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WONDER WORLD 2  作者: こと
8/9

番外編 炎と闇を司るもの

それは突然起こった。


私とティムは城下街にある銅像を見に、魔力を使い切ったマーリはカリルと先に宿に行くと話していた。

ティムがマーリと何か話している。マーリが何かを渡していたみたいだけど、なんだったんだろう。聞くに聞けなくて、その話はしなかった。

銅像に祈りを捧げて、宿に向かう。

宿で寝る時はゆっくり身体を休めたい。そう話をしながら宿屋に向かい、私とティムは部屋の扉を開けた。

その時だった。


『!!!』

扉を開けた途端、強い魔力が流れ出した。あまりに強い力に足がすくむ。

私達の目の前に立つそれは、真っ暗な部屋に全身を覆う黒いローブをまとい、自分の身長以上に長い大鎌を握っていた。

俯いてて顔はよく見えないけど、この魔力は間違いない。

ティムもこの魔力に気づいている。

それは顔をあげて笑うと、ローブの紐を解いて脱いだ。

「こんばんは」

藍と青の混ざった癖のある髪、濃く赤い瞳、いつものローブとマントを身につけている。

その顔は何度も見ている。

「ルト」

真っ暗な部屋の中で、ルトが大鎌を握って微笑している。

狙いは私なのかどうか分からない。

「また私を狙いに来たの?」

ルトと目が合うと術にかかるのは知っている。

でも、目が合っても何も無いっていう事は術にかかってないはず。

それにしても、今までのルトとは違う雰囲気と殺気を感じる。

ルトは目を細めて笑うと、考えたふりをする。

「そうですね………強いて言えば、レイナさんを怒らせに、ですかね」

言っている意味が分からない。

挑発にはのらない、そう言おうとしてルトを睨みつけようとした瞬間、どこから叫び声が聞こえた。

その声を聞いた私は、ルトと対峙しているのにも関わらず背を向けて部屋を飛び出した。

「姉さん!」

ようやくティムの声を理解したけど、私は隣の部屋の扉を叩いた。

私達より先に宿に着いていて、そこにいるのは知っている。

あの声はカリルだ。

扉を開けると、そこは宿屋の部屋はなかった。

紫と黒を混ぜたような暗い空間に、蝋燭の炎だけがともしてある。恐らくルトの結界の中だろう。

目の前には、黒い鎖で縛られて気を失っているマーリが横たわっている。

そして、カリルは目の前のものを見て、目を疑い立ちつくしている。

いつも落ち着いていているカリルが、恐怖に怯えて涙を流している。

「カリル…?」

カリルの視線の先には、女の子が立っていた。

歳は私より下くらいで、薄い紫の短い髪。生成の簡素なローブを着ているが、胸元…心臓の辺りだけ血が滲んで赤く染まっていた。

「マーリ!カリル!」

私のすぐ後にティムも駆けつけ、この状況にを見て驚いている。

少女が虚ろな表情で、一歩一歩カリルに近づいている。

カリルは何も出来ずに身体を震わせ、身体を曲げてうずくまった。

カリルが小さく声を漏らす。

「ル、キア……」

「ルキア?」

誰だか分からないけど、その子はカリルとよく似ていた。

私は何かの気配を感じた。カリルの真下には黒い魔法陣が浮かび上がり、そこから黒い鎖が現れるとマーリと同じようにカリルを縛りつける。

「カリル!!」

私はカリルに近づいて確かめる。気を失っているだけだ。

私は女の子の方を向くと、女の子は紫色の霧に包まれていた。霧が人の形に変わって消えていくと、そこにはさっきまで隣の部屋にいたルトが立っていた。

「カリルに何をしたの!?」

あの感じは、私が闇の精霊シェイドの術にかかった時と似ている。

恐らく、私が思っている以上にルトの闇の力は強い。

「幻術ですよ」

ルトは私を挑発している。今ここで、冷静さを失ったらいけない。

「魔力の弱まった水竜を押さえつけるのは簡単ですし、レイナさん同様、闇を抱えるカリルさんも術にかかりやすい」

