2わ!僕は塾とか行かないけど、、
前山にかまわれてる場合じゃなくなった。
友達の相談もたまには聞いてあげないと、、。
でも、僕、いいアドバイスしてやれんのかな。
僕たち中等部の玄関は大回りして外グラウンドの一番端、中体育館裏側にある。
部活終了後は高等部とは逆の方へ向かって歩いて玄関に戻って履き物を変えて帰宅。もしくは教室へ戻る。ちなみに、中等部玄関入り口は購買と学食のカフェテリアスペースがある。
高等部と共同で使用するが教室も離れているので部活終了後はどちらかと言うと中等部の連中が溜まって適当にダベっている事が多いかな。
僕も土曜の部活帰りは誰かいないかちょっとのぞいたりする。
だだだだだだだだだ、バンバンバンバンバン!
(は?)
カフェテリアのガラスの壁を勢いよく連打する音!
ヤバイ。
前山じゃないか!
前山が僕を見つけてカフェテリア側からガラス扉を両手で激しく連打し『こっちだ、私の方を向け』と手振りつきでアピールしている。
教室に戻ろうとしていたんだが、、、、。
「挽田!」
前山が勢いよくカフェテリアから飛び出してきた。
「挽田!ポッキーゲームやろ!」
「は?やだ。」(即答)
「なんで?やろ!ポッキーないからカロリーメイトでポッキーゲームやろ!」
「、、、。カロリー?」
前山はポッキーじゃサイズ不足か。この誘いの意味も訳がわからない。
彼女の目的は何なんだよ、一体!
「それがポッキーだとしてもやだね。そんな他人と至近距離で物を食い合う地獄みたいなゲーム誰がするか。そういうのは好きな人としかしたくない。」
遠回しに、いやストレートに毎日告白して(1わ!参照)僕に過度なストレスを与えてくる前山に一撃食らわせてやりたかった。
「へぇ?好きな人だったらいいんだぁ?」
「?」
前山の後ろからわらわらと数名のクラスの女子軍。
そのなかに、、、、だあぁっ、斉木さん。
「優菜だったら良いんでしょ?よかったね優菜ぁ。挽田、ポッキーゲームしたいってぇ!あはははは。」
女子達がきゃいきゃい言っている。斉木さん、ごめん。斉木さんも、僕のために嫌な思いしてるよね。
・・・・あれ?斉木さんもやだーーって、なに、楽しそうに?
「じゃあな、帰るわ!」
もう腹が立つとかって言うより悲しくなってきて、教室に戻る事をあきらめ帰宅することにした。
今日もまた前山から相当なダメージを受ける。
ぼんやり駅まで一人で歩いて学校前の駅ホームまで来たら、陸上部の山中と渡辺がいる。よぉ!っと挨拶して合流。
どうやら山中が最近の出来事でちょっと僕たちに話を聞いてもらいたい事があるらしい。乗り換えのターミナル駅で一旦下車して、構内のベンチに3人で座り、途中自販機で買ったジュース片手に話を聞く事になった。
「いや、だから別にお前の好きなようにすりゃいいじゃん。」
と言い捨てた渡辺は、最初から山中の今回の相談に全く興味がない。
「そんで結局、何なんだ?」
僕はまだ話の筋を理解していなかった。ちゃんと体を向けて山中の相談を聞いてやるつもりだ。
「今僕の行ってる塾で一緒の女の子なんだけど・・・、」
山中が言いづらそうに話し始めた。
結局、恋愛系の相談だった。元リアで実は中一の時にも2週間だけクラス女子と付き合った事のある僕は激しいからかいの対象だったが、それでも学年でわりと人気の女子2人と一応交際までこぎ着けたってことは事実だった。
陰で一部の男子生徒から恋愛マスター的な立ち位地にあると思われている僕はこのように異性との相談事、悩み事を聞く機会がなんとなく増えてしまっていた。
山中の話を要約するとこんな感じ。
同じ塾で一緒の教室の女の子から帰り道、付き合って欲しいんだけど、って言われた。だけど別にその子をそんな風に思ったこともないしなんて答えていいかわからず返事を保留してその日は別れたって事だ。
で、どうしようって訳だった。
「だから好きにすれば?」渡辺、全く興味なし。
「山中はどうなんだよ。その子好きなの?付き合いたいの?」
「いや・・・・。」
「じゃあ、友達のままでってことで話をしたらいいんじゃないの。」
「う~ん、そうだよね。なんかさ、悪いかなっておもちゃって。何て言っていいのか、わかんないなってさぁ、でも、そんなことないよね。」
断る方も色々気を遣うんだよ。
色々話を聞いて、だからって結局することは一緒だろう。
でも話し終わって山中は、よしっ!というスッキリした表情になった。
