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Reverie World  作者: 一語大福
7/12

精神の世界

 あれから5日たった、未来男の姿が古本屋にあった。

今日はアトムとは別の漫画を立ち読みしている、禿げ親爺と視線が合った、

まずい、未来男が禿げ親爺を避けた先の棚に、アトムの2巻目があった。


「この漫画読むと、寝てしまうんだよな、

この間は寝ぼけて、尻餅を付いた、と思いながら、棚から本を取った。


 丸い椅子が足元に有った、椅子に座って、本を開くと眠くなった。

うたた寝して、また、桟はたきで起こされた。

「この汚い桟はたきに、禿げ親爺の睡眠薬が付いているんじゃないのか?」

と思ったが、腰をおろして、本を開くと、丸椅子の上で寝込んでしまった。


「目を開けてごらん、未来男君。」


「何も見えない、何もかも、足元も真っ白だ、身体が浮いている。」


「そう、ここは精神の世界だ。」


「精神の事は、理念とかスピリットとか呼ぶが、

元々、中国の漢字では「元気」、「エネルギー」のことだった、

その反対、対義語は「物質」ということになる。」


「未来男君はお母さんから、だらしがないと言われたことがあるだろう。

 だらしがない、は精神がおこす現象の一部だ、

今は精神は知性的存在者の「認識能力」「意思能力」「判断能力」と言う。

その特徴は行動になって現れると、僕は思う。」


「今日のアトムはやたら難しいくて、いつも以上に面白くない。」


「未来男は僕のような漫画のヒーローが大好きだろう、

僕はかつて手塚治虫さんが書いた漫画のヒーローだった、

10万馬力で多くの悪いロボットや、悪人をやっつけた。

 僕が戦っていた時代は、敵味方がはっきりしていて、とても解りやすかった

悪人は悪人らしく、善人は善人らしく、顔を見るだけでどちらか解った。」


「今だって漫画は同じだよ、悪い奴は悪そうな顔をしている。」


「国と国の争い、宗教対立、民族紛争はどちらを応援すべきか僕には解らない、

とても難しい、頼まれても、簡単に介入できないんだ。

 片方はお金になるが、片方はお金にならない、お金になる相手を応援する、

もしそうだったら、僕はヒーローと言えるか、お金で動くアトムは悪人になる。


 友達から応援を求められとしても、戦う相手を悪人と決めつけられるだろうか?

友達が起こした争いの原因は何だったのか、友人が本当に正しいのだろうか?

何を持って、一方を間違いだと決めつけられるだろうか。

仲間を助けるだけなら、僕は兵器だ、正義の味方とは言えない。」


「アトムの言っていることは、難しくてちっとも解らん。」


「学校に行きなさい、お手伝いをしなさい、何時までも部屋にいないで出なさい、

部屋を片付けなさい、そう言われて、未来男はドアを閉め、腹を立てているが、

お母さんの言っていることは間違いと思うかい?」


「そうとは思わない、たぶん正しい、それでもムカつく。」


「世の中には理解のできない、難しい問題が多い、

住むところ、立場が違うと何でもないことで争いが起こる。

最初は小さかった問題が、争うことで恨みになり、恨みが憎しみになり、

ドンドン大きくなって、取り返しのつかない戦争になる。」


「未来男君はもう何年学校に行っていない、

君のお母さんは何時までも君を守れない、

お母さんは何時までも小遣いを君にあげられない、

そんな事は、君にも解っているだろう。

これから先、どうするんだ。」


「解っている、アトムまでお母さんみたいでうざい、

いつもいじめられたし、学校が嫌なんだ。」


「未来男君はもう18歳だ、幸い本が好きでよく読んでいる。

それなら、解るだろう。

 泥棒や何の罪もない人を傷つけるのは明らかに悪いが、

経済紛争や国境争い、領海争い、これはどちらに理があるか難しい。

 常に「自分の物だ」と先に手を上げれば正しいのか?

戦争で分捕ったから、戦争に勝った方が正しいのか。


 遠い昔に自分の祖先が住んでいたから、そこは自分の土地と言えるか?

沈没船の宝は見つけた人の物か、元の持ち主の子孫の物か

その海を領海にしている国の物か、誰が決められる。


 科学技術は発明した人の物か、お金を出した企業の物か、

コピーして使っても構わないのか、国際特許でなければ構わないのか

加盟していない国なら自由にできるのか、守らない人を強制できるのか?


 世界中に紛争の種は幾らでもある、

裁判で勝てば全て正しいのか、

暴力で反対派を叩き潰すのは許されるのか?