殺気や魔力が突き刺さるくらい感じるのに、ルトは微笑している。

本当にルトの狙いが分からない。

「さて、本題です。僕と勝負をしませんか?」

「はあ?」

「前に言いませんでしたか?僕は貴方に興味があります。有翼人の翼は隠してますが、戦ってみたくなりました」

ルトはどこかで私達を見ていたのだろう。デッドの街の出来事を見てなかったら、私が有翼人だった事も知らないはずだ。

「もちろん、貴方を操る事はしません」

さっきから何度も目が合ってるけど、何も起こらない。これは本当だろう。

けど、今まで感じた事が無い力に、私は震える身体を抑えるのがやっとだった。

これは勝負じゃない、ルトは本当に私を殺すつもりだ。

「…分かった」

私は肩のベルトを外してショルダープレートとマントを外した。

ルトの殺気は本物だ。一つ間違えれば殺される。

「ティムは手を出さないで」

「分かった」

ティムもルトに警戒している。ティムも分かってたと思う。

私は胸に手をあてて特殊な言葉を発動させた。

「隠された真実よ」

その言葉に反応して私の背中は淡く光り、隠されていた純白の翼が現れた。

腰に挿している剣の鞘を抜いて両手で構える。白銀の刃が輝いている。

「ああ、本気を出さないと…僕は貴方を殺しますよ!」

ルトが右手の指を鳴らすと、空間をともしていた蝋燭の炎が燃え上がり、辺りを赤く染める。

「炎…」

火系魔法は使えるようになったけど、あの事故がまだ頭から離れない。

少しでも意識を炎に移したのが間違いだった。

ルトは大鎌を両手で構え直して、瞬く間に私に襲いかかってきた。

「速い!」

物が重く大きいと動きも大きくなり鈍くなるけど、ルトの動きは速い。戦い慣れている。

私は咄嗟に剣で攻撃を防いで、翼を広げて飛翔した。

間合いをとって態勢を整えなきゃ。私は呪文を唱えて発動させた。

「フリーズダスト!」

私の周りに氷の球が生まれて分散すると、細かい氷の粒が風に乗って舞い、凍える吹雪が炎を包んだ。

この熱さは幻術じゃないはず。けど、吹雪は炎をすり抜けて消えてしまった。

「氷が消えた…?」

「僕の術は形が有り、形が無いもの。簡単には消せませんよ」

ルトも飛空魔法で宙に浮かび上がり、間合いをつめて大鎌を振り上げる。

私は素早く呪文を唱えて、剣を構え直した。

「フリーズウインドブレード!」

剣が青白く輝くと刃は氷に覆われ、氷のつぶてと衝撃波でルトの刃を弾いた。

マーリの剣だから水の属性に強い。アレンジは成功した。

刃と刃がぶつかり合う。間近で見ると、ルトは殺気のこもった瞳で笑っている。大鎌も、まるでショートソードのように軽く振り回している。

さっきから攻撃をかわしたり、避けるのが精一杯だ。もっと強力な魔法じゃないと、ルトに攻撃出来ない。

「光は闇の中に、闇は光の中に…聖光より暗き闇光よ……ダークレイ!!」

私の頭上に黒い球体が幾つも浮かび上がり、金属がぶつかるような音を発している。

黒い球体から、細い光が放射状に広がる。

「!!!」

網目のように交差する黒い光線はルトを囲み、逃げ場を無くす。

「ぐっ!!」

直撃しなかったけど、動きは止めた。

今のうちだ。

「混沌と静寂に住まうものよ。汝、母なる大地より生まれ、時の流れに封じられし刃…闇の名において交わりを命じる…ダークウェイヴブレードッ!!」

私は意識を集中して呪文を唱えた。

一度だけ、ルトの結界にひびをいれた魔法。これで終わらせる。

力を増した剣から青黒い波動が流れ、私は構え直して飛翔するとルトに切りかかる。

「有翼人は光の魔法を使うのに、貴方は闇の魔法を使う。興味深いですね」

ルトは怯まず笑いながら、大鎌を振り回して私の剣を受け止めた。

青黒い光の刃と大鎌の刃が擦れあって音をたてている。

「レイナさんは光魔法を使わないのですか?」

「そんな事、関係ないでしょ!」

「そうですか。ああ…僕はまだ力を出していませんよ」

「えっ…?」

ルトが本気を出していない?

