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翌朝

翌朝、ぼんやりした頭でかすみは目を覚ました。

ただまだまぶたが重くて開かない、何故だろう少し疲れている気がする。

昨夜、残業はしなかった筈だ、だから仕事の疲れではない。

ということはお酒がまだ体の中に残っているのか・・・


昨日私・・・そうか飲み会だったんだ

同期の華ちゃんの企画で4人で飲んだんだっけ


詳しく昨夜の飲み会のことを思い出そうとするが頭に浮かぶのはどうしても1人の男性の顔。

なんだろう、どうして工藤さんのことばかり思い出すんだろう。

しかも、彼の匂いとか服の中から感じられる体の温もりとか体を引き寄せられる手の力強さとか、すぐ側に聞こえた低音の声とか・・・


・・・ちょっと待て、温もりとか側に聞こえた声って・・・

すっごく近くに彼がいたって事?

えええっ!


だんだんと頭が冴えてきたのがわかる。

ついでに自分の体から、血の気が引いていくのも。

いたたまれずかぶっていた布団をまくって勢いよく起き上がろうとするも、

部屋の寒さに思わず布団をまた自分にかけてしまう。

いかん、2度寝する時間はない。

次に体が温まったら、下がってしまった血液も合わせて上がってくるだろう。

そう思いながら目を開けてベッドからはいでるタイミングをはかった。



仕事に遅れないように、それだけを考えて落ち着いて落ち着いてと、言い聞かせながら出かける準備をして家を出て駅に向かう。

いつも通りの電車に乗り、人ごみの中、昨夜の出来事を思い出して叫びそうになるのをなんとか抑えて電車を降りる。


会社のロッカー室を出て、自分の所属する部署へ向かう。部屋に入ろうとしたところで悠斗の姿がいち早く目に入った。


気のせいか彼の周りだけ光っている。

私ってこの体にすがりついたんだ・・・

パリッとした白いシャツに包まれたしっかりした腕。

仕事の話をしているのか同僚と話している精悍な彼の姿にかすみは再び見ほれてしまう。

あの時、すぐそばにあった彼の首筋に私は頭をもたせかけていたのだろうか。

やばい、やばすぎるぞ私、知らずにしていたこととはいえ、かなりの大胆な行動。ああ、でも、もったいない!

もっと意識がしっかりしていたらしっかり彼を堪能できたのに~!!

悔しい~!!



そんな悔しさを目に滲ましてかすみはじっと悠斗を見ていた。

視線を感じたのか悠斗はふいに顔を上げた。

目が合った時、悠斗がかすみを睨んでいるように感じて、かすみはその場で居すくまってしまう。

怖くなって、かすみは顔を下げて視線を外した。

彼に、この動揺が悟られないように、と願いながら、再び歩き出して自分の席についた。

何、どうして睨まれたの?

私、やっぱり失敗したの?昨日。

どうしよう。




昨日のあの親密さはなんだったんだ。

かすみに視線を外されたことに悠斗は傷ついていた。

いや、外されただけじゃない。

あれから、全くこちらを見ない。

すれ違っても挨拶もない。

まるで存在しないかのようだ。

通行人Aだ。

あれだけ昨夜は彼女に近づけた、と思っていたのに夜が明けたら前に元通りだ。

六番で、そして帰り道でも彼女は屈託なく悠斗に微笑み、気安く話しかけていた。

居酒屋でも、帰りの電車の中でも、彼女は安心した表情で悠斗によりかかって眠っていた。

どの駅で降りるのか彼女に聞いたときも、最寄の駅からタクシーで彼女の家まで送った時も、半分意識が眠りにさらわれている時の彼女の小さい声ははかなげで、そのくせ甘くて、思わず両手を伸ばして彼女を抱きしめてしまった。

すると彼女は・・・今目を逸らした彼女からは想像もできないが・・・満足げな顔をして体を悠斗に預けてきたのだった。


それだけ親密になっておいて・・・一夜明けたら、今は全くの知らん顔。

こいつは魔女か?男を手玉にとる類の女なのか?

いや、人間関係が下手くそ過ぎるんじゃないだろうか。

昨日、飲んだんだったら「昨日はどうも」くらい言うだろう。

魔性の女とは全然違う、人をほんわかさせる容姿をしている彼女を再びまじまじとみる。

どこからどうみても、なごみちゃんのくせしてどういうつもりだ。




今朝から見る、かすみのそっけない態度に深く傷ついた悠斗は自分を守るために心に決めたのだった。

もう、かすみには金輪際かかわりをもたないぞ、と。




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