ドワーフと女王
やってきました!inシェルフィード!
みんなに旅にでることを宣言してから、阻止される前にさっさと出てきちゃいました。
もちろんローブを被って顔を見えないようにしています。
今回の旅のお供は・・・
「どうしてあなたは女王のくせにそんなにフットワークが軽いのよ。」
呆れたようにそういうのは私の肩にのっている翡翠。
一人でソファーに寝ていたのを捕まえてきた。
説明なしだったから驚いていたのは申し訳ない。
でもちゃんと私はお供を連れてきていたんですよ。
これならみんなも文句はあるまい、たぶん。
「ふ、ふ、ふ。私は庶民派女王を目指してるんで。」
「どんな女王よ、それ。」
翡翠はため息をついて、やれやれと首をふる。
短い首で器用だな。
「ま、まずは情報収集ね。エルフとかドワーフとかの集落とかないのかな?スカウトしなくちゃ。」
異世界にきたなら会わなきゃ損だよねー。
じゃなくて、他種族共生国家の第一歩ですよ!
張り切っていきましょう!
というわけで鍛冶屋に来てみました。
ここに居そうだなーっていうのがドワーフしか思いつかなかった。
やっぱりドワーフって武器を作ったりしてそうだよね。
翡翠をローブの下に隠してレッツゴー!
「こんにちはー!」
「はい、いらっしゃい!」
ドアを開けて店に入るとでてきたのは厳ついけど元気なおじ様。
でも、これは・・・
「ドワーフじゃない・・・」
うん、この人はどう見ても人間だ。
背ちっちゃくないし、髭ないし。
私ががっかりしているとおじさんは豪快に笑いだす。
「ははは!嬢ちゃんドワーフの武器が欲しいのかい?昔話に憧れたのかもしれんが、今どきわざわざドワーフの武器を欲しがるやつなんていねぇよ。」
「え!なんで!?」
ドワーフの武器っていったら一級品で誰もが欲しいって思うんじゃないの!?
「なんでって、ドワーフが作る武器も人間が作る武器と大差ないのさ。昔、ドワーフの国があったときはそりゃドワーフの武器ってたら凄いもんだったらしいがなぁ。国がなくなっちまった今じゃ腕が落ちたのか、武器職人がやられちまったかは知らねぇが、たいしたもんじゃなくなっちまったんだ。」
俺もドワーフの一級品ってやつを見たかったぜと頷くおじさん。
おじさんの話が本当ならドワーフに会うのも難しいかな?
これは当てもなくしらみつぶしに探すしかないか。
「私、ドワーフに会ってみたかったけど鍛冶屋に行っても無駄かな。」
私が落ち込んで、はぁとため息をつくとおじさんは不思議そうに
「お嬢ちゃんドワーフに会いたいのか?変わった子だなあ。」
「はぁ。こればっかりは私と同郷しか分からない、ファンタジーのロマンなんですよ。」
「そ、そうか。よく分からねぇが、ドワーフに会うだけならできるぞ。」
「え!本当!?」
おじさんの言葉に思わず身を乗り出して聞くと、おじさんは顔をひきつらせて「あ、ああ。」と答える。
ちょっと引かれてる気もしないでもないけど、今はそれどころじゃないんだ!
「ほら、これ。この剣はドワーフが作ったものなんだが、たまにここに売りにくるんだよ。ここに置いてくれってな。で、売れたら売り上げを渡すんだ。二割はお礼にもらってるけどな。」
「へぇー。これがドワーフの剣かあ。」
おじさんが渡してくれた剣を手にとってみてみる。
うん、たしかに他の剣と何が違うか分からないな。
いや、もし違っても私には分からないのかもしれないけど。
・・・ん?なんだろこの違和感・・・
「大将はいるか!」
私がドワーフの剣から感じた違和感に首を傾げているとドアが思いっきり開かれた。
「おお。噂をすればだな。ちょうどお前さんの話をしていたところだよ、ゴードン。ちょっとこのお嬢ちゃんと話をしてやってくれないか?なんでもドワーフに会いたかったそうなんだ。」
「あ?ドワーフに会いたい?」
ゴードンと呼ばれたドワーフは怪訝そうに首を傾げる。
でも私の頭の中は軽いパニック状態になっていた。
低い背。モジャモジャの髭。
こ、これは・・・!
