建物を選ぶとそれをベースにしてカスタマイズできるので一から考えるよりも簡単にできる。
「ええと・・・おお!これがいいのじゃ!」
「そっかーそれかー・・・って、それベ○サイユ宮殿じゃないか!」
この吸血鬼一切の遠慮なく一番凄いやつ選びよった!
「・・・駄目なのじゃ?」
「うぐっ!」
一番年とってるくせに見た目が幼女なのをいいことに瞳をうるうるさせて上目遣いをしてきた。
一番年とってるくせに!
大事なことなので2回言いました。
「今とても失礼なことを考えなかったのじゃ?」
「よし!早速これをベースに屋敷を造ろうか。」
エレオノーラにじと目を向けられてそっと目線をそらす。
なんで私が考えていることが分かるの!?
というか目が怖い!怖すぎる!
「こほん。この建物をそのままにすると大きすぎるからこの真ん中のところだけでいい?」
まあそれでも十分大きいんだけどね。
庭とか手入れが大変なだけでこんないらんでしょ。
「まあいいのじゃ。しかしこの広さでなくてもいいがちゃんと庭もつけるのじゃ。あと内装も家具つきでこの写真の通りにして欲しいのじゃ。こんな綺麗な細工見たことないのじゃ。あ、それから魔道具を作るための妾の研究室もつけるのじゃ!」
「あー、はいはい。」
注文多いなこの吸血鬼。
研究室は私も絶対に必要だとは思うけど。
あとは使い勝手がいいようにトイレや風呂、厨房などの水周りに手を加えていく。
ダンジョン機能のいいところは勝手に上下水道を整えてくれることなんだよね。
よし、こんなものでいいかな?
写真があるとイメージしやすくて助かる。
私はイメージを明確にしたまま魔力を高めていく。
私の膨大な魔力がぐいぐいとある場所に集まって濃縮され形になっているのが遠く離れたここからでも分かる。
かなりの魔力が吸いとられて結構辛い。
いくら底なしといってもいきなり大量の魔力が抜かれると体に負担がかかる。
「・・・よし。できた。」
私は屋敷が完成したのを感覚で感じて「ふう。」と息をつく。
自分でもなんでそんなことが分かるのか理解できないけど、まあ、魔法やファンタジーに理屈を求めてはいけないことは分かる。
「・・・もう完成したのじゃ?」
エレオノーラが恐る恐る聞いてくる。
周りを見るとみんな息をひそめてじっと私を見ていた。
私は苦笑しつつ「もちろんばっちり完成したよ。」と言えば、みんな安心したようにほっと息をつき顔の表情を緩めた。
「かなりの魔力を使っていたようだったから心配した。」
とクロードが声をかけてくれたので大丈夫だと答えておいた。
「ちょっと休憩したらまた始めるから次は誰の屋敷を造るか決めてね。」
私がそういうとみんな心配して明日にしたらどうかと言ってくれたけど、私は魔力は無限だし少し疲れたなくらいなので問題なし。
それより早く終わらせて住民の受け入れをしたいことを伝えればみんなしぶしぶながらも了承してくれた。
まあ無理せず少しでも辛くなったらすぐ止めるように約束させられたけど。
セルジュが用意してくれた紅茶で一息つき、しばらく休憩して屋敷造りを再開する。
次はセリオンさんの屋敷を造ることになった。
「なにか希望はありますか?」
「そうですな。私はエルフですから自然に囲まれた屋敷がいいですな。」
「なるほど。ではいっそのこと植物自体を屋敷にしてみましょうか。」
「え?」
私の言葉にセリオンだけではなく他のみんなも目を丸くしている。
私が考えているのは、ザ・ファンタジーな感じの巨体な木が屋敷になっているものだ。
木のぬくもりのあるエルフが好きそうな屋敷になると思う。
内装は所々に木の蔦があり、家具もテーブルや椅子が木の枝とかいいんじゃない?
なんか凄くおしゃれだと思う!
