女王の失踪と料理長
あれからゴードンとレティシアとエルフたちを転移魔法でポラリス王国に連れていった。
全員とりあえずしばらくの間は王宮のほうに住んでもらうことになった。
他に建物もないしね。
王宮はすごく広いからまだ余裕で入る。
改めてこの広さはちょっと無駄なんじゃないかと思えてきた。
私なんかいまだに迷子になるし。
そして私はそのままシェフィールド王国に戻り、今度はカミロたち龍人族の回収へ向かった。
いやー、凄く忙しいですね。
カミロの説得は上手くいき龍人族たちはみんな喜んでポラリス王国に来てくれることになった。
ちょっと行きたくない人もいるんじゃないかと心配していたけど杞憂だったみたい。
もちろんみんなポラリス王国へ送った。
その後私がなにをしたのかというと、ある場所へ殴り込みに行くのだった。
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「見つかったか!」
「いいえ、どこにもいらっしゃいません!」
ポラリス王国に帰ってきて次の日、侍女が陛下を起こしに行くとベッドは既にもぬけの殻だった。
慌てて城中を探し回ったがどこにも陛下の姿がない。
ノワールだけは大丈夫だろうとか言っていたが。
陛下を守る騎士がそれでいいのか?
反対にブランは慌てまくっている。
正反対すぎるだろうこの二人。
「陛下は昨日の今日でどこに行ったんだ。」
「さ、宰相閣下!陛下の書き置きが見つかりました!」
「なに!?どこにあった!」
「陛下専用の台所です。」
「なんでだ!!」
なぜ書き置きが台所にあるんだ、おかしいだろ!
まあいい、今は陛下の居場所を知るのが先だ。
「えーと『ちょっと出かけてくる』」
・・・。
「お、お待ちください宰相閣下!お気持ちはよく、それはよーく分かりますが今は押さえてください!」
心が荒れて魔力が暴走しそうになったが周りが慌てて押さえてくれたのでなんとか冷静になる。
しかしなんなんだこの書き置きは。
出かけたのは知っとるわ!
せめて行き先くらい書くのが普通だろ!
女王がふらふら出歩いてどうする!
はー・・・。
言いたいことはまだ山のようにあるが本人のいないところで言っても仕方がない。
この前言い聞かせたばかりなのにまだ足りなかったようだ。
とりあえずまたシェフィールド王国に探しに行くか。
・・・何度もそんな理由で出向くのは恥ずかしいんだが。
「宰相閣下!只今陛下がお戻りになられたそうです!」
「本当か!」
良かった。
また女王が行方不明になりましたとシェフィールド国王に会いに行かなくてはならないのかと思った。
・・・いなくなった時点で良くはないんだが。
「たっだいまー!無事に帰ってこれて良かっ、た・・・」
「お帰りなさい陛下。ずいぶん楽しそうですね。」
「ク、クロード・・・。」
俺が笑顔で陛下を迎えると陛下は顔を青くして固まった。
せっかく頑張って無理して笑顔をつくっているというのに失礼な話だ。
「さて。連れてきたその二人が何者なのかも聞きたいが、まずはどこでなにをしていたのかじっくり聞かせてもらおうか。」
「す、すみませんでしたー!!」
・・・一国の女王が土下座するのはどうなんだろうか。
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「あー、疲れたー。」
私はクロードの三時間にも渡る説教地獄をやっと終えて自分の部屋に戻れた。
出掛けたことよりも説教で疲れたよ。
確かに心配かけたかもしれないけど、朱凰も連れていったし書き置きもちゃんとしていったんだからあんなに怒らなくてもいいと思うんだけど。
「お帰りなさいなさいませ陛下。お茶をどうぞ。」
セルジュの推薦で侍女頭になったアネットが疲れた私に紅茶を持ってきてくれた。
アネットはみんなをまとめてくれているのでとても助かっている。
だからアネットが侍女頭になったのに不満はない。
ないんだけど、どうせなら私の専属が良かったなーって思っちゃうんだよね。
何故私の専属は毒舌シルキーなんだ?
「陛下も懲りない方ですね。宰相閣下のお説教が優しすぎるんでしょうか?それともドMですか?」
あの説教が優しすぎるとかあり得ない。
というかドMってなんだ、ドMって!
