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おたんこなすとドラゴン部隊の出撃

 ドラゴンとは一体現れただけでも国が滅ぶとも言われる最強で恐怖の存在。

 ドラゴンを手なづけるというのはこれまでどの歴代の戦士も成し得ることのできなかった偉業。

 ドラゴンに乗ることはそれだけ凄いとことなのだと、初めてドラゴンに乗ったブランがそう興奮したように叫んでいたっけ?


「わ、私がドラゴンに、ですか?」


 私が初めてドラゴンに乗ったときのことを思い出していると王女が戸惑ったように口を開く。

 なんだか挙動不審になっていて面白い。

 そんなに困ることかな?

 これ以上ない、王女の意思に添った結構いい提案だったと思うんだけど。

 私が王女の決断を待っているとローレットが慌てたように


「なりません!危険すぎます!姫の代わりに私が参りますからそのような、」


「勘違いしないで欲しいのだけれど」


 ローレットの発言にちょっといらっとした私は自然と声が下がり、視線が冷たくなる。

 背筋に冷たいものがはしったように王女とローレットはビクリと体を震わせた。


「私は王女が自分でけりをつけたいというから提案しているのであって、協力をして欲しいわけではないの。べつに王女が行きたくないと言うのなら私はそれでも構わない。私たちだけの方がこっちも楽だしね。まあ面倒見きれないし連れて行くのは王女殿下一人だけになるけど。確かに危険だし、諦めてもいいですよ?後はあなた次第です、王女殿下。」


 私はまたにやりと笑う。

 ああ、やばい。

 この笑い方、まるで悪役じゃん!

 私は心優しい提案をしているはずなんだけど!

 これから優しい笑顔の練習をしなちゃいけないかも。

 そうだよ、私は単に笑うのが下手なだけ・・・。

 そんなことを考えつつも私は王女を試すかのような視線で見つめる。


「・・・私はいつも多くの人から守られてきて、危険なことなんて一度もありませんでした。でも私は守られるだけでは嫌です!私だってやればできると認めてもらいたい!女王陛下、お願いです。私も連れて行ってください!」


 王女は真っ直ぐに私を見つめて決意する。

 何回見てもこの顔はいいね。

 私は嬉しそうに目を細める。

 真っ直ぐで一生懸命で、それでいて頼もしくて。

 眩しいくらいに輝いて見える。

 なんか応援したくなるような子だ。

 私は王女の言葉に満足していると


「し、しかし王女、ドラゴンに乗るなんて。しかもお一人で、」


 ・・・ローレットのやつめ。

 王女の決意に水を差すんじゃないよ!

 全くなんて阿呆なんだ!

 過保護もここまでくるとやりすぎだよ!

 ちょっとはブランを見習え。

 悩んでたときは反対してたけど、私が行くって決めたら素直に賛成してくれたんだよ。

 ・・・今考えたらなんていい子なんだブランは!

 この前ノワールを見習えなんて言ってごめんなさい!

 全然見習わなくていいです。

 そのままでお願いします。

 逆にノワールみたいになったら困ります。

 私は心の中で必死にブランに謝る。

 ・・・それはともかく


「しつこい、そこの過保護従者。王女殿下がせっかく人生一大の決意をしたっていうのに。女だろうと王女だろうと戦わなきゃいけないときだってあるし、やるときはやる。男なら黙って応援してあげなさいよ!このおたんこなすが!」


 あー、すっきりしたー!

 言ってやりたいこと全部言ってやったよ!

 おたんこなすの意味は分からないと思うけどね。

 私が一人で満足していると


「お、おたんこなす・・・。意味は分からないけどなぜだろう?どうしてこんなに傷ついているんだ?おたんこなすってなんなんだ。」


 ローレットがおたんこなすをぶつぶつ呟きながら胸を押さえている。

 そ、そんなにおたんこなすって言葉が効いたの?

