エルフの集落とエレンの友達
森のなかを抜けてやってきましたエルフの集落!
いやー、ここまで長かった!
何度私の心が折れそうになったことか。
え?そんなに遠かったのかって?
距離の問題じゃないんです。
森のなかだからなのか襲ってくる魔物の多いこと!
何度食べられそうになったことか!
っていうかおい。
護衛はどうした翡翠さん。
人が一生懸命戦ったり逃げたりしているのになに一人でグースカ寝てるんですか。
よし、翡翠は今日はご飯抜きだな。うん。
それにしてもゴードンとエレンって強かったんだな。
襲ってくる魔物にも冷静に対処していたし。
ゴードンは斧みたいなハルバードという武器を振り回し、エレンは弓と魔法で上手く戦っていた。
私はもちろん魔法です。
というか武器なんて扱えないし。
それ以前に持ってきてないし。
・・・。
今考えればよく武器も持たずに旅に出たよな、私。
せめて護身用の短剣ぐらい持っていればよかったかな。
よし。帰ったら王宮の宝物庫で探してみよう。
意外と凄いのがあるかもしれない。
しかし魔物との戦いは属性魔法を試すいい機会にもなった。
かーちゃん、神様の言うとおり私は全属性使えるみたいだった。
それを見たゴードンとエレンは凄く驚いていたけど。
やっぱり魔法を使うのは楽しいです。
今回魔法で私は魔物を殺した。
魔物とはいえ生き物を殺すことに抵抗がないわけじゃない。
ワイバーンのときはあまり感じなかったけど、最初は初めてのなんとも言えない気持ちの悪い感覚に気分が悪くなった。
でも次々とくるもんだからこっちが殺されないように必死でそれどころじゃなかったけどね!
逆にそっちの方が良かったのかもしれなくもないのかもしれない。
そんなこんなでやっとついたエルフの集落。
疲れた~!早く休ませてくれ~!
門?のところまでやってくると見張りの人が私たちを見て警戒をする。
「何者だ!名の、れ?・・・こ、これは失礼しましたエレン様!お帰りなさいませ!」
「ただいま戻りました。ご苦労様です。こちらは私のお、お友達でそのお連れの方です。」
エレンは門番さんに挨拶をした後私たちを紹介した。
少しはにかみながらお友達だと言うエレンが凄く可愛いです!
「お友達でございますか?」
「なにか問題でも?」
「い、いえ!エレン様にお友達ができたなんて意外だとかこれっぽっちも思っていませんです!どうぞお入り下さい!」
「「「・・・。」」」
私たちはなんとも言えない顔で門番にお礼を言って中に入った。
「私、もう立ち直れないかも・・・。」
「エレン!?だ、大丈夫だよ!きっとこれもエレンが愛されている証拠だって!多分!」
「あの発言からどうして愛されていることになるのかな?後どうせ慰めるならそんなに多分を強調しなくてもいいんじゃないかな?」
「エ、エレンしっかり~!」
目から光をなくしてぶつぶつ呟くエレンの肩を強く揺さぶる。
そんな私たちの様子をやれやれとため息をついてゴードンは遠目に見ていた。
いや、エレン慰めるの手伝ってよ!
それから私の必死の慰めによっていくらか落ち着いたエレンと族長の家、つまりエレンの家に向かっていた。
この集落に住んでいるエルフたちはエレンを見つけると笑顔で迎えてくれた。
うーん、エルフたちはエレンのことを大切に思っているのがこちらにも凄く伝わってくるんだけど、なんていうかな?
やっぱり尊敬、敬愛というのがしっくりくるというか。
姫様として扱われているんだろうなというのがよく分かる。
これはやっぱりもう王族の宿命なのだろうか?
正確にはエレンは王族じゃないけど同じようなものだ。
ここはやはり私がエレンの友達として・・・
あれ?ということは、れっきとした王族である私も友達が少ない人生を送ることになるんじゃない?
・・・。
いいもんね!
私にはエレンがいるし!
というか友達できないなんて決まってないし!
目指せ!友達百人!
私だって百人の友達とおにぎり食べてやる!
富士山では無理だけど。
そういえばあの歌の子って結局友達百人できたんだろうか?
おにぎりを食べるのはともかく、百人で日本中を駆け回ったら軽くホラーだと思うんだ。
・・・は!いかんいかん。
現実逃避して子供の歌に真面目に突っ込んでしまった。
今はエルフの族長さんと会うことを考えないと。
ポラリス王国のことも話さないといけないしね。
「はじめまして。私がエレンの父親で族長のセリオンだ。娘を助けてもらったようで心から礼を言う。」
そう言ってにこやかに挨拶をして手を差しのべているのはエレンのお父さん。
いや、エレンのお父さんなんだからきっとかっこいい人なんだろうなとは思っていたよ?
思っていたけどお父さん若すぎだろ!
二人並んでいると恋人にしか見えないよ!
