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ショウ、異世界人に出会う

本編「精霊王子と漆黒の姫」に錬金術の村が出てきたので、番外編を書いてみました。

これは、旅を続けていたときのショウのおはなし。


ちなみにヒナとは現在別行動である。

精霊の森のあとに立ち寄った港町で疫病が蔓延していたので、ヒナが回復魔法を発揮しまくった。

おかげで聖女と崇められて住民たちに囲まれてしまったのだ。

「しばらくここでアフターケアしていくからショウは次の目的地で待ってて」と言われたため一人で北へ向かったのでした。




ショウは聖山の麓に広がる田んぼを見ながら談笑していた。


以前見かけた米が欲しくて、産地を探していたらそこに日本人がいたのだ。

昭和の時代から迷い込んだという彼は、田植えの手伝いで稲の苗を運んでいるときにこの世界へ迷い込んだそうだ。

農家の夫婦に拾われたついでに、手にしていた苗を育ててみたらうまい具合に増えていったようで、その後「異世界人の米」として地元で有名になったとのこと。


おかげでショウも美味しい米を食べることができたと言うわけだ。


欲しかった米を無事に買うことができただけでも嬉しいのに同郷がいたのだ。

テンション爆上がりで世間話をしていると、他にも異世界人がいて聖山の奥に住んでいるらしいと教えてもらった。


ーーそれならぜひとも会ってみたい!!



そう思って、勢いだけで聖山の中に探しにきてしまった。

とは言っても飛ぶ絨毯で上空から探したら意外とすぐに見つかったのだけれど。

遠目に民家があるのが見えたので、近くに着陸して歩いて村に向かった。



「わー! 本当にこんな山奥に村がある〜」


ショウは目の前の景色に興奮した。

なんだか懐かしい佇まいの小さな家が5軒ほど立ち並んでいる。

周りは畑と森林。人影が数人見えるが、みんな黒髪だ。


ーーやっぱり! ここにも日本人がいた!



日本人らしき人たちを目にして感動していると、男の人に声をかけられた。


「誰だおまえ? どこから来た」

「あっごめんごめん! 異世界人がいる村があると聞いて、もしかしたら俺と同郷かもと思って来てみたんだ」


彼も黒目黒髪。でも彫りはハーフっぽい?


