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序 章


 バシャバシャと水溜りを跳ね上げる幾人もの男たちの足音がする。

何かを追いかけるように一心不乱で走っているので水溜りの水が泥と一緒に

服の裾に跳ね上がるが男たちはまるで頓着しない。


 雨は止んでいる。水溜りや泥は未明に降った雨の名残だ。夕方になって尚、残っている。


 闇と同系色の背広と同じくサングラス。走る男たちは皆、似たような格好をしている。

そして似たような鋭い目つき。


「裏に回れ!逃がすな!」

 まだ若い男の声が響く。この中ではリーダー格に当たるのであろう。

「追い詰めたか?」


 若い男の声に、黒服の男たちは全員、頷く。視線が揃えたかのように動く。

それは獲物が逃げ込んだ場所さきだ。人通りがない行き止まりの裏道。


 そこは獲物が偶然、飛び込んだ訳ではない。そうなるように追い込み、わざわざ

追い詰めたのだ。


「連れは殺ってもいい。だが、姫君だけは絶対に殺すなよ」

 そう、殺るだけなら、こんな回りくどい方法を取らない。全て、獲物を生きて

捕らえる為だ。


 若い男の支持に全員が無言で頷き、手に拳銃が握られる。そういう職業なのだろう。

拳銃を握る手に迷いはない。

「行け!」

 男の指示で全員が一斉に動く。


「早く捕まえろ…よ。でないと雨が…また…」

 若い男は空を睨む。空は何時、降りだしてもおかしくないくらい、どんより曇っている。

雨は彼らにとっては忌避すべきものだ。だが、獲物にとっては違う。


「早く、早く…」

 まるで経を唱えるかのように何度も何度も呟く。やがて歓声が上がる。

(やったか!)

 瞬間、顔に冷たい感触が広がる。

(まずい!) 

 思った瞬間、小型爆弾でも爆発したかのような大きな爆音が響く。それは人通りがない裏道から。


 モウモウと立ち込める砂利と煙を降り出した雨がカーテンのように包み込む。

そこは獲物と狩人がいる場所だ。いや、狩人が全滅した場所だと言っていいだろう。

若い男には、すぐにそれが解った。その証拠に部下の遺体はあるが獲物の姿はない。


「目覚めやがった。ホント半端ねーなぁ」

 若い男は雨の中で、ずぶ濡れになりながらそう皮肉っぽく呟く。その双眸に浮かぶのは

獲物に逃げられた悔しさだけで、自分の部下が亡くなった悲壮感はまるでない。

 

 クラクションが鳴る。迎えの車だ。若い男は獲物がいない場所には用がないとばかりに車に飛び乗る。

「失敗だ。出せ」

 運転手に告げる。


「奴らは…?」

 それは遺体となった部下たちだ。

「全員、足は付かないゴロツキだ。放置しても問題はない」

「左様ですか」

 ほっとしたような運転手の声。彼にとって主人が無事なら、後の事は問題ないらしい。

主人も主人だが、部下も部下だ。


 後部座席から何気なく車窓を覗くとさっきよりも雨足が強くなっている。


「雨に詩えば…か」

 ぽつり、と若い男が呟く。

「何か?」


「いや、なんでもない。行ってくれ」

 言った瞬間、彼は見つける。通りに飛び込んでくる背の高い影を。いや、青年だ。彼の眉が僅かに曇る。


「お守り役の忠犬か…。何時も何時も後、一歩の所で邪魔してくれる」

 若い男は忌々しい口調で呟く。


 猛スピードで走ってくる青年と彼らの車がすれ違う。青年が車の主に気づいた様子はない。

今の青年にはそれだけの余裕はないのだ。車を背に、青年はさっきまで若い男たちがいた場所に到着する。


 到着した早々、青年は目を瞠る。そこは余りにも悲惨な状況だった。

路地裏は爆発したような痕跡が生々しく残り、一瞥しただけで生きている人間はいない。


 青年は野生の鷹を連想させるような鋭い眼を爛々と光らせ、目当ての人物を探す。

倒れている黒服の男たちの遺体など目もくれない。


 そこに青年の探している人物はいない。それは安堵すべき事なのか、

それとも更なる悲劇の始まりか青年には判断できなかった。



「水輝様!」

 悲鳴に近い声で叫ぶ。それは彼の絶対と信じる主人の名。

しかし、その声に応える声はない。


ザァァァー。


 雨は止むことなく青年を嘲笑うかのように、更に激しく降り続く…。



                            つづく











 『雨月物語〜雨に詩えば〜』は私の『小説家になろう』さんへの初投稿作品です!


 まずは、このような未熟な作品を発表させて頂く場を頂き、管理人様、関係者の皆様、本当にありがとうございます!


 何より、私の未熟な作品を最後まで読んで下さった皆様!嬉しいです!本当にありがとうございます!


 雨月は連載作品です!なるべく早く更新しますので、どうか最後までよろしくお付き合い下さい。

お願いします!


                伊藤 麻実 拝

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