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WONDER WORLD 2  作者: こと
2/9

第二章 再会の音色

港町フォール。

行商人の交通手段として栄えている町だが、港に停泊している船の帆は上がっていなかった。

町に訪れたレイナとカリルは、辺りの様子を探りながら町の宿へ向かっている。

「港町なのに風が吹いていない…」

「これがシルフの影響なのかな?」

「それも考えられますね」

宿に到着して扉を開けると、大勢の人の手拍子と、心地良いハープの音色、それに合わさるようにパイプオルガンの音色が聞こえる。

立って見ている人も多く、誰が演奏しているのは見えなかった。

やがて、演奏が終わると、人々は大きな拍手と声援を送った。

「綺麗な音ですね」

「うん」

二人は二階に続く階段付近の席に座る。見ていた人も空いている席に座り始め、またそれぞれの時間を過ごし始める。

演奏していた場所が見えたと思っていた時には、一人の女性がレイナに近づいていた。

「レイナさん…ですか?」

黄金色のゆるく巻いた髪、澄んだ濃い翠の瞳の女性は、守るように両手でハープを抱えている。

彼女がハープを演奏していたのだろう。

「はい。じゃあ、貴方がアーヴァさんですね?」

レイナ立ち上がって笑顔を見せた。

レイナは旅をしながら、町などから依頼を受けて生計をたてていた。

ハープを持ったアーヴァはレイナ達と同じ席に座り、自分の膝の上にハープを置いた。

「私は歌いながら旅をしているアーヴァといいます。最近、理由もなく盗賊に襲われるようになり困っています。そこで、東のクーアの町までの護衛をお願いしたいのです」

「クーア…確かにあの周辺は治安が悪くて盗賊も多いですね」

レイナは壁に貼ってある地図を指差しながら答えた。

フォールからクーアは小高い山と森に囲まれ、距離は短いが到着するには三日はかかるだろう。

「本当に盗賊に襲われる理由はありませんか?」

「よく分からないのですが、盗賊は私の持っているハープが目当てのようなのです。このハープは我が家に代々伝わるハープで、特殊な魔力が備わっています…」

「分かりました。僕達が引き受けます」

「カリル!?」

それまで黙っていたカリルが、レイナより先に答える。

レイナがそれに驚いたのは、仕事を決めるのはいつもレイナだったからだ。

戸惑うレイナにカリルは耳打ちをする。

「確かに、あのハープから強い魔力を感じます。少し様子を見まし…」

「アーヴァさーん!」

レイナ達が座っている席の頭上から、声が聞こえる。

二階に続く階段から、少女が笑顔で手を振っていた。軽やかに階段を降りると空いている椅子に座る。

「この人達が護衛をお願いする人?」

淡紅色の長い髪は耳より高い位置で二つに結び、翡翠の服と腰に巻く薄い布がゆらゆらと揺れている。

「初めまして、レイナ=ドルティーネです」

「…レイナ。もしかしたら…レイナ様ですかっ!?」

リズムをとりながら足を動かしていた少女は、レイナの名前を聞くと驚いた顔でレイナを見て勢い良く立ち上がった。

三人も驚いていたが、そこにいた人達も大きな音に驚いて一瞬だけ少女を見た。

少女の瞳は潤み、震える身体を堪えレイナの前で跪いた。

「レイナ様…やっと、やっと……お会いできました…」

彼女の声は震えていた。

「あたくしは…大天使にお仕えしていたフィアといいます…」

少し落ち着いたのか、フィアと名乗る少女は頬を伝う涙を拭うとレイナの顔を見て微笑んだ。

「大天使…お母さんに仕えていた…」

大天使ユルディス。

有翼人の中で最も強く美しく、幻精郷の中でも彼女を知らない人はいない人物であり。ロティルとの戦いの中で実の母親だと知った人だった。

「ああ…大天使にそっくり…」

フィアは立ち上がり、さっきまで見せなかった優しい表情でレイナを見つめている。

