龍人族と女王
次の日、私とゴードンは龍人族に会いに行くことにした。
昨日泊まった宿で私はゴードンに不貞腐れた翡翠を紹介した。
ずっとほったらかしにしていたのは謝るって!
「ずっと隠れているのも大変なのよ!分かってる!?」
そう言って私に言い寄る翡翠はプリン10個を作る約束を勝ち取った。
また作るのか・・・。
私たち二人のやりとりに関わるとろくなことにならないと察したのか、ゴードンは無関係を貫いていた。
いや、ちょっとはゴードンにも責任があると思うんですけどね。
まあ、そんなことがあって今は龍人族に会いにきたんだけど
「それにしてもよく遊牧民に会う約束をすることができたね。」
「ちょっとした縁があってな。たまに飲みにいくようにしとるんじゃ。ちょうど今日がその日なんじゃよ。」
おお!つくづく私は運がいいらしい
「三日に一度のわしの楽しみなんじゃ!」
と思ったらまさかの3分の1の確率!
「え!?そんな頻度で飲みにいってるの!?昨日久しぶりだなーとか言ってなかった!?」
「金を気にせず思いっきり飲めるのが久しぶりだと言ったんじゃ。それに本来ドワーフに酒は欠かせんもので毎日飲むもんなんじゃよ。」
そういえば人のお金だと思ってじゃんじゃん飲んでたな。
まあ私がいいっていったんだけどさ。
「なんか納得いかないけど分かった。」
「そう不貞腐れるんじゃないわい。これも種族差じゃて。」
うん、ちょっと違う気がする。
「まあいいや。それで待ち合わせの場合はどこなの?」
「ん?ここじゃよ。」
「え?ここって・・・」
話している内についたのは一件の酒場。
「昨日の酒場じゃんか!」
「わしの行き付けじゃといったじゃろ。ほれ、とっとと入るぞ。」
そういってゴードンは店に入っていってしまう。
次の日も来るなら別の場所にすればよかったのにと思うのは私だけでしょうか?
とりあえず龍人族の人に会うためには行かないといけないので諦めて中に入ると昨日の女将さんがいた。
この時間帯はみんな忙しいのかお客さんは誰もいなかった。
それもそうか、まだ午前中だしね。
朝ご飯すぎのちょうど忙しく働いているだろう時間帯。
この時間から飲むのはゴードンと待ち合わせをしている龍人族しかいないだろう。
・・・多分。
「おや?昨日もゴードンと来た子じゃないか。今日も来たのかい?まさかゴードンにも春がねえ・・・」
「そんなんじゃないわい。わしはロリコンではないからの。乳くさい娘は対象外じゃ。」
こ の ク ソ ジ ジ イ !
「あはは!分かってるよ、冗談さ。ああ、お嬢ちゃんも適当に座ってておくれ。今日は野菜のスープだよ。」
「あ、ありがとうございます。」
女将さんは食事の用意のために厨房に戻って行った。
そして私はゴードンにぐいぐいと詰め寄る。
「ねえ、ゴードン。乳くさいってどういうこと?ねえ、どういうこと?」
「そ、そんな怒らんでも。ほら、わしにとったら大抵の人間は赤ん坊と変わらんじゃろ?な?」
たしかにゴードンはなん百才だけど。
それを考えたら、まあそういうことになるのかな?
「今日のところはそういうことにしといてあげる。」
「はいはい。次からは気をつけんといかんなあ。」
私たちがそんなことを話しながら運ばれてきたお酒(ゴードン用)と食事(私用)を食べたり飲んだりしていると、少し汚れたローブを着て顔を隠した旅人のような人が店に入ってきた。
「おう!来たか!久しぶりじゃのう!」
「いや、2日ぶりだ。そんなに経っていないだろう。」
そう言って旅人(?)みたいな人が私の席に座った。
そして私の方を見て首を傾げる。
「誰だ?」
「おう!わしの連れじゃ。カミロ、お前さんに紹介しようと思ってな。」
カミロという男は「そうか。」と言ってお酒を注文した。
きっと彼が私たちの待っていた龍人族なのだろう。
ローブを脱いだのでカミロの顔が露になる。
キリッとした顔立ちに褐色の肌の偉丈夫。
白っぽい髪にうっすら緑がかっている。
綺麗な髪色が特徴だけど、それよりも目立つのは瞳孔が縦に長い目。
「こんにちは、カミロさん。私花梨といいます。よろしく。」
私はカミロに自己紹介をした。
名字があると貴族ということらしいので、旅(?)に出てからは名前だけ名乗るようにしている。
最近知ったことだけど。
「ああ。しかし、ゴードンが連れてきたやつだからよほどの酒好きかと思ったが・・・そういうわけでもなさそうだ。」
カミロは私をちらりと見る。
私はお酒は飲まずに食事だけなのでそう言っているんだろうな。
たしかにお酒を飲みに集まっているのに私がいるのは不思議なのかもしれない。
「実はちょっと大事な話があってな。ぜひお前さんにも協力して欲しいんじゃ。なに、悪い話じゃないぞ。」
ゴードンの話の入りかたが善人を騙そうとしているかのような、もう既に怪しい人のように聞こえるのは私だけでしょうか?
