女王の脱走とそれぞれの決意
今回は短いです。
「私、旅に出ます!」
私の発言にみんなが驚きの声をあげる。
「どうして国の政策の話から旅に出ることになるんだ!」
「陛下が旅にでるなんて危険です!」
「陛下、どうかお考えなおしください!」
「そうだ!我も連れていけ!」
「どちらでもいいですけど死ぬのだけはないようになさってください。私まで消えるのは嫌なので。」
みんな私を心配してくれてとめてくれる。
二人ぐらい変なのがいるけど無視。
「ごめんみんな。せめて種族のリーダーになって私たちと一緒に国を支えていく人ぐらいは私が直接探したいの。」
そうなんだよね。
決して旅にでたいだけじゃないんだよ、うん。
「し、しかし」
「もう旅支度できてるから大丈夫!じゃ!」
私はそれだけを言うと慌てるみんなを無視して転移魔法で会議室を脱出した。
必要なものは既に収納魔法に入れているからすぐにでも出発できる。
「な、なにが大丈夫だー!」
・・・。
なにか聞こえた気がしたけど大丈夫だよね。
黙って行くわけじゃないし。
ふ、ふ、ふ。
ついに念願の異世界を旅できる!
待っててね!ファンタジーな世界!
エルフやドワーフに会えるぞー!
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「ほ、本当に行ってしまったのか?」
「ええ、そのようです。ただいまマスターがこの国から出たのを確認しました。」
俺の呟きにシルキーという魔族?が答えた。
なんでこんなところに魔族がいるのか分からないが、陛下が彼女のマスターのようだし危険はないと思うが。
俺は想像以上の陛下の奔放ぶりにため息がでる。
思えば陛下には驚かされてばかりだった。
一番最初に驚いたのは俺とセルジュを奴隷から解放したことだ。
個人が奴隷を解放できることにももちろん驚いたが、解放できたとしてもわざわざ買った奴隷を手放すようなことをする陛下に驚きをかくせなかった。
もちろんセルジュも驚いて・・・というか逆に悲しんでいて、もう自分は必要ではないのかと落ち込んでいた。
俺はただ理解が追いつかず呆然としていただけだった。
不思議なことに俺自身、あれほど奴隷になった自分の人生に絶望していたのに、いざ解放されるとなんだか寂しいような、陛下との繋がりをなくしたようなかんじがして素直に喜べなかった。
奴隷から解放されたのに反応がいまいちだった俺たちを見て、陛下は優しく微笑んで声をかけてくれた。
「いきなりでごめんね。でも二人がいらなくなったわけじゃないよ。二人には奴隷としてじゃなくて、一人の臣下として私のそばにいて支えて欲しい。いいなりになるんじゃなくて、私が間違っているときはちゃんと止めて正しい道に戻して欲しい。だからこれから私と一緒にこの世界で一番素敵な国をつくるのに協力してください。」
「でも二人の反応は嬉しかったよ。」と恥ずかしそうに陛下は笑った。
俺たちは本当にいい主と出会えたと思えた。
この人とならいい国をつくっていける、そんな気がした。
俺はあの陛下の言葉を一生忘れることはないだろう。
きっと見たこともない理想の国を陛下ならつくってくれる。
だから俺も支えていこう、とつい最近決意した、のに・・・
「俺の決意かえせー!」
自由人の陛下を支えるのは並大抵のことじゃない気がして、陛下に振り回される未来が簡単に想像でき思わず深いため息がでた。
・・・陛下が出ていったときに叫んでしまったのは仕方がないと思う。
こうして俺は早々に決意がゆらぎそうになったのだった。
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優しくて温かい。
そんな感覚が体中を駆け巡り私はとても幸せな気持ちになりました。
そんな思いはいつぶりでしょう?
それまで痛みや苦しみ、絶望が私を支配していたというのに。
一体私はどうしてしまったのか。
もう死んでしまったのかとも思いました。
重たいまぶたをそっと開けると見知らぬ天井。
そして隣には安らかに眠っている美しい女性が。
その方を見たとき一気に全てを思い出しました。
もうろうとした意識の中、差しのべられた救いの手と優しい微笑み。
ああ、私はこの方に救われたのだと理解しました。
そしてなにより驚いたのは失ったはずの手足ももう治らないはずの傷も、すっかり元に戻っていたのです!
あのとき私の体に満ちた優しい魔力は私を癒してくれたのでしょう。
きっとこの方は女神に違いありません!
そしてそれから色々なことがありました。
私をお救いくださった女神は、なんと一国の女王であらされました。
そして私たちをお側においてくださると。
なんということでしょう!
奴隷の身でありながら陛下にお仕えする名誉をいただけるとはなんという光栄!
今までクロード様にお仕えしてきて培ってきた経験の全てを発揮してご覧にいれましょう!
これでも王族にお仕えしてきた身ですから、きっと陛下のお役にたてるはずです!
・・・。
奴隷解放?なぜです?私はもう必要ないのですか?
私は陛下にすがりつきました。
あなた様の奴隷でいさせて欲しいと。
きっとお役にたってみせると。
しかし陛下は私たちに臣下として側にいることを望まれました。
・・・たしかに奴隷のままでは絶対に主に逆らうことはできないでしょう。
それでは真の臣下とはいえません。
ですが私は陛下の執事。
クロード様とは立場が違うので奴隷でもよろしいと思うのですが・・・。
こうなれば、陛下に一生の忠誠をお誓いいたしましょう。
それが今の私にできることです。
一生片時も離れずに陛下のお側に!
・・・え?旅にでる?
私が驚いて慌てている間に陛下は旅立たれてしまわれました。
あっという間のことで止める間もありません。
これは私に与えられた試練なのでしょうか?
まさか早々に私の決意がくずれてしまうとは思いもしませんでした。
これは我が儘かもしれませんが、せめて、せめて私もお連れしていただきたかった!




