通りすがりの女王と侵略者たちの末路
今にも王子たちがワイバーンに襲われそうになったとき一人のローブを被った少女が現れた。
なぜか肩になにか乗せている。
もちろんその様子を見ていた花梨である。
肩にいるのも、もちろん朱凰。
出ていくタイミングを掴めずにいたところまるで準備されたようなタイミングが現れたのでここぞとばかりに出てきたのだった。
予想外の花梨の登場に王子たちや侵略者たちだけでなくワイバーンまでもがポカーンとした表情で固まってしまっている。
ちなみにローブに隠れていて見えないが、花梨は今ドヤ顔である。
「だ、誰だお前・・・?」
ようやく声を出せた侵略者はやっとの思いで花梨に声をかける。
その時だけは国王たちも同じ思いで「よくぞ言ってくれた!」と思っていた。
すると花梨はちょっと戸惑ったように
「す、朱凰。どうしよう。ここはやっぱり「お前に名乗る名はない」とか言った方がいいのかな?こそこそ」
「あ?なんだそれ。ここは格好よくでっかい声で名乗るところだろ!こそこそ」
二人は小さい声で話しているので国王たちに会話の内容は聞こえてはいないが、二人の戸惑った様子に何を話しているんだ?とみんな疑問に思った。
「えーと、私は通りすがりの者です!」
「「「「「「無理があるだろ!」」」」」」
花梨の答えに全員がその場の状況も忘れて全力で突っ込んだ。
なんで城の中で通りすがるんだよ!と。
え?なんで?みたいな顔をして首をかしげる花梨。
だからガツンと名乗ってやれば良かったんだよとずれたことを言っている朱凰。
なんだか助けにきたのに締まらない二人。
「ふ、ふざけやがって!おいワイバーン!王子たちの前にこいつをやっちまえ!」
花梨の態度に怒ったらしい侵略者の一人がワイバーンに指示をだした。
それに反応して見知らぬ少女を庇おうと動き出す正義感の強い二人の王子。
「ゴギャーーー!」
ワイバーンが花梨と朱凰に叫ぶとその風圧でふわりとフードがとれた。
そんなことはお構い無しに花梨はうるさいなぁとうんざりした顔をし、朱凰は格下のワイバーンに威嚇されたことに青筋ができる。
しかし、ワイバーンを除くその場にいた全員が怯える様子がないという普通ならあり得ない反応を花梨がしていることも失念し、その露になった顔を見てただ息をのんだ。
その姿は可憐であるが神々しく、髪は月の光のように輝き、金色の瞳は不思議な色をしていた。
ここにいる誰もがその美しさに目を奪われ、不思議な魅力を放つ少女から目を放すことはできなかった。
はっとした侵略者たちは突然現れた今まで見たこともない美少女を見て醜く歪んだ笑みをうかべた。
「へ、へへ。美人だと噂の王女がいなくてがっかりしていたがこいつは運がいい。」
「俺らみんな今機嫌が悪いんだわ。ちょっと慰めてくれよ。」
侵略者たちは下品な笑みを浮かべゆっくりと近づこうとしたが王子たちは花梨を守るような形で後ろに庇う。
未だに動けない騎士と比べ行動力のある王子たちだと花梨は思ったのだった。
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さて、助けにきたはずの私はなぜか今、王子らしき人たちに庇われているみたいです。
どうしてだろうね。
「邪魔だ、そこをどけ!ワイバーンに食われたいのか!?」
「関係のない人を巻き込むんじゃない!用があるのは王族だけだろう?彼女は関係ない!」
「大丈夫かい?君がなにものかは分からないけど、きっと助けてあげるから今は大人しくしていてほしい。」
テロリストと言い合いをする王子と私に安心するように話しかけ笑いかけてくる王子。
どちらも私のことを助けようとしてくれているようだ。
見ず知らずの人を助けようとするなんて本当にいい人たちだね、イケメンだし。
なんかあのテロリストたちが可哀想になるくらいだ。
同じ人間のはずなんだけどねえ。
しょせん世の中は不公平だよ。およよ・・・。
・・・はっ!そんなことよりこの状況をどうにかしなきゃ。
助けようとしてくれる気持ちは有難いけど王女に助けるって約束したし大人しくしているわけにはいかない。
あれ?今さらだけどこれ私たちが助けていいんだよね?
王女がしたかったとかそういうことはない?
・・・まあ今さらどうしようもないか!
