シェルフィート王国とドラゴンたちの跳躍
私たちはポラリス王国を出てシェルフィート王国に向かっている。
ドラゴンたちに乗っているのでこのスピードだとすぐに着くらしい。
王女の話だとポラリス王国に一番近い国なんだって。
「見えてきました!」
王女の声を聞いて前を向くと確かに大陸が見える。
王女は最初こそ怖がっていたみたいだけど今ではずいぶん余裕が出てきたらしく空の旅を楽しんでいたみたいだった。
全く逞しい王女様だよね。
「陛下!前方から何か来ます!」
ブランの言うとおり向こうから何かが飛んでくるのが私にも分かった。
その数およそ二十。
あれが噂のワイバーンか。竜とは似ても似つかないな。全くの別物だった。
でもドラゴンを見慣れているせいかちっちゃく見えるしあまり迫力を感じない。
あ、いや、ちっちゃいっていっても私よりは遥かに大きいんだけどね。
それにしてもギャーギャーうるさいな。
「よし!みんな戦闘体勢に!まずは景気よく一発ドカンとやっちゃいましょう!じゃ朱凰、開戦の合図でド派手なのよろしく!」
私がそう朱凰にお願いすると、朱凰は嬉しそうに笑って
「はは!いいねぇ!久しぶりに思いっきり暴れられるぜ!俺を敵に回したことを後悔するんだな虫けらども!格の違いってやつを見せつけてやるぜ!」
わぁ・・・、ノリノリだなあ。
そんなに暴れたかったのかな。
もしかして小さい姿でストレスたまってた?
うるさいようであれでいて朱凰たちなりに大人しくしていたのかもしれない。
まあ今は楽しそうだからそれでいいっか。
そして朱凰は思いっきり息を吸うと
「ゴガァーーー!」
うっ、うるさっ!
いきなり放たれた竜の咆哮に私たちは思わず耳をふさぐ。
ドラゴンが一体叫んだだけでこの迫力。
やっぱりドラゴンって凄いんだなぁと思い知らされる。
今さらだけど朱凰たちが仲間で良かったよ、うん。
竜の咆哮を聞いたワイバーンたちは明らかに動揺し始め、こちらに向かうのを止める。
ワイバーンの鳴き声も心なしか弱々しい。
「はんっ!口ほどにもねぇな。もう降参か?まだまだこれからだっていうのによぉ!・・・あん?逃げようとしているところ悪いが、うちの女王様からの命令でお前たちを根絶やしにしてやらないといけないからよぉ、俺のブレスを受けてくれや。全くうちの女王様は恐ろしい人だぜ!」
「ちょ、ちょっと!私そこまでいってないでしょうが!まるですっごく悪いやつみたいじゃん!しかもなんでいつも呼ばないのに女王様とか言うかなぁ!さらにやばい人に聞こえるんですけど!」
私は文句を言うけど朱凰は私の言うことを無視してさっきよりも大きく息を吸い込み
「ゴォガガガァァァァーーー!」
真っ赤な炎のブレスをワイバーンたちに放つ。
その威力に空気も震えて一気にワイバーンたちをなぎ倒す。
うひゃぁーー!おっそろしい!