 意味も分かってないみたいだけど。

 試しにもう一回言ってみるか。


「おたんこなす」


「ぐおっ!」


 ローレットが床に膝から崩れおちる。

 おお・・・!凄い効果だ、けど。


「あの、女王陛下。ローレットはどうしてしまったのでしょう?」


「・・・うん。ちょっと効き目が強すぎたみたいですね。」


 ついにピークに達したローレットは部屋の隅で体育座りを始めてしまった。

 暗い表情でおたんこなすとぶつぶつ呟いているのはちょっと不気味。

 ・・・なんかごめんなさい。

 私は()()()()謝るのだった。











 しばらくしても一向に回復する様子のないローレットをしばらくそのままそっとしておくことにして私と王女は出発の準備をすることになった。

 そして私にはやらなければならない重大なことがある。


「勝手にドラゴンに乗せるって約束しちゃったけどどうしようかなー。」


 これから私はパートナーのドラゴンに王女を乗せてもらう許可をもらいに行かなくちゃいけない。

 そもそもパートナー以外を乗せるのって大丈夫なのかな?

 とりあえず聞いてみるしかないけど、さて誰に頼もうか。


「花梨、深刻そうな顔してどうしたの?たぶんろくなことじゃないと思うけど。」


「ちょっとそこのドラゴン失礼だね。」


 翡翠は私を見つけるといきなりそんな失礼なことを言ってくる。

 全く私のことをなんだと思っているんだ。

 これでも色々真面目に考えているんですよ、私。

 でもここで会えたのは丁度良かった。


「ねえねえ。聞きたいことがあるんだけど。」


「なにかしら?」


「ドラゴンってパートナー以外を乗せることってできるの?」


「んー・・・。できなくはないけどあまり好ましくはないはね。」


「あー。やっぱりそうなのか。」


 好ましくはないけどできなくはないと。

 やっぱり誰彼乗せるってわけではないんだね。

 そんじゃあ、ちょっとお願いして頑張ってもらうしかないかな。


「どうしてそんなことを聞くのかしら?」


「いやね、王女が自分も戦いたいっていうから協力してあげようかと思って。」


 私は翡翠に王女との会談の内容を話した。

 なるべく王女が立派に聞こえるように頑張りました。

 上手くいけば翡翠が王女を乗っけてくれるかもしれないしね。


「なるほどね。王女にしてはなかなか根性があるじゃない。」


 翡翠はチビドラゴンの姿でふむふむと頷く。

 その姿だとなにしても可愛い!

 けど今はそんなことを考えている場合じゃない。


「それでさ、できれば王女を乗っけてくれないかなーなんて思ったり思わなかったり・・・」


 私は翡翠の顔色を伺いながらお願いしてみる。

 いや、好ましくないって言ってたからやっぱり気持ち的に嫌なのかなと思って言いにくいわけですよ。


「・・・花梨がどうしてもっていうのなら乗せてあげるわよ。でもね、花梨が心から信頼する相手以外は乗せて欲しくないわ。それだけドラゴンが背に乗せるっていうのは私たちにとって特別なことなの。普通自分が認めた相手しか絶対に乗せないから。でも今回は私の信頼するパートナーと王女の心意気に免じて特別に許可してあげるわ。」


「・・・そうか、ありがとね。」


 チビドラゴンの姿で器用にパチンとウインクする翡翠。

 か、可愛い・・・じゃなくて、なんていいドラゴンなんだ!

 やっぱり理解ある翡翠に頼んで良かったよ!

 すっごく感謝してますとも!


「ただ、ね、やっぱりご褒美は欲しいわね。」


 ご、ご褒美?

 喜んでいた私はさっと顔色を変える。

 にやりと可愛く笑うチビドラゴンになんか嫌な予感が・・・。


「そうね。ケーキとプリンだったかしら?あれをお腹一杯になるまで食べたいわ。ね?いいでしょう?」


「!?」


 お、お腹一杯だとぉ!?

 チビドラゴンの姿になっても食欲が落ちるわけじゃないのに、一体どれだけ作ればお腹一杯になるんだろう?

 な、なんて恐ろしいご褒美をねだるんだ!

 城の卵や砂糖を食べ尽くす気か!

 私を一日中働かせるつもりなのか!?

 それとも食べ物で許してくれたことに感謝すべきなのか!?


「じゃあ、よろしくね♪」


 頭を抱える私を無視してご機嫌な様子で去っていく翡翠。

 その様子に本当にパートナー以外を乗せるのは好ましくないことなのか疑問に思ってしまう。

 ご褒美をねだるためにそんなこと言ったんじゃないよね?

 いいドラゴンっていう認識は改めるべきかもしれない。

 これなら脳筋ドラゴン(朱凰)をよいしょして頼んだ方が良かったかも。

 とにかく、


「や、やられた・・・。」


 私は膝をついてガックリと項垂れるのだった。










 今日は晴天。

 絶好の空の散歩日和でございます。

 王女たちに協力すると決めた次の日、早速私たちは出陣する。

 え?早すぎないかって?

