睡眠中の会話
居酒屋6番でかすみはいつの間にか寝入っていた。
グレーの肌心地のいいセーターにもたせかけて。
ほわほわした適度なぬくもりが気持ちよくて更に深い眠りに入りそうになる。
それを引き止めているのは周りの喧騒とすぐ側で聞こえる会話だ。
耳に入ってはくるものの頭の奥にその声が届くことはなかった。
「名倉さん」
女の人の声がする。
「おお、遅かったな」
「あの・・・寺島さん、寝てます?」
「なんか飲ませすぎたみたいで」
その声にあわせてセーターが揺れる、この人がしゃべってるのか・・・
「あらら、すみませんこんな娘連れてきちゃって・・・」
「いや、いいよ、うちの部署の娘でもあるし」
「役得だよな、悠斗くんも」
少し間が空いて
「やだ、名倉さんたら・・・でもほんとよく寝てるわよね、普段あんなに男の人苦手なのに・・・」
「苦手?」
また声に合わせてセーターが揺れる。
もう、動かないで、顔が落ちちゃう。
かすみは無意識に悠斗の腕に両手を回してしっかりとその片腕を固定するように抱きしめて肩の上に頬を乗せた。
これで大丈夫、もうガクってならない。
「苦手・・・ねぇ」
名倉さんのあきれたような声がした。
「まあ、確かにこの店に入ったときも初対面の俺よりも慣れてるお前の隣に座ってるし、話しかけたらもう顔真っ赤だしさ、それだけ見れば慣れてないのかなぁと思わんことはないな」
「そうなんですよ、この娘ずっと女子高だったもんだからほんと男の存在のない世界で生きてきてて、最初は誰にでも人見知りしてしまうんですよね、そんなことないですか?工藤さん」
「うん・・・言われてみればそうだな・・・そうか・・・それでか」
「なんか思いつくことあるんですか?」
「あっいや・・・それより、慣れるとどうなるんだ?」
「ああ、人間対人間って感じで、逆に男を異性と思わなくなるっていうか・・・」
「やっぱり・・・」
「まあ、これだしな、寺前さん、今お前を全然男として意識してないから、こんな感じなんだろうな」
「しなだれかかる、とかじゃないですよね、完璧に腕が枕状態・・・」
「まあまあ、寝てるやつは放っておいて、何か頼みなよ、腹減ってるだろ?」
「はい、メニューこれですか?工藤さん、なんかお勧めありますか」
「・・・ん・・・ここらへんがうまいってさっき寺島さんが話してたよ」
メニューの冊子の開いた音がする。
「・・・ふ~ん」
名倉さんは何か納得したような声を出していた。