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2001年(3)

2001年8月13日(月)  天気:晴れのち雨 最高気温:32.5℃


暇だー。父と兄は牛の世話に行き、母はパート先の漁港の直売所へ行ってしまった。沖縄は旧盆を大切にしているので、お盆期間は平日とあまり変わらない。だから、私はひとりぼっちだ。俊の家を訪ねたが、案の定、漁に出ていた。


こっちに置いて行ったマンガでも読もうと思うが、私が使っていた部屋は母の寝室になっていた。行方不明のマンガを探すこと2時間、恐らく兄の物と思われるエロ本と一緒に、私のマンガたちが父のベッドの下で見つかる。

私は迷わずに『わたるがぴゅん!』を読み始めた。沖縄の方言が飛び交う、笑って泣ける野球マンガである。単行本58巻全部が揃っていた。確か23巻と24巻を噴出したはずだったが、母が見つけたのだろうか?


28巻を読み終わり、29巻に手を伸ばそうとした時に、父が帰って来た。玄関でカッパを脱いでいたので、タオルを持って行った。


「お兄ちゃんは?」


「子牛が産まれるかもしれないから、まだ小屋に…」


私が読んでいた『わたるがぴゅん!』を目にすると、父の表情が固まった。そして、無言のまま、家から出て行こうとする。


「どこ行くの?」


「牛小屋…」


父は、ちぐはぐにサンダルを履いて、カッパも着ずに、原付に乗って牛小屋へ向かった。雷の音が轟いていた。


入れ違いで母が帰って来る。少し乱暴な車のエンジン音ですぐにわかる。


「ただいま」


「おかえり」


「ちょっと待ってよー。今からご飯つくるさーねー」


「あっ、お母さん。このマンガの23巻と24巻どこにあったの?」


「ああ、懐かしいねー。二郎と町子がどっちから先に読むか、しょっちゅう喧嘩していたねー。どこにあったの?」


「えっ!?」


「だから、このマンガどこにあったの?」


父のベッドの下とは言えなかった。あれは見なかったことにしよう。


「ごめん、お母さん。言うの忘れていたけど、今日も飲み会に誘われたってばー」


「はあー、なんでもっと早く言わないねー。サザエの刺身を幸子おばさんからもらってきたのにー」


「ごめーん」


飲む約束などしてはいないが、今日は父のために外に出ることにしよう。


俊と保を捕まえて午前3時まで飲んでから、家へ帰った。もう、父も寝ているだろう。

しかし、家に帰ると父はまだ帰っていなかった。トイレに行くために起きて来た兄に聞くと、


「子牛が産まれるか心配だから、小屋に泊まるってさー。こんなことは初めてやっさー」


と教えてくれた。


私のせいだ。実家だからといって、好き勝手に覗いていいわけではないのだ。父に謝りたいが、謝ることもできない。


「町子、何で泣いているばー」


「お兄ちゃんにも責任あるからね!」


「何がよ?」


「知らない!」


私は布団に潜りこんだが、なかなか寝付けなかった。父のプライドをひどく傷つけてしまった。やっぱり、ちゃんと謝ろう。そう決めると、いつの間にか眠っていた。



2001年8月14日(火)  天気:雨のち晴れ 最高気温:32.3℃


夜明け前に父に蹴られて起こされる。携帯で時間を確認したら、まだ5時50分だった。2時間くらいは眠れただろうか。


「行くぞ」


父はそう言うと、家から出て、軽トラックに乗り込んだ。

私は昨日のことを謝ろうと思い、寝癖も直さずに家を出て、父が待っている軽トラックに乗り込む。父は私がドアを閉める前に、エンジンをかけて、話し出すタイミングを奪う。


てっきり子牛が産まれるところを見させてくれるのかと思っていたら、山道に入り、森深くへ進んで行く。もしかして、私は消されてしまうのだろうか?


「ここだ」


父は軽トラックを停めてエンジンを切ると、懐中電灯に灯りをつけて荷台に向かう。

私も降りて荷台のほうへ行くと、父が虫取り網と虫カゴを渡す。


「えっ!?」


「ここは二郎にも教えたことがない」


父はそう言うと、クヌギの木へ向かい懐中電灯で照らす。すると、カブトムシやクワガタが樹液を吸いに集まっていた。


「早くとれ」


「う、うん」


私は父に言われるままに、カブトムシとクワガタを捕まえて虫カゴに入れた。


「帰るぞ」


父は軽トラックに乗り込むとエンジンをかける。


私は置いて行かれないように、すばやく助手席に乗り込む。少しでも遅れると置いて行かれそうな気がした。帰り道も父は無言だった。


「子牛はまだ大丈夫なの?」


「もう少し時間がかかりそうだ」


「町子がいる間に、赤ちゃんみたいなー」


父は咳き込むと、タバコを取り出して、火をつけた。ああ、私はなんて親不孝な娘なんだ。このタイミングで「赤ちゃん」という性に関するワードを口にするなんて…。


「ごめんなさい」


おかげで、素直に謝ることができた。

家に着くまではもちろん、朝ごはんの時も父は無言を貫いた。なんだか、どっと疲れたので、私は朝ごはんを食べると、もう一度眠ることにした。

どうしてカブトムシだったのだろう? 何を伝えたかったのだろう? 自分の大切な場所を教えるから黙っておけということだろうか? わからないから、もうあれは兄の物だったということにする。あれは間違いなく兄の物だ。


夜になると、ウッチーが花火を持って、遊びにやってきた。久しぶりの手持ち花火に最初はテンションが上がったが、思っていたよりも花火がキレイに見えなかった。

私の心が東京で汚れてしまったからではない。星空があまりにも美しすぎるのだ。花火がどんなに頑張っても、星たちのキラメキには敵わない。


そして、島に住んでいる時には気付かなかったが、10分に1回の頻度で流れ星を見ることができた。こんなに素敵な場所で私は育つことができたのだ。感謝をしなくては、とにかく感謝をしよう。

ありがとう。ありがとう。ありがとう。心の中で呟くが、先に流れ星が消えてしまう。仕方ないから、流れ星に向かっておじぎを小さく3回した。恐らく間に合っていたはずである。

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