「悪い話じゃない、ね。まあ、ゴードンのことは信用しているから話だけは聞く。」
わざわざ信用しているという前置きがあるということは、普通だったら怪しまれるぞということですね、分かります。
「おお、そうか!よかったな、わしのおかげじゃぞ!」
そう言って笑い、私の肩にポンと手をおいた。
ここで選手交代か。
どうせなら最後までゴードンが話してくれてもよかったのにな。
私はそう思いながらもやっぱり自分が話すべきかなと考え直す。
「えーと、カミロさんは龍人族の一つの部族のリーダーなんですよね?」
「ああ、リーダーというか一族の長をしている。俺はまだ若い方だが、先代、俺の父が早死にしたからな。」
「そ、そうですか。それは、その・・・」
「そんな顔するな。遊牧民の俺たちにとっては珍しいことじゃない。」
カミロは気分を害した様子も悲しんだ様子もなく淡々と話した。
珍しいことじゃないってそういうことはよくあるんだろうか?
「あの、もし定住できるならしたいと思いますか?」
「ん?そうだな・・・、したいというか、まあ無理だな。俺たちはワイバーンを連れているから一定の場所にいたら狩られてしまうだろう。餌も確保するのも難しいからな。」
ふむふむ。
龍人族を受け入れるとしたらワイバーンの保護と餌の確保が必要と。
「龍人族はみんなワイバーンを飼っているんですか?」
「そういう訳でもない。他の種族のように一人立ちして冒険者になったりもするからな。ワイバーンを飼っているのは、まあ龍人族の特技みたいなものだ。ワイバーンは他の家畜よりも価値が高い。しかも旨いし無駄になる部分もない。龍人族にとっては簡単に大金を稼ぐことができる伝統的な産業だな。」
なるほど。
得意分野でかなり稼げるからワイバーンの飼育が主流になっていったってことかな?
「じゃあ、安全に定住できる場所があったら定住しますか?」
「なに?」
カミロは目を細めて私を見る。
じっと見定められるような視線を受けて私はただカミロを見つめ返した。
ここで目をそらしてはいけない、そんな気がした。
「にわかには信じられんな。今までいろんな所を転々としてきたがそんな場所はなかった。人里離れた場所でも長くいるとワイバーンを狙った冒険者などがやってくる。それにあまり人里を離れすぎると今度は我々が生活できない。」
「それならどこかの国に保護してもらえればよかったのでは?」
私は今までずっと疑問だった。
保護して欲しいと国に名乗り出れば安全に定住できるのではないかと。
ワイバーンは国にとっても魅力的なはず。
しかしそうした龍人族はいなかった。
「・・・以前、そのように考えた者たちがいた。しかし当時、国といえば人間の国しかなかった。実際交渉しにいったがこちらに不利なものばかりだったらしい。人間は人種差別が激しいからな。仕方なく諦めたということだ。俺たちは人間の奴隷じゃないからな。対等な交渉ができなければ容認できない。」
ううむ、ここで人種差別か・・・。
たしかにそういうことなら龍人族が国に保護を求めなかったのも分かる。
「しかし、なぜそんなことを聞く?こちらはここまで話したんだ。そろそろそちらの話もしてもらおう。」
カミロの私を見る視線が鋭くなる。
でもその瞳の色はなんだか必死なようにも見える。
もしかしてカミロは私の話す内容を見越してここまで話してくれたんだろうか?
