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メビウス  作者: 和泉 兎
8/11

***

 そこには、ただ暗闇があった。


 それ以外には緑色に光り輝く河が流れているだけだ。

 河には蛍が飛び交っているが、点滅しているその光は青い。


 空も大地も見えない。

 空間は、ただ黒かった。


 そんな場所で、紺色の和服を身に纏った男が、煙管をくわえて地面らしき辺りに寝転がっていた。


 男は無造作に腰辺りまで伸ばした黒髪をかき上げて、大きな欠伸をこぼす。

 着崩した着物が妙に色っぽいのは、この男の容姿が麗しいからだろう。


 そこへ、ひょっこりと白い狐がやって来た。

 そして、足音もなく男の隣まで来ると声をかけた。


鬼灯(ホオズキ)さん、仕事してくださいよ」

「ああ?めんどくせぇ」


 鬼灯と呼ばれた男は起き上がりもしない。

 狐はもう一度大きな声で名前を呼んだ。


「鬼灯さん!」

「わぁったよ」


 鬼灯は本当に面倒臭そうな表情を浮かべながらも起き上がり、河辺に浮かぶ光の塊を手のひらに載せた。


 どこからか流れ着いたのか、まるで占いに使われる水晶玉のようなそれに額を付ける。


「……んあ?」


 鬼灯は素っ頓狂な声を上げて玉を見つめた。

 それを見て、白い狐が問いかける。


「どうですか?」

「“こんなことなら、誰も愛さなければよかった”……だとよ」


 鬼灯は卑屈な笑みを浮かばせて、光の玉を緑色に輝く河に放り投げた。


「馬鹿な奴だ。また繰り返せ」

「また、“昌樹”ですか?」

「希望通り、ぴったりだろ?」

「意地悪なひとですね」

「なんでだよ。誰も愛せない人生を選んだのは、こいつだろ」


 消えては灯る青く儚い光の中で、鬼灯の笑い声が響き渡った。

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