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WONDER WORLD 2  作者: こと
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第五章 白い翼と黒き心

レイナ達は、強い魔力を頼りに北を目指して歩いていた。

野宿を繰り返して四日後、港町フォールに近いラタンの町に到着した。

食料の調達や情報収集の為に町で休もうと話し合っていた時、背後から女性が声をかける。

「あの、レイナさんですか?」

「は…」

レイナが振り向いて答えようとした瞬間、三人の表情が一変する。

しかし、すぐに落ち着くと様子を伺うように答えた。

「…はい、そうです」

「少しお話があるのですが…宜しいでしょうか?」

黒く長い髪、青色の服を纏う女性も様子を伺っているようにも見える。

白く華奢な腕には古い傷痕が目立っている。

「分かりました」


四人は町で一番見晴らしが良い高台に移動した。

マーリは高台の塀に座り、カリルは柱に身体を預けて二人が話しだすのを待っている。

「話はなんですか?」

「はい、まずはこれを見てください」

女性が目を閉じて『特殊な言葉』を呟く。

「清らかな翼、隠された真実よ」

言葉を鍵に、女性の背中は淡く光り、背中から白い翼が姿を現した。

それを見た三人は驚きを隠しきれなかった。

「有翼人!?」

「こいつも…」

女性は苦笑すると改めて頭を下げる。

「私はミスンと申します。最初に私を見て驚きましたよね?……無理もありません。私はマリスの分身なのです…」

ミスンと名乗る女性は俯いて、躊躇いがちに話しだした。

『!!!』

「てめぇ!!どういう事だっ!?」

それまで警戒しながら座っていたマーリは立ち上がり、敵意をあらわにして叫んだ。レイナとカリルも険しい表情でミスンを見つめている。

しかし、ミスンからは敵意を感じなかった。

「どこからお話しましょう…。マリスは元はルマという名前で、私とマリスは二人で一人だったのです。それが五百年前、翼狩が起こり…彼は白い翼をもぎ取られました」

「待ってください、マリスも元は白い翼を生やしていたのですか?」

話の途中で、今度はカリルが止めた。

マリスは普通の有翼人には見られない漆黒の翼を生やしている。

「はい。その時、ラグマが彼を誘い、彼は悪魔の力と漆黒の翼を受け取ったのです」

ミスンはマーリやカリルの反応を見つつ、冷静に答えている。恐らく、信じてもらえないと思っていたのだろう。

「彼はマリスと名乗り、ラグマの配下となりました。…その時から身体と精神を引き離され、…突然、存在した私もミスンと名乗るようになりました」

「もしも、それを信じるとして、なんでそれを知っているんだ?」

マーリは半信半疑で問いかけた。ミスンの言動一つで攻撃しかねない体勢だ。

「翼狩以前の出来事は私も覚えています。が、それ以降は…夢で、ルトという人が教えてくれました」

『ルト!?』

「あの野郎、何を考えてやがる…」

三人は驚き、マーリは舌打ちをして小さく呟いた。

声を荒らげることはないが、怒りが込み上げている。

「ミスンさん、それを聞いて驚かなかったのですか?」

カリルの問いに、ミスンは首を横に振った。

「最初は私も驚きました。しかし、頻繁に胸騒ぎが起こるので、何かは感じていました。……レイナさん、マリスを探して…いえ、彼に会うまで私を連れていってください!」

ミスンは悲痛な声で頭を下げた。

緊張か罪悪感なのかは分からないが、彼女の身体は震えている。

「私達もどこに向かえばいいか分かりません。ただ、北の方から大きな魔力を感じているだけなんです…」

「北?ここから北だとデッドの街かもしれません。私も大きな魔力を感じています」

「分かりました。先ずはデッドに向かいましょう」

レイナの言葉に三人は頷くと、準備のために町に戻った。

町を離れた四人は北を目指し始める。


二日後。

デッドを目指していた四人は、至る所で盗賊や魔物に襲われていた。

村や町では襲われる事は少なかったが、人気の無い森の中では襲われないことのほうが少なかった。

森の中で竜の姿に戻ったマーリが咆哮している。

「どういう事だーー!!!」

十人以上の魔族や盗賊、黒ずくめの魔導師たちが、四人の周りを囲っていた。

「ずっと戦いっぱなしですね…」

「人間にはあまり攻撃できませんね」

カリルとミスンは攻撃を避けながら、魔法で魔獣や腐敗した死霊を倒していく。

マーリは口から氷の光線を吐いて、威嚇したり魔物を氷漬けにしている。魔獣や死霊は次々に倒れ、残った盗賊や魔導師を目の前に、レイナは剣を抜いて一瞬にして峰打ちにした。

