他国の王女とおもてなし
最初はリリアーヌ王女視点です。
やっとの思いでここまで来た私たちは、ほっと安堵の息をついた。
「姫様、ご無事ですか?お怪我はございませんか?」
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます、ローレット。それよりもお父様たちが・・・。」
「姫様。今はご自分のことをお考え下さい。ここも安全とは言い難い場所ですから。」
「・・・ええ。そうですね。」
そう。
ここの海域は近づくとシーサーペントの王が現れる場所として有名だ。
追っ手をまけたとはいえまだまだ気は抜けない。
「ですが、シーサーペントはなにもしなければ船を追い払うだけで人に危害を加えたことはありません。もしかするとこの海の向こうにシーサーペントが守っているなにかがあるかもしれないという噂です。」
「守っているもの、ですか?」
「はい。とはいえ、誰もたどり着いたことのある者はおりませんのでただの噂ですが。」
シーサーペントが守っているものの仮説。
それは神の住む場所だったり、古代の宝だったり色々な考えが伝説として語られている。
しかし今まで誰もその先を見たものはいない。
シーサーペントの姿を見れば誰もがそれを諦めてしまうのだ。
「シーサーペントを刺激しないように、向こうへ進みます。ですので姫はもう少し・・・」
「おい!あれを見ろ!」
突然外から聞こえてきた声に私とローレットはビクリと反応する。
慌ただしくなる外にだんだん嫌な予感がする。
「姫様はここでお待ち下さい。私は外の様子を見て参ります。」
ローレットが慌てた様子で外に出ていく。
私はその後ろ姿を見ていることしかできなくて、守られているだけの自分がとても情けなくなる。
ああ!どうか神よ、わたくしたちをお救いください!
私はただ神に祈ることしかできなかった。
暫くするとローレットが戻ってきた。
私は落ち着きのないローレットを見て、自然と顔が強ばる。
なにかあったのだろう。
「姫様。シーサーペントが現れました。」
「ああ、やはり!」
予想していた事態に私の心は絶望に染まる。
覚悟してここまで来たつもりだ。
だけど、心のどこかでこのままなにもなく逃げきれるのではないかと期待していた。
だって近づきすぎなければ問題ないのだ。
だが結果としてこのような状況になってしまった。
いくらシーサーペントがあまり人を襲わないと聞かされても、それは自分を安心させるためのものに違いない。
海の王者として知られるシーサーペントを前に無力な私が恐怖を覚えないはずがなかった。
私の絶望した様子を見てローレットは慌てて話を続ける。
「姫様!大丈夫です。実はシーサーペントが現れた後、ドラゴンに乗った人間が現れたのです。その者たちの話では、我々の話を聞く意思があると。その者たちにはシーサーペントさえも従っている様子でした。」
「ええ!?」
私は驚きのあまり王女にあるまじき大きな声を出してしまう。
だって、そんなこと。
ローレットは戸惑う私にその方たちのことを説明してくれた。
「・・・ポラリス王国なんて聞いたことありません。」
「ええ。ですがこれはチャンスかもしれません。」
「チャンス?」
私はローレットの言葉を理解できず首をかしげる。
「はい。シーサーペントの守る伝説の場所に住むドラゴンに乗った者たち。もしその者たちを仲間にできれば・・・。」
「ッ!」
もしそれができればお父様たちを救えるかもしれない!
それは私の都合のいい期待だと分かってはいても、その突然目の前に現れた希望にすがらずにはいられなかった。
きっとここは私の正念場。
私は心を引き締め話し合いに望む。
そしてこれが私とあの方との出会いだった。
私が外に出ると全員が心を奪われたように同じ方向を見ているのが分かった。
私も顔を上げて前を向く。
そしてそこにいたのは・・・。
「ッ!」
私は今までたくさんの美しいものを見てきた。
それは宝石や飾りだったり、庭園だったり、他国の美姫だったり。
だけどそれが一瞬でひっくり返ったような感覚がした。
目の前にいるのは堂々とした姿の美しく青い竜。
その上に乗るのは一人の女性。
それはこの世のものとは思えないほどの美しい人。
同じ女性の私でも思わず見惚れてしまうほど。
月の光のような淡く虹色にも見える不思議な銀色の長い髪。
美しく整った顔。
その瞳は金色の不思議な光を放っていて・・・。
はっ!