 いや、善は急げって言うでしょ?

 それに元々他国に渡る準備をしていた私たちは準備万端だったんですよ。

 出発してなかったのは単にノワールの説得に難航していたわけで・・・。

 でも、今回のことでノワールも堂々と連れて行けることになった。

 というわけで、旅の一般人の格好から戦闘スタイルになっただけでもう出発できてしまうのである。

 早すぎる私たちの行動に王女様たち一行は目が点。

 いや、自分たちの国が制圧されてるかもしれないから早い方がいいでしょ?


「皆のもの!ついにりょこ、戦いの日がやって来た!気を引き締めなさい!それでは出発よ!」


 私はみんなに士気を上げるように高らかに格好よく声を上げる。

 うん、王様っぽいよね!

 やっぱりこういうのは雰囲気づくりが大切だからね。

 ん?言葉がちぐはぐなのは気のせいだよ。


「いや、今陛下完璧に旅行って言おうとしましたよね?」


「ハハハ、ソンナワケナイジャナイカ。マッタクタタカイニイクトイウノニナニヲイッテ」


「片言じゃないですか!」


 失礼だな、ブランも。

 これでも真面目に戦おうとしてるんだって。

 でも初陣なんだからちょっとぐらい興奮するのは仕方ないでしょ。

 え?そういうことじゃないって?


「我も久方ぶりの実戦で血が滾るぞ!」


「ノワールって実戦経験があるの?」


 ノワールに実戦経験があってもおかしくはないんだけど、神がつくったノワールはどこのだれと戦ったんだろう?


「そうであるな。まあ遥か昔、我が肉体があった頃の話ではあるが・・・。」


「え?」


 後半は小さくてよく聞こえなかったんだけどノワールがなんだか懐かしそうな顔になったので、まあノワールにも色々あるだろうとあまり追及はしなかった。

 それよりも今はワイバーンとの戦いだからね!

 剣術はノワールたちにまるで歯が立ちそうにないけど、私の得意分野は魔法だ。

 今日は思いっきり攻撃魔法を撃てるし、私の実力も分かるだろう。

 色々創造魔法で対策も考えてきたしそれの実験もしてみたいしね。

 結構威力はあると思うんだけど、生きていて抵抗する相手にどれだけ通じるかは分からない。

 だから私もちょっとドキドキなのだ。

 まあいざとなったらドラゴンたちに任せることになると思うけど。

 私がちらりと隣を見れば、翡翠の背にそわそわして乗っている王女が見える。

 ・・・王女を乗せるだけでも大変だったな。

 私はそのときのことを思い出して遠い目になる。

 小鹿のようにプルプル震えて自分に「大丈夫!あなたはやればできる子でしょ?やるのよ、やるのよリリアーヌ!根性を見せるのよ!」と拳を握りしめながら言い聞かせているのはちょっと驚いた。

 ・・・きっと彼女なりに頑張っているのだろう。

 ちなみに私は朱凰に乗ってます。

 もちろんノワールは柘榴に、ブランは琥珀にそれぞれ乗っている。

 この国の全てのドラゴンが出撃するのだ。

 あ、いや、珊瑚は留守番だけど。

 ローレットたち王女の従者は修理した彼らの船でシェルフィート王国に向かう。

 青蘭には彼らについているように頼んだ。

 ちょっと不満そうだったけど。

 帰ったら美味しいものでも食べさせてあげるから我慢して欲しい。

 そしてようやく私たちは出発する。


「さあ、行きましょうか!」


 私の合図でドラゴンたちが一斉に飛び立つ。

 目指すはシェルフィート王国だ!

花梨「やっと他国に出発だね!」

ブラン「我が主は楽しそうだな。それほどまでに他国に行きたかったのか?」

花梨「もちろんよ!やっぱり異世界に来たんだから私は異世界旅行をしたいの!」

ブラン「しかし、今回は戦いに行くのだぞ?そんなに旅行気分でよいのか?」

花梨「だってさー、この国ってなんもなくて誰もいないしつまらないんだよ。せっかくだから異世界の暮らしぶりをみたり、他の種族にも会ってみたり・・・」

ブラン「つまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまら・・・。」

花梨「わー!ごめんブラン、私が悪かった!だからお願いだから戻ってきてー!」

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