「やっと終わったか?」

人間の姿に変身したマーリは周囲を見回して溜息を吐く。

しかし、気を失って倒れている盗賊達の後ろで、実体化していない精霊のようなものが立っていた。

長い髪、首には片翼の宝石の首飾りを身につけているそれは、白くぼんやりと佇んでいる。

白い精霊の姿を見てレイナ達は驚いた。

「ポルクス?」

ミスンはそれを見て驚き、それはミスンの姿に驚いている。

「…?主ト同ジ波動ヲ感ジル…」

「あの話し方は、精霊!?」

「見ているんでしょう?マリス!出てきなさい!」

ミスンは上空を見回し声を張り上げた。

ミスンの言葉に気づいて、三人はマリスの気配を探す。少なくともこの近くにいる。

風が吹いて木々が揺れる。新緑の葉が揺れて、舞うようにゆらゆら落ちる。

その瞬間、レイナ達の背後から魔法の弾が撃たれた。

『!!!』

魔法の弾は地面に衝突して爆発する。

辺り一面は煙で覆われ、視界が遮断される。

「お前が俺を探しているやつか。大人しく逃げていれば死なずにすんだものを…」

ゆっくりと煙が引くと、レイナ達の目の前にはマリスが姿を見せた。

気を失ってる盗賊達の姿はなく、ポルクスと呼ばれた精霊がいた。

「いいえ、貴方が今までにしてきた事を許すわけにはいきません」

マリスは無言で威圧して笑うと、両手を前に出して構えて青く光る魔法球を作り出した。

魔法球は両手から離れ、ミスンに向かって加速する。

しかし、ミスンは何もせずにマリスを睨みつけている。

その時、ミスンの目の前で魔法球が水飛沫に変わり消えてしまう。

「何?」

「魔法が…消えた?」

不思議な魔法の変わり方に、レイナ達もマリスも驚いた。

レイナがミスンに近づく。

「私も加勢します」

「レイナさん、これは私とマリスの問題です」

ミスンが上空に向かって叫んだ時から違和感があった。

ミスンの両手には何かが握られている。目を凝らして見ると、透明な針金が握られていたのだ。針金は木々に刺さり、マリスの周りを囲うように張り巡らされている。

「魔力でできた針金か。なら…ポルクス!行け!」

マリスが叫ぶと、ポルクスは風のように針金をすり抜けて、ミスンに襲いかかろうとする。

「カストル」

ミスンが呟くと、左腕にはめられている腕輪が輝いて宝石の中からポルクスに似た白い精霊が飛び出した。

「カストル、ポルクスを押さえつけて」

「ハイ」

カストルと呼ばれた精霊は、針金をすり抜けてポルクスを掴むと空へと昇っていく。

「精霊同士なら物理的な接触も可能なのでしょうか…?」

「分からない。でも、何か嫌な予感がする」

「あんな精霊…初めて見たぜ」

様子を伺っているレイナ達は、見たこともない現状に驚くばかりだった。

「カストル、アノ人モ我ラノ主ナノカ?ドチラガ本当ノ主ダ?」

「ポルクス、アノ方モ主。共ニ我ラノ主ダ…我ラモ空ニ戻ロウ」

ポルクスとカストルは手を取り合い、螺旋を描くように舞うと消えていってしまう。

「精霊達は知っているのね。マリス…もうこんなことは止めなさい」

「うるさい!!そんなに早死にしたいのか?!」

ミスンは針金を解いて、一歩一歩とマリスに近づいていく。

怒りをあらわにして睨みつけるマリスは、虚空から魔法を作り出して攻撃しようとした。

「闇の門よ…」

突然、ミスンが呟いた言葉に、マリスの身体は操られたように動かなくなってしまう。

「何だ…これは…?身体が動かない…」

「鏡の中に潜む影、時に迷う悪しき天使よ…」

『白い翼と黒き心を抱く者を』

ミスンが呪文のように続けている言葉にマリスの声が重なる。

マリスは汗を流して抵抗しているが、口は無理矢理動いていた。

「何…あの言葉?」

「分かりません。ですが、彼女はマリスに何かすると思います」

レイナとカリルが話している後ろでは、マーリが機嫌の悪そうな顔で警戒していた。

ミスンとマリスの言葉は続き、二人の翼が淡く光りだす。

『神と魔の名において我らを誘え、我らが進む道は永く果てない闇』

ミスンはマリスに近づくと、小さく呟いてマリスに抱きついた。

「バニシングヴァース」

その時、ミスンから目も開けていられない程の光りが輝き、レイナ達は思わず目を閉じてしまう。

すぐに光りは消え、レイナ達の目の前には額から汗を流しているマリスだけが立っている。

そこにミスンの姿はなかった。

マリスは翼を広げ激しく呼吸を繰り返すと、胸を掴み苦痛に耐えるようにもがいている。

