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カイとテオドールのほろ酔い談話

ダラダラ回です

大陸の南西にある火山の地下深く。

火山から北西に長く伸びる地下ダンジョンの最奥には海底都市に繋がる階段がある。


海底都市といっても、住んでいるのは管理をまかされているテオドールだけ。

あとは時々カイが遊びにくるくらいだ。


半球状のドーム結界に守られているこの場所は、海中にあるため魚が泳いでいるのがよく見える。

群れを作って泳ぐ小さな魚、それを追いかける大きな魚、たまに巨大魚の魚影も見かける。


昼は海面ごしに太陽の光が揺れ、夜はやわらかく届く月明かりが神秘的な世界を魅せてくれる。

今夜は満月。いつもより明るい光が海底まで届いていた。

光る魚が小さな群れを作って泳いでおり、近寄っては遠のいていく。



「海底都市」なのに住んでいるのは一人だけなのかって?


それは仕方がない。

ここはショウが造った秘密の場所だ。

作り始めたら創造ハイになって、作るのが楽しくてドンドン造ってしまった。

中二病思考を発揮したため、他者には見せられないような仕掛けがたくさんあるのだ。

ショウ専用のモノ作り実験場と言えるかもしれない。



そんな海底都市の、ダンジョンへの扉にほど近い3階建ての家にテオドールは住んでいた。

お気に入りはテラスのテーブルで酒を飲むこと。


今日も酒とつまみとグラスを並べて、ぼんやりと月明かりに浮かぶ魚影達を眺めていた。


「悪い、遅くなった」


転移扉を通ってカイがやってきた。

両手で大きな籠を持っていて、ワインやバゲット、魚などの食料が覗いて見える。


「いらっしゃい、準備は出来てるよ」


明るいランプが照らすテラスで、テオドールはゆったりした椅子に持たれながら笑顔で迎えた。


「あれっもしかして、すでに飲んでた?」

「少しだけな」

「遅くなって悪かったな」

「いいよ。そっちこそ城の方は大丈夫なのか?」

「今日は魔族のみんなで満月祭りをするんだってさ。あっちも宴会だよ」

「参加しなくて良いのか?」

「たまには同族だけで水入らずってのも必要だろ」

「たしかに」


話しながら白ワインを開けてグラスに注ぐ。


「じゃあ、久しぶりに」


「乾杯!」


カイとテオドールはグラスを交わしてニッと笑った。


ショウとヒナの行方がわからなくなって数年。

テオドールは今日、30歳の誕生日を迎えた。




「けど、あれだよな〜」

「なんだよ?」

「せっかくの誕生日なのに祝ってくれる女もいないのかよ?」

「俺はそういうのはいいんだ。生まれからして真っ黒だからな。相手が可愛そうだろ」

「王家の陰だっけ?」

「そ。しかも嫡男じゃないから他の奴らがやりたがらない仕事ばっかり回されてさぁ」


ナッツを口に放り込んでガリガリと噛み砕く。


「ほんと、ふざけんなっつーの」

「まだテオのこと探してるのか?」

「一応探しているみたいだけど、ほとんど諦めてるかんじだったな」

「まあ、海底にいるうちは探しようがないだろうしな」

「この前、久しぶりに王国方面にでかけたときに知ってる顔を見かけたよ。俺は変装魔導服を着てたからちょっと近くまで行ってみた」

「そんなことして大丈夫なのか?」

「三男のヤツは未だに俺のことをしつこく探し回ってるらしい。面倒くせぇ〜」


カリカリに焼いたバゲットに、ガーリックバターとベーコンチップスを乗せてかぶりつく。

うまい。



「自由に出歩けるのはまだ先になりそうだな」

「今のままでも不自由してないから問題ないさ」

「そうか?」

「ショウの魔道具様々だぜ」


隠密ローブや変装魔導服があれば転移門を通って行きたいところに行ける。

とはいっても、転移門の出口はちょっと・・・いや、かなりクセが強いので、ダンジョン入口と聖山の出口しか使っていない。

精霊の森とエルフの里への扉は開ける勇気がない。いや普通に無理だろ。

ショウのやつ、もうちょっと考えて行動しろよ。

帰ってきたら説教してやる。


ワインで喉を潤して、生ハムチーズをパクリ。

しっとりしてうまい。



「カイに教えてもらったレシピはほんと美味いよな」