高等魔法を使っても、まだルトは本気を出していない。

私は柄を握りしめて力を込める。このまま大鎌を砕こうとした。

その時、ルトの目つきが変わる。

「それと、僕の属性は闇だけじゃないですよ」

その一言でやっと気づいた。

空間の周りの炎は魔法で消せないのに熱は感じる。

ルトは火の属性も持っている。

私の考えに気づいたルトが笑う。

魔法剣の威力が消えかかる前に、剣を引いて態勢を立て直そうとした。

けど、遅かった。

「ダークフレア」

私が火の魔法石を使って発動した高等魔術を、ルトは詠唱呪文無しで発動した。

「!!」

その瞬間、結界の周りの炎が紅く輝いて、幾つもの巨大な炎が私の背中を直撃した。

「があぁぁーーーっ!!!」

全身に激しい痛みと熱が襲いかかる。衣服は燃えて、翼は焦げるのが分かる。力が入らない。

剣は私の手から落ちて、その場に落下した。

「ぐ……っ…」

うずくまったまま小さく呪文を唱えて傷を回復した。魔力の消耗は激しいけど、まだ戦える。

けど、私は動かなかった。いや、動く事が出来なかった。

私の喉元には大鎌の刃が光っている。

「がっ………!!!」

ルトは私の背中を踏みつけ、片手で私の翼を掴んだ。更に激しい痛みが襲う。

「…これで終わりですか」

手足、顔、何か一つでも動かしたら殺される。

ルトは多分、表情を変えずに笑っている。

「そうだ、ゲームをしましょう。ティムさん、今から一回だけ僕に攻撃してください。僕にかすり傷でもつけばレイナさんは放しましょう。ただし、僕にかすり傷でもつかなかったら………」

私は視線だけでティムを見た。

ティムは何もしていない。いや、炎とルトの力を前に何もする事が出来なかったんだ。

明らかにルトはティムを挑発している。

ティムの力がどれくらいか分からない。高等魔法か何かを召喚しないと、ルトに傷はつけられないだろう。


炎が勢いよく燃えている。


それまで黙っていたティムが、意を決したようにルトを睨みつけて口を開いた。

「…分かった」

ティムは髪を掻きあげて左耳を撫でると、呪文を唱え始めた。

「赤き戒め廻り、天を旋回する白い光よ。今…水と時の契約により我は命ずる。瞬く緋炎(ひえん)よ…燃え上がれ」

ティムは乱れる息を整えながら詠唱している。

聞いた事の無い呪文。何か精霊でも召喚するんだろうか。

ルトも何もせずに見ているだけのようだ。


周りの炎の流れが変わり始めた。


「僕の魔力を打ち消すものを発動させるみたいですね…」

ルトの表情が変わった。

ルトとは違う魔力が空間を覆いはじめる。

再び、ルトが詠唱無しで魔法を発動させた。

「フリーズスピアッ!」

ルトの周りに幾つもの細い氷の刃が生まれ、無防備のティムを狙う。

今から結界を張っても間に合わない。

氷の刃がティムに直撃する瞬間、空間の周りの炎がティムの目の前に集まり、巨大な炎の塊が生まれた。

炎の塊によって、氷の刃は簡単に蒸発してしまう。

巨大な炎の塊から、懐かしい声が聞こえた。

「その汚い足をどけろ!」

私がその声に気づい時には、炎の塊から何かが飛び出した。

「!!」

ルトは身を翻して、その場を離れた。

全身の痛みに耐えながら起き上がろうとすると、私の目の前に誰かが立っている。

金のように輝く綺麗な髪、身軽そうな黒い腹に左耳に光る蒼翡翠色のイヤリング。

何故、そこにいるのか分からない。

驚いて声をあげようとする前に、ルトが口を開いた。

「神竜スーマ…」

「スーマ…実体化してる…」

一度死んだ人間が、蘇生魔法無しで実体化するなんて考えられない。

炎を纏ったスーマは、あの頃と変わらない顔で立っている。

「レイナ、立てるか?全く…魔力を使い果たすまでこの俺を召喚するなんてな。マーリ、お前、俺のピアスをレイナの妹に渡したな?」

マーリ?

スーマの言葉を聞いて、私は立ち上がり振り返った。

そこには、気を失って倒れているティムと、それを抱きかかえるマーリがいた。腕と手には、無理矢理鎖を壊した跡がある。

血が流れているにも関わらず、マーリはスーマに答えて笑った。

「ああ、ティムの力を増幅させようと考えたのは正しかった」

「こいつも強くなるな」

スーマはティムを見つめて優しく笑うと、思い出したようにルトの方を振り返った。

「…素晴らしい。レイナさんもティムさんも侮れませんね」

ルトは大鎌を握りしめて微笑しているけど、さっきまでの余裕が少し消えているように見えた。

少なからず、スーマの魔力に警戒しているように見えた。

「ルト、跪かせてやるよ」

そう言うと、スーマは私達の視界から消えた。

その瞬間、スーマはルトの目の前に現れた。

『!!!』

私は目を疑った。速い!