いけない、いけない。
見とれている場合じゃなかった。
私がここで頑張らなくちゃいけないのに。
そうすればきっと、みんな私のことを認めてくれるはず。
私は気持ちを入れ替えてその美しい人に話しをしようと試みる。
「あなた方の国に勝手に入ってしまい申し訳ありませんでした。わたくしは『シェルフィート王国』王女リリアーヌと申します。こちらに敵対の意思はありません。どうかわたくしたちの話を聞いていただけないでしょうか?」
よし、ちゃんと噛まずに言えた。
私はほっと息をつく。
本当に今日はずっと緊張してばかりだ。
ほっとしたのも束の間、私の言葉を聞いた美しい人たちはこそこそと何かを話し始めた。
も、もしかして何か気にさわるようなことでも言ったのだろうか?
私の心臓はまたばくばくと音を鳴らし始める。
私が慌てて何かフォローをしようとしたとき、
「こちらこそ王女様とは知らず失礼いたしました。私はポラリス王国女王、花梨と申します。きっと船旅でお疲れのことでしょう。たいしたおもてなしはできませんが、食事を用意いたしますので私の城にお越し頂けませんか?そちらの事情もお聞きしたいので。」
「え?・・・は、はい!ありがとうございます!」
そしてその美しい人はとても優しく微笑んだ。
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私が王女様を招待すると彼女は一瞬ポカンとした顔をしたが、すぐに了承してくれた。
最初凛々しい印象を受けたけど、なんか可愛い反応だったな。
私がそんなことを思いつつボロ船を誘導して陸に上げる。
この船に乗っているのは王女様を合わせて全員で六人。
全く、王女様が乗っているのになんでこんな少人数なんだろう?
絶対なんか複雑な事情があるやつだよ、これ。
私は少しうんざりしながら案内をする。
船から降りてポラリス王国に上陸した王女様たちはみんなまたポカンとした表情になる。
・・・うん、そうなるよね。
こんなに広い大地に王国とか言っておきながらここには本当になにもない。
はぁー。そろそろどうにかしないといけないかなぁ・・・。
「申し訳ありません。王国とは言いましてもここには三人とドラゴンが五体とシーサーペントが一体しかいないのです。ですから私たちが住む城しかないのですが、今から皆さんを城にお連れしても?」
私が動けないでいる王女様たちに話しかけ、城に行く提案をする。
本当に城しかないから拒否されたら野宿してもらうしかないんだけどね。
「あ、すみません!はい、よろしくお願いします。」
王女様がはっ!としたように返事をする。
あわあわと慌てていてとても可愛らしい。
きっとこっちが素なんだろうな。
私がうんうんと納得していると
「あ、あの。ここからどのようにお城まで向かわれるのでしょう?かなり距離があるのではないかと思うのですが。」
王女様が心配そうに質問してくる。
たしかに城に向かうと言われてもここから見えるような範囲にはないし、だからといってここには馬車もない。
・・・移動のことなんも考えてなかった。
ここに来るときはドラゴンだったし。
私は慌てて魔法を準備する。
「コ、コホン。じ、実は私しか分からない転移魔方陣が設置してあるのです。それを使って城に向かいます。」
転移魔方陣は何年か前に発明されていて、まだ珍しいものだが一般にも普及されている。
前にブランが自慢気に転移魔方陣に乗ったことを話してくれたのでそれを覚えていた。
その話から転移魔法を思いついたりする。
しかし転移魔法はこの世に存在していない。
転移魔方陣はあらかじめ設置したところに飛ぶだけであって、転移魔法のようにどこでも飛べるわけではない。
もし転移魔法のことが知れ渡ればきっとパニックになるだろう。
だってどんなに厳重な警備をしても簡単に入りこまれてしまうのだから。
というわけで、ここから城まで転移魔法を使おうと考えついたものの、それを隠すために必死考えた結果が転移魔方陣なのだった。
私頑張って考えたよね!
