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3章 じゃじゃ馬エリー

 玄関の扉をけたたましく叩く音でヴァンは目を覚ました。

 一部屋しかないぼろくて小さな家だ。扉の音は家中に鳴り響いた。日は既に昇っているらしく、窓の外は明るい。

 ベッドから降り、欠伸をしながら玄関へ向かおうとするも、一歩足を出したところで思いとどまる。

 頭を掻いて、枕元に置いてあった剣を手に取った。

 鞘から剣を抜きながら、玄関へ忍び足で歩く。右手に剣を持って取手に左手をかける。

  息を殺して、勢いよくやかましい扉を開けた。

「なんだ、お前か」

「なんだとはなんだ」

 朝の光とともに目に飛び込んできたその姿は、ヴァンの緊張を一瞬で解いてしまった。

 そこにはヴァンより頭二つ分背の低い少女が、闘争心をむき出しにして立っていた。

 外見から推測すれば少年にしか見えないが、ヴァンはその人物が少女であることを知っていた。木剣を持った左手は腰に当て、右手の人差し指をヴァンにまっすぐ向けている。

「おい、ヴァン! 俺と手合わせしろ!」

「お前は確か……」

「エリーだ! さあヴァン、俺と手合わせしろ!」

 寝起きに浴びせられる甲高い声に耳をやられ、顔をしかめる。

 そして黙って扉を閉めた。

「貴様、逃げるつもりか! それは許さんぞ! 俺はお前が手合わせに応じるまで、此処を動かんからな!」

 ヴァンがこのじゃじゃ馬娘に出くわしてしまったのが三日前。

 どうしてあの少女が自分の家を知っているのか、ヴァンは頭をひねった。そして、此処に逃げ込んだ盗人に対し、此処が自分の家の前と言ったことを思い出した。それをエリーも聞いていたのだろう。

 こんな厄介な子どもに自宅を知られてしまうなんて、あの時思ってもみなかった。後悔しても仕方がない。

 ヴァンは再び頭を掻くと、剣を玄関近くの棚の上に置いて、代わりにそこに置いてあった木剣を手に取って再び家を出た。

「手の内を明かすのは自殺行為だと言いながら、手合わせには応じてくれるのだな?」

 エリーは意地の悪い笑みを浮かべた。じゃじゃ馬娘はヴァンの生気を吸い取ったみたいに生き生きしていた。

「応じないと、お前は永遠に俺の周りをうろつくんだろう?」

「そのつもりだ」

 何故か誇らしげなエリーと、ヴァンは距離を取った。

「俺は早く寝たいんでね、さっさと帰ってもらおうか」

「ふん! この前のようには行かぬぞ!」

 エリーは木剣を根元から先端へと指先でなぞった。一呼吸置いて精神を集中させるとヴァンの元へ突っ込んでいく。

 そして一定の距離まで近づいたところでヴァンの腹に突きを食らわせようとした。

 しかし、ヴァンはそれを読んで後ろに跳躍する。

 エリーも急いで体勢を立て直すと、下がって距離を取る。

 ヴァンは木剣を構えたままエリーの様子を伺う。

 エリーは後ろへ下がったそのままの流れを利用してすばやく低い体勢を取り、ヴァンの懐目指して走る。

 エリーの攻撃を受けるべくヴァンも低い姿勢を取った。

 すると、エリーは急に腰を上げ両手で木剣を握ると、ヴァンの頭を殴るように木剣を横に振った。

 ヴァンの頭と紙一重の距離まで迫った瞬間、エリーの木剣が音を立てて落ちた。

 ヴァンがエリーの両手首を木剣で叩いたのだ。

 エリーは息を詰めて、手首に額を擦り付けた。顔を下げて大きく息を吐きだす。痛みから逃げるように両手は空を掴んでいた。その場に立ち尽くしたまま肩で大きく呼吸をしていた。

「この前のように行ったな」

 ヴァンは冷静に、そう口にした。ヴァンにとってエリーの動きを読むのは容易いことだった。

 少し間を空けて、エリーは顔を上げると、口を開いた。

「むう……もう一度だ!」

「手合わせに応じれば此処を動くって話だったろう?」

「うう……」

「俺は寝る。帰れ」

 エリーが何も返せない間にヴァンは家の中へ入った。エリーは戸を叩くことも、家の前で騒ぐこともしなかった。

 しばらく経ってヴァンが市場へ向かおうとしたとき、もう既にエリーの姿はなかった。

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