私の考えをセリオンさんに伝えると面白そうということで私のアイデアを採用することになった。
よし!元の建物がないからちょっと難しいけどせっかくいい考えが浮かんだんだから頑張ろう。
意識を集中して魔力を先ほどと同じように魔力を高める。
イメージをはっきりと・・・
地図で確認した場所に魔力が集まっていくのを感じる。
やっぱり不思議では感覚だ。
・・・。
案の定さっきよりも時間がかかった。
でも問題なく完成したと思う。
水周りもバッチリ。
早く確認に行きたいけどまだ造らないといけない屋敷が残っているので我慢。
セリオンさんも気になって仕方がないみたい。
エレオノーラなんかさっさと自分の屋敷を見に行ってしまったからな。
走って行こうとしていたから慌てて転移で送ってあげた。
他の吸血鬼のみんなにもの凄く感謝された。
確かにあの距離を走って行きたくはないよね。
ちなみにダンジョンの能力で私はこの国の中ならどこでも転移できるそうだ。
魔法の転移は一度行ったことのある場所しか行けないから助かる。
「・・・。」
・・・さっきからセリオンさんの無言の視線が痛いんだけど。
「・・・分かりました。屋敷に送ってあげますから私が迎えに来たときはちゃんと話し合いに集まってくださいね。ついでにセリオンさんの領地はエルフも過ごしやすそうな自然豊かな場所にしておきましたから。」
「おお!ありがとうございます!」
そうしてセリオンはエレンやエルフの仲間たちを連れて新築の屋敷に転移していった。
なんかセリオンさんがわくわくしている子供のようで面白かったな。
休憩を挟みお次はレティシアの領地。
もうこれはレティシアには申し訳ないけど私の中でだいたいイメージが出来上がってしまっている。
前世では行くことの叶わなかった南国リゾートの夢が今目前に!
「レティシア!私こういうのがいいと思うんだけど!」
「わ、分かったからちょっと落ち着いてちょうだい。そんなに興奮してどうしたのかしら?」
レティシアが私の勢いにちょっと困惑している。
しかーし!これを見てレティシアは冷静でいられるかな?ふふふ。
私はバーン!と南国リゾートの写真をレティシアに見せる。
「なんなのこれは!?こんなに海に似合う建物があったなんて!」
「凄いでしょ?」
「ええ!とっても素敵よ!こんな素晴らしい屋敷に住んでみたいわ。」
レティシアは瞳をキラキラさせ、うっとりとした。
おう、女の色気まじ半端ないです。
ちょっと押さえてくださいレティシア姉さん。
「それじゃあこんな感じに屋敷を造るね。」
「本当!?嬉しいわ!これからこんな屋敷に住めるなんて!」
「その代わり私にも部屋を確保しておいてね。」
「ええ、もちろんよ!お泊まりにいらしてくださいな。一緒にお茶でもしたら素敵だわ。」
連夜が妄想に入ったところで早速魔力を集中させて・・・
おう、今度は簡単に終わってしまった。
私はよっぽど南国リゾートに行きたかったんだろうか?
すっとイメージができたんだよね。
「できた。」
「もう!?凄いですわ陛下!早速私を屋敷に送ってちょうだい!」
「えー、私も行きたいー!」
「陛下はまだ仕事が残っていますわよ。もう少し頑張っくださいな。あとで一緒に私の屋敷を探検しましょう。」
私はしぶしぶご機嫌なレティシア屋敷へと送りさっさと仕事を終わらせるべく次の屋敷に取りかかる。
と思ったら休憩をしないと駄目だと怒られた。
とほほ・・・。
ということでそわそわしつつしっかりと休憩をとり、今度はカミロの屋敷だ。
「カミロはどんな屋敷がいいか希望はある?」
「住めれば特に問題はない。任せる。」
カミロはあまり住むところにこだわらないのか。
まあ今まで転々としてきたらしいからそのせいかも知れないけど。
カミロは私に任せるということなので普通の屋敷では味気ないから異国風にしてみよう。
「じゃあアラビア風でいいかな?」
「アラビア風?」
「うん。異国のデザインなんだけど、龍人族のイメージに合う気がするんだ。」
ターバンのように布を巻き付けたような服装の龍人族にアラビアのイメージが私の中でぴったりと当てはまったのだった。
「分かった。それでいい。」
「了解。」
私はさっそく写真を参考にイメージを固める。
すごく華やかで豪華になりそうだけどいいんじゃないかな?観光名所にする予定だったし。
「・・・ふう、できた。」
やっと完成した。
なかなかのものができたと思う。
「できたのか?」
「うん。完成したよ。早速屋敷に送るからチェックして不便な場所があったら教えてくれる?」
「ああ分かった。助かる。」
カミロの珍しく穏やかな顔にちょっぴりほっこりしつつ、カミロと他の龍人族の人たちを屋敷に転移させる。
みんな喜んでくれるといいな。
「さて。次はどっちの屋敷にする?」
私は紅茶を飲んで休憩をしつつ、残ったクロードとローランさんに聞いた。
さりげなく冷えた紅茶をずっと交換してくれているセルジュさすがです。
「俺は最後でいいから先にローラン殿の屋敷を造ってくれ。」
「おや、よろしいのですか?では遠慮なく。」
クロードが先に譲ってくれたので次はローランさんの屋敷を造ることになった。
「ローランさんは」
「あなた様は女王なのですから臣下である私に敬称はつけなくてもよろしいのですよ。」
「あ、ごめんなさい。ローランはどのような屋敷がいいか希望はありますか?」
「・・・そうですね。もしお願いできるのであれば陛下の故郷の建物にしていただきたいのですが。」
「私の故郷の建物ですか?」
「はい。陛下は遠い異国からいらっしゃったのだとお聞きしましたので。陛下の故郷がどのようなものか気になります。」
実際は異世界なんだけどね。
しかし私の故郷というと和風の建物ということかな?
