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救助要請と王女の決意

 私は食後の後、リリアーヌ王女を会談できる場所に連れていき、そこで話を聞くことになった。

 ブランは私の護衛に後ろに立っていて、ノワールは王女の連れを見張っている。

 リリアーヌ王女はローレットという従者の人を一人だけ連れてきただけだった。


「では、話を伺いましょう。」


 私が切り出すと王女は少し緊張したような表情になったが、意を決したように話始めた。


「はい。お会いした時も申しましたが、私はシェルフィート王国の王女です。そして今、シェルフィート王国はワイバーンの群れに襲われています。私たちはワイバーンから逃げてきたのです。」


「「ワイバーン!?」」


 王女が悲痛な顔で頷く。

 ワイバーンってあれだよね?

 あのファンタジーに出てくる竜もどきみたいなやつ。

 あれの群れに襲われたのか・・・。

 やっぱり強いのかな?


「群れというのはどのくらいなのですか?」


「ざっと五十体はいたかと。」


 王女の答えに絶句する私とブラン。

 そんなにたくさんいるんだ。

 一体でも厄介なワイバーンがそんな数いたら、たしかにひとたまりもないかもしれない。


「馬鹿な。ワイバーンがそんなに群れをつくるなど聞いたことがないぞ。」


 ブランが驚いたような声を出す。

 すると王女はブランに頷いて


「はい。ですからこれはワイバーンを操り王国を乗っ取ろうとする者たちの仕業なのです。」


 また驚く私たち。

 王国を乗っ取る?

 クーデターかなにか?

 ワイバーンを操るってどうやって?

 色々な疑問が頭を駆け巡る。


「詳しいことは私にも分かりません。私は王国が襲われた時魔法学校にいたのです。そして城が何者かに制圧されたと聞いて。助けに行きたいと思いましたがそれも許されず、先生の指示に従ってこうして逃げてきたのです。」


 王女は辛そうに拳を握りしめながら話をする。

 そうだったんだ。

 だからこんなところに王女がいたんだね。

 確かに助けたくても王女一人じゃなにもできないし、わざわざ周りも認めたりしないだろう。


「ですがなぜこの国に来たのでしょう?逃げてきたと言っても、ここに国があることは知らなかったはずでは?」


 ブランが私の言葉にはっとした表情になり、怪訝な目を王女たちに向ける。

 私たち三人とドラゴンたち以外、この国の存在を知っているはずがない。

 でも王女はここにきた。

 それはなぜなのか。


「実はこの国にたどり着いたのは、全くの偶然だったのです。城の外にいた人たちはそれぞれ散り散りに逃げ、私たちは船で逃げたのですがワイバーンの追っ手がきて、それで・・・」


 王女が思い出したように腕を抱えて震えだす。

 よっぽど恐い思いをしたのだろう。

 後ろで聞いていたローレットが


「ワイバーンをなんとかまこうと考えた私たちは危険を承知でシーサーペントが住む近海まで逃げようとしました。ワイバーンは自分より格上の相手にあまり近づこうとしませんから。」


 ああ、なるほど。

 それでこんなところまで来たのか。

 珊瑚に見つかるか見つからないか一か八かのかけだったわけなんだ。

 結局見つかったわけだけど。

 でも結果的にこの国を見つけることになったのは不幸中の幸いだったと言えるかもね。


「どうかお願いします。シェルフィート王国を助けてください。勝手なお願いだと分かっています。ですがどうか。」


 王女が必死な声で頭を下げてくるけど、私たちはその様子に少し戸惑ってしまう。


「あなた方が頼んでいるのはドラゴンを出動させて欲しいということか?」


 ブランが厳しい声で尋ねる。

 その声に王女はビクリと体を震わせて顔を伏せる。


「そ、それは・・・。」


「ドラゴンなしで我々に戦えと言っているわけではないのでしょう?私たちがドラゴンに乗っているのを見て利用できると考えた。違いますか?」


「り、利用なんて・・・。」


 王女が慌てたようにおろおろする。

 ブランがなんか恐い・・・。


「あなた方はどれだけドラゴンが貴重な存在か分かっているのですか?それに相手は五十体のワイバーン。いくらドラゴンが格上だとしても多勢に無勢。勝てる保証などない。そんな危険をおかしてまで我々に戦えと?」


 王女がブランの言葉になにも言い返せず黙って泣きそうな顔になる。

 私も黙って考えてみる。

 確かに凄く危険だしワイバーンがどれくらいの強さか分からない以上、勝てる保証はない。

 でもべつに私の護衛を残さなくていいし、いざとなったら私だって行くけどね?