仮にも一国の女王にそれはないでしょう!
「あのねシルキー。人には自分を犠牲にしてもやらないといけないことがあるんだよ。分かった?」
「分かりません。」
「ですよねー。」
シルキーならそう言うと思ったけどさ。
「陛下。お連れしたお二方を応接室で待たせていますがどうなさいますか?」
執事のセルジュが私にそう尋ねてきた。
「あ、クロードの説教ですっかり忘れてた。すぐ行く。」
そう、今回出掛けたのはある人物を勧誘しに行くためだった。
でもそう簡単には連れてこれないと思って万全な状態で行ったんだけど、以外とあっさり何事もなく済んで拍子抜けしたぐらいだ。
ふふふ、ブラン喜んでくれるかな?
「お待たせしました。」
応接室に行くと私が連れてきた二人が待っていた。
その他にノワール、ブラン、クロードもいた。
「へ、陛下。あの・・・」
ブランが戸惑ったように私になにか言いたそうにしている。
ブランがちらちらと視線を向けているのは私が連れてきた狐の獣人。
「ブランが会いたかった人で間違いないよ。私が交渉して連れてきた。」
「で、では、陛下は私の為に?」
「うーん、それもあるけどブランの話を聞いてぜひうちにきてもらいたいなと思って。」
この優しそうな男の狐の獣人の名はローラン。
負傷したブランを助けて捕まったという人だ。
ブランが元々いたシェフィールド王国の上方にあるデルベント王国は人族至上主義の国だったので獣人というだけで捕まって奴隷にされるというろくでもない国。
自分が捕まることを承知のうえで人を助けようとするなんてかっこよすぎる。
獣人の代表としてうちで働いてもらいたい。
「自己紹介がまだでしたね。ローランと申します。ご無事でなによりでした。」
「ブランです。あの時は助けていただいて感謝しております。命の恩人にあのような仕打ち申し訳ありませんでした。」
「いえ。ブランさんだけのお力ではどうしようもなかったでしょう。それを知っていて私が勝手にしたことです。あなたが気にやむ必要はありません。」
「しかし・・・」
ブランは納得できないようだけどローランは優しそうに微笑んだ。
「あの後、あなたのお仲間がお礼を言ってくださいましたよ。それにあなたのおかげで私は陛下にお声をかけていただくことができました。ありがとうございます。」
「そう、ですか。」
ブランは少し顔の表情を緩めて微笑んだ。
うん、ブランもずっと気になってたみたいだし良かったよ。
「ところで陛下。どうやってローランさんを連れてきたんですか?あいつに捕まっていたはずですが。」
ブランが不思議そうに聞いてくる。
あいつと言ったとき嫌そうな顔になったのは気のせいではないだろうな。
「案の定奴隷にされてたんだけどお金を渡したら普通に、『はい』って。」
「え?」
そうなんだよね。
ローランさんを引き渡してくれなかったら強硬手段も考えて殴り込みに行く気持ちで挑んだのに、お金を渡したらあっさりと引き渡してくれたんだよね。
私も驚いたよ。
ちなみにローランさんは既に奴隷から解放してある。
「ちなみにいくら支払ったんですか?」
「え?白金貨1枚だけど?」
「「「ぶっ!?」」」
あれ?なんでみんな吹き出してるの?