しかもめちゃくちゃイケメンです。
エレンの髪も瞳もお父さん譲りだったんだな。
なんかそっくりです。
ふわふわした雰囲気のエレンとは違ってセリオンさんはキリリとしたイメージだけど。
「こちらこそよろしくお願いします。私は花梨と申します。そしてこちらが連れのゴードンです。」
ゴードンは軽く礼をした。
珍しく控え目だな。
もしかして私の従者みたいな立場でいることにしたのかな?
うん、その時々こちらにドヤ顔を向けてこなかったら従者として百点あげるよ。
「娘を助けてもらった恩人としてささやかな感謝と歓迎の宴の準備をしている。ぜひ楽しんでいってもらいたい。もう遅いしもしよかったら泊まって行くかい?」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます。」
「ああ。歓迎するよ。」
にこやかに笑うセリオンさん。
うん、セリオンさんはとってもいい人みたいだ。
「ぞ、族長!大変です!」
私たちが話していると一人のエルフさんが慌てた様子で入ってきた。
「何事だ?客人の前で失礼じゃないか。」
「も、申し訳ありません!しかし至急お耳に入れたいことが。」
「分かった。申し訳ないが・・・」
「大丈夫ですよ。気にしないでください。」
「そうですよ父様!私が花梨たちをしっかりおもてなしします!」
「そうか。分かった。任せたぞ。」
セリオンさんは優しい笑顔で微笑んだ後エレンの頭を優しく撫でたあと「良かったな。」と言って出ていった。
私たちはまだこの時あんなことになるなんて思ってもいなかった。
私たちは紅茶を飲みながら談笑していた。
ゴードンは紅茶は飲まなかったけど。
すると誰かが走ってくる足音がした。
「し、失礼いたします!」
エルフさんが慌てた様子で入ってきた。
またか。
なんかあったんだろうかとか軽く考えながら紅茶を飲んでいると
「エレン様!族長が!」
「なにがあったのですか!?落ち着きなさい!父様がどうしたのですか?」
エルフさんは息を整えると
「族長が人間の兵に連れていかれました!」
・・・は?
□□□□□□□□□□□□
~とある公爵家にて~
「準備は整ったか?」
「は!抜かりありません。」
「そうか。」
ようやく、よろしくだ。
まったく私の手を煩わせやがって。
なにがエルフの姫だ。
ただの集落の娘ではないか。
後でたっぷりお仕置きをしてやらないとな。
ああ、楽しみだ。
あのエルフの方から俺のものにしてくださいと這いつくばらせてやろう。
待っていろ、エレン。
□□□□□□□□□□□□
私たちはエルフの集落を出て王都に向かっていた。
エレンを中心にエルフの精鋭たち。
その後を私とゴードンが付いていっていた。
・・・すごい。
さっきから近づいてきた魔物たちが一瞬でやられている。
まるで障害にもなっていない。
エルフってこんなに強かったのか。
私付いていくだけで精一杯なんですけど。
エレンは最初王都に行くのを反対されていたけど行くと言って引かなかった。
なんでも連れていった人間の兵というのはエレンに言い寄っていた貴族の私兵らしい。
まったく迷惑なやつ。
いるんだなーそういう貴族が。
私はふつふつと沸き上がってくる怒りを抑えていた。
私よりもエレンの方がずっと怒っているはずだ。
我慢我慢。
というか私はそれどころじゃないんですけどね!
もうちょっとスピード落とせませ・・・いえ、なんでもないです。はい。
「見えてきたぞ!」
やっと王都に着いたらしい。
つ、疲れた~!
この世界の人たちってどうなってるの?
身体能力高すぎでしょ!
え?私もなんだかんだ言ってついて来てるって?
ふふふ。それはですね~魔法でこうちょちょいと・・・
「花梨。ぼーとしてないで早く王都に入りますよ!」
「あ、はい。・・・ねえエレン。」
「ん?どうしたの?」
「・・・友達として私がエレンを守ってあげるから。だから・・・そんな顔しないで。」
エレンはひどい顔をしていた。
きっとセリオンさんが連れて行かれたのか自分のせいだと思って自分を責めているんだろう。
「ふふ、ありがとう。」
そう言って少し笑うと門のところに行ってしまった。
今の時間に王都に入ろうとする人はあまりいないみたいでエルフたちとゴードンは身分証を見せて中に入る。
みんな冒険者カードを身分証として持っているらしい。
・・・冒険者カード!?
冒険者カードってあのかの有名な!あ、はい。
時間がないんですよね。分かってます。
あれ?そういえば私身分証持ってないな。
「ご、ごめんみんな!先に行っててください!私身分証持っていないんです!」
エレンは頷くとエルフたちを連れて走って行った。
「ゴードンもお願い。エレンに付いていってあげて。」
「ん?じゃが・・・分かった。」
ゴードンにもお願いして先に行ってもらった。
はあ。こんなことなら身分証もっとくべきだったな。
この件が落ち着いたら冒険者ギルドにでも行ってみよう!
そんなことより今は早くみんなに追いつかないと。
えっと大銅貨6枚と魔道具で犯罪歴がないか調べるんだったけ?
べ、別に魔道具使うの楽しみとか思ってないから!
