二人の奴隷と再生魔法
私とブランは奴隷商人が準備を終わらせるまで店の中で待っていることにした。
店の中には奴隷がたくさんいるのかと思ったけどそんなことはなかった。
なんでも希望の奴隷を聞いて、その希望に合う奴隷を何人か連れてくる方式らしい。
「お待たせしました。」
奴隷商人が準備を終えたらしく、二人を連れてやってきた。
「え?」
瀕死の人は包帯が新しく綺麗に巻かれただけだけど、あの青年を見て私たちは目を丸くする。
ぼろぼろで汚れていた服は着替えられ、顔も綺麗に洗われていた。
そこにいたのは黒髪に青い瞳のクールなイケメン。
「えーと、どちらさま?」
「は?さっき買ってくれただろう!」
クールなイケメンくんは少し慌てたようにそう言った。
やっぱり買うのやめたって言われるのかと思っているのかな?
確かに片腕はないからさっきの青年だとは思うけど。
「黒髪とは珍しい。」
「え?黒髪ってあんまりいなの?」
ブランの言葉に少し驚く。
日本だとほとんどの人が黒髪だったから私は逆になつかしく感じるんだけどね。
「そうですね。最近滅びた国の王族が黒髪だと聞いたことはありますが、あまり見かけませんね。」
そっか。黒髪の国があったんだ。
滅びたのは残念だな。
もしあったら行ってみたかったのに。
「それでは、これから奴隷契約を行いますのでよろしいですか?」
奴隷商人が私の方を向いてそう尋ねる。
「ん?そんなものがあるの?」
「はい。奴隷が主人に逆らったり危害を加えたりできないように拘束する契約です。」
なんでも奴隷商人の話では、奴隷には奴隷の首輪をつけられて制限がかけられるらしい。
まあ確かに犯罪者もいるわけだし危険だもんね。
「分かった。どうすればいい?」
「ではこの首輪の赤い部分に親指をあててください。それだけで大丈夫です。」
私は奴隷商人の言う通りに赤い部分に親指をあててみた。
すると少し光ったようにみえた。
意外と簡単だけどこれで大丈夫なのかな?
「はい。これでこの奴隷たちはあなたのものです。」
「ありがとう。これ料金ね。」
「はい。・・・確かに丁度頂きました。ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
奴隷商人はにこやかにお辞儀をした。
やっている商売はちょっとあれだけど、接客はちゃんとしているみたいだ。
「じゃあ帰りましょうか。その前にこの二人にローブを買ってあげよう。目立つといけないし。」
そして二人にローブを買って着せた後、私たちは王宮に寄り道せずに帰った。
今さらだけど奴隷を連れてきても良かったのかな?
まあダメなら近くに宿でもとるとしよう。
王宮の門番の人に事情を説明して奴隷を入れてもいいか聞くと王様に許可をもらってくれるそうなので無事に全員私たちが借りている部屋に戻ることができた。
ここまでくる間ずっと青年がなにか言いたそうにしていたけど、まあ落ち着いてからでいいだろうと思って無視していた。
「ふう。予想外のことがあったけどやっと戻ってこれたね。ただいまみんな。」
「遅かったではないか、我が主よ。」
「ごめん、ごめん。はい、これお土産。」
リリアーヌが戻ってきたのにまだ帰らない私たちを心配していたみたい。
ちょっとノワールに小言をもらったけど、お土産をあげるとノワールもドラゴンたちもそちらに注意がいったみたいだ。
まさかとは思うけど、私たちのことよりお土産を待っていたわけじゃないよね?