 けどもしかしたら五十体以上いるかもしれないんだよね。


「とりあえず、そちらの事情は分かりました。もう少し私たちだけで話し合いたいので時間を頂けませんか?」


「は、はい・・・。」


 あまり私たちの反応が良くなくて可能性が低いと思ったのか王女はあまり顔色がよくない。

 ローレットも難しい顔だ。

 それでもあまり言いさがるわけではなくそのまま与えられた部屋に戻って行った。


「ブラン。ノワールを呼んできてくれる?あとドラゴンたちも。みんなで話したいの。」


「承知しました。」


 ブランが出て行った後私はしばらく一人で考える。

 さーて、どうしたものかな?
















「なるほど、そのような事情が・・・。」


 ブランがノワールたちを連れてきてくれたのでみんなに王女たちの事情を話すと、ノワールは納得したように頷いた。


「なぜここまで来れたのか不思議だったのだ。この国の存在を知っていたのかと思ったが、そういう理由なら納得だ。」


「そうだね。それでどうするかみんなの意見を聞きたいんだけど。」


 私がそうみんなに自分の意見を尋ねると


「私は反対です。危険すぎます。相手の戦力が分からない以上、勝てる保証はありません。第一、同盟を結んでいるわけでもない国を助けるなんて普通、他の国でもないことです。」


「我はよいと思うぞ。これから他国へ行くところだったのだ。旅ついでに助けるのも問題ないだろう。それに、その方法なら堂々とドラゴンに乗っても問題あるまい。」


「それは、そうかもしれないが・・・。」


 ブランがノワールの発言に眉をひそめる。

 ノワール、なんて大胆な考えなんだ!さすがだね!


「ブランは考えすぎなのだ。例えワイバーンが何百匹いようともドラゴンの相手にはならんし、第一、我が主は無敵だ。それこそドラゴンが束になっても勝てないくらいにな。心配する要素はどこにもない。」


「「・・・。」」


 自信満々なノワールに絶句する私とブラン。

 いやいやいや、いつから私はそんな無敵になったの!?

 というかどこからそんな自信がくるんだよ!

 私はノワールの言葉に思わず頭を抱えてしまう。


「ちょ、ちょっと待とうか、ノワールくん。君の中で一体私はどうなっているの?え?」


「我が主は、我が主だが?」


「そういうことじゃない!」


 ノワールのきょとんとした「なに言ってるんだ」みたいな様子に頭が痛くなる。

 ブランも心なしか疲れているような表情で私に哀れみの顔を向けてきた。

 うう、その顔が逆になにげに傷つくんですけど・・・。


『まあ、なんにせよ、俺たちがいるのに負けることはねえよ。』


『そうですね。ワイバーンぐらい何万匹いようとも問題ありません。』


 朱凰と青蘭がソファーの上でくつろぎながらなんてことないように言う。

 というか、何百匹から何万匹になってるし。

 そんな姿で言われても説得力がないんですけど。

 しかもワイバーンって王女様の話からすると強いんじゃないの?


「大丈夫よ。ワイバーンぐらいなら花梨でも軽く倒せるわ。攻撃魔法を適当に当てとけば撃墜するわよ。」


「そ、そうなの?」


 翡翠がそんなこと言うからワイバーンってホントはそんなに強くない?って思い始めてしまう。

 ううん、みんながそこまでいうならワイバーンと戦ってみるのもいいのかもしれない。

 今の自分たちの実力を測るいい機会にもなるかも。

 私はみんなの意見をふまえて考えてみる。


「それじゃあ、他国とつながりができるいい機会かもしれないし総出で助けにいこうか。私も魔法の実践練習をしてみたいし。ブランとノワールも力試しをしたいでしょ?もしもの時はドラゴンたちに任せるということで。異論はある?」


 私がみんなに尋ねると、誰も異論はないようだった。

 反対すると思っていたブランも助けにいくことに賛成した。


「どうせ私が反対しても陛下は行かれるのでしょう?でしたらこそこそついてこられるよりも、隣にいて頂いた方が安心です。そのかわり、私かノワールから離れないでくださいね。」


「わ、分かった。」


 ハ、ハ、ハ・・・。

 本当にブランは私のことがよく分かっていらっしゃる。

 しかも相変わらずの心配症。

 ちょっとはノワールのことを見習ってほしいね。

 いや、あそこまでなくてはいいけど。


「まあ見ておれ。ブランもすぐに我が主の偉大さに気づくだろう。我やブランから守られるようなお方ではないのだ。」


 ノワールがなぜか得意げにそう言う。

 もうあれはいいです。放置なんです。私はもう知りません。

 私が深いため息をつくと、ブランも苦笑いをした。

 ・・・さて、この人たちは放っておいて、助けに行くことが決まったことを王女たちに伝えにでも行こうかな?