こんなに威力があったなんて・・・。
というか
「ちょっと!いくらなんでもやりすぎでしょ!限度ってものがあるでしょうが!」
朱凰の放ったブレスは一瞬にしてワイバーンたちを消してしまった。
まだ海の上だから良かったもののこれを町中でやったらと思うと恐ろしい。
一瞬にして火の海だ。
ドラゴンの結界のおかげで私たちは熱くないようになってはいるけど。
感謝どころかこっちが悪者になってしまう。
「いいじゃねえか。海の上なんだし。さすがに俺もそれぐらい考えてるよ。っていうかお前がド派手なのって言ったんじゃねえか。」
「いや、そうだけど・・・。」
私は言いにくくて口をもごもごさせる。
いや、だってさ、
「私が魔法の試しうちできないじゃん!せっかく色々準備してきたのにー!」
「「「「「「は?」」」」」」
私の言葉を聞いたみんなは目が点になる。
いやだってこのままじゃ私なんもしないことになるでしょ。
せっかく気合いを入れてきたというのにさ。
なんか虚しいじゃん・・・。
私が一人で悔しがっていると
「はははは!さすが俺のパートナーだぜ!」
「全く、可愛いい顔して恐ろしい子ね。でもそういうの好きよ。」
「我が主はやはりなかなかの大物であるな。」
「はぁ。もう分かりましたから陛下の好きなようになさってください。」
関心したような反応と呆れたような反応がみんなから返ってくる。
そして一人おかしなテンションの人が
「さすがです!女王陛下!私感激いたしました!心配なさらないでください!敵はまだまだいるはずですから!」
王女が目をキラキラさせて興奮したように私にそう言ってくる。
それはまるで尊敬の眼差しだ!
・・・っていやいや!どこにそんな要素あった!?
自分で言っといてなんだけどこんな状況で何いってんのこいつ!っていうのが普通じゃない!?
もう一回言うけど、言ったのは私ですけどね!
ていうか、王女がまだ敵がいることを嬉しそうに言ったらダメでしょ!
私のために言ってくれてるんだろうけど!
それを私が言うのはまたなんか言われそうだったので心の中で我慢してそう王女に突っ込む。
ここでまさかの王女ボケ役疑惑!?
まあひとまずそれはおいといて
「と、とりあえずそれぞれに別れて全員突撃。なるべく町に被害がでないように頑張ろう。」
もしかすると敵を倒すよりもそっちの方が難しいんじゃないだろうか?
これからは慎重に行くしかないかもしれない。
もうブランも私一人だと危険だ!なんて言わなくなってしまったし。
まあ、そっちの方がありがたいけどね。
そして私たちは各々別れてワイバーンを倒しに行くのだった。
~ノワール&柘榴サイド~
「おお!思ったよりも数が多いいようだな。シェルフィートの王女が言ってた五十という数よりも遥かに多い。我は接近戦しかできんからな。頼んだぞ、柘榴よ。」
「・・・分かった。」
柘榴は息を吸い込みワイバーンの群れに向かって黒いブレスを放つ。
それはとても深い闇のような色で触れたワイバーンたちを一掃していく。
後にはチリも残らない。
「ふむ。一発で終わってしまったか。さすがは柘榴であるな。」
「・・・当然。」
下に被害も出さない完璧な仕事ぶり。
寡黙なドラゴンは珍しく満足そうだった。
~ブラン&琥珀サイド~
「うわ~、結構いるな。琥珀、一人でこの数倒せるか?できれば被害をださないようにしてくれると有難いんだけど。」
「もちろんですわ、ブラン。心配なさらないでください。パートナーであるあなたの期待に答えてみせますわ。」
そう言うと琥珀は息を吸い込みブレスを放つ。
もちろん下に被害をださないように。
パートナーの期待に完璧に答えてこそ立派なドラゴンなのだ。
琥珀のブレスは眩しいほどの光のブレス。
その強烈なブレスは狙ったワイバーンを逃さない。
しかしおっちょこちょいなのはいつものことで琥珀の良いところなのだ・・・多分。
「あら?」
ワイバーンの残骸が町に落ちていく。
でもほんの少しだけなんだ!少しだけ!
「・・・。琥珀。」
「・・・まあ、予想の範囲内ですわ。」
予測不可能な事態があったとしてもドラゴンにとって些細なことなのだ!
ワイバーンに襲われるより被害は小さかったはず!多分!
