国王からの提案と青蘭の到着
「う、う~。本当に行かなきゃダメかな?」
「もちろんですとも!なんたって女王陛下はシェルフィート王国の英雄なのですから!」
憂鬱に顔をしかめる私にキラキラとした瞳で意気込んでくる興奮気味の王女。
この人はさっきからなんでこんなにテンションが高いんだろうね。
ところで私たちがなんの話をしているかというと
「パレード、めんどくさい・・・。」
そう、あれは昨日のこと。
部屋でしばらく休んだ後「晩餐会の用意ができました」とか言われて私だけ連れて行かれたと思ったら、何故か豪華なドレスやら化粧やらでメイドさんたちにメイクアップしてもらった。
「あれ?今から食事じゃなかったっけ?」とか思っていたら今度はブランとノワールも合流して私は訳が分からないままメイドさんについていった。
そこには既にテーブルについた王族の皆さんが勢揃い。
もちろんあの王女もいる。
そしてテーブルには豪華なご馳走が・・・。
あ、やっぱり食事だったんだ。
「おお!待っていたよ、ポラリス女王。この料理は城のシェフが腕によりをかけて作ったものだ。口に合えば良いのだが。」
シェルフィート王国がにこにこと私たちに席を勧めてくれる。
「ありがとうございます、シェルフィート国王。なにからなにまでお気遣い頂いて。」
私はできるだけ優雅に微笑んだ。
しかし内心は、
(こんなに美味しそうな料理食べていいんだよね!?早く食べたい!すごくいい匂いがしてるよ~!)
って思ってます。
すみません、美味しいものに目がなくて。
「いやいや、ポラリス女王には返しきれないくらいの恩があるからね。これくらいたいしたことはないよ。」
国王が笑顔でそう言ってくれる。
いやー、本当にいい王様だね、優しそうで。
最初は圧政をひく国王に人々が反乱したという可能性もあるかと思っていたんだけど、様子を見ていたかんじそういうわけでもなさそうだったし助けて良かったよ。
テロリストたちは明らかに悪者だったしね。
まあ、魔眼で見れば一発で分かるんだけど。
ちなみにに彼らは今地下牢に入れられていて、処刑されるらしい。
死人もでてるし、あれだけのことをしたから仕方がないのかもしれない。
そんなことを考えながら私たちはメイドさんたちに椅子をひいてもらって席につく。
うぉ、初めてこんなことされたよ!
なんか偉い人になった気分!
・・・あれ?そういえば私女王だったな。
目の前に並べられた料理は本当に美味しそうだった。
国王の合図でみんな食べ始める。
・・・お、美味しい!
なんか高いんだろうなっていうのが凄くよく分かる。
さすが王族だねー。
いつも私が作る家庭料理とはやっぱり違う。
うう、ごめんよ、ブラン、ノワール。
私もっと料理頑張るよ。
最近あまりさせてもらえないけど。
私が料理に感動している間にも次々に料理が運ばれてくる。
なるほど、晩餐会っていうのはこういうかんじなんだね。
勉強になります。
女王っていってもこういうマナー的なこと全然知らないから少しでもこの機会に学ばないとね。
え?食べる時も周りをチラチラ見て頑張って真似して食べましたよ。
やっぱりマナーの勉強しなきゃなーって思いましたよ、すみませんね、勉強不足で。
最後に出てきたのはデザート。
これは果物を凍らしたやつかな?
シャクシャクシャク・・・冷たっ!
「満足頂けたかな?」
私が予想以上の果物の冷たさに驚いていると、国王が笑顔でそう聞いてきた。
私は頑張って口の中の冷たさを我慢して笑顔を返す。
「はい、とても美味しかったです。ありがとうございました。」
「それは良かった。料理長にも伝えておくとしよう。」
国王はさらに嬉しそうににこにこした笑顔になった。
よく笑う王様だなー。
私の中の好感度は上昇中です。
「それでポラリス女王にお願いがあるんだが。」
「?。なんでしょう?」
突然改まってお願いがあると言われたので私はハテナを浮かべる。
友好関係を築きましょうとかかな?
「実は今度、脅威が去ったことに民を元気付けるためにも国をあげて盛大に祝おうと思っているのだがね。その祝典パレードに是非とも国を救ってくれた英雄としてポラリス女王に出席してもらいたいのだよ。」
「え?」
な、なんだって?
