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5わ!ぼくら2年より1年の方がなんか、おとなだ。

僕らの方がガキっぽい。


10月の最初の週、中等部の3年と高等部の2年が修学旅行でいなくなる。引率で教員の数か減るのでこの1週間は自習が多く最後の金曜日は、1年、2年は課外授業で市の水族館へ行く。


水の生き物好きの僕は年間パスを持っているのでたまに水族館へ出かけて時間を潰す。でもよく考えてみたら7月の始めごろクラスの数人と斉木さんと一緒にいったのが最後で久々の来館だ。


僕たちの学校でも、少子化の影響で年々入学者数が減っている。一学年上の3年生の生徒数は2年より1割近く多く男子も元気だが、僕らの学年はちょっとおとなしい学生が多くて、更に今年の1年生は2年と3年ほどの差はないが10名ほど少ない。


その代わり今年の一年生は僕ら2年に比べて仲もいいし、色んな意味で活発だ。



そんなこんなで、いつもは温厚でベテランの笹川先生が1年には激昂している。




学生の質がどんどん悪くなっているといって嘆いらっしゃる、ほんとに申し訳ないと思っています。

更に、今年に入ってから機嫌がよくない先生は2年の授業中にも、昔のこの学校の生徒は数学教科が得意なものが多くてそれが君たちの先輩が築いてきた歴史だというのに、君たちの代でそれを終わらすつもりか?!と何かにつけておっしゃるので、僕たちのクラスの女子たちは笹川先生について今年の春から大変反抗的だ。笹川先生は数学担当なのだが、先週も何か先生の発言で腹を立てた女子生徒4名が授業中に次々を席を立ち、トイレだとか保健室に行かせてくださいなど言って結局授業に戻らなかった、という授業ボイコットをやった。というわけでみんな反抗期だ。


別に1年のせいで僕たちにとばっちりが来たってわけじゃなくて、まぁ、2年も2年でいろいろ問題はあるんだよね。




ところで1年の活発さはこの水族館の課外授業で発揮された。


僕らの学年でこの時点で公にリア充が確認されているのはせいぜい上野と清水さん夫婦くらいなのだが、いや、色々言われるのが恥ずかしいとか晒し者になるのが嫌だっていう理由でお付き合いみんなに秘密の人たちもいるから未確認ってだけで、でもただ、1年の様子は全然違った。


2年のクラス担任で中等部と高等部の英語を担当している教員3年目、まだ若くてちょっと兄貴的な存在の松山先生が、2年ではなく1年生の間を大股で縫って歩きながら何やら大きな声で注意喚起を促している。



「ほらぁ、そこっ! 手をつないで歩かないように!」


「えーー!」

「やだーーー。」


がやついている。松山先生の通ったところだけがやついていた。


一年のリア充率が高すぎるようだ。まわりをよく見たら何組も何組も手をつないで歩く男女がいた。


おぉ、1年?!ちょっとなんだよ、やるなぁ。


水族館に来たので気分もリラックスして自然と手と手をつないで歩き始めた彼らを同じ学年の誰もからかうとか、咎めるとか、なにかやじるとか、そんな幼いことはしない。


ただ、そのまま、そっとしておくだけだ。


そういう雰囲気が一年にはあるようだ。なんか大人だよね。


ナチュラルに水族館を楽しんでいる二人の空間に割って入るのは松山先生だけだ。松山先生が見えなくなるとまた1年生たちはお互いが想う相手のもとへ向かって寄り添って館内の魚たちを楽しそうに眺めていた。


僕は休み時間、2年の廊下で、男子生徒と女子生徒たちがお互いに「この学校の生徒はブスばっかりだ!」と言ってなじりあっている普段の2年生のことを思い出してしまった。女子は同学年の頼りない男子生徒より中等部や高等部の先輩を見学に行っている。男子生徒は地元の中学の女の子の方が可愛いからってそっちと付き合ってたりする。僕らの方が学年が上だというのに、もしかすると、もうちょっと1年のこの自然な雰囲気を参考にした方がいいのかもしれない。


館内を見学してこれから学校へ戻る。レポートを書いて提出したら今日の授業も終わる。僕は佐々木と急いで学校に戻ろうという話をしていた。実は来週末に3教科の学力模試があるからだ。とりあえずさっさと学校へ戻ってレポート出したら、帰宅して勉強時間を確保したいところだった。


佐々木と急ぎ足で学校に戻る生徒の列を追い抜いていくと、前の方に上野と清水さんが手をつないで歩いていた。


「あ、上野たちだわ。」


「ほんとうだ。」


1年生の同じ学年の人たちに対しての接し方に学んだ僕らは、上野と清水さんの光景を温かく、特に触らずそのままそっとしておくということにした。声もかけずに通り抜けようと思っていた。


佐々木と二人顔を見合わせてアイコンタクトして頷き合う。なんか、ちょっと本当にあったかい気分だった。そしてお互いの目を見てくすっと笑いあった。佐々木と付き合ってるみたいでちょっと気持ち悪い。


二人に気付かないふりをして少し距離を取って追い抜こうとした。大股で佐々木とお互いの会話にでも夢中になっているようなふりをしてそちらの方は見ないで黙々と歩いた。


隣に目を遣ると上野と清水さんの真後ろに1年の女子が4名が少し距離を置いて歩いていた。


あれ、真ん中の女の子が泣いている。



愛水(アクア)さん。


そうだった、今日は1年生が一緒だったんだよな。


ねぇ、上野と清水さんの手をつないで歩く姿をどうしてそんなに至近距離で見ていたいの?


愛水さん。


そんなに近かったら、色んなものが見えちゃうし二人の様子を見なくていいものまで感じてしまうから悲しいでしょ?違うのかな。


それでも上野の少しでも近くを歩いていたいと思っている愛水さんの気持ちが、この4人を追い越す時に伝わってきてしまってちょっと胸が痛くなった。


この前、清水さんを置いて愛水さんと一緒に帰ってしまった馬鹿な上野を後ろから見守るしかなかった清水さん。上野が好きで彼女がいるとわかっているのに一生懸命追いかけている愛水さん。


上野、お前、最悪だな。



教室に戻ってさっさとレポートを書いた僕たちはかばんに荷物をまとめて帰ろうとした。今日は教室から前山が一緒についてきた。もう、前山と一緒に帰るって定番になってきた。学校に戻ってくる組の1年たちが、もう何人も僕と前山が一緒に歩いている姿を見て二度見して振り返る。きっと「え?あそこ付き合ってんの?!いや、どうだろう?」位の話だろうけど、前山が相手だからどうでもいい。


「1年って仲いいじゃん。」

「そうだったね、改めてそう思った。」


「この前も、教室でキスしているの見つかったんだよ。」

「・・・・は?」


前山の話は、まぁ、こういうことで、1年生のリア充率が高いってことと、放課後部活帰りの数名が1年の教室のドア開けたらちょうどお取込み中でキスしてるの見つかった。が、1年は特に動揺せず、こんな興味本位のゴシップを広めているのは我々2年生だってことがよくわかった。


僕も女の子とお付き合いまで行ったけど、別に一緒に帰って終わったとか、電話で話したとかそれぐらいのことで終わってしまって、ただの出来事みたいなものだったけど、どうも1年生の異性への接し方は大人で僕たちはどう見習って取り込んでいくべきなのか考えてみる余地もなくはない。


あとは、前山と一緒に帰るときに前山からこの話を聞いていて居心地が悪かったなって思ってしまったことくらいが今日の感想だった。














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