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死なないけどアンデッドじゃありません。おっさんです。

作者: トルク

連載中の小説がエタりそうなのでリハビリがてらに書きました。



私の名前は山田太郎。


日本一有名な名前を持つ私だが至って普通のサラリーマンだ。

若き頃、ダメ上司に逆らったおかげで40を過ぎても平社員である。

かと言って窓際であるかと言えばそうではない。

こう見えて頼れる、出来る男なのだ。


同期の者は課長になるのと引き換えに頭髪を失っていく。

私はフサフサだ。


手前味噌ではあるが見た目も良いと思う。

毎年バレンタインには紙袋二つくらいは頂いている。

お返しも大変なのだが。


しかしながら私は独身である。


経済的理由に敬遠している。

同期と比べ手取りで10万円も違えばな。



そしてとある日の仕事帰り。

信号は青。

横断歩道を渡る私は華麗にドリフトをキメるトラックに。



はねられた。





気がつけば真っ白な空間。

ああ、お約束だ。

いわゆるトラック転生だな。

こう見えて私はラノベ大好きオタクなおっさん、略してオっさんなのだ。

恐らくここで神に会いチートをもらって異世界へ旅立つのだろう。

オラ、わくわくすっぞ!


『えー。山田太郎さん?』

キタ-!

神さまか?


『はい。神さまですよ~。』

お姿が見えませんが?


『神さまですからね。どこにでも居るし、どこにも居ないのです。』

はあ。

何故か金髪アロハの咥えタバコのお兄さんを幻視しました。


『いやー、なかなかダイナミックなトラック転生でしたね。10t車でドリフトとは!普通なら横転しますよね、ね!』

確かに。

見事なドリフトでしたな。


『ですよね~。』


私のトラック転生シチュエーションは神界の動画サイトで記録的視聴数を叩き出し、たくさんの「いいね」をもらっているらしい。



『さて、山田さんには説明は要りませんね!じゃチート授けまーす!ほい!』

おお!チートキター!


『山田さんに与えたチートは究極のHPと自然回復10%です。』

は?

究極のHP?


『ショボいと思ってませんか?いやコレちょーゴイスーなんですよ?とりま簡単には死にませんから(笑)』


いや、(笑)って。


『おまけで言語理解と読み書き出来るようにしときましたから。向こうに着いたらステ確認してみてね~。んじゃバイナラ、ナライバ(笑)』


バイナラってアンタ斉藤〇六か!


そして私は異世界へ旅立つのだった。




瞼を明けるとそこは。

鬱蒼と生い茂るジャングルの中であった。

暑い。

蒸し暑い!


私はネクタイをほどき訳もなく叫びたくなった。


トラック転生のはずだが?

私は以前の私のままだ。

ビジネススーツに身を固めた40代前半の独身おっさんだ。

まあ、この知識を持って赤子からやり直すのも耐え難いものがあるから良しとするか。

心なしか身体も軽く感じるし。


おっと。

神さまはステ確認しろとか言っていたな。

しかし、どうやるのだ?

念じればいいのだろうか。



名前:山田太郎

種族:ヒューム

性別:男

職業:おっさん


レベル:1


HP:1.e60

MP:5

ATK:10

DEF:3

SPD:2

LUC:100


SKL:

   自然回復10% 言語読書

  

   

・・・・?

た、たしか究極のHPとか言っていたが?

1.e60だと!

えっと?いくらだ?

うん、いっぱいだ。

たしか那由多?だったか。


そして自然回復10%。

この表示に意識を集中してみる。


自然回復10%

1秒間に最大HP、MPの10%を自然回復する


おお!チートだ!

1秒間に阿僧祇以上(1.e59)も回復するのか!

神さま、これゴイスーです。



興奮冷めやらぬ私を餌と狙う者がいた。



「グルルルル‥‥」


おや?なんか獣くさい?

恐る恐る振り返るとそこには‥‥


「ガアアアアアアー!」


黒い虎の様な獣が居りました。


獣は私に襲いかかります。

鋭い牙で噛みつきます。


あ!痛てて。

1秒ごとにチクチクが繰り返される感じだ。

獣は私の首をガジガジと噛みつく。

噛み切れないので息継ぎらしきものをするたびに口を離すが傷ひとつない。

だが、ヨダレでベトベトだ。


とりあえず死なない事は分かった。

しかしどうしよう。

私の攻撃力は10である。

おそらくだがゴミの様な戦闘力だろう。

獣が諦めるまでガジガジさせておくか?