突然、マリスの背中に生えている漆黒の翼が抜け落ちて、苦痛に耐えながらマリス自身も愕然とした。

「…はぁ…ぁ………ぁ…く、来るな……あ、ああぁぁぁぁぁぁっ!!」

頭を抱えて叫び続けるマリスの前に歪みが生じ、時空の狭間に消えていってしまう。

何が起こったか分からない三人は唖然としている。

その沈黙を破るように、どこからか拍手が聞こえる。

「いつ見ても不思議な光景ですね」

拍手が聞こえる方を振り返ると、木の下にルトが立っていた。

「ルト!」

「てめぇ、何を考えてる!?」

カリルとマーリはレイナの前に立った。ルトに近づけばレイナが襲われると思ったからだ。

「……それは言えません。それより、もう遅いんじゃないですか?」

ルトの視線に違和感がある。

カリルとマーリが後ろを向くと、レイナは目を見開いて立ちすくんでいた。

「最初に僕と目が合ったからいけないんですよ…レイナさん」

ルトは最初からレイナと目が合っていたのだった。

ルトの言葉を聞いたレイナは、意識が薄れ苦しそうに何度も瞬きをしている。

「レイナさん、僕の目を見てください…。このままゆっくり眠ればいいんですよ…」

何かに捕われたように視線を外すことが出来ず、激しい睡魔に襲われたレイナはその場に座り込んでしまった。

『レイナ!?』

カリルとマーリの言葉にも反応せず、レイナは動かない。

「本当に術にかかりやすい人ですね…しか、し…」

ルトの言葉が止まった。

レイナから呻く声が聞こえる。

眠ったと思っていたレイナが右手で何かを握っている。

右足のブーツの溝の隙間から針を出すと、自らの右足を刺していたのだ。

「ぐ………!!」

「僕の術を破りましたか…」

レイナは針を抜いて、流れる血を気にせず立ち上がった。

「…私は負けない!」

レイナは剣の鞘を抜いて、両手で構えた。

カリルとマーリは危険を察知して避け、カリルは気づかないうちに呪文を唱える。カリルが小さく呟くと、レイナの右足の傷口が淡く光り、傷が治っていく。

ルトは余裕の笑みを浮かべながら、魔法で結界を作りだした。

「混沌と静寂に住まうものよ、汝、母なる大地より生まれ、時の流れに封じられし刃…」

レイナは静かに目を閉じて呪文を唱える。

「呪文の長い高等魔法は、時に命取りになりますよ」

それを見たルトは笑いながら虚空から幾つもの魔法球を生みだし、レイナに襲いかかる。

しかし、魔法球はレイナにぶつかる前に、レイナが握っている剣に吸収されて消えてしまう。

「剣が魔法を吸収…した!?」

ルトは驚いて表情を変えた。

レイナの呪文は続く。

「闇の名において交わりを命じる…ダークウェイブブレード!!」

レイナの剣から青黒い波動が流れ、剣を構え直すと跳躍してルトに切りかかった。

ルトの周りに張られた結界はレイナの攻撃を受け止める。

「魔力の相乗効果ですか…でも…」

青黒い光の刃と結界が擦れあい、激しい音をたてている。

「並の魔力では僕の結界は破れません……よ…!?」

ルトの結界に亀裂が入り、綻び始める。

ルトの余裕が消えた。

表情を歪めてレイナを睨みつけると、瞬時にして消えていってしまう。

ルトが消えると、集中力がきれたのかレイナは剣を捨ててそのまま倒れてしまう。

「はぁ…はぁぁ…」

『レイナ!!』

「うん、大丈、夫……だ、よ……」

呼吸を整えて懸命に立ち上がり笑顔を作ったが、立ち上がる前にその場に膝をついてしまう。

「大丈夫じゃありません!結界を壊すほどの魔力を使って…」

カリルとマーリは慌ててレイナに駆け寄り、肩を抱いてレイナを立たせて身体を支える。

「ごめん……でも、早くデッドの街に行かないと…」

「…カリル、この近くに町はあるか?レイナがこんなんじゃ野宿は避けた方がいいな」

「フォールかクーアが近いでしょう」

「よし、行くか」

レイナの言葉を無視して、二人は話している。

「あ、あの…二人とも?」

レイナは自分の身体のことも心配だったが、自分を無視して話す二人にあたふたしていた。

無茶をするレイナは野宿をしてでも北に向かうだろう。それを知っていた上で、二人は休息をとらなきゃいけないと判断したのだろう。

「マリスやルトの行動を阻止しなくてはいけませんね」

「残りの精霊も見つけなきゃな」

三人はゆっくりと北に向かう。



これから起こることを知らずに。

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