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学校

おいおい聞いたか?とうとう帰って来るらしいぞあいつ


あいつって誰のこと?


知らねーのかよ!あいつだよ、特進のお色気ムンムンのやつ


あー、スイス=スタンリーのこと?


そうそうそんな名前だった!あいつ一年も姿くらましやがってとっくにくたばったかと思っていたぜ


そんなわけないだろう、だってあいつ…







「ねえ、ルイ私本当に売られる訳じゃなかったのね」


大きな門の前に立たされて呆然と呟くと、ルイと呼ばれた青年は日よけの帽子のしたで軽くため息をつく。


「だから言ったじゃない、学校に行くのよ」


ポンと頭に手を置かれ嬉しさに笑みがこぼれた。見上げると見慣れた碧眼が優しく見下ろしている。健康的な肌の白さに整った顔立ち、少し垂れぎみの目にかかる長い金の前髪。最初は気に食わなくてしょうがなかった彼が今は大切な家族のような存在になっていた。彼からダダ漏れの色香も慣れると安心する温かさに変わった。


「だって本当にルイならそれでもいいと思ったの、」


頭にある彼の手に自分の手を重ねる。ごつごつした自分とは違う質のそれが結構お気に入りだったりする。

ルイはたまらないといった風にいつものように私を抱きしめた。


「もうっっ本当に可愛いんだから!!」


ルイの温もりと柔らかな金の長い髪に包まれる。私は彼の後ろに恐る恐る手をまわした。


「でも、そんなこと思っちゃ駄目よ、ユラは大切な私の妹」


ぐもった声に泣きそうになる。ルイは私の言うことは何でも叶えてくれた。ルイに家族になってほしいと言ったら兄になろうと言い一緒に寝たいと言ったら優しく抱きしめながら寝てくれた。しかし、それは最初に行った通り一年だけ。

今日であれから一年になる。


「兄さん、大好き。」


「うん、僕もだよ。」


「本当に本当に大好き」


「僕はその数倍ユラのこと好きだよ」


「本当?」


「本当」


「今日で妹やめるのに?」


「じゃあ、ユラは僕が兄やめたからと言って嫌いになる?」


「ううん、ずっとずっと好き」


抱きしめる力が籠るのが分かった。痛いぐらいだったけど凄くうれしかった。


「僕もだよ」


そう言い終わると体が離れていく。


別れはやはり辛いな。


「行こう、僕たちの学校へ」


いつもの笑顔なのに一年居たから分かる。線引きされた愛想笑いの笑顔。私の苦手な顔。


いつもは手をつなぐのに距離がある。黙って門の横にあるセキュリティーを操作するルイ。指紋認証と暗証番号を手早く済ませると重々しい扉が音を立て開いた。木製のようだが中に鉄でも埋め込まれているのだろうか。動きが遅く人の力では開けられそうもない。


そう思っていると中から何か飛び出してきた。それがルイに向かって突進してくる。心臓が凍りそうなる。息をつめ全速力でルイの前に入る。向かってくるものが何なのか速すぎて目がついてかない。一瞬の後に激しい衝撃下から体を襲う。物凄い勢いで上に吹き飛ばされた。そのまま視界が何度も回転し気持ち悪くなった。しかし、クラゲ族特有の浮遊がある。このまま衝撃が和らげば下に落ちることなく空気中を泳いでルイのところに帰れる。ただ、時間がかかるのが難点だが致し方かもしれない。そうと分かっていても気持ちは逸るばかり。


ルイのことが心配だ。

ルイは今無事でいるだろうか。。私を飛ばしたものは初めからルイを狙っていたようだった。あれはいったい何だったのか。正体は分からないが衝撃を食らったとき驚いたが不思議と痛くはなかった。まるで、質が違う力でただ吹き飛ばされたという感じだ。物理的な攻撃ではないだろう。そうなると、ルイの専門分野か。私がどうこうできる次元ではないが私の憶測が正解だと自信が持てない。

どちらにしろ早く戻るべきだ。もう二度と家族を何も失いたくない。

衝撃派のによる震動がだいぶ落ち着いてきた。


あれしかない、ルイ待っててね。


自分の中にある力を引き出すため目をつぶる。少し経つと、だんだん風を感じなくなってきた。それが合図だったかのように手先の感覚がなくなり、遠近感を失う。どこが上でどこが下なのか、自分が浮いているのにどこかに立っているような感覚を掴み始める。


乱れた精神が波紋のない水面になった時、黑い底なし沼が見えた。普段は入れない心の深層部だ。そこに今の自分を同調させようと試みる。ここまでは時間がかかるが難なくできるようになった。ここからだ。沼に飲み込まれないように自分を保ち沼の感覚を捕まえ引き寄せる。



そのとき、自分の方が沼に引き寄せられた。足先が沼に食われる。そこから汚濁のようなきつい臭気が立ち込める。全身を中から浸食される不快感と恐怖。舌なめずりの音を聞いた途端心臓が凍りつく。寿命を縮ませる勢いで全身の力を全て込める。このままこの世界にいたら確実に殺される。世界があっけなく弾け、現実に戻った。






目を開けると力を失った体がすごい勢いで落ちていく。指先にすら動かせない。気を失っていないのが不思議なほどだ。


死にたくない、


恐怖で凍り付いた心が力なくそう叫ぶ。

しかし願いは届かず落ちるスピードは加速する。


息が苦しい、

助けてルイ

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