「ドワーフだあ!」
これはまさしくドワーフです!と宣言するかのようなイメージそのままの見た目!
あまりの感動に手をがしっ!と手を両手で握りしめ目を輝かせると、ドワーフことゴードンさんは顔をひきつらせて後ずさる。
「な、なんじゃお前さんは。わしになんか用か?」
「イエス!ドワーフを探してました!あ、ゴードンさんってお一人ですか?仲間の人と生活していたりとか」
「お前さん、そんなこと聞いてどうする気じゃ?」
ゴードンさんは表情を厳しくしてギロリと私を睨み付けた。
あれ?なんか怒らせたっぽい?
「あ、いきなりでびっくりしましたよね。不快に思ったなら謝ります。すみません。でもドワーフに会いたかったっていうのは事実ですよ。よろしければお話しできませんか?お酒を奢りますので。好きなだけ飲んでもらってもかまいませんよ。」
私はにこっと微笑みかけた。
花梨の攻撃!必殺『お酒奢ります』!
「ん?お、おう、そうか・・・。酒か・・・」
ドワーフのゴードンには効果抜群だ!
ゴードンは思わず頬が緩んでいる!
ふ、ふ、ふ。
やっぱりドワーフはこの世界でもお酒にはめがないとみた。
さすがドワーフ。
まずはドワーフに会うこともできたし、話ができるところまでこぎつけた。
まだ旅は始まったばかりだけど、なかなか幸先いいんじゃない?
私は上機嫌になったゴードンを見てにんまりと笑った。
加治屋のおじさんにお礼を言って別れを告げてから私とゴードンは酒場にきた。
ゴードンさんの行きつけらしい。
私はあんまりお酒は好きじゃないけど、いかにも異世界にきましたって感じがして少しワクワクしていた。
この世界の酒場ってどんなかなって思っていたけど、意外と普通の庶民の食事処って感じだ。
「柄が悪いやつらはいないから安心しろ。ここで暴れようもんなら女将に追い出されるじゃろうからな。女将のおかげでここはわしでも飲みやすいんじゃよ。」
ゴードンさんはそういうと空いている席について私にも座るようにすすめる。
私が座ると女将さんらしき人がきた。
「注文は決まってるかい?」
「ああ、酒をくれ。それとなにかつまみも。あと・・・」
ゴードンさんは私をちらりと見た。
「私はお茶で大丈夫です。あと食事したいんですけど」
「了解。今日は黒パンとシチューだよ。それにしてもあんた女だったんだねえ。珍しいじゃないか、ゴードンが女連れなんて。あんたは食事のときくらいそのローブを脱いだらどうだい?」
女将さんにそう言われるけど、私は首を横にふる。
シェルフィードではパレードをやったんだ。
私の正体がバレてしまうかもしれない。
いや、べつにバレてもいいんだけどなんか気持ち的にね。
「そうかい。ま、人それぞれあるだろうよ。」
女将はそういうと厨房に戻っていった。
「ところでお前さんはわしに話があったんじゃろう?遠回しじゃなく用件を言え。」
ゴードンさんはじっと私を見て話を促す。
まるで私を見定めようとしているかのような目だった。
それを見て私も真剣な表情になり背筋を伸ばした。
「私は花梨といいます。実は私は他種族を訪ねて旅をしているんです。」
「ほう。それはまた物好きがいたもんじゃのう。」
ゴードンさんは目を細めた。
「あんたはなんの為に他種族を訪ねているんじゃ?」
「スカウトしたいなあと思って。ここだけの話、私女王やってるんですよ。」
「はあ?」
私が声をひそめて女王だというと、ゴードンさんは間抜けな声をだした。
予想外の私の言葉に驚いたようだ。
まあ、仕方がないか。
「ポラリス王国って知ってます?」
「あ、ああ。今話題の国か。ドラゴンの国じゃろう?その国の女王がこの前のパレードにでておったな。わしも見たぞ。しかしそれがどうしたんじゃ?」
ゴードンさんが不思議そうに首を傾げる。
パレードを見たなら話が早い。