同じ塾だし今後のことも考えて今まで通り「友達」として接するということになりジュースものみ終わったので解散。
そして山中はこれから塾なんだって言って急いで電車に乗りこんだ。
何かを決断するようなことでもないのかもしれないけど誰かに話を聞いてもらってスッキリして向かいたい気持ちってあると思う。
3日後、休み時間に陸上部の渡辺が僕の体操着を借りに来た。
「ありがとう、たすかるわー。」
「全然いいよ。今日使わないからさ。」
「あ、そういえばさ、山中聞いた?あいつひどいのに捕まったよな。」
「え?」
「あ、そっか。多分山中にあったらなんか話あると思うぜ、じゃあ、サンキュー」
「お?・・・おう!」
渡辺が何の話をしようとしていたのかはその昼休みに図書室で山中に会って知ることになった。
僕は大抵、早めにお昼を済ませて、図書室で午後の授業の予習をする。
そのことを知っている山中が図書室にやってきた。
「挽田、ちょっといい?」
「おぉ、山中。なんだ?」
「別れたわ。」
「は?」
「あ、そうだ、挽田に言ってなかったね。」
山中、なんだかちょっと疲れているようだった。
「どうしたの?山中。」
本当に疲れているようだ。
「あの日、色々聞いてくれてありがとうな、挽田。結局付き合うことになってしまって、。」
「え?、、、あ、そうなんだ。」
「塾の帰りに、『友達でいよう』って言ったんだよ。」
「うん。」
僕は山中の話をゆっくり聞いていた。
「そしたらその日の夜、その子が親と一緒にうちに来たんだ。」
「えぇっ?!」
ちょっと待ってくれ、僕は激しく動揺した。
どういうことになっているのか一瞬理解できなかった。
「『うちの子に何したんだ』って言われて、向こうの親も一緒だったし、『絶対私と付き合った方がいいよ』、みたいなこと言われて、僕、怖くなってしまって、『はい。』って言ってしまったんだ。」
なんだよ、それ。展開がよくつかめない。
「・・・・・まじか。」
「まじで。」
「それでさ、翌日、もう、授業中でも一日中メールが止まらなくて。」
「えぇ?!向こうだって授業じゃないのか?」
「だよね、ヤバいんだよ。」
「ヤバいな。」
「で、その日も塾だったんだけど、塾終わったらさ、もう夜の10時近いの。なのにこれから家に来いっていうんだよね。」
「・・・・・・・・。」
「『もう別れる』って言って逃げてきたんだ。」
「向こうは了承しているのか?」
「そうは言ってないけど、もうやだよ!」
「・・・・その塾、やめることってできないの?」
「家からも近いしさ、通いやすくていい塾なんだよ。辞めたくない。」
「・・・・なんかさ、お疲れ、山中。」
「・・・・・うん、ありがとう。」
山中はちょっとぐったりしていた。
僕はなんて声をかけていいのかわからなくなった。
山中は付き合ったんじゃない。付き合わされたんだ。
僕の中学入学後の女の子との交際期間はどちらも2週間。
山中はたったの24時間だった。
以降、山中に『その件』について話を聞くことはなかったし、僕から触れることはなかった。
スッキリしたくても、誰かに話しても、解決しないこともあるかもしれない。僕たちは自分のことで精いっぱいだ。聞いてあげられてもどうしようもないことだってある。
僕は何か身につまされる思いだった。
翌日は金曜日で、学食のスペシャル定食がある日だった。僕は金曜限定10食のスペシャルマーボー丼を狙っていたのだが購入できず、毎日限定10食のオムライスは購入できた。
昨日の山中のことを思い出してしまってぼんやり食べていると、隣に座っている田川が何かを察して僕に話しかけてきた。
「挽田さぁ、おまえね、」
「なんだよ。」
田川はちょっと顎を上げて僕を見下ろし気味に言った。
「おまえねぇ、学年の女子2人と付き合ったことがあると思って調子に乗ってるのかもしれないけどさ、」
「は?なんだよそれ。そんなこと言う?」
偉そうに田川は僕に向かって話を続けた。
「おまえ、なんで付き合えたかわかってんの?」
「だから何だよ!」
田川、偉そうに。おまえに僕の何がわかんの?
「おまえ、向こうは遊びだったんだぜ。だから付き合えたんだ、わきまえろよ。」
「はっ?!」
(激しく動揺)/////////////////////////////
田川はそのまま席を立って行ってしまった。
僕はあまりのことに言葉を失って、何か田川に向かっていったような気がするけど覚えていないんだ。
僕、田川のああいうところ、大嫌いだ。