私は考えを切り替えて王子たちの前にでてテロリストたちに向き合う。
王子たちは私の行動に驚いたようになにか言ってるけど今は無視。
「えっと、リリアーヌ王女からの頼みであなたたちを倒しにきました。覚悟してください。」
私の言葉にポカンとしたテロリストたちだったがみんな一斉にゲラゲラ笑いだした。
「ははは!俺たちを倒すだって?こりゃ傑作だぜ!」
「おいおい、嬢ちゃん。そんなか弱い姿で何ができるんだ?それに俺たちにはワイバーンの軍隊がいるんだ。どんなに強いやつだって俺たちには敵わねぇよ!」
私は笑い転げるテロリストたちにニッコリと笑いかけ
「ワイバーンの群れなら全滅しましたよ。残ったのはあの一体だけです。」
「・・・ははは!何度も笑わせんなよ!はったりをかけるにももうちょっとましなのを考えろよ。」
「全くだぜ。おい、嬢ちゃん。じゃあワイバーンがどうやって全滅したか教えてくれよ。はははは!」
それを聞いた私はにぃっと唇を引き上げた。
「分かりました。そこまで仰るならこの場でしっかり教えてあげましょう。・・・朱凰。」
「分かってるぜ。俺もずっとこの時を待ってたんだ!」
私の肩に乗っていた朱凰は前に飛び出ると一瞬にしてその姿を変えた。
もちろんチビドラゴンから大人の姿に。
その姿はまさに竜の王のようだ。
大きな翼に鋭い爪や牙。
真っ赤に燃えるような色をした姿は圧倒的存在感を放っていた。
その瞳を見たら恐怖で固まり汗が滝のように流れだし、そして自分の死を悟る。
これまで強者としてここにいたワイバーンもまるで怯えた子犬のようだった。
「ゴガァァァァァーーーー!」
朱凰の咆哮はワイバーンと比較にならないほど力強く恐ろしく、その場にいた全員に恐怖を刻みこむのに十分だった。
もちろん私以外で。
朱凰の目はそのままワイバーンを捉えるとガバッと噛みつき翼を引き離し、そして頭までをも引き離した。
まるで自分が強者だと周りに見せつけるようにゆっくりと。
・・・うわぁ。グロい、グロすぎるよ!
たしかに最初にブレスを使わないって決めたからこんな感じなったのかもしれないけど、それにしてもちょっとひどい。
いや、文句を言うつもりはないけどまだ精神的に辛いところが・・・。
でも今はそんなことを言ってる場合じゃないよね。
私は腰を抜かして失禁しているテロリストたちになるべく素敵な笑顔で笑いかけると
「さて、しっかり教える約束でしたから次はあなた方の番ですね。」
そして白目を剥いてテロリストは気絶した。
私が優しく微笑んであげたというのに失礼な話だ。
私はテロリストの監視を朱凰に任せて呆然としている王子たちに話しかけてみる。
「えーと、あの、大丈夫ですか?」
王子たちは話しかけられたことにはっとして朱凰を凝視していた目をこちらに向けて少し後退りをした。
またまた失礼な話だ。
「き、君はいったい・・・?」
「え?あ、私はえーと、リリアーヌ王女の友達といいますか・・・。」
私はなんか答えにくくて誤魔化すようにそう答えた。
ここで「ポラリス王国の女王なんですぅー」なんて言っても、女王だなんて信じてもらえないだろうし、その前にポラリス王国なんて知らないだろうしね。
でも友達っていうのもまるっきり間違いってわけでもないよね?多分。
私がそう思えば大丈夫、どうせ今だけだから。
「リリアーヌの友達?まさかリリアーヌが助けを呼んでくれたのか?」
「あ、あのドラゴンはあなたが従えているんですか!?」
王子たちが矢継ぎ早に質問をしてくるので私は少したじろいでしまう。
で、できれば質問は一つずつでお願いしたいです!
「まてお前たち、命の恩人に失礼ではないか。」
その一言にピタッと動きをとめる二人。
もちろん声の主はシェルフィート王国国王。
国王は私の前までやってくるとニッコリと笑いかけてきた。
あれ?王様って意外とフレンドリー?
「息子たちが失礼したね。私はシェルフィート王国国王、ジョフレッド・ヘルス・シェルフィートだ。助けてくれたこと感謝するよ。」
「いえ、お気になさらず。私はリリアーヌ王女に協力しただけですから。」
「なんと!リリアーヌが!それではあの子は無事なのだね!」
国王は私の言葉にとても嬉しそうにほっとしたような安堵の表情を浮かべた。
よっぽど心配だったんだね。
リリアーヌは国王に大切にされているようだ。
「はい。今頃ドラゴンに乗ってワイバーンたちをぶっ飛ばしていると思いますよ。」
私はリリアーヌは元気だと安心させるようと思ってニッコリと笑ってそう教えてあげた。
「「「「え?」」」」
すると国王の顔が驚愕に固まる。
国王だけじゃない、その場にいる全員が同じような顔をして固まってしまった。
あれ?私なんかまずいこと言ったっけ?
