6わ!それって、僕じゃなくてもいい話じゃないですか?
微妙な選択肢があるとなやんじゃうし、
微妙な情報があると気持ちが揺らいじゃうし、
あいつらがどうとか、これやちゃうとあれができないとか、
でも、よく考えたらさ、
こんなのって結局悩みでもなんでもなかったわ。
「君に断る選択肢はないから、これは学年担任全員一致の意見だ。承諾して準備するように。」
担任の加藤先生から放課後教務室に来るように呼び出されての話の内容は、生徒会、副会長選挙に出るようにという指示だった。
「え"ぇぇ、、、。」
考える余地はないぞって事と、ど、どうして僕なんだよっていう事と、
あぁ、もうなんでだ。
この辺りの地域での高校でのいわゆるトップ校は、公立高校だ。偏差値も大学進学実績も全く上だ。だったら公立中学に進んで公立高校を進学先にめざすべきなのだ。
ただ、その前にだ。
中学から私学にきた僕たちなのですが、それぞれに理由もあるんですよね。
まずなんだかんだ言って一番は、僕も含めて地元の公立中学校への進学が不安だっていうこと。
なんとなく多くの学生に共通していそうな気がしている。
1年の時、放課後教室で何人かと小学校時代の話をしていたのだが、なんとない印象として男女ともに話している内容が一緒で、まぁ、学力的にあいつらと一緒は嫌だったとかそんなことで。でも、実は、その理由の根底にあるのは簡単に言うと、いじめ的なものがあったのだった。男子は男どうしてちょっと意地も見栄もあるのではっきり話さないけどそういうことなんだっていうのはよくわかった。
だから僕も転校してきたばっかりのころ結構大変だったって話でもしておいたんだ。ほんとうにそうだったし。
女子はみんな、なんでもなかったように話してくれたけど、でも。
2年でも同じクラスになった小野さんはしっかりしていて英語が得意だ。大人でみんなの面倒見もいい。でも、小学校の時に同じクラスの女子にされた出来事を聞いたときはちょっとなんかどうしていいかわからない気持ちになった。
よくあることなのだろうか。
例えば、授業で使うときに必要なものがない。
つまり物を隠されたとか。
教科書やノートがないと思ったら、女子トイレの便器の中にその全部がびりびりに破られて捨ててあったなんてことって。
入学時点では、確かに地元の中学以外の選択肢が存在するなら頑張っていってみようってってことだったのかもしれない。でも、入学してしばらくすると考え方に余裕ができてくる。公立の進学校への受験は私学から可能なのか、結構悩んでる人いると思うんだよね。
数学の笹川先生は高校生の方をメインにみている先生なのだが、特別補講の時などに授業を担当している。中2になったばかりの春に、こんな話をうっかりしてくれた。
「もし、公立受験を考えているものが居たら、遅くても中3の春には公立中学に転校しないと受験できないぞ。」
前例があるのか。それはそうだろうって思ってたけど具体的に聞けなかった。今回の笹川先生の話はクラス全員が割と興味深々だった。以前中等部に在籍していた生徒で、県一番の公立進学校への受験を決意した先輩が首席で合格し、その後都内の私立大学へ進学した話だった。どうやら最近笹川先生を訪ねて来校したようでそのことを思い出した先生が僕たちに話をしてくれたのだった。
僕もちょっと前に公立高校を受験するならどんな方法があるのだろうかと自分なりに調べてみたことがあった。この中学に3年間在籍して、そこから自主退学の形をとって受験するっていうのしかないのだと思っていたのだが、どうも聞こえが悪いし挑戦するのに抵抗があった。それに内申点ってもんがない話も気になっていた。でも、ちゃんと学校での成績は存在するわけだしどう表現されるんだろう、すごく不安だし、自主退学かぁ、、なにそれ。卒業じゃないの?どうやら中等部からの入学者は6年っていう前提で入ってくるので途中で抜けると自主退学なのだそうだ。
いやぁぁ、、。そうなのか。
でも、この話は、要するに公立中学への転校っていうことだ。私学では内申点が存在しないのでそのポイントが丸々ない状態での受験になる。3年の内申書に間に合うように転校して公立中学校の学生として高校受験に挑むというのがどうやら正しい手段のようだ。
僕はこの話を聞いてから公立高校受験に前向きな気持ちになっていた。そもそものカリキュラムが公立中学とは違うので2年まで在校すると英国数の3教科に関して僕の学校では一般の公立高校の3年生よりもちょっと進んだ内容まで終了することになる。その先輩もそういう状態で転校し、延々と入試問題を解き続けて首席合格を勝ち取ったそうだった。