□□□□□□□□□□□□
花梨と別れた私たちはあの公爵家を目指して走っていた。
もう夕方だ。
ぎりぎり門が閉まるまでに間に合って良かった。
それにしても私のせいで父様に迷惑をかけてしまった。
必ず助けますから待っていて下さい父様。
いざというときはこの身を差し出してだって。
そう思ってから私は苦笑する。
諦めるにはまだ早い。
公爵といえども簡単に父様を害することはできないはずだ。
なんていったって父様はエルフの英雄。
父様を害するということは私たちの一族だけじゃない。
それこそ世界中のエルフを敵に回すことになるだろう。
それぐらいエルフの英雄というのはすごいのだ。
私も詳しくは昔の父様のことは知らないのだけれど。
そんなことを考えながら走っているとあの公爵家の屋敷についた。
私たちが近づくと門の兵たちが警戒して武器を向けてくる。
「私はエレンと申します!ここに私の父が連れてこられたはず!なにがあったかは存じませんが父をお返しください!」
「黙れ!お前の父には国家反逆罪の疑いがかかっている!」
「な!?国家反逆罪ですって!?一体なんの根拠があって・・・」
「これはなんの騒ぎだ?」
私が門番と言い合っていると一人の男が屋敷の中から出てきた。
その男は私を見るとうっすらと笑みを浮かべた。
「ディロラン、様・・・」
やはりこの男の仕業だったか。
しかし国家反逆罪だなんてとんだ濡れ衣だわ!
このままでは父様が死刑にされてしまう。
こいつがここまで非道なやつだったなんて!
「おや?どうしたエレン、こんなところで」
「ッ!ち、父が国家反逆罪の疑いがあると聞きました!なにかの間違いです!解放してください!」
「ああ。そういえばお前の父だったか。」
白々しい!
私は怒りで目の前が真っ赤に染まる。
い、いけない、ここで感情的になってしまっては。
私は小さく深呼吸をするとキッとあの男を睨み付ける。
「いくらお前の頼みでも国家反逆罪の疑いがある者を解放するわけにはいかないな。まあ、私の妻の頼みならなんとかしてやらないこともないがな。」
そう言ってにやりと笑う。
なんてやつだろう。
私を手に入れるためにここまでするのか。
でも私さえあの男のものになってしまえば父様を助けることができる。
あの男の公爵家は悔しいがこの国でトップの貴族でそれだけの力を持っている。
国王も迂闊に手を出せずに頭を悩ませているとか。
私が黙っていると一族の仲間たちが声をあげる。
「その男の話を聞いてはいけませんエレン様!族長は無罪です!エレン様がその男のもとに行く必要はありません!」
「その通りですエレン様!族長を信じましょう!私たちはどこまでも二人についていきます!」
「エレン様が犠牲になったことを知ったら私たちが族長に殺されます!」
みんなが口々に私に声をかけてくれる。
私を励まして支えてくれる。
ああ、みんながいてくれて良かった。
私一人だったらもう心が折れていたかもしれない。
「うるさいやつらだ。こいつらも反逆者の一味だ。捕らえろ。」
「なんですって!?」
この男の私兵が私の仲間たちを捕らえていく。
みんなも反抗しているが数が違いすぎる。
みんなの悲鳴や怒号が聞こえる。
もう、お願いだからやめて・・・
「エレン。お前なら父と仲間を救ってやれるだろう?どうすればいいか分かっているよな?」
あの男の声が耳に入ってくる。
私はキッと唇を噛みしめてゆっくりと膝をついた。
ごめんなさい。
私はもう疲れてしまいました父様。
ですがこんな私でも大切なみんなを救うことができる。
「お、お願いです。父と仲間たちの疑いを晴らして下さい。そのかわり私は・・・」
「まだ諦めるな嬢ちゃん!」
この声はゴードンさん?
ああ、彼も私のせいで巻き込んでしまった。
「聞いてるか嬢ちゃん!わしはなんの力もないからお前さんを助けてやることができん!でもあいつなら!いやあの方なら!」
あの、方・・・?
「助けを求めろ!初めての友なんじゃろ!本当の友っていうもんはなあ!友のために自分の命だってはれるもんなんじゃあぁ!」
私の、初めての友達・・・。
とても綺麗で不思議で、でも面白くて。
今まで後にいてくれることはあっても誰も私の隣に立ってくれる人なんていなかった。
私と対等に話してくれる人なんて。
でもあの子は会ってすぐに友達になろうと言ってくれた。
今でもあのときのことは自分でも信じられない。
そういえばさっきあの子はなんて言っていたか。
『友達として私がエレンを守ってあげるから。』
こんなことになってしまったけど、あの子はまだ私の友達でいてくれるだろうか?
「こんな私だけど、お願い。助けて花梨・・・」
フワ・・・
「了解。あなたの心強いとーっても頼りになる友達がエレンをピンチから救おうじゃないの!」
私の隣にフワリと舞い降りた友達は優しい笑顔で私の涙を拭う。
まさか本当に来てくれるなんて。
「こんなに泣いちゃって。遅れてごめんねエレン。後はこの私に任せなさい!」
友の言葉に安心した私は・・・
そして意識を手放した。




