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Reverie World  作者: 一語大福
5/12

死後の世界

 未来男は先日、鉄腕アトムの2巻目を読んでいる途中に寝てしまい、

立ち読みに気づいた、あの禿げ親爺に店を追い出されていた。


 2巻目は殆ど読んでいない、何で途中で寝てしまったのだろう?

怖い夢を見たような気がするが、どんな夢だったか何も思い出せない。


 あの禿げ頭の親父は大嫌いだが、アトムの2巻目に何が書いてあるか

どうも気になって、気になって仕方がない。


 外を出歩くのは好きではない、あの禿げも嫌いだ、

しかし、今日こそ古本屋に行くぞと未来男は決心した。


 外から店の中を覗き込んだが、禿げ頭の親爺の姿がない。

奥でお茶でも飲んでいるな?

しめしめ、と古本屋の中に入り、鉄腕アトムの漫画が置いてある棚から、

アトムの2巻目を探した。

誰も買っていない、前の場所に2巻目はそのままあった。


 未来男は隣の列に置いてあったあの丸椅子を取ってきて、

椅子に座って2巻目を読み始めた、

少し読んだところで、また居眠りをしてしまった。

パタパタ、禿げ親爺のさんはたきではたかれて、未来男は目が覚めた。


 今度は「解った」とお辞儀で返事し、禿げ親爺の反対側を向いて、

知らぬ顔で、2巻目を読み始めた。


 寒気に誘われるように、未来男の意識は薄らいで、身体から遠のいていった。


「久しぶりだね未来男君、随分良く寝ていたね。」

上からアトムが手を差し伸べていた。


 何処かで見たような光景だな、と思ったが、

手を引かれて未来男は立ち上がった。


「僕と旅をしよう、今日も君の好きな、人間のいない世界へ行こう。」

未来男はアトムの手をしっかりと握りしめた、

ふたりはアトムのジェット噴射で空高く舞い上がった。


 空が暗い、落雷や大雨が降りそうな悪天候だ、

厚い積乱雲が見る見る成長して、大きくなっていく、

アトムは真っ黒な積乱雲などお構いなしで、雲の中を突き進んでいく。


 大丈夫かな、アトムのボディは鉄でできてたんじゃなかったっけ?

落雷でアトムがショートして、二人とも墜落、って事になるんじゃないかな?

バリバリバリ、落雷が激しい、また光った、まただ、

未来男は雷が心配で気が気じゃない、が、アトムは知らん顔だ。


「未来男君、もう少しだ、この黒い雲を抜けると、そこが目的の世界の入口だ。」


 分厚い黒雲を抜けたところは、真っ暗だった。


「アトム、真っ暗で、何も見えないけど、もお、着いたの?」


「着いた、予定通り、人のいない世界、未来男君の好きな所だよ。」


「真っ暗で、何も見えないけど?」


「この世界は目を開けていると見えない世界さ、

見る時は、僕のように目を閉じて、心の眼を開いて見るんだ、

未来男君もやってご覧、簡単だから。」


 未来男はアトムの言う通り、しっかりと目を閉じた。


「何も見えないけど・・」


「集中して、心の眼を開くんだ。」


 アトムの言葉を信じて、未来男は目を閉じ、心の眼を意識して集中した。


「あっ、見えて来た、人がたくさんいる、これが目的地?」


「そうだよ、生きている人は一人もいない、ここは死後の世界だ。」


「解りやすく言えば、周りの人たちは、全部幽霊ってこと?」


「幽霊ではないけど、そう呼ぶ人もいることは確かだ。」


「アトムや僕は生きているの、それとも死んでいるの?」


「死んでいる、この世界に生きている人は一人もいない。」


「来る途中の雷で、二人とも死んだんだ。」


「いや、雷は関係ない、死後の世界に来ただけさ。」


「きもち悪いけど、ゾンビに殺されたりしない?」


「大丈夫、死人は二度死なない。」


 未来男はアトムの言っていることが理解できなかった。

何か解らないが、俺は死んだのか、これからどうすればいいんだ。


 未来男の周りでは、大勢人が、何処へ行くともなく歩いている、

未来男を、ジッと見て立ち止まる者、歩き出すもの、どの人も薄気味悪い。


 ここは天国か、それとも地獄か?

少なくとも天国の雰囲気じゃないな、どちらかと言えば地獄の雰囲気だ、

学校へ行かず、親の言う事を聞かず、長い間引き籠っていたけど、

俺は地獄に行かされるような、なんか、それほど悪いことをしたかな?


 2年前に小銭が無かったので、コンビニでガムを1個ちょろまかした、

あんな事だけで、地獄へ行かされるのか、世の中には俺より悪い奴は

もっと一杯いると思うけど。


 地獄に行かされた事を未来男は納得できない、しかし、多分ここは地獄だ。


 未来男は目を開けてアトムを探した、真っ暗で何も見えない。

「アトム、帰ろう!」と何度か呼んだが、返事は帰ってこない。


 未来男は目を閉じて、もう一度、心の眼を開いた。

さっきと同じだ、周りは幽霊ばかりだ。


 なんでこうなったのか、さっぱり解らないけど、やっぱり俺死んだのか?