フィアは立ち上がると辺りを見回した。

「…ところで、ティム様はどちらにいらっしゃいますか?」

「それが……」

レイナは、今までに起きた出来事をフィアに話した。

スーマと旅をしたこと、ロティルが自分を狙っていたこと、ティムが騙されてどこかに消えてしまったこと、レイナは話せることを全てを話した。

「そうだったんですか…。ティム様も、スーマ様も…」

話を聞いたフィアは、悔しさと悲しさが混ざったような顔で俯いている。

「フィアさんは、スーマの事を知っているのですか?」

カリルは疑問を抱いた。

カリル自身はは有翼人だが、大天使に仕えていた彼女が竜族のスーマの存在を知っているのが不思議に思ったからだ。

「はい。あたくしは、聖魔戦争の後、大天使からスーマ様を救出する命を受けました」

三人の空気は重く深くなっていたが、何かに気づく。

先にそれに気づいたのは、フィアだった。

「あっ!!アーヴァさん、今まで言わなくてごめんなさい!!…驚いたよね?」

それまで黙っていたアーヴァは、何かを見つけたように目を輝かせてにこにこ笑っていた。

「………素敵。そう、それ!!まだ見ぬ伝説の話、もっと聞いていたいくらい!」

アーヴァは気分が高揚して熱く語り拳を震わせる。伝承歌や伝説を歌い旅をする彼女にはとても興味深い話だった。

「是非、話を聞かせて下さい。フィア、こういう時はついていくんでしょう?」

アーヴァはレイナの顔を見ると頷いてから立ち上がる。隣に座るフィアの顔を見て問いかけた。

「はい。レイナ様、あたくしは…そのスーマ様まで手にかけた男が許せません!一時ですが御一緒させてください」

レイナとカリルは頷くと椅子から立ち上がり、宿の外へ出て行った。



太陽が最も高い位置に差しかかる頃、レイナ達四人はフォールを出てクーアに向かっていた。

風が吹かないせいか森の中を歩いていても涼しさを感じない。森の中で四人は、二本足で立つレッサーデーモンを連れた盗賊と対峙していた。

「姉ちゃん!命は取らねぇから、そのハープをよこしな!」

盗賊のリーダーらしき男が、一歩踏み出してレッサーデーモンに合図を送る。訓練されたレッサーデーモンは高々に吠えて威嚇した。

「貴方達なんかに渡すものですか!」

アーヴァはレイナの後ろで弦を弾きながら、そっぽを向いて答える。

その態度に腹がたったのか、リーダー格の男はレッサーデーモンに合図を送り、レイナ達の周りを囲んだ。

「そのハープさえ渡せば命は助けてやるんだ!女のくせにでしゃばるんじゃねぇよっ!」

「…女のくせに?」

アーヴァは眉をひそめ、不快な表情で言葉を繰り返した。

何かを察知したフィアは、咄嗟に耳を塞いだ。

「レイナ様、カリルさん、急いで耳を塞いでください!」

レイナとカリルは意味が分からなかったが、フィアの何かに警戒している顔を見て、言われた通り耳を塞いだ。

アーヴァは弦を弾いていた指を止めて、ハープを弾き始めた。聞いたことのないような音が響き渡り、超音波のような波がレッサーデーモンを襲う。

「うおぉーーー!!な、な、何なんだ?!」

その音を聞いた盗賊達は慌てて耳を押さえ、青ざめて両膝をついてしまう。

超音波はレッサーデーモンの聴覚を狂わせ、突然、レッサーデーモンの身体は紅蓮の炎に包まれしまう。やがて炎が消えると、そこには焦げた跡だけしか残っていなかった。

アーヴァの指は止まり、それを合図にフィアが塞いだ手を離したのを見てレイナ達も手を離す。

「あのハープ…凄い」

「ええ、あのハープからとても強い力を感じました」

二人は額に汗をかきつつ、ハープの威力に驚いていた。

「私は女をどうこう言われるのが大嫌いなの!もう一度言ったら…」

アーヴァは挑発するように再び弦を弾く。

いつの間にか盗賊の一人がアーヴァの後ろに回り込み、持っていた剣を抜くとアーヴァに切りかかる。

