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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合シチュエーション自由形

作者: さわじり

「……今日の決勝戦、やばくない!?」


 30歳OL、昼休み。デスクでスマホを開くと、SNSのトレンドに『#百合オリンピック』の文字が躍っていた。仕事をしている場合ではない。急いでライブ配信を開く。


 画面に映し出されたのは、「百合シチュエーション自由形」の決勝戦。世界中の百合好きたちが、己の理想のシチュエーションを全力でプレゼンし、技術点・情熱点・構成点の合計で競い合う熾烈な戦いだ。



「ついに決勝戦です!」


 会場は興奮に包まれていた。実況席には、この競技を長年追い続けてきた解説者が並ぶ。


「とうとうここまで来ました! 繊細な心理描写を武器にする日本代表VS圧倒的なエネルギーと情熱で攻めるアメリカ代表! どちらが世界一の百合ストーリーテラーとなるのか!?」


「先攻はアメリカ。彼女たちの戦略はいつもパワフルでドラマチック。どんな攻め方を見せるのか、楽しみですね」


 会場にアメリカ代表が登壇する。金髪をポニーテールにまとめた長身の選手が、力強くマイクを握ると、会場が静まり返った。


「私が語るのは、『ライバル百合』!」


 観客席からどよめきが起こる。審査員たちの表情が引き締まる。


「彼女たちは、バスケットボールのライバルだった。ずっとお互いを超えようと競い合い、火花を散らしていた。でも……ある日、試合後のロッカールームで、彼女はこう言ったの」


 アメリカ代表が一拍置く。そして、ぐっと前に出て、情熱的な声で叫ぶ。


「『あんたと試合をするたびに、心臓が爆発しそうになる! なんでか分かる!? これは、恋よ!!』」


 会場が大きく沸いた。審査員の1人が思わず身を乗り出す。実況と解説が大声で補足する。


「きたあああああ! アメリカらしい、パワフルな告白だ!」


「ライバル関係を『戦い』として描きながら、その熱量をそのまま愛へ転化させる、まさにアメリカ代表の彼女らしいシグネチャーですね」


 アメリカ代表はそのまま続ける。


「二人はお互いを高め合いながら、何度もぶつかり合い、乗り越えてきた。そして最後の全国大会。決勝戦。試合が終わった瞬間、彼女は駆け寄り、息を切らしながら……」


 拳を握ると、彼女は熱く叫んだ。


「『バスケでも、人生でも、あんたと最高のライバルでいたい! だから――私と付き合いなさい!』」


 観客のボルテージが最高潮に達する。アメリカ応援団が星条旗を振り、絶叫する。実況が叫ぶ。


「なんという力強い告白! これは審査員の心を揺さぶるぞ!」


「技術点よりも、情熱点で大きくリードする可能性がありますね」


 スコアボードに点数が表示される。


技術点:8.5

情熱点:10.0

構成点:9.0

合計:27.5


「27.5!これは高得点だ! さすがアメリカ!」


 しかし、ここで日本代表が立ち上がる。静かにマイクを持ち、一礼した。


「それでは、後攻……日本代表です!」


 彼女は落ち着いた口調で語り始める。


「私が提案するのは、『幼馴染百合のすれ違いと再会』です」


 会場がざわつく。審査員たちの目が光る。実況が興奮気味に解説を入れる。


「きましたね! 王道ながらも奥深いテーマ! ここをどう独自の視点で語るかがポイントになります!」


 選手は続ける。


「小学校の頃から一緒にいた二人。しかし、中学で進学先が分かれ、次第に距離が生まれていきます。やがて高校、大学と時間が経ち……社会人になったある日、雨の中で偶然の再会を果たすのです」


 観客席から微かな嗚咽が聞こえた。審査員の一人はメモを取る手を止め、静かにうなずく。


「二人は最初、他人行儀に振る舞います。でも、かつての思い出がふとした瞬間に蘇る。例えば、コンビニの前で傘を差し出されたとき、あるいは懐かしいあだ名で呼ばれたとき……その度に、胸の奥が熱くなるんです」


 実況が盛り上がる。

「ここでクライマックス!彼女はどうやって二人の関係を成就させるのか!?」


 日本代表は静かに息を吸い、決め台詞を口にした。


「『あの頃の続き、しない?』」


「うおおおおおおお!!」


 会場が割れんばかりの歓声に包まれる。実況も絶叫。


「決まったぁぁぁ!! これは金メダル級の破壊力!!」



 OLは涙目でスマホを見つめた。


「……この競技、毎年やってほしい……」


 その日、午後の仕事はまったく手につかなかった。



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これは確実に毎年やってほしい
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