「は、白金貨ってそんな値段のする奴隷なんていませんよ!だいたい白金貨なんてそうそう使うこともないんですから!」
ブランが慌てたように言うのでちょっと払いすぎたのかなと思ったけど、白金貨って結構いっぱいあるんだよね。銅貨や銀貨よりも。
「白金貨1枚を請求されたのか?」
「いや?これだけ払うから狐の獣人を渡してくださいって言っただけ。値段交渉なんかされなかったよ。」
「だろうな!」
クロードが思わずといったかんじで頭を抱える。
大丈夫かなクロード。
最近なぜか疲れてるみたいだし禿げなきゃいいけど。
イケメン禿げってなんか残念だ。
面白いけど。
「今変なこと考えなかったか?」
「いやべつに。」
クロードがじとっとした目で私を見てくる。
私はすっと目をそらした。
危なかった。クロードの前ではあんまり変なことは考えないようにしよう。
「ま、まあ、ローランが仲間になってくれるらしいからみんなよろしくね。」
これで結構人材が集まってきたな。
あとは吸血鬼だけだけど、吸血鬼ってたしか他の種族に比べると人数が少ないらしい。
しかも吸血鬼は魔道具を作るのが得意らしいから貴重な存在なんだよね。
「陛下。話中に悪いが俺のこと忘れてねえか?」
「え?」
ふと声のした方に顔を向けると頭をかいている大柄のごつい男が一人。
「あ、ごめんなさいブルーノ。すっかり忘れてた。」
「やっぱりか。」
はあ、とため息をつく人間の男のブルーノは私が連れてきたもう一人の人材。
「そういえばずっと気になってはいたんだが誰なんだ?」
クロードの言葉にみんな頷いてブルーノに注目する。
「彼は料理人のブルーノ。私が王宮の料理人にスカウトしてきたの。」
「料理人のブルーノ!?それってもしかして放浪の天才料理人のブルーノか!?」
クロードが驚いて声をだす。
え?もしかしてブルーノって有名人?
たしかに凄い料理人を聞き込みしてブルーノを探しだしてスカウトしたんだけど。
「しかしブルーノは各地の料理を求めて旅をしていて誰にも仕えないと聞いていたが。」
「ああ、もちろんだ。だが嬢ちゃん、じゃなくて陛下が未知の料理と調味料を教えてくれるっていうんでついてきたんだ。もし世界中を旅している俺でも知らない料理があるんならこれ以上のことはねえ。だが俺が知ってるもんならこの話はなかったことにしてもらうがな。」
そういってブルーノは腕を組み不敵に笑った。
「大丈夫だよ。料理のための資金も材料も場所も十分に提供するよ。」
私のためのキッチンと違って日本の設備があるわけじゃないけど、セルジュにきいたらうちの王宮の厨房は他の国と比べても驚くぐらいの設備が整っているらしい。
「それじゃあ早速厨房に行こうか。」
というわけでみんなで厨房に向かうことに。
というかなんで全員ついてくるんだろう?
まあいいけど。
「こりゃすげえな。」
ブルーノが目を見開いて厨房の設備を確認し始めた。
「この食料庫、食材がありすぎると思ったら食材の時間を止める魔道具が使われてやがる。しかも部屋みたいに無駄に広い。これ全部食料かよ。なんだこれ?見たこともねえぞ。」
「気に入った?」
興奮している様子のブルーノに声をかけると嬉しそうににやりと笑う。
ブルーノが笑うとちょっと怖いけど・・・これって笑ってるんだよね?
「ああ。設備もどれも一流品じゃねえか。どれだけ金を積めばこんなにできるんだ?いや、金を積んだとしてもそうそうできるもんじゃ・・・」
「ふ、ふ、ふ。驚くのはまだ早いぞブルーノ!」
「な、なんだと!?」
王宮の図書室には私しか入れない秘密の地下室があって、そこにはなんと地球の本が揃っている。
しかも欲しい本があったら地下の図書室にあるアンケート用紙に欲しい本を書くとその本が補充されるようになっている。
そうして集めたこの地球の料理本!
この世界にはない地球のレシピが今ここに!
「な、なんだこれは!これ全部料理のレシピか!?みたこともない料理ばかりだぞ!しかもこれは甘味か?芸術品だ!」
ブルーノが大袈裟に驚いている。
いやたしかに地球のお菓子は可愛いのやおしゃれなものもあるからあながち間違いじゃないか。
「この本は家庭料理、こっちの本は料理店や高級料理、さらにデザートの本も料理長になった者に捧げようじゃないか!」
「あなたは神か!」
神様になっちゃいました。
「よし!俺はここの料理長になる!いや、料理長にしてください!」
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「なんか詐欺の現場を見た気分だ。」
「よろしいではないですか。実際料理本をお渡しするのですし。」
「いや、でもあれシェフィールドの王族にも渡してただろ。」
「・・・料理長だけに渡すとはおっしゃってないので嘘ではないと思いますよ。」
ブルーノと花梨の会話の間にこんな話があったとか。