「死ねぇーーーーっ!!」

「フリーズスピアーッッ!!」

盗賊の後ろから声と同時に、何本もの大きな氷柱が降りかかり、盗賊が持っていた剣を弾いた。

「誰だっ!?」

盗賊は驚いて後ろを振り返り、大声で叫ぶ。そこには、布で包まれた何かを持っているマーリが立っていた。

『マーリ!!』

レイナとカリルはマーリの姿に驚きの声をあげる。

「後ろから襲うなんて卑怯だな。そんなに襲いたいなら、俺が相手してやろうか?」

マーリはレイナ達に近づくと、盗賊の群れを見て笑う。

「……覚えてろよ!!」

レッサーデーモンを失った盗賊達は、睨みつけてから足早に去ってしまった。

「レイナ、カリル、やっと見つけたぜ。シルフが消滅してからお前らを探してたんだ」

マーリは敵がいないことを確認すると、振り返ってレイナとカリルの顔を見る。

「シルフが消えたのを知っているんですか?」

驚いたカリルがマーリに問いかける。あの場所にマーリはいなかった。

「有翼人は特に風の力を持っているが、竜族も風の力を持っている。レイナ、お前にこれをやるよ」

マーリは右手で抱えていた布を解いてレイナに見せた。布の隙間から青みがかった白銀の柄と刃が見えて輝いている。

「蒼流空間にあった俺の剣だ。普通の剣だと困るだろ?」

「でも…」

人間以外と戦う時に、普通の剣では歯が立たないことをレイナは気づいていた。

「水の属性だ。持っていても損にはならない」

「…ありがとう」

レイナは少し考えると剣を受け取り、腰のベルトに挿す。マーリが抱えている時は大きく感じたが、自分の腰に挿すとちょうど良い大きさに感じた。

「ところで、この二人は?」

マーリは警戒するようにアーヴァとフィアを見つめた。

二人は軽く会釈をして答えた。

「レイナさんに護衛をお願いした、アーヴァです」

「フィアです」

フィアを見たマーリは何かに疑問を抱きながら、レイナの方を見て笑った。

「またお前らについていく」

「その必要はない!!」

頭上から聞こえた声に、五人はいっせいに空を見上げた。

高い樹木の上空には、漆黒の翼を羽ばたかせたマリスがいた。

「お前らはここで死ぬんだからな!…ディープミストッ!!」

マリスは急降下しながら魔法を放つ。

マリスの両手から紫色の霧が噴き出し、五人の周りを包むと視界を遮る。

「マリスー!!姿を見せやがれっ!!」

マーリは気配を探り、空を見上げて叫ぶ。

「あれが、スーマ様を手にかけたマリス……」

マーリの言葉にフィアは過剰に反応した。今にも泣き出しそうな衝動を抑え、口唇を噛み締める。

深い霧の中、五人の視界を遮り、アーヴァは霧を晴らそうとハープの弦を弱く弾いた。

それをきっかけに、アーヴァの背後に殺気が生まれた。

マリスはアーヴァが持っているハープを奪い、アーヴァを蹴り倒した。

「きゃあぁぁぁーーーーっ!!!!」

アーヴァの悲鳴を聞いたレイナは、咄嗟に呪文を唱えた。

「風の精霊シルフよ、汝の力を変えて渦と化せ……タイフーングレイブッッ!!」

レイナの両手から放たれた風の球は、嵐のように渦を巻き、孤を描いて地面をえぐる。

霧は少しずつ晴れていくが、レイナは自分の放った魔法に驚きを隠しきれなかった。

「前と違う。…これが、シルフの影響、なの…?」

思い出したようにレイナは後ろを振り返った。そこには、気を失ったアーヴァの身体を揺らすフィアがいた。

「アーヴァさん、しっかりして!!」

五人の前に立つマリスはハープを見つめ、先端についている赤い宝石を外した。ハープはマリスの手から離れ地面に落ちてしまう。

「これが……深紅の瞳…」

赤く輝く宝石を地面に叩きつけると、欠けた宝石から熱い蒸気が噴き出して人の形に変わっていく。

透明な身体で実態化しきれない姿、灼熱のような力を激しく感じる。

それはゆっくりと瞳を開いて言葉を発した。