白い美しいドラゴンは人知れず少し冷や汗をかくのだった。
~リリアーヌ&翡翠サイド~
「よろしくお願いしますね、翡翠さん。」
「任せときなさい、王女。」
「私のことはリリアーヌとお呼びください。」
「そう?じゃあリリアーヌ、あいつらどうする?」
目の前にいるのはワイバーンの群れ。
ここだけでこの数なら自分の予想よりもワイバーンの数は多かったようだと王女は思った。
そして花梨たちに協力を得られたことはとても幸運だったと。
「私にもやらせていただけませんか?少しだけでもやり返したくて・・・。」
王女の様子に翡翠はふふっと笑う。
この王女はなかなか見所があるな、と。
自分の信頼するパートナーが王女を連れてきた理由が少しだけ分かった気がした。
「じゃあやってみなさいな。そのために危険を承知でここまで来たんでしょ?私も協力してあげるわ。」
「はい!ありがとうございます!」
王女は翡翠に感謝しながら魔法を唱える。
花梨たちは知らないことだが、リリアーヌは魔法の天才として知られている。
自分に全くその自覚がないのだが。
大切にされすぎて自分は一人前として認められてないと思っているのが原因だろう。
ちなみに使える属性魔法は火、水、風の3つで固有魔法は『回復魔法』。
一般的に四つも属性を持っているのはとても珍しく、よく知られている回復魔法はとても重宝される。
ポーションがなくても魔力がある限り回復できるのだから。
しかも魔法についての知識も豊富だ。
そしてなぜか使えないはずの光と闇の属性も一応一通りの知識がある。
リリアーヌは勉強熱心なのだ。
「最大火力でいきます!『バーニングストーム』!」
バーニング系は火属性の中級魔法。
リリアーヌはありったけの魔力を込めて放った。
あとは翡翠に任せるつもりなのでほとんどの魔力を使ってしまった。
しかしこれだけしないとワイバーンを倒せないと思ったのだ。
翡翠がいたからこそできることだった。
リリアーヌの努力のかいあってワイバーンを二匹を撃墜できた。
しかしこれは人間にしては普通無理なレベル。
だから翡翠はとても関心していた。
正直花梨のような規格外ならともかく普通の人間には無理だと思っていたのだ。
言い方をかえれば花梨が普通の人間ではないことになる。
「あとは、お任せ、します。」
「ええ、頑張ったわね。少し休みなさい。あとは私がやってあげるわ。」
翡翠はリリアーヌを労いブレスを放つ準備をする。
そして大きく息を吸い込みブレスを放った。
翡翠のブレスはキラキラと綺麗な緑色をしていた。
しかしワイバーンに当たったとたんそれはとても危険なものだと一瞬で理解することになる。
少しでも触れればそれは終わりの始まり。
触れたところから溶け始めそれはだんだんと体を蝕み激痛を伴う。
最後は原型をとどめないほど。
それは美しく恐ろしい毒のブレス。
しかし翡翠のブレスの種類は豊富で色々な毒もあるが、逆に大地に恵みを与えることもできたりする。
翡翠はとても器用なのだ。
「す、凄い・・・。」
リリアーヌもその惨状に息をのむ。
一瞬にしてワイバーンを倒してしまったドラゴンに協力してもらえたのは本当に本当に幸運だったと何度目か分からないがそう思った。
しかも今回は今までにないくらい強く強くそう思った。
それほどまでに翡翠のブレスは強烈だった。
ちなみに翡翠のブレスは下に被害をださないような種類のブレスだった。
翡翠は誰かとは違って本当に器用なのだった。
朱凰「おい!なぜ俺の出番がないんだ!」
花梨「いや、一番最初に出番あったでしょ。」
朱凰「あれは開戦の合図なんだ!俺には完璧な計画があるんだよ!」
花梨「へぇ。それでどんな計画なの?」
朱凰「まずはだな、小さい姿で出ていって油断させ、それから大きくなり敵を蹴散らす!」
花梨「なるほどね。そういえばずっと疑問だったんだけど、なんで最初の小さい姿から名前をつけたら大きくなったの?」
朱凰「あ?そんなのあのタイミングが一番きまってるからに決まってんだろ!」
花梨「・・・。」
朱凰「おい!やめろ!無言の笑顔で鱗をむしるんじゃねえ!目が笑ってねえぞ!おいやめろ!冗談だからやめてくれー!」