そして必死に誤魔化そうとする私に関心してるような呆れているような視線で見つめる二人がいたのだった。
「お口に合いましたでしょうか?」
王女様一行と転移魔法で城まで転移してきた私たちは、そのまま彼女たちを客室に案内し、急いで食事の準備を私がして、来賓用の広い食堂の準備をブランにしてもらった。ノワールには念のために王女様一行の監視を頼んだ。
別に疑っているわけじゃないんだけどね。
私もブランもこういうのに慣れていないから準備に色々おかしな点もあるかもしれないけど、それは仕方ない。
とりあえず私は珍しい料理で誤魔化そうと、天ぷらや煮物、ちらし寿司などこの世界にはなさそうな和食を用意した。
なんとこの城には米まであったんですよ。
ブランは見たことがないって言ってたからこの世界で普及しているわけではなさそうだけど。
きっとかーちゃんが向こうから持ってきたんだろう。
今度栽培とか考えてみようかな?
と、色々慌ただし準備を終えた私たちは王女様たちを食事に招き今に至る。
ちなみに私が働くわけにもいかないのでブランに食事を運んだりしてもらっている。
一応、私女王だからね。
おそらく見たことのない食事を楽しんでいた王女様が私の質問を聞いて顔をほころばせる。
「はい!どの料理もはじめてのものばかりですが、とても美味しいです!」
さっきまでの硬い表情がなくなり、とても可愛らしい笑顔を向ける。
その様子に私も思わず笑顔がこぼれる。
「それは良かったです。今まで人を招いたことがなくどのようにおもてなしをすればよいか分からず至らない点があったでしょうが、」
「そ、そんなことありません!とてもよくして頂いてこんなに美味しいお料理まで。本当にありがとうございました。」
「ふふ。そうですか。ご満足頂けたようでなによりです。」
そして最後に運ばれてきたデザートは私の自信作、プリン。
この世界のデザートは果物がほとんどで、あっても果物を凍らすぐらい。
お菓子や甘いものに目のない私にはそれが我慢できないのだ。
元の世界では趣味でお菓子をよく作っていた。
その知識を生かし、私は城で色々なお菓子を作ってストックしている。
このプリンもその一つ。
時々ブランとノワールがつまみ食いをするけど残ってて良かった。
「こちらの料理はなんですか?」
王女様がプリンを不思議そうに見ている。
「これはプリンという甘いお菓子です。デザートにと思いまして。どうぞお召し上がりください。」
王女様はスプーンでプリンをすくうと「わっ!柔らかい・・・」という可愛い反応をして恐る恐る口に運ぶ。
「ッ!」
口に入れた瞬間、驚いたような表情になり、そして手を頬に手を当ててとろけるような表情になった。
「あ、甘い・・・。今までこんなに美味しいもの食べたことがありません。こんな食べ物があったなんて・・・。」
他の人たちも驚いきの声をあげる。
プリンは好評だったようだ。
「お気に召したようで良かったです。早速で申し訳ないのですが、食後、私の部屋にお越し頂けませんか?まだなにもお話をお聞きしておりませんので。」
「は、はい!もちろんです。」
私の言葉に王女様は少し強ばった顔になる。
せっかくリラックスしてもらえたと思ったのにな。
そんなに話しにくいことなんだろうか?
話しにくいことなら別に無理して聞かなくてもいいんだけどな。
そんなことを考えながら王女様との会談に望むのだった。
ノワール「いよいよこの城も人を招くようになったのだな。」
花梨「そうだね。ところで、私が試しに作って後で食べようと思っていたケーキなんだけど。」
ノワール「いやぁ!この城も成長したもんだ!」
花梨「いや、城は成長しないから。それよりもケーキを」
ノワール「さて、次回はリリアーヌ王女から頼みがあるらしいぞ。我が主ならばどんなことでも瞬時に解決してくれるであろう!」
花梨「いや、そんな万能じゃないから。そんなことより、」
ノワール「ア!ソウイエバ、ブランニヨウジガアルノダッタ。我が主よ、それでは失礼する!」
花梨「待てー!私のケーキ返せー!!!」