「我ハ火ノ精霊サラマンドラ…混沌ノ焔ヲ携エ生命ノ燈火ヲ支配スル万物ナリ。封印ヲ解ク者ヨ…何ヲ望ム?」

灼熱のような瞳と髪、エルフのような尖った耳、そして揺らめく炎のような法衣をまとっている。

マリスはサラマンドラを見て笑う。

「そこにいる奴を全て殺せ」

そう言い残すと、瞬時にどこかに消えていった。

「我ハ封印ヲ解イタ者ニ従ウ!」

サラマンドラから蒸気が噴き出し、何もない場所から幾つもの赤い魔法陣が現れる。

次々に木々に燃え移り、勢いよく燃え始める。大きな音をたてて木々が倒れていく。

「熱い…!」

「フリージング!!」

レイナは火を消そうと氷の魔法を放つも、サラマンドラの放った炎の大球にかき消されてしまう。

「効かない…」

「俺に任せろ」

マーリはレイナの前に立つと、一瞬にして竜の姿に戻り、口を開けると霧雨のような煙を吐く。

森全体に広がる煙は徐々に火を消して、黒焦げた木々が見え始める。

「ホウ、水竜が居タトハ…ダガ、コノクライデハ負ケヌ!」

サラマンドラが力を込めると、黒くなった木々が再び燃え、火の粉が激しく舞い上がる。

「マーリ、どうする!?」

「どうするって言ったって…」

マーリは翼を羽ばたかせながら唸り声をあげる。

すると、それまで様子を伺っていたフィアが立ち上がり、踊るように軽くステップを踏み出す。

「博愛と慈愛のもとに飛び立つ奇跡の鳥よ、水の輝きを今こそ我に!!……アイジック!!」

フィアが呪文を唱えると、水の球が地面に潜り噴水のように地面から吹き出した。

木々は次々に鎮火して、完全に火が消えたことを確認すると、レイナ達に向かって人差し指を立てて合図を送った。

水飛沫を浴びたサラマンドラは白い湯気を発し、苦痛に顔を歪める。

「貴様、人間デハナイナ……シカシ、コレナラドウダ?!」

サラマンドラは巨大な火の球を作りだし、フィアに目がけて叩きつけるように放つ。火の球は加速して、フィアを包み込もうとする。

反撃しようとフィアが魔法を放とうとした瞬間、何かがフィアの視界を遮った。

それは巨大な火の球を軽々と片手で受け止め、かき消してしまった。


それを見た全員が驚いた。


サラマンドラさえ、動きを止めて驚いている。

「スーマ!!」

レイナが信じられないような声で名前を叫んだ。

「久しぶりだな、レイナ。………フィア、お前も無事だったんだな…」

フィアの目の前に立つスーマは後ろを振り返り、笑顔を見せた。

「スーマ…様?」

過去に見た姿とは違い、今のスーマの姿に驚いていた。

フィアの声が、全身が震えている。

輝く金のような綺麗な髪は肩のところまで短くなり、特殊な白い法衣は、黒の装束に変わり、あの頃に見たスーマとは違っていた。

しかし、スーマの左耳に光る蒼翡翠色のイヤリングを見つけると、フィアから笑顔が零れた。

「何故、神竜ガココニイル!?滅ボサレタノデハナイノカッ?!」

「サラマンドラ、頼みがある。私の顔に免じて、ここは手を引いてくれないか?勿論、精霊が封印を解く者に従う事は知っている」

スーマは腕を組み、怯むような表情を見せずにサラマンドラを見る。

「……イクラ神竜ノ願イデモ、ソレハ聞ケナイ」

サラマンドラはスーマの目を反らしながら、言葉を漏らした。

「……………」

スーマは溜息を吐くと、両手から氷の球を生みだし、それをサラマンドラに向けて交互に投げつけた。

何かに気づいていたサラマンドラは、向かってきた二つの氷の球を簡単に避けてしまう。しかし、氷の球はサラマンドラを追跡してぶつかり爆発する。

「グワアァーーーーッッ!!」

氷の球に直撃したサラマンドラは悲鳴に近い叫び声をあげ、勢いよく蒸気が噴き出した。

「もう一度言う。私の顔に免じて、手を引いてくれないか?」

スーマの顔が笑っていない。

それは交渉ではなかった。

「…神竜、何故コンナ人間ヤ有翼人ノ為ニ動クッ!?」

「私にとって大事な者だ」

