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キッチン・オブ・ザ・デッド

作者: 6969


 料理。

 この地球が生まれて幾世紀。

 人間が発明してきた中で最も偉大な発明は料理である!

 と誰かが言っていた気がする。

 言っていなかったのであれば私が言った。

 名言である。

 観客は皆、すた・・・・・・すたんど・・・・・・すたんどまん?

 待って、調べる。

 うん、うん。

 スタンディングオベーションか。

 そう、スタンディングオベーションで拍手喝采お捻り一杯、私を讃えるためにスカイツリーがもう一本建つことになるだろう。



 料理。

 民族、地域、時代などに応じて進化し続ける人間の技巧。

 素晴らしい。

 素晴らしすぎる。

 地球が自転していたのはこの時のためだったと言っても過言ではないはずだ。

 ガリレオだってそう思っているだろう。



 まぁ、ともかくだが、現代社会においては性差なく行われるこの料理という行為。

 それは時に愛情を示す好意でもある。



 そう、手料理である!


 気になるあの子にチョコレートを渡す。

 バレンタイン!!

 そう、ここに集中線を引いてほしい。

 なんかすごい効果音とかも。


 いや、このバレンタインにチョコレートを渡すという行為は日本のお菓子メーカーの陰謀であるらしいのだが。

 まぁ、いいのだ。

 陰謀とかよくわかんないし、何かネチネチしてそうだし、チョコレートはおいしいし。

 そう、大切なのは手料理が愛情を伝える行為であるという事実なのだから。



 愛。

 そう、愛。

 私は今、愛を伝える、否、告白の為に手料理を作っていた!!




 あと、なんか天井に茹でていたはずの卵が刺さっていた。




「なんじぇぇええ?」




 天井に卵が刺さっていた。

 茹でていた卵が軽快な音を立てた。

 そう思った瞬間には天井に刺さっていたのだ。



「う・・・・・・とにかく・・・・・・天井の卵をどうにか・・・・・・」




 取ろうと思ったところで、もう一度軽快な音を立てて卵がもう一つ吹っ飛ぶ。

 宇宙を駆ける流れ星のように見事な放物線を描いて飛んでいった卵は、見事に、いや、無様に床に墜落して潰れた。

 当然、殻は割れて中身が飛び出す。

 黄身はまだトロリとしているがほぼほぼ茹であがっている。

 もう少しでゆで卵が完成しそう、いや、完成していたというのに。


 床にヘバリツいた卵を私の愛犬、ゴールデンレトリバーの落ち着けが尻尾を振って喜んで食べ始めた。

 ゴールデンレトリバーの落ち着け。

 彼はもともとジョセフィーヌという名前だったのだが、人間大好き遊ぶの大好き世界大好きの馬鹿犬すぎて、常に周りから「落ち着け!! 落ち着け!!」と叫ばれていた。

 そして、大きくなった今はそれが自分の名前だと思っているのだ。

 愛すべき馬鹿犬である。





「なんじぇぇええ?」

 私は情けない声を上げながら膝から崩れ落ちた。


 ゆで卵。

 ゆで卵を作るだけなのに何故天井に刺さったのだろう。

 何なら小学校の時に皆でやったはずなのに。


 ゆで卵を食べていた落ち着けがフンフンと鼻息を荒くして私の側に近寄ってきて、顔を舐めた。


「・・・・・・半熟の黄身がついてんだよなぁあ」


 いぃん、と手で落ち着けの顔を向こうへ押しやるが、遊んでもらっていると勘違いしたらしい落ち着けが興奮して、私の手を舐め回して更に黄身を塗りたくった。



「んぉあああ・・・・・・」






*******************





「つまり、この惨状は料理を作ろうとしたわけか」

「そうなんです」

「くぅん?」


 井上あぽろ。

 それがちょっぴりドジでキュートな恋する乙女たる私の名前である。

 そして、この私の前で仁王立ちしているのが同居中のいとこ、井上ぽあろちゃん。

 私の一つ上のしっかりした女の子です。


「あ」

「は?」

「そして、こっちは黒猫じゃない落ち着け!」

「急に何言い出すの、アンタ」

 落ち着けの頭をガシッと掴むと、落ち着けは「なんだこいつ」見たいな瞳で私を見上げた。

 馬鹿犬め。

 これは世界に伝わるジャパニーズ芸術だぞ。

 勉強しておきたまえ。


「で、何作ってたの?」

 心底どうでもよさそうにぽあろちゃんが私に問いかける。


「ふっふっふ」

 それに私が不敵なほほえみで返す。


「ぽあろちゃんは知らないだろうけどね・・・・・・実は! 私には好きな人が居るのです!」

 ビシリとぽあろちゃんに人差し指を突き立てる。

「犯人はいつも一つ!!」

「それ、真実ね」

 ぽあろちゃんが指していた指を握って逸らす。

「あと、好きな人は何度も騒いでたから知ってる。下手したらクラス中知ってる」

 逸らした後に、ぽあろちゃんが蟀谷を押さえた。

 頭痛でもしているのかもしれない。



「その相手はそう、モブ原モブ夫くん!!」

「いや、竹中辰巳くんね。いい加減名前覚えてあげな? 竹中くん「結構仲良くなったはずなのに、全然名前覚えてくれないんだけど」って気にしてたよ? え、好きなんだよね?」