大学は私学か、、。国立大に進学を希望している僕としてはちょっとそこだけ引っ掛かる。
それに私立の勉強、結構ってきついんじゃないかって思ってる。
僕は都内の公立小学校からの転校だったのだが、私学への進学事情もあっちとこっちではちょっと様子が違った。僕が在籍していた小学校ではクラスの4割弱の生徒が私立受験をして地元の中学へは進学しなかった。大学の付属校が近くにあったのでそこらへんに進学を希望していく友達も多かった。塾は大体4年生くらいから通っていて難しい問題を解いていた。受験組のやつらは頭いいなって思ってた。かなり根を詰めて勉強している様子だった。
一番仲の良かった友達も5年生になると学校以外の場所で遊ぶことなんて全くできなかった。
小学校卒業後の春休みに東京へ戻ってみんなと遊んだのだが、殆どの友達がスマホを持っていて驚いた。そこで久しぶりの鬼ごっこをすることになった。学年の卒業生可能な限り全員を呼び出し、いつも遊んでいた公園と近くの商店街までが鬼ごっこエリアに決まった。その時に結構スマホが使えた。
鬼ごっこ用にグループラインを設定してお互いにグループの電話でやり取りしなら鬼チームの状況や自分たちの捕獲された情報を報告し合い連携しながら進めていくってルールだった。
結果、かなり大掛かりな鬼ごっこになったと思う。あの日はスマホ持ってないと楽しくないなと思ったのだが、あんな規模の鬼ごっこはあれが最初で最後で、まぁ、残念だけどアイテムない状態での参加だったことは心残りだ。
この鬼ごっこがきっかけで卒業生のライングループができたようで、中学に入学後スマホを持った僕も入れてもらった。私学へ進学した友達はみんな授業がきつそうだったし、赤点取ったとか、1年の秋ごろには中3の内容をやっている学校もあって、どんなカリキュラムで進んでるのかちょっと怖いなと思っていた。
だから、僕なんてよっぽど勉強楽だしゆるくて良かったなくらいに思っていたのだ。
でも、浩介の定期テストの話聞いてるとなぁ。
これがきっかけで心が揺れた。
僕たちの学校は3学期制で、中間、期末、そして最後に中間と期末テストの範囲の学期末テスト、この3回がワンセットになって1学期分の定期考査になる。そのほか、週3回の朝テストのスコアと毎日の自宅用課題の提出物ポイントなんかで大方の成績が決まる。
浩介は前期後期の2学期制で僕たちより定期テストの回数が少ない。半分以下じゃないのか?学校生活もなんだかゆったりしているように見える。
定期テストの問題、中身を見せてもらった、、。
うわぁ、そうなのか、、。
公立中学の定期テストの内容は標準的な問題で構成されているので、何処かの私立高校の受験問題が出題されるとかそういう見たことない問題ばっかりで出題される僕らのテストより、、楽そうに見えてしまった。
もし、ぼくが今の状態で、その先輩みたいに3年生から公立中学校に入りなおしたら、どうなんだろう。
もしかしたら結構いいとこまで行けるんじゃないのかっていう妄想が時々頭の中を回っていた。
もし、
もし生徒会なんてやったら、、、。
公立高校の入試ってのはなくなるのか、、。
そもそも、生徒会に立候補っていうならもっと適任がいるじゃないか。
3組の永井和幸とかさ、
あ、そうか。
永井は年明け神奈川に転校するんだもんな。
僕たちの学校の生徒会は中等部と高等部が一緒になって運営している。中等部からは副会長を1名選任して組織運営に加わる。仕事の内容は中等部の意見をまとめて報告することと生徒会の決定事項を通達すること。まぁ、副会長っていったって運営は高等部の学生中心なので下っ端なんだ。
何するわけでもない。
でも生徒会なんだからさ、そこそこ重要なポジションだよね。
僕の名前が上がったらまた何か言われるな、、。
そういう意味でも本来生徒会の副会長をやるなら適任は永井だ。
でも永井は年明け親の仕事の関係で転校することになったと聞いた。
永井とは同じクラスになったこともなくて、そんなに近い存在じゃないけど、あいつはフレンドリーでみんなにあたりがよくて大人で頭もいい。それにクラスを引っ張る力もあるし、そういうところはさすがに伝わる。
転校の話でもなければ、加藤先生からの話って永井だったんだろうな。
多分僕じゃない。