「・・・オレはチョウノスケ、村長の息子だ。おまえは?」

「俺はショウ。旅をしながらいろんな物を作ってる」

「錬金術師か?」

「似たようなもんかな」


じろじろとこちらを見てくる。

警戒されているのかな。

そりゃ、こんな山奥の村に知らない人が突然やって来たら怪しいよね。


「ねぇ、キミが異世界人?」

「オレは孫だ、爺さんが異世界人だった。他にも何人かいたらしいが、今いる異世界人は1人だ」

「その人に会えますか?」

「・・・そいつなら、向こうにいるぞ」


指さされた畑の方を見ると、一人の男性が野菜を収穫していた。


「ありがとう、ちょっと話をしてくるよ」



畑にいた彼は、1年ほど前にこの村にやってきたそうで、21歳だそうだ。

俺よりちょっと年上。なんか少し緊張する。


「オレはマサキだ。体育大学の学生だったんだが今はこのとおり」

「俺はショウ。高校の入学式前にこっちに来て、3年近くなるかな? 旅をしながらいろんな物を作ってる」

「異世界では大先輩だな。ものを作るのはスキルか何かか?」

「俺、鑑定してもらったら〈モノ作り職人〉だったから自由にいろいろ作ってるんだ」

「いいなあ。俺も鑑定してほしいよ」


「あー⋯⋯でもその前に家がほしいな。今は村長の家に居候してるから」

「居候かぁ。気を使うよね」

「そうなんだよ。良い人たちなんだけど、なんか申し訳ないし気持ち的に肩身が狭いと言うかさ」

「じゃあ家を作ってあげようか?」

「えっ作れるのか?」

「だって俺、モノ作り職人だからね!」

「うはっマジかおまえスッゴイな!」


「どんな家が良いとか希望ある?」

「そうだなぁ。この村に建ってても違和感がなくて、でも日本みたいな快適さも欲しいし・・・」

「古民家みたいなかんじかな。茅葺き屋根で縁側があって・・・」

「うんうん」


「せっかくだから忍者屋敷みたいのとか、どうかな?」


「それだ!!!!!」


こうして俺は忍者屋敷を作ることになった。

ヒナからはまだ連絡ないけど、待たせるといけないから早めに完成させなくては。




「チョウノスケ、どこか土地があまっていないか? 俺がいつまでも居候じゃ申し訳ないと言ったら、彼が新しい家を作ってくれるそうだ」

「家? 錬金術ってのはそんな物まで作れるのか?」

「あ〜・・・俺、正しくいうと〈モノ作り職人〉なんですよね」

「モノ作り? 聞いたこと無いな。家を建てるならその辺の木を伐採して場所を空けないといけないぞ」

「じゃあ俺が木を倒すから、そのまま木材として使わせてもらって良いですか?」

「この山の木は太くて頑丈だぞ」

「魔法を使えるから大丈夫です」

「そうか、なら好きにしてくれ。親父にはオレから言っておく」


あっさりとOKが出たので俺とマサキくんは顔を見合わせて喜びあった。


「イエーーイ!!」

久しぶりのハイタッチの響き。

懐かしい感覚だ。




家を建てるためには、まずは場所を確保しないといけない。

好きにしてくれと言っていたから、良さそうな場所をマサキくんに選んでもらって魔法で木を伐採した。

倒した木は作業のジャマになるのでひとまずマジックバッグの中へ。


数時間後、森の一角の木々が消えた。

大丈夫だよね、これ?

倒し過ぎとかいって怒られないよね?


チョウノスケくんは森の中にぽっかりと空いた空間を唖然と見つめていたが、怒りはしなかった。



さらに数時間後。

そこには立派な茅葺き屋根の家が建っていた。


倒した木の邪魔な枝を落として、使いやすいサイズに切って、皮を向いて。

もちろん魔法で適度に乾燥させてある。

柱を建てて、壁を付けて、床を貼って。

屋根に使う茅は今まで貯め込んでいた物を使用した。

ストックしておいて良かった!



「マサキく〜ん、これから家の中を整えていくけど、希望はさっき言ってたかんじで大丈夫?」

「ああ、忍者屋敷みたいなかんじでヨロシク!」

「オッケ〜! まかせといて!」



トンカン、トンカン、ギーコギーコ、コンコンコン⋯⋯



作業中は建築中の家に泊まることにした。

食料はマジックバッグの中にあるから外に出ることなく建築に集中できる。


忍者屋敷といったら、やっぱり回転扉でしょ。

こっちの奥を隠し部屋にして、扉はフェイクも用意して・・・


掛け軸の後ろが隠し通路ってのも定番だよね。

掛け軸ないけど・・・とりあえず大きな絵でも掛けておくか。

こういう時は「モノ作り職人」で良かったって思うよ。

欲しいものは大抵自分で作っちゃえるチートの有り難さよ。


屋根裏も活用したいな。

縄梯子を作って、ここに隠して・・・

あ、秘密の収納場所とかもあると良いよね。

床下とかにも仕掛けを作っておこう。


畳も必要だよね。

畳ってどうやって作るんだっけ?

なんとなくでいいか。

い草がないから乾燥させておいた草を代用しよう。

長さごとに揃えて、糸で織って、木くずを圧縮した板に張って。

縁は手元の布を縫い付けて⋯⋯完成。

うん、見た目は畳っぽい!