「そう、私はスーパーキューティー美少女名探偵井上あぽろちゃんではあるのですが、相手はあのモブ原モブ夫くん・・・・・・」

「だから、モブ原モブ夫じゃないって・・・・・・」

「彼は生まれた瞬間から九九を覚え、WHOを牛耳り、宇宙船の発射スイッチを持つ男!!」

「いや、誰だよ。それがモブ原モブ夫なら竹中とは別人だよ」




「そんな彼に告白するために私は手料理を作ることにしたのです!!」

 胸を張って宣言する。

「これで彼のお命をちょうだいします!!」


「暗殺なんだよ、それじゃあ・・・・・・」

 蟀谷に手を当てたまま、ぽあろちゃんが目を瞑る。

「うん、で、何作ってたの? メニューね、メニュー」



「チョコレートだよ」

「・・・・・・天井にゆで卵が刺さっているのに?」

「チョコレートに必要なんだ」

「天井に刺さったゆで卵が?」

「そう、天井に刺さったゆで卵が」

「現代アートかと思ったわ」

 ぽあろちゃんと共に天井に突き刺さったゆで卵を見ていると、そのままゆで卵が床に落下した。

 そして、落ち着けが尻尾を振ってそれに駆け寄り食べ始める。

 美味しいか、私の作ったゆで卵は。

 さっきまで天井に突き刺さっていたとは思えないだろ。


「ゆで卵でどうやってチョコレートを作ろうと思ってたの?」

「? なんかの番組で食品の大体には卵と牛乳が使われているって言ってたから」

「うん、うん。駄目だ料理の本をキチンとみよう。それかネットで調べよう」

「でも卵でチョコレートを作る方法を調べてもなくて」

「そりゃあ、ないだろうね」

「だから、こう、とにかくやってみてピンチになったら何かこうパーとなってシャララとなってチョコレートができるんじゃないかと思って」

「できる訳ないんだよなぁ。実は人間って奇跡が標準装備されているわけじゃないんだよ。漫画じゃないんだから・・・・・・」

 卵を食べ終わったらしい落ち着けがこちらに近づいてきて、私に左前足を何度も突き出す。

 おかわりである。

 もっと、卵が欲しいらしい。

 だが、確か大型犬の卵適量は二個だった気がするのでもうなしだ。

「おしまい」

 そういって落ち着けの鼻の前に指を突き出す。

「う”ぅ」

 落ち着けが不服を表明して唸ったがおしまいはおしまいだ。


「ごめんつまり何、ゆで卵ではチョコレートが作れないって言ってる?」

 私がぽあろちゃんに向き直って問いかける。


「そうだよ」

「マジすか学園」

「マジすよ学園」

「え、つまり、茹でたのが駄目だったてこと?」

「いや、卵を選んだのが駄目だったってこと」

「え、そんなに最初から!?」

「そうだよ」

「じゃあ、何? チョコレートは卵ではできてないの!?」

「チョコレートはカカオでできてるんだよ」

「マジすか学園」

「マジすよ学園」


 ショックである。

 落ち着けが私の足の間だから顔を出して、ふん、と鼻から空気を発射した。




「チョコレートを作るにはチョコレートを買ってくればいいんだよ」

 ぽあろちゃんの言葉に私は首を傾げた。



「でも、チョコレートを作りたいのにチョコレートそのものを買っても仕方なくない? 作るんでしょ?」

「・・・・・・いや、作るというか、正しくは溶かして形を変えるというか」

「溶かして固めたら商品が劣化するんじゃないの? それならチョコレートを一から作った方が劣化が少ないのでは?」

「あぱろちゃん、君は正しいけど全く正しくない。というか、何も知らない人間が語る正論は暴論なんだよ、黙ってろ」

「はい・・・・・・すみません・・・・・・」

 ぽあろちゃんが殺人現場のような顔で私を睨んだ。

 そして、私は秒で降参した。

 時にはすぐに負けを認めることも大切なのだ。

 私は天才だからよく分かる。








「ちょっと、あぽろちゃん、君が昨日チョコレートをあげた竹中くんだけど、今日学校に来ていなかったってね。もしかして、チョコレートに変なものを入れてマジでしとめてないよね?」

 帰ってきたぽあろちゃんが何かいっているが、それどころではない。


「つまり、私のチョコレートを食べたモブ原モブ夫くんが異世界転生したって事ですか!?」

 電話相手の言っていた事を纏める。

「そして、チョコのおまけに付けていた私のゆで卵が異世界無双してるんですか!??」



「・・・・・・あぽろちゃん、それ多分詐欺だから、電話きりな」

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