いや、倒そう。


これまでの人生で私は血の通った生き物を殺した経験はない。

昆虫採集で生きた虫に注射をしたくらいだ。


もしこの世界が弱肉強食のハードモードであるなら命を奪う覚悟が必要だろう。


いくら究極HPと自然回復があっても絶対などあり得ないからな。


私は首にガジガジしている獣の首に上から腕をまわす。

そして獣に気づかれない程度の力で頸動脈を締める。


獣は私の首をガジガジするのに夢中だ。


暫くすると獣のガジガジが弱まってきた。

もう直に落ちる。


獣は力を失い、私は獣に押し倒された。


私は胸に挿してあったボールペンをばらす。

金属製のちょっとお高いボールペンだが仕方ない。


私は軸を抜いたボールペンを獣の頸動脈に突き立てた。

ゴミの様な戦闘力でも刺さった。

これはまさかの武器による補正か?

流石はお高いボールペンだけの事はあったな。


勢い良く吹き出る血液が私に降り注ぐ。

気持ちの良いものではない。


体感的に10分くらいだろうか。

血液の流出が少なくなった。


獣は意識を戻している様だ。

獣と目が合う。


死に向かい怯えるその目に哀れみの感情が溢れるがお前も私を食らうつもりだったのだろう?

失血死は苦しくないと聞いた事がある。

嘘か誠かは知らないが。


そして獣は眠るようにその生命活動を止めた。



パパパパーパー♪


頭に響くファンファーレ。


おっさんはレベルがあがった。


レベル1→レベル25


ふぁ?


レベルアップか。

それにしても上がりすぎではないのか?


ステータスはと。


名前:山田太郎

種族:ヒューム

性別:男

職業:おっさん


レベル:25


HP:1.e60

MP:125

ATK:150

DEF:110

SPD:80

LUC:100


SKL:

   自然回復10% 言語読書



 HPに変化はなし。

ATKはなんと15倍になっている。

通常の15倍‥‥無茶苦茶だな。


その他の数値も同様に上がっている。

まさに超人!

でもこの世界ではこれが普通なのかも知れない。

日常生活に支障はないだろうか?

私は足下の小石を拾ってみる。

手の中で弄んでみるが普段通りだ。

今度は思い切り握ってみた。


小石が粉々になりました。


これは注意が必要だな。

要トレーニング案件として心の中のtodoに登録だ。


さて、いつまでここに居ても仕方ない。

とりあえず人の住むエリアまで移動したい。

‥‥人、居るのか?




彷徨う事3日。

人の気配を感じる。

遠く岩壁が見えるそこから煙が立ち上っていた。

間違いない、人の生活している証だ。


この3日間、食事には困らなかった。

だって何食っても死なないから。

巨大化できそうなカラフルなキノコを食っても少し舌がピリピリしただけだったし。

味に関しては贅沢は言えない。

そこそこ栄養状態は維持できている。

だから顔色も良いはず。

第一印象は大事だからな。

どんなに綺麗事を並べても人は見た目で判断するものだ。

その後の会話で人となりを知るのだ。


と。

気を取り直して立ち上がる煙に向けて歩を進める。


肉眼で集落らしきものが確認できる距離で、


ヒュンー


ドンっ!とかなりの衝撃が連続して私を襲う。

衝撃の正体は矢であった。

当然、我が身に傷ひとつない。


私が突然の出来事にぼけーっとしていると集落の入口あたりの茂みから世紀末ヒャッハー的な風貌の男たちが五人現れた。


これは‥‥

どうやら山賊、もしくは野党といった類のアジト的な場所に来てしまった様だ。


「なんだぁ?てめー。」

「俺らを捕らえに来た‥‥ねぇよ!コイツ弱そうだぜ!」

「運がなかったなぁ、おっさん。」


とまあ、私を見てバカ笑いするヒャッハーたち。

射かけた矢が私に効いていない事に気づいていないのか?


「あのー、すみません。その‥‥あなたたちは?」

私は一応、彼らに問うてみる。


「俺たちかぁ?俺たちはその名も名高い『森の山賊団』だ!」

うん、普通だな。

森に住む山賊団ならそうだろ。

私の名前の如く有名な山賊団であろう。


「はあ。山賊ですか。参りましたね。」


「これからお楽しみって時におかしな奴が縄張りに入って来やがった。なあ、これはもうアレだろ?」

「ああ、アレだな!」

(死刑だ!)

そう叫ぶと男たちは一斉に私に襲いかかって来た。


しかしこの3日間でいろいろ慣れた山田

さん。

中学時代に身につけた柔道は伊達じゃない!


正面から剣で斬りつけてくる男の柄を握る手に注目。

スッと半歩進め剣を肩で受けるつもりで男の手を捕る。

そして懐に体を入れ替え、一気に腰を跳ね上げる。


ズドン!


ぐへぇ!と汚い音が男の口から発せられた。

およそ30年ぶりの柔道だがなかなかいけるではないか!