「できたーーーーーっ!!!」


あれから5日ほど経過しただろうか。

完成した感動でつい叫んでしまった。


「えっなに、できたの? ありがとう、ショウ」

「待たせてごめんね、マサキくん。つい楽しくなっちゃってやりすぎちゃったかも」

「はははっショウって本当に作るのが好きなんだな」

「いや〜、こんなの作るなんて初めてだしワクワクしちゃって。これもロマンだよね〜」

「そうだよな、男のロマンだよな!」


「中はどうなって・・・うおーっすっげぇ! ちゃんと忍者屋敷だ。おまえ本当にすごいよ!」

「ふっふっふ。もっと褒めても良いよ」

「満足そうだな。一緒に忍者ごっこでもするか?」

「ふっふっふ。おぬしも悪よのぉ」

「悪役になってるぞ」


マサキくんはとても嬉しそうだ。

作って良かった!


「一人でこんなの作るなんてチートかよ」

「ついでに手裏剣とかマキビシっぽいのも作って飾っておいたよ」

「マジか! ありがとう!」



「なぁ、オレも中を見て良いか?」

「もちろん! ぜひ見てってくれ」


興味津々なチョウノスケくんが寄ってきたので、マサキくんがウキウキしながら案内をしてた。

ちょっとドヤ顔なのは見なかったことにしておこう。


「うわっ本当に広いな。それに面白そう」

「なんなら一緒に住むか? こんなに広いんだし」

「いいのか?」

「こっちは問題ないぞ」

「今度はオレが居候することになるのか」

「嫌なら無理にとは言わないけど」

「いや、住みたい。一緒にすまわせてくださいっ」

「じゃあ、これからもヨロシクな!」


ニッカリと笑うマサキくん。

ふたりとも楽しそうで良かった。


「さて、話がまとまったところで問題があります」

「えっ急になんだよショウ」

「家の中のライトとかお風呂とか、電気がない代わりに魔道具を設置してます」

「そんな貴重なもの・・・ありがとう」

「ただし! 家も魔道具もメンテナンスが必要です。なので覚えてもらいます」

「「ええっっっ!?」」


「あはは、大丈夫! 聖山は魔素が多いから錬金術に向いてると思うよ。それに作れるようになったら売ることもできるし一石二鳥じゃない?」

「それはそうだけど・・・できるかな?」

「大丈夫、大丈夫。簡単なものなら3日もあれば覚えられると思うよ」



予想通り、チョウノスケくん達は3日でランプ型の魔道具を作れるようになった。

チョウノスケくんは魔法の適正があるからマジックバッグの作り方も教えてあげた。

それでも難しいようで、なかなか完成には至らない。


そのうちヒナから連絡が届いたので迎えに行くことになってしまった。

別れ際にチョウノスケくんから「この村の存在は内緒にしてほしい」と頼まれたので、ここでのことは秘密にしておく。

マジックバッグの完成を見届けられないのは残念だけど、また遊びに来る約束をしたので次回は手土産を持ってこよう。

マサキくんは和食とか喜ぶだろうか? 重箱におにぎりやおかずを詰めてくるのも良いかも。


ああ・・・運動会のお弁当とか、おせちとか、懐かしいなぁ〜・・・


高く澄み切った青空を見上げてショウは少しだけ思いを馳せた。




ショウが立ち寄ったこの村は「錬金術の村」として有名になるのですが、それはもう少し未来のおはなし。

読んでくださり有難うございます!

今年は初めてなろうに作品をアップしまして、久しぶりに物語を書く楽しさに時間があっというまに過ぎていきました。読んでくださった方々に心から感謝申し上げます。

ショウも今頃おせちの準備をしているかもしれません。

みなさまも素敵な新年をお迎えください!


◯よろしければ感想をお聞かせください! 下の☆評価でも、いいねでも頂けると嬉しいです。


◯連載中の本編「精霊王子と漆黒の姫」もよろしくお願いいたします!

※ショウが作った家は、錬金術村の本家になります。

https://ncode.syosetu.com/n5138jp/

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