7わ!思い出したくないような、、。
上野がろくでもないから
清水さんが他の男子生徒に告白されて
彼氏いるので、って感じじゃなくて
ちょっと悩んでる。
僕は自分の事を思い出して浸ってたけど、
考えたら、こんなこと
そんなに思い出したいようなことじゃなかった。
もう、色んなことをグダグダ考えている暇なくなった。
早く生徒会選挙の準備しないと間に合わない。
だってあと2週間だってさ。
それに秋はちょっと行事多いわ。
合唱コンクールだの文化祭だの途中に定期考査もあるから、
変な悩み方して時間をつぶしてみるとか、ぼやぼやしている暇がなくなった。
よく考えてみたらさ、心の中ではこっそり
生徒会やってみたいけど、推薦こないかなって思ってたやつもいたかもしれない。
そう思ったら、優越感でのりきれるじゃん!とりあえずせっかくだし、気負わないでやるだけやろう。
僕が候補だって聞けば絶対言われると思っていたけどやっぱり他のクラスのやつらから、
ほんとうはおまえじゃなくて〇〇が候補で、断られたから
お鉢が回ってきただけなんだぜとか色々茶々が入った。
「ふーーーーん、、、。」
って言っておいたわ、興味ねぇなそういうのっていう顔しておいた。
立候補じゃなくて推薦ってなると色々言いたいやつも絶対いると思ってたからさ。
こんな経緯だったら誰がやったって一緒だよ、お前らの言う通り。
でも、そう思っちゃうと気持ちが落ちるからね。やるなら一生懸命やるわ。
早速放課後、選挙サポートしてくれる男子数名と教室の後ろの方で打ち合わせに入った。
とりあえず佐々木に推薦者と推薦者演説の原稿頼んでおいた。
そんで僕が昨晩頑張って描いてみた選挙用ポスター、見るなり佐々木が「しょぼい!」っていう。
やっぱりそうか、、、、。
よし、これじゃダメなので餅は餅屋だ、学年トップレベルで絵の技術が卓越している松永に依頼する、
松永、快諾。
この件は完了。
最速の打ち合わせをすすめていたら、清水さんを真ん中にしてクラスの女子たちが3、4名集まって
ずいぶん盛り上がって話をしている。あれ?何だろう、いつもと様子が違うんだけど。
打ち合わせしながら何となく片耳は女子たちの会話を聞いているのは僕だけじゃないと思う。
『、、、え?まじで?』(男子の心の声だ)
清水さんがバレー部のすげぇーかっこいい1年の男子に告られた!、、、らしい。
僕も見たことあるやつだけど、あいつは確かにまじでかっこいい。
女子たちが上野なんかと別れてそっちと付き合うように興奮して促している、という集会のようだ。
いやいや、それは余計なおせわでしょ?
そんな、清水さんはあんなでも上野がすきなんだから、、、、。
うつむき気味に女子の話をずっと黙って聞いていた清水さんが急に顔を上げて発言した。
「わたし、、わたし、つきあうわ!
それで上野と別れる!」
「ええ゛っ?!」(男子全員の声だ)
僕の机のまわりで打ち合わせ中の男子、僕も含め全員が清水さんを見た。
「清水さん、、、マジ?」
一瞬の静寂の後、放課後の教室がどっと沸いた。
「いやいやいやいや、そうした方がいい!
だいたいさーー上野が悪いわーーーー!!!」
上野が今教室に居ないからって関係ない男子たちが、『そうしろ、そうしろ』と
無責任に合いの手をうっている。みんな自分に関係ないから好き勝手にわいわい言い始めた。
そこに、
「だいたい、なんなん、なんかあの名前からして、、、、。」
愛水さんの名前をいけ好かないと言いたかった様子の女子のこの言葉をさえぎって、
佐々木が
名前は親が勝手につけたもので本人とは関係ないだろ、やめろ、
と制した。
うっかりそんなことを口にしてしまった女子も、
たしかにそうだよね、ちょっと言い過ぎたわって表情でなんとなく申し訳なさそうな感じになって、
この佐々木の一言で教室にいた全員が一旦冷静になった。
そうだよね、
もうさ、
清水さん、清水さんの好きにしなよ。
部活帰りに清水さんが1年の男子のところに向かった。
今日、会ってちゃんと返事を言うつもりだったみたいだ。
そういう約束をしていたようだった。
会ってちゃんと自分の気持ちを言いに行った。
「上野くんとわかれるので、つきあってください。」
「ありがとう。」
僕と佐々木はやめろって言ったけど、クラスの女子が廊下の窓からその様子をこっそり見ていた。
(おまえら、最低だぞ!)
でも、僕からも二人が握手している様子が少しだけ見えた。
嘘みたいにさわやかだった。
たぶん、清水さんもあの1年生のこと
かっこいいからとか
上野がどうしようもないから乗り換えたとか
そういう訳じゃないんだと思う。
僕は7月の初めに斉木さんに告白した日のことを思い出していた。
クラスの男女数名と市内の水族館へ行った翌日の月曜日、
いつも通りターミナル駅まで二人で一緒に帰った。
ここから僕は徒歩で帰るし、斉木さんはバスに乗り換える。
梅雨もあけたとおもうけど、その日はスコールみたいな叩きつけるような
大雨の日だった。
アーケードが駅前からバス乗り場まで伸びていて、
大通に向かう交差点の信号前で途切れている。
僕は交差点の方へ向かうし、斉木さんは左手のバス乗り場方面に向かう。
この分岐点に赤いポストが立っていて、
僕はいつもこのポストの手前まで斉木さんの荷物を持っていて、
このポストの手前でさよならを言って荷物を渡す。
目印のポストの手前でアーケードの屋根が今日の大雨で雨漏りしている。
いつもよりちょっと手前で、
あそこまで来たら、
あのポストの手前の雨漏りの手前まで来たら、
僕は斉木さんに付き合ってっていうつもりだ。
今日は雨が激しくて、ザーザーうるさい。
今日だ、いや、今日か?
今日しかない!きょうだろ?!
心の中でいろいろまわるけど、よし、今日しかない!
「斉木さん、」
下を向いて歩いていた斉木さんが僕の顔を見上げて、そして僕の目を見た。
「斉木さん、あのさ、すきだ、だから、つきあって。」
「え?」
斉木さんが聞き返してきた。
雨がザーザーうるさい、もしかしてちゃんと聞こえてないのかもしれない。
「・・・なんて、答えればいいの?」
聞こえてる。
「え、だから、、、。」
雨が大降りになってザーザーと大きな音を立ててアーケードの屋根にバシバシあたってる。
緊張してる僕の声なんてよく聞こえてないんじゃないかと思って結構強い感じで
言ってしまった。
「だから、、!!
だから、付き合えるのかどうかってそういうこと!」
こんな感じで話すつもりじゃなかったのに。
「じゃぁ、、、。」
「じゃあ?」
「じゃぁ、お、け、で。」
「OK?」
「OK。」
「おけでいい?」
「いい。」
アーケードの雨漏りのわき、
駅前のポストの手前、
7月のはじめ、
大雨の夕方。
スコールみたいな大雨だったけど、
今日しかないわとおもったんだよね。
今日まじで最高だわ、って思った。
僕は斉木さんに告って付き合うことになった。
やっぱり今日でよかったわ。
斉木さん、ありがとう。
だいすきだ!