怪しい青年
両親が帰ってきた。珍しい。
そう思いつつお帰りというと驚いた顔をされた。
そっか私がしゃべれるって知らないのか。
両親と自分とに間には溝があることをはっきりと感じてしまった。
私はハルが置いていった大量の本をこの一ヶ月読み続けた。人並みの感情も何となくわかるようになった。
だから、この感情は表現できるようでできない、そんな感じだった。
それはともかく親は真剣な顔をし話始めた。
立ち話はいつものことだが、雰囲気が違う。
重々しい口を開き低い声でゆっくり話始めた。
簡単に言うと父は仕事に失敗し、金がない。ごめんねとのことだ。
ん?ごめんね?どういうことだ?
先の見えない嫌な予感がした。
「実は君は僕らの子供じゃないんだ。その上財産がなく僕達家族が生きるために君を……。」
いきなりのことだった。切り離された。
焦点が合わなくなり、意識が遠のいていく感じがする。世界がバラバラになり壊れていく。
だから私はここにずっと一人ていたの?
物語の中の主人公の両親は同じ家で暮らし、親しく、愛情で溢れていた。薄々感じていた。親と子供は似ているらしい。だけれど自分と親は似ていない。茶色の固めの短い髪、シワのよった血色のいい顔、ふくよかな体。
どこからどう見ても人間の夫婦だ。自分とは違う。
オカシイと感じていたことが現実に顔を出してこっちを見ている。
気づいたら家を飛びたしていた。
父の話を最後まで聞かずに…あのまま、あの場所にいたら自分でも何するか分からなかった。体をかける血液が出口を探そうとしているようだ。体が熱い。
怖い、こんなこと今までに体験したことない。
震える手で自分守るように抱きしめて、地面を蹴る。
体が浮きクラゲが海中を漂うかのように自然と成り行きに任せる。このまま神様のところへいってしまおうか。もう何も見たくない聞きたくない。
心が壊れそうなのがこんなにも怖いことだなんて知らなかった。
するといきなり二の腕を捕まれた。足だけ前に放り出された状態で勢い良く振り返る。両親かと思ったが視界写ったのは知らない青年だった。表情が落胆の色に変わるのを自覚できた。知らず笑みがこぼれてたらしい。
見た目麗しい青年は絵本の王子様というより女の人を惑わす貴族のように見えた。
「…何があったの?」
言葉を探す振る舞いを見せ、伺うようなその視線に捕らえられる。少し変わった女性的な口調。容姿と合わないはずなのに容姿が美しく艶めかしい色香のせいか凄くあっていた。普段なら口にしなかったかもしれない。しかし、精神的に限界だったのか気づいたら言葉を口にのせていた。
「両親が仕事に失敗して私が捨てられそうなんです」
目を伏せ両親の顔を思い出すと胸が痛んだ。あの先を聞かずとも理解できる。もう会えないのだと。
だから私には、青年目が怪しく光ったのに気づかなかった。
「…では、貴方を買うわ」
「………へ?」
耳を疑い顔を向ける。
こともなさげな青年の顔を見て自分の考えがおかしいのか疑った。
しかし、少し考えれば頷ける事実だ。
私は、両親のような人間ではない。この、珍しい容姿なら、売られても当たり前だ。ただ、今まではクラゲ族にまつわる噂のため、呪い等を恐れ手出しされなかっただけのこと。
よくみると見慣れない服装だ。こんな田舎では、目にかかることもできないくらい華美だ。
きっと売られたら、遠くへ行く。本当に両親…とは、会えなくなるだろう。
しかし、このまま捨てられても生きる術など皆無に等しい。そしたら、あの小屋で一人さびしく死んでいくのか。闇の中孤独に耐え最後の一瞬さえそこには自分しかいない。その未来を私は酷く恐れ拒絶した。何もない人生だったのにこの前初めていろんなことを知った。闇の中生きる私は一筋の光を感じた。その中で強欲にも、まだいろんなことを知りたいと願った。また一人にはなりたくないと願った。これまで闇さえも自分の一部かのように感じて過ごしてきた。しかし、一度味わった温かさを忘れることはできない。知らなかったあの頃といまの自分では全く違う人のようだ。そこで納得した、私はまだ生きていたい。死ぬのはすごく怖かった。
空中に漂っていた足を地面につかせ青年を見上げる。
青年は観察するような目で私を見下ろしていた。どこか面白がっているように口許をゆがめている。腕を離された。
「いいよ。でも、高くつくよ。」
「あら、案外聞き分けいいのねぇ」
余裕そうな青年に腹が立ったが、こらえてつづける。
「ただし、お金が先だから。ついてきて」
私は生きる、どんな人生でも。
そう決めて、もと来た道を帰る。
けれど私はまだ知らなかった、そこには底があるのだと。まだ、幼い私のは分かりはずもない未来の扉をこの時私は開けてしまった。
誠に読んでくださりありがとうございます。
誤字脱字が多いかと思います。今は話を進めたいので余裕が出てきましたら、訂正させていただきます。
学園編入までもうちょっとですっ
まっててねツンデレ少年ッ!!