地獄で10万馬力だと言ったって、誰も驚かんし、

流石のアトムもここじゃ、形無し、だよなあ・・


「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時・・・」


 聞いたことがある、あれは般若信教、お経だ、やっぱり死んだんだ、俺は。

やっと状況が呑み込めたが、未来男はとても寂しかった。


 小さな女の子が、4、5歳くらいかな、未来男を手招きしている。

アトムはどこかに行っていないし、女の子は特に怪しい感じはしない、

むしろどこかで会ったような、親近感がその女の子にはある。

誘われるままに、未来男は女の子に付いていった。


 暗い細い道だ、石がゴロゴロしていて、躓きそうになる、

そんな細道を女の子は慣れた足取りで、ドンドン先に進んでいく。

「急がなくても」と思いながら、未来男は女の子の後を追った。


 見覚えのある人がいる、あれは5年前に死んだお爺ちゃんだ。


「未来男良く来たな。」


 聞き覚えのあるお爺ちゃんの声だ、確かにお爺ちゃんだ。

それにしても、「良く来たな。」は無いだろう、

まるで俺が死んで喜んでいるみたいだ。


「喜べ、お前の親戚はみんなここにいるぞ。」


 見渡したが、お父さんもお母さんもいない、お婆ちゃんもいない。


「ははは、生きている人はここには来ていない、

皆お前の死んだご先祖さんだ。未来男を大歓迎だ、良く来たな。」


「どうも。」

未来男は知った人がいて、嬉しいような、悲しいような。


「あの女の子は、お爺ちゃんのお婆さんの娘だ、4歳で病気で死んだんだ。

未来男が解らないのも無理はない、

血が繋がっているから、女の子に他人の気がしないだろう。」


「生き物って不思議だね、会ったことがなくても、雰囲気だけで解るんだ。」

アトムが後ろから声を掛けた。


「ロボットのくせに、また小便に行っていたのか?」


「未来男君がどこかに行くから、探していたんだ。」


「お爺さん、未来男と少し探検に行ってきます。」

アトムは未来男の手を握って、空に舞い上がった。


「周りを見てごらん、悪そうな人も、良い人も、病気の人も、怪我をした人も

ここには皆いる、ここは天国でも、地獄でもない、死後の世界だ。」


 良い人は天国へ、悪い人は地獄へ、

天秤で人の善悪は本当に計る事ができるのだろうか?

一度も悪いことをしたことがない人なんて、恐らく一人もいない

人に迷惑をかけたことが一度も無い人なんている筈がない、

持ちつ、持たれつ、それが社会、社会性のある生き物の常識だ。


 悪い人でも、やせ細った野良猫を見かねて、

エサをあげることがある、これは間違いなく、善だ、

 良い人でも蚊を叩き潰す、足元の蟻を踏みつぶす、鼻くそを捨てる、これは悪だ、

千円で仕入れた商品を3千円で売った、儲けた、これを善と言えるだろうか?


 考えれば考えるほど、善と悪は難しい

閻魔大王が善人と悪人を振り分けるとしたら、

一人決めるだけでも大変な時間がかかるだろう、きっと大渋滞の列ができる。


 天国も地獄も、そんなもの無い、生きている世界が同じなら、

死んでから行く、死後の世界もたぶん、同じだ、

死後の世界は善人も悪人もひとつなんだろう?


 飛びながら未来男の頭は混乱していた。


「未来男はご先祖様と皆運命の糸で繋がっている、誰だって繋がっている、

木の根の様な物だ、根元からずっと伸びて、枝分かれして、

またどこかで絡まって。」


アトムが何を言いたいのか未来男には良く解らない。


 未来男下ろして、アトムはまたどこかに行った。


「ここは若いきれいな女性が沢山いる、アトムは気が利くな。」


 美女が一杯、未来男は自分の鼻の下が伸びる感じがした、実に良い所だ。


 美女の人ごみを抜けて、紫色に花柄の素敵な着物を着た女性が、

未来男に近づいて来た、間近に顔を見ると、可愛くて、すごく綺麗だ、

あの桐谷美玲そっくりだ。

死んでるのに、未来男の心臓は興奮で、ドキドキ、胸が張り裂けそうだ。


 未来男の部屋には桐谷美玲の大きな写真が貼ってある。

「美玲が僕の彼女だったら良いのになあ」といつも写真の美玲を眺めていた。


 憧れの美玲が目の前にいる。


 美玲似の女性はそっと未来男の後ろに回って、

優しく未来男の首筋に唇を寄せて来た、未来男は興奮で鼻血が吹き出しそうだが、

グッと興奮に堪えていた。


 きっと美玲にキスされるんだ、動かず未来男は美玲似の女性のキスを待った。


「痛っ!」未来男の首筋から血が出ている、美玲似の女性は血を舐め始めた。

女性はそのまま、首筋に唇をあて、未来男の血を吸い始めた。


「ああ、気持ちがいい」快感が伝わってくる、未来男は嬉しくて涙が出そうだ、

血を吸われ続け、未来男の意識はゆっくりと遠のいて行った。


バサ、未来男は丸椅子から落ちそうになった、

下には鉄腕アトムの2巻目が落ちていた。

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