敵対する相手の所有物は壊しても問題ないのか?

僕はいつも考えている、だから相手を簡単に壊せなくなった。」


「おせっかいアトムの事情は分かったけど、アトムに僕が解る?」


「未来男の立場もそれなりに難しいと僕は思う、

僕に君の考えていることや悩みは解らない、

僕は神でも、占い師でもない、僕はアトムだ。」


 精神世界では時は止まっている、物質は存在せず、

空間だけが無限に広がっている、

見えない相手との、噛み合わない会話が続く。


「未来男君はヒーロー物の漫画が好きだね、

鉄腕アトムは昔、皆のヒーローだった。

僕が敵のロボットや悪人をやっつけると、

多くの子供たちが喜んでくれた。


 今のヒーローたちは機械の身体をまとって敵を倒したり、

鍛えた体で敵を倒す、様々な武器も使う、超能力も使う、

とてもやっていることが複雑だが、大げさに破壊しているだけ、

何の為の戦いかがはっきりしない。

 小さな蟻だって、敵から攻められれば命がけで戦うが、

蟻は仲間を守るため、生存競争に生き残るためにだけ命を捨てて戦う。


「ベトナム戦争で戦ったアメリカの兵士たちは国に帰って、

ヒーローと呼んでもらえなかった、

 太平洋戦争で戦った日本の兵士は戦いに負けたので、

ヒーローと呼んでもらえず、

戦犯とよばれた、命を捨てて戦ったのにだ。

命を、家族を犠牲にしてまで戦って、

なぜヒーローと呼んでもらえないのか?

人間の争いは生存競争ではない、複雑で良く解らない。」


「未来男に取って、ヒーローとは?」


「弱い人を助ける強い男。」


「実際の世界では強い国は常に正しく、

小さな国、負けた国はいつも悪者にされる。

未来男のヒーロー物と、実際の世界は正反対だ、そうわ思わないかい。

 力こそ正義、勝った方が正義 と言えるだろうか。

 嘗てハンニバルがローマを勢力圏に収め、ヨーロッパを恐怖に陥れた、

ハンニバルは今でも悪魔に例えられる。

 アレクサンダー大王はインドまで支配し、大王と呼ばれた。

チンギスハンはヨーロッパの一部まで支配し、大帝国を築いた。

彼らは勝った側のヒーロー、負けた側の悪魔だ。」


「アトムが何を言いたいのか、さっぱり解らん。」


「僕が言いたいのは知性的認識能力の事だ。」


「つまり、色んな事を勉強して、本質が解ったら、

それで良いと言いたいのだろう。」


「まあ、そんなところだね。」


「意思能力とは、意思表示をする能力のこと、

未来男は言われたら怒るばかりで、

お母さんに自分のしたいことを伝えた?」


「お母さんには言ってない、

何をしたら良いのかも解らない、

だからいつもブラブラしている。」


「未来男君は精神の2番目が弱点だね。」


「何をするか決めるのは難しい、僕はいつも迷っている。

そのために色んな知識を吸収する、

しかし、知識は何をしたら良いかは具体的に教えてくれない。

何をしたら良いか、何が正しいか考えるのは自分なんだ。」


「アトムはヒーローをやめて、おせっかいになったんだ、余計なお世話だ。」


「僕には解らない、だから未来男と旅をしているのさ。」


「案外、アトムも意思能力に欠陥がありそうだ、だから、悪い奴を倒せない、

お茶の水博士に見てもらった方が良いよ。」


「未来男君にやられたな、今度帰った時、

御茶の水博士に電子頭脳を見てもらうことのする。」


「アトムはもう一つ壊れてるね、君は判断能力も弱い、

どちらが正しいか、いつも迷ってばかりいて、空中で見ている、

そして僕が困っていても助けてくれない。」


「未来男君にかかると、10万馬力の僕も散々だな。」


「アトム、僕の勝ちだ!」


「君に負けたよ、精神世界で考える内に、

未来男君の精神は少し強くなったんじゃないか?」


「蟻の戦争は精々お庭の中、弓矢の戦争は万人も死ねば大戦争、

火薬を使った戦争では数百万人が死ぬ、

核兵器では億の人が死んでもおかしくない。

 今のヒーローは相手を叩きのめして勝つ人ではなく、戦

争を起こさせないで、環境を、地球を守る人、

戦争の火種を消す人かも知れないね、未来男君」


バサ、禿げ親爺の桟はたきの一撃で、未来男は目覚めた。

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