「リ、リリアーヌが、ドドドドドドラゴンにーー!?」
国王がふらっと倒れそうに・・・あ、踏みとどまった。
というかドが多いな!驚きすぎじゃない?
あー、そういえばドラゴンって珍しいんだったけ?
ちょっと忘れてたよ。
「き、聞かなくてはと思っていたんだが、あのドラゴンは一体?リリアーヌがドラゴンに乗っていると言っていたがまさか他にもいるのかい?君は何者なんだ?」
さすがは王様。
ショックで倒れそうになったのを踏みとどまり私に答えづらい質問をしてくる。
さて、なんと説明したものか。
「それはですね、」
私が答えようとしたその時、ドン!という大きな音がしたと思ったら誰かを呼んでいる声がした。
「陛下~!!!」
いや、やっぱりなんも聞こえません。
気のせいでしたすみません。
「陛下~~!!!!」
私と朱凰は顔を見合せて深い深いため息をついたのだった。
「なんと!一国の女王陛下であらせられたとは!」
シェルフィート国王は驚いて目を丸くし私を見る。
あの後私たちがいるところにブランが叫びながら駆け込んできた。
なぜかめっちゃ泣きそうな顔になっていたけど。
ナンデダロウネー。
その後にノワールと王女とチビドラゴンたちもやってきて、私がなんて説明したらいいか困っていたことを王女が最初から丁寧に国王陛下たちに説明してくれた。
いやー、手間が省けて良かったよ。
ちなみにドラゴンたちのことは私たちの騎獣だと王女は説明していた。
「それにしても、シーサーペントが住む先に人間とドラゴンが共存する国があったとは。ポラリス王国か、ふむ。」
「あ、国といってもここにいる三人とドラゴンしか住んでいないんです。だから国には私たちの住む城しかなくて。」
王女の説明を受けてだいたい把握してくれたらしい国王は私たちの国の存在を知りふむふむと頷いていたから私は慌ててそう付け加える。
もしいきなり国交をしようとか貿易をしようとか言われても、まだ何もないから変に期待されても困る。
できればもうちょっと待ってほしいところだ。
まあ、逆にもう関わりたくないとか思っている可能性もあるけど。
「ほぅ、そうなのか。やはり秘境ともなるとあまり人は住んでいないのだな。」
私の心配をよそに国王はなるほどと呟いて頷いている。
あれ?なんか納得してくれたっぽい?
私が言うのもなんだけど、人口三人の国ってなかなかおかしいと思うんだけど。
それともこの世界では普通だったりするの?
逆に私が戸惑っていると国王が手を差しだし
「今回はシェルフィート王国の危機に駆けつけてくれたこと本当に感謝する、ポラリス女王。このような有り様だが命の恩人にできるだけのおもてなしをしたい。部屋や食事を準備するのでゆっくりとしていってほしい。」
国王はそう言って笑いかけてくれた。
その申し出は有難いかも!
私は国王の手を握って握手をした。
「お気遣い感謝いたします、シェルフィート国王。」
私もニッコリと微笑んだ。
お城の料理はやっぱり美味しいんだろうなぁと思いながら。
そして私たちは国王や王女たちと別れた後、本物のメイドさんに豪華な部屋に案内されほっと一息ついた。
やっぱり本物のメイドさんはなんか清楚で優雅で動作も洗練されているなあ。
はぁー。それにしても疲れた。
少し休ませてもら・・・
「陛下、お話があるのですが。」
ニッコリと素敵な笑顔を向けてガシッと私の肩を掴むブラン。
な、なぜにそんな笑顔なんでしょうか?
目が笑ってなくてめっちゃ怖い・・・。
私は慌てて言い訳をしようと試みる。
「だって朱凰が!」
「だって花梨が!」
私と朱凰は同時にお互いに名前を呼んで指を指す。
おのれ朱凰め!
行きたいって言ったのはそっちだったじゃん!
私の言い訳も虚しく、その後私と朱凰はしばらくの間ブランに説教、ではないけど泣きそうな顔のブランに色々と小言を頂いたのでした。