そう思って私は顔が見えるようにローブを少しあげた。
すると私の顔を見たゴードンさんは息を飲んで顔が強ばった。
やっぱり顔を知ってたか。
私はローブを着ていて良かったと思った。
顔をさらして歩いていたらちょっとした騒ぎになっていたかもしれない。
「なるほど。女王というのは嘘じゃないらしいのう。それで女王陛下はこの老いぼれになんのご用意ですかな?」
「ああ、今まで通りに話してもらってかまいませんよ。」
私は手をひらひらとふって笑う。
するとゴードンさんは一瞬きょとんとした顔になって笑いだした。
「わはは!そりゃ助かるのう。お前さんはどうやら変わり者のようじゃ。」
ゴードンさんは愉快そうに私に言った。
どうやら少しは警戒を解いてくれたらしい。
ちょうど女将さんが酒やつまみ、私の食事を持ってきてくれた。
ゴードンさんはぐびぐびとお酒を飲んで、ぷはあと息をつく。
私もシチューを食べてみた。
お昼がまだだったのでお腹が空いていた。
シチューはトロッとしていてなかなか美味しいけど、これはたぶん小麦粉のシチューだと思う。
黒パンは固いけど、シチューにしたして食べると柔らかくなった。
「酒を思いっきり飲めるのは久しぶりじゃなあ。」
ゴードンさんは満足そうに言った。
ドワーフはいつもお酒を飲んでいるイメージだったけど、そうではないんだろうか?
私は不思議に思って首を傾げる。
それを見たゴードンさんは苦笑した。
「まあ、いろいろあったんじゃよ。それよりそろそろ話を聞かせてくれんかの?」
ゴードンさんの言葉に私はこくりと頷いた。
「ポラリス王国は新興国なんですけど、実は他種族共生を目指しているです。でも今住民は誰もいない状態なんですよ。」
「ほう。他種族共生ってことは様々な種族の住民を募集しているということか。それでお前さんは他種族を訪ねて廻っていると。しかし、そんなことする必要はないじゃろ?住民募集の広告をギルドにでも貼っておけば自然と集まってくるじゃろうて。」
ゴードンさんは不思議そうに言う。
「もちろんそれもします。でもこれはそれ以前の話なんです。」
「ふむ。どういうことじゃ?」
首を傾げるゴードンに私はにやりと笑いかける。
「人間以外の種族にも政治に関わってもらおうと思っていて。」
「は?」
フリーズしてしまったゴードンさんに私はお構い無く話を続ける。
「今考えているのは、それぞれの種族でリーダーになってくれそうな人たちを領主に任命して、同時に大臣にも任命します。領地経営と国の運営が両方あるのは大変かもしれないけど、どこの国でも貴族はそんなかんじらしいから代行の人でもたてたら大丈夫なんじゃないかと。まあ、他の国を参考にしたからこそこうなったんですけどね。」
「・・・な、なるほどなあ。」
とりあえず反応ができるようになったゴードンさんは驚きながらも相づちを打ってくれる。
「人間以外の種族も政治に関われるという点以外は他の国と変わらないということか。しっかしお前さんも変わったことを考えるのう。驚きすぎて固まってしまったわい。」
ゴードンさんはからからと笑う。
「お前さんの目的は分かった。その話が本当ならわしも移住を申し出たいぐらいじゃ。わしへの用件はドワーフのリーダーになれそうな人物を知っていたら紹介して欲しいとかかのう?」
私はこくりと頷く。
話が早くて助かる。
「はい。どなたかご存知ありませんか?もし推薦したい人がいればですけど。そういえば昔はドワーフの国があったんですよね?王族の方とかもういらっしゃらないんですか?」
「ふむ。ドワーフの王か・・・。懐かしいのう。そうじゃな。お前さん、すまんがもう少しこの老いぼれに付き合ってくれんか?少し昔話をしようかのう。」
そう言ってゴードンさんは酒をぐびりと飲み、懐かしそうに目を細めて語り始めた。