思わずポカーンとした顔を国王に向けてしまったのは許して欲しい。
だって、ねぇ?私の聞き間違い?
「あ、あの、それはどういう・・・?」
私は戸惑って国王に聞いてみる。
「ポラリス女王はドラゴンで派手に助けてくれたのだろう?それを多くの者が見ていたらしくてね。こちらにあのドラゴンはなんなのかと質問が殺到しているのだよ。ドラゴンなんて滅多に見られるものではないし、ましてや人間を助けるなんて前代未聞だからね。」
「ああ、それは少し考えが及びませんでした・・・。」
そっか、逆に正体不明のドラゴンの存在は恐ろしいのかもしれないね。
今度はワイバーンより格上のドラゴンがやってきたと。
そこまで考えてなかったな。
反省、反省。
「いや、それに関しては凄く感謝しているのだよ。そのお陰でこの国は救われたのだからね。だから国民にドラゴンは危険ではないと安心させたいんだ。もちろんポラリス女王に感謝を示すためでもあるからそこは勘違いしないでほしい。」
国王は少し申し訳なさそうに微笑んだ。
しかしなるほどね。
ドラゴンを従わせる人間がいてその人間が国を救ったというふうにしたいのか。
だからドラゴンに襲われることはないんだよ、と。
でもそれだと私が危険人物になっちゃうんじゃない?
私が難しい顔をしていると、国王はさらに言葉を続ける。
「そこで提案なのだが、我がシェルフィート王国はポラリス王国と友好関係を築きたいと思っている。だから同盟を申し出たい。もし女王にそれを承諾してもらえるならパレードでそれを国民に知らせたい。どうだろうか?」
私は国王の意図が分かりにやりと笑う。
なるほどたしかにこの人は王様だね。
抜け目がないというかなんというか。
友好国になり同盟まで結ぶということは助け合っていきましょうということ。
つまり、相手国が危険になったら助けに行かないといけないということだ。
またこの国が襲われたらドラゴンに助けてもらおうと考えているわけか。
優しそうな笑顔でにこにこしているかと思ったら油断ならない人だな。
まあいい人には違いないんだろうけど。
しかしこれはこちらにも有難い提案だ。
これを機会にポラリス王国の名前を世界に広めることができるかもしれない。
今はまだ無理だけど、これから国を発展させるなら移民を受け入れたり技術者をスカウトしたりすることになると思う。
その時存在も知らない国に来てくれとか言われても誰もくる人なんかいないだろう。
ポラリス王国の存在を知ってもらうのは将来的に必要なことだ。
「分かりました。その提案、お受け致します。パレードにもドラゴンと一緒に参加いたしましょう。その方がより信じてもらえるでしょうから。」
私はニッコリと微笑んで提案を受け入れる意思を示す。
最初はドラゴンの存在を隠そうかと思ってたんだけど、もう今さらだよね。
そっちの方がうちに攻めてこようとか考える人もいなくなるかも。
あ、そもそも珊瑚がいるから誰も近づかないんだっけ?まあいっか。
というわけで勝手に私の独断でその場で決めてしまったわけだけど
「パレードってこんなに準備がかかるものなんだ・・・。」
私は、はぁーと息をついた。
今からやっぱりやめまーすとかできないかな?
「ご自分でパレードに出るとお決めになったのですから諦めてください。」
ブランが面倒くさがる私に呆れたようにそう言う。
「我が主はポラリス王国のためになると考えたのであろう?なら最後まで頑張るのだ。」
ノワールは励ますように言ってくれた。
ちなみにブランとノワールも私と一緒にパレードに出ることになっている。
ブランはそうでもないけど、ノワールは凄く乗り気だ。
それはドラゴンたちも同じようだった。
ところで気になることが、
「で、王女様はなんでここにいるの?」
私の視線の先には楽しそうに私のドレスを選ぶ王女の姿が。
「わ、私はお父様に女王陛下のことを頼まれたのです。そ、それから私のことはリリアーヌとお呼びください。」
王女は顔を手で隠しもじもじと恥ずかしそうにしている。
どうしたんだ、この人。
「お父様たちにご自分のことを私の友達と仰ったんですよね?わ、私、王女という立場上友達がいなくて。だから、その、嬉しくて。」
ああ、なるほど、そういうことか。
今まで友達がいなかったから私が友達って言って嬉しかったと。
いい子なのに可哀想に!