なんか深い事情まで色々話してくれるなとは思ってたけど。
私は思わず苦笑してしまう。
まだ用件を話してもいないのに期待されているのが分かってしまって。
遊牧民というのもなかなか大変なようだ。
「改めまして自己紹介を。私はポラリス王国初代女王、北川花梨といいます。ポラリス王国では全ての種族が平等、また政治の重役につける国を目指しています。そのためにこうして他種族に会いにまわっているのです。そしてゴードンにドワーフの代表として協力してもらえることになりました。私はカミロさんにも協力してもらいたいと思っています。」
カミロは目を見開いて固まってしまっていたがすぐに姿勢を直して頭を下げた。
「ご無礼を申し訳ない。まさか女王陛下だとは思わなかった。てっきりどこかの貴族が自分の領地を提供しに交渉に来たのかと思っていた。」
「ああ、そうなんだ・・・って、え!?そんなにすんなり受け入れるの?こいつ何言ってるんだってならないの!?」
私が言うのもなんだけど、いきなり「私女王なんです!」ていう人がいたら頭おかしいんじゃないかって思うよ。
「ゴードンが否定しないから多分そうなんだろう。」
「信じる理由それだけ!?ゴードンへの信頼が高すぎるでしょ!なにがあった!?」
「ふふん!わしの人徳がなせる技じゃ!」
「・・・というのは建前で実際は俺たちにはもう後がない状態なんだ。」
「おい、誰だわしの人徳とか言ったやつ。」
「・・・気のせいじゃろ。」
私がジト目でゴードンを見ると、すっと目をそらした。
「それにしても後がないってどういうこと?」
私が聞くとカミロは難しい顔をした。
「レザラム帝国がワイバーンを使った騎獣部隊を編成していることは知っていると思うが、あいつらは龍人族を奴隷にして飼育させている。それで同族が襲われたりしていた。俺の部族は無事だったんだが・・・今回はそうもいかないかもしれない。」
私とゴードンは顔を見合わせて首を傾げた。
なにかあったんだろうか?
「シェルフィード王国のドラゴン奇襲でワイバーンの数が格段に減ったはずだ。数を補充するために今まで以上に龍人族が狩られるだろう。」
「「・・・。」」
ゴードンがジト目で私を見た。
私はさっと目をそらす。
まさかの私が原因でした。
いや、そんなことになるなんて思ってなかったんだよ。
「はぁ。でもあのワイバーンがレザラム帝国のとは限らんじゃろ。」
「龍人族はあんなことをしない。レザラム帝国としか考えられない。」
「どこかの調子にのったゴロツキが龍人族を捕まえてやったり・・・」
「希望論だな。例えもしそうだったとしても失ったら補充しようとするだろう。」
ううむ。
どちらにしろ龍人族に危険が及ぶのは避けられないのか。
やりすぎてしまったのかな?
でもワイバーンを倒したことは後悔していない。
それで助けられた人は沢山いたからだ。
私が少し複雑な気持ちになっていると、カミロが「ポラリス女王陛下。」と呼びかけた。
カミロに視線を合わせると真剣な顔をしていた。
「俺は部族の長として仲間をレザラム帝国から守らなくてはならない。しかしこのまま遊牧をしていたらいつ襲われるか分からない。どうか俺たちをポラリス王国に受け入れてはもらえないだろうか?そのかわりというわけではないが俺はあなたの理想に協力したい。」
「・・・それはポラリス王国の龍人族全体のリーダーとしてということ?」
私がそう聞くとカミロはゆっくりと力強く頷いた。
「そうだ。俺では頼りなく感じるかもしれないが・・・」
「そんなことはないよ。」
私の言葉にカミロは目を丸くして、ゴードンは面白いというような顔をしてにやりと笑った。
私は魔眼で見たからカミロが悪い人ではないと分かっている。
話していても仲間を大切にしていて責任感も強い人だと思った。
「でも無理してリーダーにならなくてもいいんだよ?どちらにしろ私はカミロさんたちを受け入れようと思っているから。わざわざあなたが龍人族の責任を負わなくても。」
「・・・確かにそうかもしれない。しかし俺は近くであなたのつくる国を見てみたい。これは部族の長としてじゃなく、俺個人の願いであり我が儘だ。」
そう語るカミロの瞳はひどく真剣でありながら、とても静かに闘士に燃えていた。
・・・これはまたゴードンに引き続きとてもいい人材に巡り会えたんじゃないだろうか?
いや、お酒に釣られたゴードンよりよっぽどいいんじゃないか?
私はちらりと隣で楽しそうにグビグビとお酒を飲んでいるゴードンを見た。
「・・・。」
「ん?なんじゃ?」
「いいや、なんでも。」
私としたことが人選を間違えたかもしれない。
そして私はそっとため息をついた。
ゴードン「お前さんが協力してくれることになって良かったわい!これもわしのおかげじゃな!」
カミロ「こちらとしても有難い話だった。少し焦っていたからな。この話がなければ不利な条件をのんででもどこかの国に保護を求めようと思っていたところだった。」
ゴードン「そうかそうか。ナイスタイミングじゃな!さすがわしじゃ!」
カミロ「・・・。ところでなぜゴードンは協力することになったんだ?」
ゴードン「ん?それはもちろん酒の湧き出る泉があるからじゃ!」
カミロ「・・・そうか。聞いた俺がバカだった。」
ゴードン「そう自分を卑下するものじゃないわい。酒を飲んで落ち込んでいたことなどキレイさっぱり忘れるんじゃ!ワハハハ!」
カミロ&花梨(誰のせいだと思ってるんだよ!)