スーマは再び腕を組み、サラマンドラを睨む。

サラマンドラは怯えているようにも見える。

「…コノママデハ我ガ滅ボサレテシマウ。神竜、我ハ手ヲ引コウ…」

サラマンドラは吐き捨てるように呟くと、ゆっくりと消えていった。

「スーマッ!!」

「何故、生きているのですか?」

スーマに近づいたレイナとカリルは、込み上げる感情を堪えてスーマに問いかけた。

あの時、スーマが消えていく姿が今でも鮮明に残っている。

「お前らが心配だからな…少し見にきた」

人間の姿に戻っていたマーリは、気を失っているアーヴァを肩で抱えながらスーマに近づく。

「兄貴」

「マーリ…マリスの企みは絶対に止めろ、いいな?」

「分かった!」

フィアは震える身体を抑え、一歩一歩とスーマに近づいた。

「スーマ様、やっと、お会いできた…」

「フィア、あの時、お前が居なかったら…私は朽ち果てていたかもしれない。心から感謝する」

「そんな、あたくしは…大天使の命を受けただけです。でも、本当に良かった…」

フィアはスーマの顔を直視出来ず、俯いたまま答える。

「ずっと辛い思いをさせてしまったな」

スーマはフィアの頭を優しく撫でる。

「……っと、子供扱いしてしまったな」

少し照れつつも、スーマはフィアの顔を覗き込んだ。

フィアは堪えていたものが切れたように、大粒の涙を零して泣き出してしまう。

それを見て驚いたスーマは、肩を軽く叩いて落ち着かせようとするが、安心したフィアは更に泣き出してしまう。

「あーあ、泣かせちゃった」

レイナは驚いていたが、自分の目の前にいるスーマを見て安心したのかくすくすと笑いだした。

「ば、馬鹿な事言うな!まったく…ほら、顔をあげろ」

スーマは少しだけ動揺した様子でレイナの顔を見た後、フィアの顔を見た。

「…………はい、申し訳ありません」

フィアは涙を拭いて、顔を上げる。頬は赤くなっていた。

「今は言えないが、俺はもう人間界に現れる事は無いだろう。どうやら、時間がきたようだ…」

「…えっ?」

スーマに会えた。そんな嬉しい気持ちは長くは続かなかった。

レイナから小さな声が聞こえる。

スーマは皆から離れ、目を閉じる。

「じゃあな」

突然、柔らかい風が吹き込み、風とのようにスーマは消えていった。


クーアの町の前。

アーヴァは小さな袋をレイナに渡し、頭を下げた。

「クーアまで護衛してくれてありがとうございます。ハープは壊れちゃったけど、どこかで直してもらえる場所を探します」

アーヴァは苦笑してフィアの方を向いた。宝石は無くなってしまったが、代々伝わる大切なハープが直るなら、ハープと一緒に旅を続けたいと思っていた。

「フィア、貴方はどうするの?」

「本当はレイナ様と共にマリスを追いたいけど、誰かといると自分を見失いそうで…。一人でマリスの行動を探ります。レイナ様、失礼します」

フィアは一礼すると、また別の道に向かって走ってしまう。

「私も失礼します。本当にありがとうございます」

アーヴァもレイナ達に頭を下げると、町の中に入っていった。

「よし、じゃあ行こうか?」

レイナは大きく背伸びをすると、先程歩いてきた道へと歩き始める。

「待ってください。またフォールに戻るつもりですか?」

カリルはレイナに問いかける。

「ううん、クーアから北西に向かうとブリツっていう街があるんだけど、ちょっと行きたいんだ」

「……」

レイナの言葉を聞いて、マーリは何かを思い出して俯いてしう。

「マーリ?どうかしましたか?」

「何でもない。よし、行こうぜ!」

マーリは顔をあげて笑顔を作り、二人の前を歩いていく。

レイナとカリルは不思議に思いながら、マーリの後ろに続いて歩く。


レイナ達の周りに柔らかい風が吹いたような気がした。

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