ルート3 魔法
魔法使い
様々な自然の理、術式に精通し尚且つ人々にその功績を認められた者を指す。
又、魔法使いとして公認された者は国が災難に見まわれた際はそれを退ける為に最善を尽くす事とする。
「ふ~ん、なるほど。レイラって凄い魔法使いなんだね。」
「えへへ♪まぁそれ程でもないですよ♪」
レイラは魔法が使えた。元々こちらの世界には魔法と言う概念があり、俺らの世界で言うITとかネットとかのような感覚で遙か昔から存在している。それを職業に人々に役立てる為に使う事でレイラは生計を立てていた。俺が彼女の家にお世話になって早くも一週間が経過した。その間ただメシ食らいにはなりたくなかったので、レイラの仕事「魔法使い」としての仕事の手伝いをさせてもらっている。
と言ってもそんな大した事はなくて、一緒に薬草取りに行ったり街の人を治療するのに付き添ったりしてるだけだけど。
因みに倒れてた俺を小柄なレイラが家まで運んでこれたのも魔法を使ったからだ。
「身体強化魔法を使いました!これで2、300キロくらいなら平気で持ち上げられます♪」
「なるほどね!おばちゃんが一緒に住む事を許してくれた訳がよくわかったよ…。」
大の男に襲われたとしてもそれだけで充分返り討ちに出来るわな。俺も気を付けなきゃ…!
「それにしてもユースケさん!その服良く似合ってますね♪格好いいです!」
「そう?ありがとう…♪でも申し訳ないなお父さんに…。」
「いえいえ♪いいんですよ!いつまでも埃被ったままじゃダメになっちゃいますから!それにおとうさんが買ったのに着なかったのが悪いんです!」
俺はレイラに代えの服を貸してもらっていた。さすがにいつまでもワイシャツにズボンのままじゃ落ち着かないし、何より衛生的にもどうかと思ってたから助かるけど流石に気が引けた。それでもレイラはどうぞと差し出してくれたし、背に腹はかえられないのでありがたく貸して貰うことにした。
「あ、そろそろ夕食の時間ですね♪支度しましょ♪今日はなに食べたいですか?」
「あぁもうそんな時間か!そうだなぁ、なんでもいいよ♪」
「も~毎回毎回それじゃ困ります!遠慮しないでなんでも言って下さい!なんでも作りますから♪」
レイラは器用な子だ。炊事洗濯なんでもござれで特に料理はホントにおいしい!
容姿もかわいいし料理もうまい!更に魔法使いなんてこりゃ相当モテるんだろうなぁ。
「…レイラは彼氏とかいないの?」
「…ヘ!?」
動揺しながら顔を赤らめて反応するレイラ。いつも明るい笑顔を振りまいてくれる彼女は中々どうして魅力的に魅力的に見えるのだがこの反応も堪ら…考える所がある。
「そんなの…!?いるわけないじゃないですか…!!」
しどろもどろに取り乱してレイラはそういう言う。ありゃ、年頃の女の子にはちょっと失礼な質問だったかな…。
「あぁごめんね!いやそんだけ料理出来て可愛くて魔法使えるんだったら男が放っておかないだろうなとおもってさ!w」
「いやいや!そんな事ないですよ!!話しかけて来られた事も無いですし!!…かわいいなんて言われた事も無いです…。」
少ししゅんとしながらレイラはそう言う。確かに街に出た時同年代の男達はぼーっとしながらレイラの事見てるだけだったなぁ。…こりゃあ高嶺の花過ぎて声もかけられないパターンか。
「マジか!こりゃラッキーかな…。」
「…え??どういう意味ですか…?」
「ああいやなんでもないよ!それより鍋大丈夫?」
「へ!?やだ大変!!!」
はー危ない危ない!なに言ってんだ俺は…。さすがに10も年齢が離れてる子に恋愛感情持ったらマズイだろうよ!…落ち着こう。
あ、そうだ、本でも読ませてもらおう。
「レイラ、この棚にある本読んでもいいかい?」
「ああどうぞ♪その棚のモノは自由に読んで構いませんよ♪あ、でもちょっと難しい奴ばかりであまり楽しいモノじゃないかもしれませんけど…。」
レイラはそう言いながら少し苦笑いをした。雑念を払うには丁度いい。さて早速拝見させて貰お…おぉ、題名からして難しそうなのばかりだ!まぁ魔法使いって事はいろんな座学を知らないといけないから当然だわな。和訳されてるだけマシだわ。
とりあえず一冊の本を手にとってみた。
何々?″魔法大全”か。面白そうだ。…お!攻撃魔法が載ってるぞ!どれどれ…。
その本には様々な魔法の使用法が記されていた。発動条件、詠唱もわかりやすく書かれてあった。