「一体、あなたたちは何者なんだ・・・。」
私たちの様子を見てやっと言葉をだせたらしい青年は呆然とそんな疑問を口にした。
「我が主よ。この者たちは?」
「ああ、この二人は、えっと奴隷の人たちなの。名前は、ええと・・・。」
「俺はクロード。こいつはセルジュだ。ありがとう。あなたは俺たちの命の恩人だ。」
そう言ってクロードは深く頭を下げた。
クロードの姿勢にちょっと戸惑ってしまう私たち。
「いいよ、そんな。」
私が気にしないように言うと、クロードは首をふった。
「いや、セルジュはなにもできないかもしれないけど、俺はその分なんでもするからどうか俺たちをあなたたちのところにおいてくれ。」
「それは大丈夫だけど。」
クロードの必死な様子に不思議そうにノワールがしていたので、これまでのことを詳しく説明する。
「なるほど、そのようなことが。やはり我が主はお優しい。」
ノワールがうんうんと頷いているので私は思わず苦笑する。
「あの、それであなたたちのことを聞いてもいいだろうか?」
クロードが遠慮がちにそう言うので、そう言えば自分たちの自己紹介をしていなかったことに気づく。
一番最初にしないといけないことだったかもしれない。
私はブローチを外してこほんとせきをする。
「私は北川花梨。こう見えてポラリス王国の女王です。こっちはブランで、この鎧の人はノワール。二人ともポラリス王国の騎士でこの子たちは今はこんな姿だけどドラゴンなの。」
クロードは驚いたように目を見開いて
「まさか、ポラリス王国というのはワイバーンを倒したという?しかしそれなら王宮にいるのも納得できる。」
クロードは考えこむようにぶつぶつと一人ごとを始めてしまった。
「私たちのことは分かってもらえたかな?それで提案なんだけど、セルジュを元気な姿に戻したくない?」
「そんなことができるのか!?」
クロードはさっきよりも驚いたように目を見開いてこっちを見つめる。
「もしかしたらできるかもしれないの。多くの魔力と集中力がいるからかなり時間がかかるかもしれないけど。」
私の創造魔法は作る魔法によって難易度が変わってくる。
元々ある魔法やなるべく起こりやすい現象だと作りやすいんだけど、今回私が作ろうとしているのはかなり難易度の高いものになるはずだ。
だから結構時間がかかるかもしれない。
「もしそれが可能ならお願いしたい。セルジュは俺を庇ってここまでひどい怪我をしたんだ。少しの可能性でもいいからどれだけ時間がかかっても構わない。」
クロードは拳を握りしめて顔をふせる。
きっとセルジュに申し訳なく思っていたんだろう。
「分かった。やってみる。でもかなり集中力がいるから私とセルジュの二人だけにしてほしい。結構時間がかかるかもしれないけど、集中しているだけだから心配しないで。それより邪魔をしないで欲しいの。一発で無駄になって最初からになってしまうから。あとブランはメイドさんに夕食はいらないって伝えて。たくさん買い食いしちゃったからお腹空いてないし。」
「分かりました。」
ブランはメイドさんに伝えるべく部屋をでていった。
「ノワール、セルジュを私の部屋に運んでくれる?」
「承知した。」
ノワールにセルジュを運んでもらってベッドに横にする。
この創造魔法はイメージが大切だ。
だから静かなところで明確にイメージしなければならない。
「よろしくお願いします。」
クロードが頭を下げてノワールと私の部屋からでていく。
私は笑顔で頷づくとほっとしたような顔をしていたので、クロードの期待を裏切らないためにも頑張らないとね!
二人きりになった私はセルジュを見て改めてひどい状態だなと思った。
包帯をほどいてみたけど、肌は焼けただれ、顔も分からない。
「きっと治してあげるからもう少し頑張ってね。」
私はセルジュにそう言葉をかけると、ベッドの横に置いた椅子に座り魔法を作るため集中する。
セルジュがどんどん治っていく様子を想像すれば、一から想像するよりも簡単かも。
よし、やってみよう。
「・・・」
それからどれくらい時間がたったんだろう。
さすがに今まで作ってきたように簡単にはいかない。
私は流れる汗も気にせずひたすらイメージをする。
綺麗になる肌、新しく生えてくる足。
その他体が元の状態に戻っていく様子をイメージする。
そうか、これは
『再生魔法』
イメージとともに出てきた言葉を口にしたとき光輝く魔方陣が現れセルジュを包みこむ。
これは完成したの?
