小さな恐竜
「未来男君、下を見てごらん、人間のいない世界についたよ。」
緑豊かで、美しい、今まで見慣れた世界とちょっと違う気がするけど、
それなりに美しい、アフリカかな?
「アトム、ここは何処だい?」
「人間はいないよ。」
二人が下に下りると、恐竜がいた。
「随分小さな恐竜だね、ここはガリバーの島かい。」
「惜しい、少し違う、ここは2億5100万年前、ペルム紀末の地球さ。」
「それにしても、随分ちっちゃな恐竜だ、全然怖くないや、
ペットに持って帰ろうかな。」
「ダメダメ、それはダメ、持って帰ってはいけない。」
「アトムはロボットだから平気だろうけど、熱いな、コーラが飲みたい。」
「コーラの自動販売機は、ここには無いなあ、電気が無いし。」
「アトムの電源使って水筒の水を冷やしてよ!」
「無茶言うな、僕にコンセントは付いて無いよ。」
未来男が小さな恐竜を触って遊んでいた時、
大きなシダの間で大きな目玉が左右に動いて、未来男を見た。
「逃げろ、未来男」
アトムの声に驚いて振り向くと、大きな口が迫ってくる、
未来男は慌てて立とうとするが腰な抜けて立てない。
大きな口がますます未来男に接近してくる。
「助けてアトム!」
アトムは未来男を抱えて宙に舞い上がった。
「恐竜は小さいと言ったじゃないか、危うく喰われるところだった。」
「あれは恐竜じゃないよ、イノストランケビアと言う肉食哺乳類型爬虫類だ、、
この時代では一番危険な生き物、大きいのは5メートル程ある。
この時代の食物連鎖の王者だ、危なかったね。
イノストランケビアは水泳が得意で、動きも早い、特に水辺にいることが多い。
もう少し、内陸に行こう。」
「良く言うよ、アトムのお陰で、
もう少しであいつの夕ご飯にされるところだった。」
「未来男だと美味しいって、
イノストランケビアは喜んでくれたかもしれないね。」
「もう、御免だ、もう少し安全な所に行こう。」
上空からは遠くに火山噴火が見える。
「アトム、熱い筈だ、山が火を噴いている。
水辺は一番涼しいけど、あいつが居るし、
何でこんな所へきたんだ、恐竜ほど大きくないけど、危ないやつがいる。」
「イノストランケビアは人間の祖先じゃないけど、一応哺乳類の親戚だ。
周りをご覧、あちこちで火山が火を噴いているだろう、ここにいる生き物の
ほとんどがもうじき絶滅するんだ。
未来男君がさっき抱っこしてた恐竜たちはある程度生き残る。
さっきの恐竜が生き残ってティラノサウルスになって行く可能性もあるんだ。
だから、恐竜は持って帰ってはいけない。」
「ふ~ん、良く解らんけど。」
「まだ明るいけど、月が見えるだろう、あの月も大昔はあそこに無かった。」
「へー、月はどこかから今の場所に引っ越して来たのかい。」
「いや、45億3千万年前に、地球の半分くらいの大きさの天体が地球に
衝突して、散らばった破片が重力で集まって月ができたんだ。
それから地球の引力に捕まって、月はあの位置にいる。」
「地球も月もなにかと大変だったんだな。」
「この平原なら見通しが良いし安全だ、下りよう。」
「人に会うのは嫌いだけど、誰も居ないのも変な気分だ。」
「足元の小っちゃい動物は哺乳類、未来男のご先祖様かも、
踏みつぶさない方が良いよ。」
「こいつを踏みつぶしたら、僕が生まれないのか、
おい踏みつぶしてやろうか?」
「馬鹿なことは、やめとこう、
未来男が生まれるまで、
これから2億5千万年以上もかかっている。
大勢のご先祖様が、全員生き延びてくれたお陰だ。
一人でもご先祖様が恐竜に食われたりしたら、未来男は生まれなかった。
命とはそれ程大切なものなんだ。」
「アトムはロボット哲学者だね。」
今夜は熱い、温かすぎる、未来男は大きなシダの葉を布団にして寝た。
アトムが番をしていてくれるから、喰われる心配はない。
翌朝、火山の大きな爆発音で未来男は目を覚ました。
火山弾が方々に落ち始めている、あちらこちらで森が燃え出した、
火山ガスも充満してきている、二酸化炭素が急激に増えてきて息苦しい、
息ができない。
「何をしてる、アトム助けて~」
未来男の声は爆発音にかき消され、アトムに届かない。
「何処へ行った、アトム、小便か・・」
未来男の頭上に大きな火山弾が堕ちた、衝撃で未来男の頭が前に折れた。
「あれ?」
もう少しで未来男は古本屋の丸椅子から落ちるところだった。