よくゲームとかで呪文の解説が載ってるけどあんな感じ。強いて言えば難易度が書かれてないのが疑問だ。でも頭にスラスラ入ってきたので多分初歩的な簡単なヤツなんだろうな。
「なるほど、魔法つかってみたいなぁ。」
「あそうだ、ユースケさん魔法の練習してみませんか♪そっちの世界じゃ出来なかった事もこっちなら出来るかもしれませんし♪色々と便利ですよ!」
料理しながら後ろ向きにレイラがそう言った。
「あー、そうだね。ちょっとやってみるか…。」
料理が出来るまでまだ少しかかりそうだし俺は本を片手に庭に出ていった。
「あ!いけない、初心者向けの魔法書自分の部屋に置きっぱなしだった。ユースケさ…あれ…?」
レイラがあわてて振り返るがユースケはもう外に出ていた。ふと、今の今までユースケがいたテーブルに置いてある本を手に取る。
「あ、これ…ハイクラスの魔法書だ…。」
「さてと…。」
魔法を使う。誰しもが一度はやってみたいと思っていたモノを実践するとなるとさすがに胸が躍るなぁ。
「とりあえず一番最初に書かれてた奴でも試そうかな。」
まず書かれていた通りに精神を集中して呪文を頭の中で詠唱する。呪文の詠唱とか術式とかは頭に入っていればわざわざ声に出したり魔法陣を書いたりしなくていいらしい。周りに誰もいないとはいえさすがにこの年になって呪文唱えるとかちょっと恥ずかしいしな。
技の名前だけは言わなきゃいけないみたいだけど…まあそれくらいはしょうがない。
あとは…確か両手を前に出して技名を言えばいいんだっけな。あぁいけない!本置いてきちゃったわ、まあ内容は頭に入ってるしいいか♪どーせ試してみるだけだし!
と、同時にレイラが険しい顔をして家から飛び出してきた。
「ユースケさん待っ…!!」
「シャイニングレイ!!―――」
眩い光が指の先端に収束されると極太の光線となってユースケの前方の大地を抉りながら突き進み、その途中にある湖の水を巻き上げ尚も勢いを殺すことなく進んでいく―――。
その日、山が一つ無くなった。
「さ♪できましたよ。今日はチキチータのアカナス煮込みと、あとマッシュポーテのサラダです♪パンのおかわりありますから言って下さいね♪」
「…はい…いただきます…。」
チキチータは俺の世界で言うチキン、アカナスはトマト、ポーテはポテト。この世界の食材は名前が同じ奴もあればちょっと違うだけでほとんど同じ様な味と見た目でとても安心した。食が抵抗なく食べれるのはホント良い事だな。まぁ今の心境はそれどころじゃないけど…。
「も~そんな気を落とさないでくださいよ♪やっちゃったモノはしょうがないですよ♪」
「…ホントごめんなさい…。」
自分の所為で地形が変わるなんて思わなかったんだもの…そりゃショックでかいって…。
「いやいや!わたしは感動してます!まずハイクラスの魔法書を読める事自体スゴイ事ですし!いきなり呪文を使えるのも凄いですししかもそれがハイクラスだなんて!!」
興奮気味にレイラがそう言った。どうやら俺が読んだ本は上位の魔法書のようで、しかも文字も余程の経験を積まないと解読できないモノになっているらしかった。でも普通に読めたし内容もスラスラ入ってきたんだけどなぁ…。
「なんでだろうね…?謎だな…。」
「…もしかしたらユースケさんが突然こっちの世界に来たことと何か関係があるかもしれないですね。色々と調べてみましょう。さ、とりあえず今は食べましょ♪折角の食事が冷めちゃいます!」
レイラはそう言うと料理を皿に取り分けてくれた。まぁこれから色々と試してみるしかないか…。焦ってもしょうがないし。
「ああそうだね!じゃいただきます♪…んん…うまい♪」
「良かったです♪」
丁度その頃、鏡越しにその様子を眺めている輩がいた。
「ほう、あれが例の人物か。」
「ハイ、どうしますか?すぐにでも従者を送りますが…。」
「そうだな、明日にでも準備をしといてくれ。レイラも一緒にな。」
「かしこまりました。」
そういうと付き人らしき人物は部屋を出て行った。
「ふむ…はたして吉と出るか凶と出るか…。」
そう言いながら一人の人物は自室へと戻っていった。
この世界の名はロストプラネット――。
ユースケ達の世界とは別の歴史を進んだ平行世界――。
全ての世界を巻き込む壮絶な争いの幕が今まさに切って落とされようとしていた――。