って今の私も人のこと言えないか。
「そうなんですね。私も友達はいなかったのでリリアーヌ様とお友達になれて嬉しいですよ。」
私はニッコリとリリアーヌに笑いかける。
うん、友達ウェルカムなのですよ!
「あ、ありがとうございます!」
リリアーヌは感動したように胸の前で両手を合わせ目をうるうるさせる。
そんなに友達が欲しかったのか・・・。
「そ、それでパレードは明後日なんですよね!」
私は話題を逸らそうとリリアーヌに話しかける。
リリアーヌは今度はぱあっと顔を輝かせてこくりと頷く。
「はい。それまでに女王陛下には色々学んで頂くことが沢山あります。失礼ですが、あまりマナーなど得意ではなさそうでしたので。でも大丈夫です!私が付きっきりで教えて差し上げますから!」
「げっ!」
嬉しそうに意気込むリリアーヌに思わず嫌そうな顔をしてしまった。
でもそんなことはお構い無しにリリアーヌは大量の難しそうな本を私の目の前に積み上げる。
わ、私文字読めないと思うんですけど。
ちらっと表紙の題名を見てみる。
なになに?基本のマナーに王族の心構えだと!?
って読める!?
なんだ、これ日本語じゃないか。
そうならそうと早く言ってよー。
知ってたら本を読んでたのに・・・。
この世界の共通語って日本語なのかな?
まあ私としてはそっちの方が有難いけど。
私が今気づいた新たな発見(?)に驚いていると
「どうかされました?」
リリアーヌが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「い、いや、別に・・・。ははは。」
「そうですか。では講義を始めますね♪」
それから二日間なんだか楽しそうなリリアーヌに有難い地獄のレッスンを受けたのでした。
しばらくして私はリリアーヌから少しの休憩をもらい、お茶を飲みながらほっと息をついた。
リリアーヌめ、可愛いい顔してスパルタだな。
トントン。
「はい、どうぞ。」
ノックの音がしたのでリリアーヌが入室の許可を出すとメイドさんが入ってきて頭を下げる。
「王女殿下。只今ローレット様一行が到着したと連絡が入りました。」
「まあ、そうですか!分かりました。ありがとう。」
「それでは失礼致します。」
どうやらメイドさんはローレットたちの到着を知らせてくれたみたい。
ローレットが到着したってことは青蘭も一緒だよね?
まだ1日しかたってないけど元気かなぁ?
「女王陛下。ローレットたちがシェルフィートに着いたようです。青蘭さんもいるはずですし、迎えに行きますか?」
リリアーヌは私にそう提案してくれる。
私はこくりと頷いて
「そうですね。では私も・・・」
『カリーン!』
「どはっ!」
なにかが凄い勢いで飛んできて私に飛び付いた。
くっ、なんでいきなり体当たり!?
凄い衝撃だったんですけど!
「ってあれ?青蘭?」
私にしがみついて顔を擦りつけているのは、青いチビドラゴン姿の青蘭だった。
「ど、どうしたの?青蘭。大丈夫?」
『・・・なんでもありません。大丈夫です。』
「え?」
これ全然大丈夫に見えないんですけど。
『大丈夫よ、花梨。私たちはまだ生まれたばかりだからパートナーと離れると負担が大きいだけ。しばらくすれば落ち着くわ。』
『ったく。たった一日で情けないやつだぜ。』
『う、うるさいですよ・・・。』
朱凰の言葉にふんっとそっぽを向く青蘭。
というか生まれたばかりのドラゴンってあんまりパートナーと離れられないんだ。
それは知らなかった。
青蘭には悪いことをしたかもしれない。
こんなことなら全然平気そうな朱凰に頼めばよかったな。
「ごめんね、青蘭。私全然知らなくて。でもありがとう、お疲れ様。今日はずっと抱っこしててあげるから少し休んでね。」
『そ、そうですか?私は別に大丈夫ですけど、花梨がそういうなら・・・。』
そう言いながら青蘭は私の腕の中で静かに眠り始める。
よっぽど疲れていたんだろう。
「ありがとうね。おやすみなさい、青蘭。」




