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取り替ヘつ子

〈暮れの春はだかの腕に羽蟲かな 涙次〉



【ⅰ】


 警視庁内に「魔界壊滅プロジェクト」(以下「プロジェクト」と略)なる部署が出來た事は、前回書いた。統括官には仲本尭佳が就任。このプロジェクトには、莫大な資金が下りた。それは、要するにカンテラ一味への謝禮として用意されたカネであり、何処までも一味に「おんぶに抱つこ」な警察サイドのやり口は變はらなかつた、と付け加へて置かう。また、アンヴィヴァレントな事だが、この組織、一味の暴走を食ひ止める、と云ふ密命をも、受けてゐた。


 暴走‐ 例えば、杵塚が撮つた魔界のフィルムであつたが、カンテラはそこで、黑ミサの「祭壇」になつてゐた、人間の女もを、斬つてゐる。それは当然の如く、検閲でカットされ、その検閲は、「プロジェクト」に依つて行はれた。


 それでも、このフィルム『ザ・魔界』は、マスコミ界に大々的に採り上げられ、特に楳ノ谷汀の番組では、「遂に魔界の内部に、カメラが潜入!!」と一際大きく「報道」された。



【ⅱ】


 そこで(疲れのせゐでぼおつと日々を送るカンテラを他處に)ぼやぼやしてゐる鰐革男ではなかつた。

「名も知れぬ」黑ミサ「祭壇」となつた女の腹から、胎児を取り出し、自らの擁する「ホムンクルス」用培養液に漬け込んだのだ。そして、魔導士としてはカンテラに並ぶ實力者である彼、は、或る「秘術」を使つた。胎児を乳児にまで育てる際に、その顔、躰、仕草を、君繪そつくりに仕立て上げたのだ。


 中野區には、「1歳児検診」なる區の定めた行事があり、指定病院に、悦美は君繪を預けた。その時、鰐革のまたしてもの惡事が行はれた。ホムンクルスである子を(それは鰐革自身の子である)、君繪の「取り替へつ子」にしたのだ。「くひゝ、これでカンテラたちは内部から崩壊する-」

 君繪は魔界の乳母に手渡され、「ママ、パパ、え~ん」と泣いてゐる。だが悦美、まんまと鰐革の策に引つかゝつてしまつた...



【ⅲ】


「1歳児検診」を終へて、ベビーカーで悦美が「偽君繪」を事務所に連れて帰つてきた。タロウは盛んに吠え立てた。この子は【魔】の子だ、と気付いたのだ。だが、さうとは知らず、「タロウちやん、何をそんなに吠えてるのー?」と、まさか自分の子供ではない事を知らない悦美は不審な顔。


「よしよし、タロウ。君繪が帰つて來たんで、嬉しいんだよな」と、流石のじろさんの慧眼も曇つた。テオ、不思議に思ひ、テレパシーでタロウと對話、「タロウ、何を吠えてるの?」「アレハ君繪チヤンヂヤナイノデス。ソツクリナ『取リ替ヘツ子』ナノデス」テオ、愕然。だが、カンテラは疲れから、外殻に籠りつきりだし、当の悦美は疑つてもみない。


「待て待て、自分。よーく考へるんだ」とテオは、その深みを探らうとした。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈子が違ふ事に何かの疑念持ち動く母などこの世にをらぬ 平手みき〉



【ⅳ】


 思ひ余つたテオ、休養明けの「シュー・シャイン」にその事を相談した。「な、何と。流石は鰐革(勿論これは褒めてゐるのではない)、テオさん、私と同道願へますか。動かぬ証拠を摑みませう」「よしきた」


 二人、と云ふか二匹は、「思念上」のトンネルを下つて行つた。鰐革は、不幸中の倖ひで、「プロジェクト」に監視されてゐる魔界からは、姿を晦ましてゐた。

「見つけたぞ!」テオが叫ぶ。本物の君繪が、乳母に抱かれて、そこにゐた。テオは乳母に、「あんたにも子はあるんだらう? 人の子ならば、こんな惡事が働けるのかい?」と、云ひ寄つた。乳母は翻心した。やはり、子供と云ふのは、魔物にとつても、特別な存在なのだと見えた。



【ⅴ】


 乳母は、「但しこの事は鰐革様にはご内密に。知れたら、私は消されてしまふ」-テオ、その事を約し、だうにか人間界に、本物の君繪を連れ戻す事、成功した。


「あとは、悦美さん次第だな」固唾を呑む、テオと「シュー・シャイン」。「え、え、君繪が二人...!!」だが、母の力とは偉大である。悦美は、本物の君繪を抱いて、「ご免よ~、ママが莫迦だつたわ~」。テオは、乳母と「偽君繪」の身柄は、取り敢へず「をばさん」のアパートに隠した。


 じろさん、「これは鰐革に一本取られるところだつた。テオちやん、『シュー・シャイン』、タロウ、本当に感謝するよ」



【ⅵ】


 カンテラの寢てゐる内に、事件は起こり、また解決した譯だが、彼を起こすかだうかについては、じろさん・テオ、大いに悩んだ。寧ろ知らなかつた、で濟んだ方が、カンテラの為になるのではないか。鰐革に追ひ立てられてゐる、カンテラの每日であつた。「疲れ」もその為になかなか癒されず、カンテラを苦しめてゐる。


 テオはその事は、じろさんに一存した。じろさんは結局、「プロジェクト」に、またしても鰐革の惡だくみを粉砕した事、説明しに行つた。仲本さんから、「特別に」金一封。「これが上に知られると不味い」と、じろさん、口外せぬ事を、仲本さんと決めた。無論、カンテラにも、である。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈我が心日曜日なる日にもまた辛い定めはごろごろあるや 平手みき〉



 と云ふ譯で、今回テオくん大活躍でした。やはり男はア・タ・マ。そんぢやまた。


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