いつの間にかルトの真下には真紅の魔法陣が浮かび上がっている。

スーマが笑う。

「サラマンドラ!」

スーマが手をかざすと、魔法陣が強く光り、魔法陣から炎の渦が巻き起こった。炎の渦が螺旋を描いてルトを包み、激しく燃える。

炎の中、ルトの姿も見えないし声も聞こえない。

スーマは様子を見ずに、次の言葉を発動させた。

「いけ、ウィスプ!」

突然、天井に巨大な光の魔法陣が浮かび上がり、奇怪な音が響き渡る。

スーマの背後には、半実体化した光の精霊ウィスプが立っている。

「…光の精霊を詠唱無しで召喚した…?」

信じられない。

二度も精霊を詠唱無しで召喚した。

スーマの魔力と精神力はどこまで強いのか分からない。

「これがスーマの力…」

ルトの様子を見ないで次々に攻撃している。

乱れた呼吸を整えたマーリが動揺しながら口を開いた。

「水竜と精竜士、称号を二つ持つのは俺と兄貴だけ。そして、兄貴の称号を知るのは俺だけ…」

冷や汗を流しながら息を飲む。

「光の裁きだ」

スーマの言葉とともに、天井に描かれた魔法陣から雷が流れ、槍のように降り注ぐ。

降り注ぐ雷と噴き出す炎に、私はただ見ている事しか出来なかった。

「兄貴の称号は…」

マーリが言うよりも先にスーマが口角を上げて笑った。

瞬神(しゅんしん)

瞬神スーマ。

今まで見た事の無いスーマがいる。

光と炎の魔法陣が消えると、そこにはマントや服が焼け破れ、全身に血を流しているルトがいた。大鎌は消えて無くなっている。

「はぁ……はぁぁ…ぁ…」

足元がおぼつかない様子のルトは、ふらふらしている。

やがて、立つ事もできなくなったルトはその場に膝と手をついた。

スーマが最初に言った、跪く形。

スーマはルトに近づくと見下して睨みつけた。

「このまま消してやろうか?」

「………」

ルトは何も答えない。

答える事が出来なかった。

今まで感じた事の無い強大な魔力に見ているのがやっとだった。

周りの空間に亀裂が走り、炎が消えると結界が壊れて元の部屋に戻っていく。

ルトは口から血を吐いても微笑していた。

「…いいえ、時は…巡るも、の…。ここで、滅び、るわけには、いきません…」

その時、ルトの身体が闇に包まれていく。

闇に包まれていく中、ルトは震える身体を堪えて立ち上がった。

「…また、来世…」

そう呟くと、ルトの身体は闇とともに消えていった。

終わったのかな。

安心して大きな息を吐こうとした時に思い返した。

「ティム!」

私は振り返ってティムを見た。

「大丈夫、気を失ってるだけだ」

マーリの代わりにティムを抱きかかえて確かめた。

ティムの左耳に見慣れないピアスがついてる。

「このピアス、見た事ない…」

「ああ、それは俺が兄貴からもらったやつだ。そのピアスには兄貴の魔力がこめられている。それを媒体にして、兄貴を召喚したんだろう。俺の読みは間違いなかった」

「俺を召喚する事が出来たなら、ティムには時の属性が備わってるかもしれないな…」

そうか、さっきマーリがティムに渡したのはピアスだったんだ。

ティムは以前、ラグマの魔法によって時空の狭間に転移されている。

その時に何かあったのかもしれない。

ふと、私はスーマの足元を見た。炎を纏ったスーマの身体が消えかけている。

「スーマの身体が…」

「ああ、ティムの魔力の限界だろう」

「兄貴…」

「マーリ」

足、胴体と消えかかる中、スーマが思い出したようにマーリの顔を見た。

スーマはティムの顔を見て苦笑する。

「お前、俺と似たな」

ん?

スーマが何を言っているか分からない。けど、マーリの顔を見ると、動揺して視線を反らしてしまった。

「ば、馬鹿な事言うなよっ!」

「そういう事にしてやるよ、じゃあな………」

面白がって笑うスーマは、目を閉じると炎と風に包まれると消えてしまった。

「お前らより先に宿に着いたら、いきなり襲われて、カリルはルトの幻術にかかったんだ」

結界が壊れてルトが消えたおかげで、カリルを縛りつけていた黒い鎖も消えていた。

「ルトは一体、何者なんだろう…?」

「さあな、気づいたら城にいたし、前から何を考えてるか分からなかったからな」

マーリは床に倒れているカリルの腕を持って自分の背に乗せると、ベットに運んだ。

私も気を失っているティムを隣の部屋に運ぼうとした。

「…俺が運んでやる。お前もボロボロだろうが」

ルトとの戦いで魔力の消費も激しかったし、傷の回復も殆どしてなかった。

マーリも魔力を使い切っているのに、妙に優しい。


ルトの最後の言葉が耳に残る。


「また来世」


何を言っているか分からないけど、考えると頭が痛くなる。私はマーリに向かって言う。

「マーリ、とりあえず明日にしよう」

「…そうだな」

マーリも苦笑して答えた。



幻精郷に行けば分かるかもしれない。

少しずつ真実に近づいてるのかもしれない。

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