「それは本当ですか!」


 私が早速王女を訪ねて協力することに決まったと伝えると、王女は嬉しそうに声をあげた。


「ええ、本当です。私も含め三人とドラゴン五体で向かいます。」


「女王陛下も戦われるのですか!?」


 私まで戦うと聞いて王女が驚いたように聞き返す。

 ローレットも驚きの表情だ。


「もちろんです。私が行かなければ二人で戦わなくてはいけませんから。私にとってたった二人の仲間ですし、二人だけで戦わせるようなことはしたくないんです。」


 これは私の本心。

 私たちは三人しかいないし、もう二人はこの世界での家族みたいなものだからね。


「・・・本当に申し訳ありません。私たちの事情に巻き込んでしまって。そして本当に感謝しています。ありがとうございます。」


 王女は苦しそうに顔を歪め、泣きそうになるのをこらえながら深々と頭を下げた。

 後ろに控えていたローレットも頭を下げた。


「心配なさらないでください。これは私たちが決めたことなので。それで王女殿下はこれからどうなさるのですか?」


 私が苦笑しながら、ずっと頭を下げ続けている王女に問いかけると彼女ははっとしたように顔を上げ


「私も一緒に戦わせてください!」


「なるほど・・・は?」


 私は王女の言葉が理解できず思わずポカンとした顔になってしまう。

 なに言っているのかな、この王女様は。


「な、なにを仰っているのですか姫様!」


 一瞬固まったローレットも王女がなにを言っているのか分かって慌てだす。

 王女はローレットに顔を向けると真っ直ぐ見つめて


「女王陛下自らがシェルフィートのために戦ってくださると仰っているのです。王女の私がなにもしないわけにはいきません。」


「それはそうかもしれませんが・・・。」


 王女の力強い言葉に狼狽えるローレット。

 たしかに王女の言うことは正しいかもしれないけど、王女の安全を考えればそんなことを認めるわけにはいかないのだろう。

 私としては安全なところで隠れてもらっていた方がいいんだけど。


「王女殿下、これはとても危険なことなのです。失礼ですが、王女殿下がでてこられたところで何かできるとは思えません。それに私たちはドラゴンに乗って戦うのです。巻き込まれてしまうかもしれません。」


 私が反対すると、黙って悔しそうにうつむく王女。

 気持ちは分からないでもないけどここは我慢してもらうしかない。

 それに王女が戦えるのかも疑問だ。

 だから王女には全て終わった後で事情の説明をしてもらうことにして・・・


「ですがそれでも戦いたいのです。私はお父様たちや国を見捨てて自分だけ逃げてきました。それが今でもとても苦しくて、王女として情けなくて・・・。これでも魔法は誰にも負けない自信があります!後方支援でもなんでしたら囮でも構いません。どうか私を連れて行ってください。お願いします!」


 私もローレットも何も言えずただ王女を見つめていた。

 真っ直ぐ私を見つめ、強い意思をぶつけてくるこのたくましい王女。

 最初に私に助けを求めて必死に泣きそうになりながら頭を下げていた顔ではなかった。

 その瞳は決意に満ちていて・・・。

 なんだ。王女様もそんな顔ができるんじゃん。


「・・・面白い。」


「え?」


 私はにやりと唇を引き上げる。

 王女は私の反応が理解できず不思議そうな顔をした。


「分かりました。王女殿下の同行を許しましょう。」


「あ、ありがとうございます!」


「ただし、」


 王女はとても嬉しそうな顔をしたが、私のただしという言葉にすぐに不安そうな顔になる。


「王女殿下がそのまま乗り込んでも無駄死にするだけです。ですから戦うというのなら殿下にもドラゴンにに乗っていただきます。それが私たちに同行する条件です。」


 私の言葉に王女の顔が驚きに目を見開く。

 でもこれは危険な場所に王女を連れていく最低条件。

 これを飲み込んでくれなかったら連れてはいけない。

 チャンスはあげた。

 あとは王女様しだい。


「さて、どうされますか?」


 私の楽しそうな声が静かになった部屋に響いたのだった。

花梨「いやー、なんか今回のブランは怖かったね。」

ブラン「いえいえ。必至になっている王女殿下を見てにやにやしている陛下ほどではありませんよ。陛下に気に入られた殿下がお気の毒です。」

花梨「それどういう意味!?」

ブラン「・・・。次回王女殿下はどんな決断をするんでしょうね!」

花梨「今思いっきり無視したね?私の質問に無理やり全力でスルーしたよね!」

ブラン「アア、ジカイガタノシミダー。」

花梨「いや、カタコトだし無理があると思うな。というかブランもノワールも誤魔化すの下手すぎでしょ!」


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