それはいいかもしれない。
「私の故郷のもので本当にいいんですか?私が色々手を加えてしまうかもしれませんよ。」
「ええ、構いません。陛下の思い描くような屋敷にしてください。」
「分かりました。少し待ってくださいね。」
私は断りを入れると慌てて図書室の地下へと向かう。
あそこにはたしか大量の和風の屋敷や日本旅館の写真があったはず。
日本旅館といったら温泉は欠かせないよね!
頑張って温泉がでるようにしたらいいかも!
いっそ温泉観光地にでもするかな。
ちょっと楽しみになってきた!
「お待たせしました!」
私は本を抱えて会議室に戻ってくると早速ローランに写真を見せた。
「・・・これが陛下の故郷の建物ですか?」
ローランは息を飲んで写真を食い入るように見つめる。
「素晴らしいです。とても美しく、それでいて派手ではない。むしろ落ち着きのある上品な雰囲気です。」
そうでしょう、そうでしょう!
日本の美ってそういう感じだよね。
写真見ていたら畳で寝転がりたくなってきた。
「こんな感じの屋敷でいいですか?」
「ええ。この和風でしたか?ぜひこれでお願いします。」
「分かりました。あの、図々しいお願いですけど・・・」
「陛下のために一番立派な部屋を確保しておきますよ。」
「・・・一番立派でなくてもいいのでお願いします。」
ローランはなんで私の言いたいことが分かったんだろうか?謎だ。
クロードが呆れたように見てくるけどいいんだ別に。
高級日本旅館のような部屋を持てることができるならクロードの視線なんか痛くも痒くもないもんね。
そしてもうひとつ私の願望を叶えるために忘れてはならない重要なことがある。
「あともうひとつお願いしてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「私の故郷には温泉という自然に涌き出るお湯があるんですが。」
「温泉、ですか?」
「はい。そのお湯は色々な効能があってお風呂のように浸かるととても気持ちがいいんですよ!それはこの和風の屋敷には欠かせないものなんです!温泉が涌き出るようにしてもいいですか?ローランも虜になること間違いなしです!」
「そうですか。そういうことなら構いませんよ。私も温泉に入ってみたいですね。」
「もちろんです!屋敷のお風呂は全て温泉にしておきますから楽しみにしていてください!」
私も久しぶりに温泉に入りたくなってきた。
これはローランの屋敷に入り浸ってしまうかもしれないな。
私はそんなことを考えながら魔力を集中する。
屋敷がどんどんと私のイメージ通りに形になっていく。
コンセプトは高級日本旅館だ。
もちろん温泉の設定も忘れない。
「・・・できた。」
色々凝ったから疲れてしまった。
温泉が涌き出るようにしたのもあるけど。
一番力を入れて造った気がする。
日本風の庭も気合いを入れた。
私的には枯山水よりも緑や池のある庭の方がよかったので写真を参考に造った。
夜になると明かりが綺麗なはずだ。
後で池に鯉でも放ちにいこうかな。
・・・この世界に鯉っているんだろうか?
「完成しましたか?」
「はい。素晴らしい出来だと思いますよ。」
「そうですか。ありがとうございます。とても楽しみです。」
ローランがにこにこしてお礼を言ってくれる。
とても嬉しそうなので頑張った甲斐があったな。
「じゃあ屋敷まで送りますから色々チェックしておいてくださいね。私も今度見に行きますから。」
「分かりました。お待ちしております。」
私はローランを転移で送った。
休憩したらいよいよ最後のクロードの屋敷だ。
花梨「あれ?ゴードンどうしたの?」
ゴードン「儂の領地に行こうとしたんじゃが」
花梨「遠すぎて諦めて戻ってきたと?(ニヤニヤ)」
ゴードン「そ、そんなんじゃないわい!地図もなくどっちに行けばいいのかも分からんじゃったからずっとうろうろしていただけじゃわい!」
花梨「・・・ゴードン。それはもっと恥ずかしい。」