私はセルジュの様子を見ようとするけど、光のせいでよく見えない。
視界がかすんでだんだん意識が遠退く。
あれ?ちょっと頑張りすぎたかな?
ついに我慢できなくてふらっと倒れてしまう。
意識を失う直前、その時誰かに優しく抱き抱えられたような気がした。
「う、う~ん。・・・あれ?」
目が覚めると私はベッドに横になっていた。
そういえば私はなにをしていたんだっけ?
ええと、確かセルジュを助けようとして、
「そうだ!セルジュ!」
「はい、ここに。」
私がガバッと起き上がると、ベッドの横に床に片膝をつき、胸に片手をおいて優しく微笑むイケメンが一人。
「えーと、もしかしてセルジュ?」
「はい。」
なんですと!?
たしかに前は顔がひどい状態になっていてどんな顔なのかよく分かってなかったけど、クロードに引き続きセルジュまでこんなに整った顔をしているなんて。
なんか私の周りのイケメン率が高くなっているんじゃない?
もうノワールが可哀想になるくらいだよ。
セルジュを改めて見てみると、クロードと同じく黒髪に緑色の瞳。
クロードはクールな感じだけど、セルジュは優しそうな雰囲気だ。
でもちょっと顔立ちが似ている気がする。
えっと、よしよし、肌も綺麗になっているし、足も元通りになっている。
無事に魔法は成功したみたい。
私は一応、心配になってセルジュに体の調子について聞いてみる。
「どこか悪いところはない?気分が悪いとか傷が治ってないとか。」
「いいえ。花梨様のお陰でどこも悪いところはございません。以前よりも調子がよいぐらいです。本当にありがとうございました。」
セルジュは嬉しそうに微笑む。
「そっか、それは良かった。ところで質問なんだけど、なんで上半身裸なの?」
最初から気になっていたけど、なぜかセルジュは上を着ていない。
つまり上半身が裸の状態。
ちょっと目のやり場に困るんですけど。
「このような格好で申し訳ございません。元々包帯だけでしたので、着れる服がなかったのです。もしこの格好が不快でしたら、包帯を巻きましょうか?」
「ああ、いや、大丈夫。ごめんね。そこまで気づかなかった。」
そういえばそうだった。
治ったときのために服を準備しておけば良かったよ。
「いえ。お気になさらず。」
でもセルジュはにっこり笑ってそう言った。
「じゃあ、後でちゃんと用意するから。そういえば私が倒れてからずっとここにいたの?」
私の部屋にはセルジュ以外誰もいない。
もし誰か来たならセルジュに服を用意してくれると思うんだけど。
「はい。花梨様はお疲れで眠っていらっしゃるだけのようでしたので。失礼ながらわたくしが花梨様をベッドに横にして、ずっと寝顔を拝見させていただきました。」
「え?」
「花梨様の寝顔がとても可愛らしくてつい。」
セルジュがにこっと笑ってそんなことを言うので恥ずかしくて顔が熱くなる。
まさか寝顔をずっと見られていたなんて!
「セ、セルジュがよくなったことだし、早く服を着替えて朝ごはんを食べましょう!クロードの腕も治してあげないとね!」
私は慌てて早口でそういうと部屋から出て行こうとする。
セルジュが可笑しそうに優しい顔でくすくす笑うものだからなんだか無性に恥ずかしい。
「そういえば、セルジュは私たちが誰なのかとか今の状況は分かってる?」
セルジュはそれまで瀕死の状態だったからよく分かってないんじゃないかと思ったけど
「はい。あの状態でも意識はあったのです。花梨様がポラリス王国の女王であらせられること。そして花梨様がわたくしを助けてくださったこと。全て把握しております。」
あの状態で意識はあったんだ。だから私の名前が分かったんだね。
ちょっと驚きだけどそれなら話は早いね。
「それじゃあ、改めて。ポラリス王国女王の花梨です。これからよろしくね。セルジュ。」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします、我が君。」
私とセルジュは笑顔で握手をした。
こうして私に新しい仲間ができたのだった。




