第1話『死』
雨が降り続いた、うっとうしい嵐の日だった。
まだ中学二年だった芦屋かなは、学校から帰ってきて言葉を失った。
回りには見知らぬ大人達。パトカー、救急車が細い路地に並んでいる。
「お嬢ちゃん、ここの家のお子さんですか?」
警官が険しい顔つきでかなに迫る。
なにやら嫌な予感が迫ってくる。
来ないで。かなはそう思った。
「…はい」
「お母様が通り魔に刺されました。落ち着いて下さいね。病院へ…行きますか?」
今、なんて?
「刺された?」
あまり馴染みのない言葉。かなは聞き間違いかと耳を疑う。
「はい。病院へ行きますか?」
「い…行きま…す…どういうことですか?刺されたって誰が?!え…なに、ちょっと待って下さい…」
「落ち着いて。車でお送りします。乗って下さい」
かなは言われた通りパトカーに乗り、急いで病院へと向かった。
ついたのは近くの大型の病院。
事実なのだとかなは再び認識し、頭の中が真っ白になった。
歩くことさえできないほど、ひどく混乱していた。なんせ、突然なのだ。
いつも通りに学校へ行って、母は笑顔で見守っていたのに。
手を、振っていたのに…?
「大丈夫?さ、頑張って」
婦人警官に支えられ、ようやくパトカーから下りたかなは、ふらつきながらもなんとか病院へと入っていく。
だが、かなが辿り着いた場所は『霊安室』。
「嘘だ…」
かなは扉を開ける。
ベッドに寝転び、顔に布をかけている人と医者らしき人がいた。
かなは恐る恐る布を取る。
「い…いや…母さん?ねぇ…私を…一人にしないって言ったよね?父さん居なくても頑張ろうって言ったよ…ね?嘘だ…嘘だ…嘘だ!」
やはり、そこにいたのはかなの母だった。
かなは泣き叫び、母さんを叩く。周りにいた医者や警官は申し訳なさそうにかなを止める。
「ごめんね…」
婦人警官は涙ぐみながら一言だけそう言った。
「謝らないでよ…悪いと思うなら…あやまらないでよ!!」
かなは赤くなった瞳に涙をためながら、必死に涙を止めようとする。けれど、溢れてくるのは、涙…涙…涙。
「母さん…見えないや…もう母さんの姿さえ…何も見えないや…」
ふふっと微笑んだかなのその姿は、医者と警官をひどく苦しめた。 心の中で、何回も何回もかなに謝った……。