「てめえ!よくもジーンを!」


私は投げた男の手放した剣を拾って立ち上がる。

ふふ。

何を隠そう、私は剣技もいけるのだ!

幕末志士マンガを熟読しているからな!

天翔る龍が閃くぜ!


ヒャッハー2号が繰り出す槍に私は奪った剣で立ち向かう!

しかーし!

2号の突きは剣では止まらずあっけなく私の腹へ。


「とったぁ!」

「おら!死ねぇ!」

ここから先はフルボッコでした。





「はぁ、はぁ、」

「な、なんでだ!なぜ死なない!」


ヒャッハーたちは疲労困憊だ。

剣で薙ごうが槍で突こうが私に傷ひとつつけられない。


そのうちヒャッハーの一人がガクブル状態になる。


「ま、まさか!コイツ、アンデッドか!」

ム!失礼な。

私は腐ってはいないぞ!

ノーマルだ!


「ひ!」

「く、食われるのか、俺たち‥‥」

掘る(食う)かバカ者。


「そ、そうだ!アンデッドなら火に弱いはず!」

「よ、よーし!ジョニー、お前火の初級魔法が使えたな!頼む!!」

「よっしゃ、任せろ!」


ヒャッハー2号はジョニーと言うのか。

などとどうでも良い事を思っているとヒャッハー2号の周りに何やら不思議物質が集まってきている。


「火よ!矢となって我が敵を穿て、ファイヤアロー!!」

おお!

これが魔法か。

なんとも中2心をくすぐるな!

だが私ならもっとシビれる詠唱をするぞ。


万物に宿りし魔の素よ。我が求めに応え全てを焼き尽くせ、ファイヤアロー!!


とか。


なんておバカな妄想をしている間に複数の炎の矢が襲いかかり、着弾した。



「‥‥」

「‥‥‥‥」

「あ、アレ?」


口を真一文字に結び少し気まずい感じでヒャッハーたちに顔を向ける。


「ひ!」

「こ、コイツはアンデッドなんかじゃない!コイツは‥‥」

(死神だー!)


叫ぶが同時に脱兎の如く逃げ出すヒャッハーたち。

ふっ。

無益な殺生は好まないのでな。

なんて、はぁぁぁぁ!

良かったぁ!!

だってさ、人なんて簡単に殺せないでしょーが!

ふう、私のバージンは守られた!


だが私の一張羅であるビジネススーツの上着は見るも無惨に焼けてしまった!

そして戦利品は剣が1本。

これまで丸腰だったからかなり心強い。

上着を失った事でプラマイゼロだ。

むしろマイナス?


それはそうとヒャッハーども、お楽しみがどうとか言っていたな。

私は山賊団の集落に入っていく。


ここは元々、普通の集落だった様だな。

人の気配がない。

廃村なのだろう。

そこをヒャッハーどもがこれ幸いと陣取ったのか。


家屋は荒れ果て、人の住める状態ではない。

比較的まともな家屋が一軒あった。

奴らの根城だったのだろう。

私はその家に足を踏み入れる。


開け放された扉の向こうには縛られ、猿ぐつわを噛まされたー


美少女がいた。


透き通る様な白い肌に長いブロンドの髪。

そして、人とは違う長く尖った耳。


キター!

エルフキター!

おふっ!

生エルフですよ、生エルフ!


などと、心の中でおっさんが歓喜乱舞しているがもちつけ。


それにしても。

本物のエルフはなんと美しいことか。

世の権力者なら囲いたいと思わない筈がないだろう。


「あー。大丈夫かい?お嬢さん。」

私は彼女の猿ぐつわを外してやった。


「い、いや。助けて‥‥」

ん?


「え、ああ。もう山賊団は居ないから安心していいぞ?」


「お願いします、殺さないで。食べないでください‥‥」

おやぁ?

どうした?コレ。


「死神さま、何でもします。だから命だけはお救いください‥‥」


「お嬢さん、私は人間‥‥ヒュームだ。」

「う、嘘‥‥」


「ほんの少し生命力に溢れるただのヒュームだよ。」

「ほ、本当に?」


エルフの少女は怯えた瞳で私を見つめる。

そして私は彼女にこう言った。

彼女を安心させるために。




「これ以上疑うならペロペロしちゃうぞー!」

「イヤーーーーー!!」







これは『無敵』の異名を持つとある冒険者の物語である。


その名も山田太郎。


その名は現代日本を飛び越え、異世界でも誰もが知る名前となったのである。




~おしまい~

連載中の小説で筆が進めば短期連載するかも?

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かった! 続きが気になる!連載版ちょーだい
[一言] おおぉ?結構面白いですねw連載してほしいです
[良い点] この設定は面白い!能力の使いみち色々ありますし、連載したら絶対に化けますよ。 連載期待しています。
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