「うちは親が共働きでいないことが多かったから、俺がご飯作ることもあったし結構得意なんだ」

「お前も大変だったんだな」

「ヒナが美味しいって喜んで食べてくれたから作り甲斐あったぞ」

「ああ、なるほど」


それで女の子が好きそうなレシピが多いのか。

今度は揚げた野菜チップスに甘辛ディップをつける。

パリパリしてうまい。

酒も進む。



「あいつらはいつになったら帰ってくるんだろうなぁ」

「ほんと、どこをほっつき歩いてるんだか」

「なぁカイ、俺はいつまでここにいれば良いんだ?」

「寂しくなったら魔族領に来いって言ってるだろ」

「でも俺、人間だぞ?」

「俺だって人間だよ。異世界人だけど」


べつに魔族領に行ったって問題はないんだ。

ショウが作ってくれた身体を保護する魔道具があるから。

実際、その魔道具のおかげでカイは魔族領でも元気に暮らせている。


それは、分かってるんだが。


カリカリバゲットに、チーズと一緒に魚のマリネとハーブを少し乗せる。

うん、ワインに合うな。

スパークリングワインも開けるか。



「まぁ、いざとなったらよろしく頼むよ」

「すぐにでも大丈夫だぞ?」

「いや、まだ当分はここであいつらを待っててやりたいから」

「いつまでもそんなこと言ってると、あっというまにジジイになるぞ」

「ショウが置いていった成長時間をゆっくりにする魔道具があるから当分は大丈夫だろ」

「いつまで効果があるかわからないじゃないか」

「その時はそれが運命だったってことさ」


しれっと返事して、貝の酒蒸しを頬張る。

ああ。最高だ。



「だいたい、ショウが作ったこのトンデモ魔道具達を放おっておけないだろ」

「こんな海底に誰も来ないと思うが」

「もしもということもある」

「地中に埋めるか・・・?」

「それはもったいねぇ」

「なに? 使ってんの?」

「便利なのとか面白い魔道具もあるから、たまにな」

「誰かに見つかったらロクなことにならないのは間違いない」


ワインのシュワシュワが喉に心地良い。


ジュレのかかったカップサラダを持ち上げる。

ランプの光が反射して綺麗だ。



「そっちこそ、姫さんとはどうなんだ?」

「仲良くやってるよ」

「楽しい家族計画は進んでるか」

「ぐっ・・・それは、もうちょっと」


カイは野菜チップスが喉につまりそうになってワインで流し込んだ。



「なんだ。そっちこそあっというまにジジイになるぞ」

「それは!・・・仕方ないだろ。いい感じになると姫さんが真っ赤になって逃げるから・・・」

「思春期女子か」

「純真なんですぅ〜!」

「純真な魔族ってイメージが真逆すぎだろ」

「うちの姫さんは人間以上に純真で可憐なんですぅ!」

「ハイハイ」


カイはよくやっていると思う。

知らない世界に来て、何もわからないまま救世主として祭り上げられて。

それでもこうやって責任を果たしている。


魔王姫と幸せになるご褒美があったって良いだろう。

ショウたちの分も幸せになってほしいと思う。




実は使者として行ったヒナ達が魔族領から帰ってから、王国内では意見が割れていた。

魔族領と縁を結んだことを喜ばしく思う者達もいれば、魔族を討ち滅ぼすのが救世主じゃないのかと言う過激な者達もいた。

その意見の衝突は今でも引きずっている。

王国はあれからずっと不安定なのだ。


相手を知ろうともせずにイメージだけで悪と思い込む。

あんな奴らにカイ達の邪魔はさせない。

だから時々、王国に足を運んでは隠密行動をしている。


カイには秘密だ。

俺を自由にしてくれたこいつらには、ちゃんと幸せになってほしいんだ。


ショウも、今頃はどこかで笑ってるかな〜・・・




ふと目が覚めると、朝日が海面を照らしていた。

・・・まぶしい・・・


「あれ? 俺、寝てた?」


眩しさに薄く目を開けて辺りを見回す。

カイもソファで横になって寝ていた。


いつのまにかふたりとも寝ていたようだ。

途中から記憶がない。

ちょっと呑みすぎたかな。



「おい、カイ。そろそろ帰らないと姫さん達が心配するぞ?」


「ん・・・え・・・わ!おはよう!? やっべ、早く帰んないと!」


「ははっ俺もいつの間にか寝てたよ。残ってるバゲットは朝ご飯に持っていけよ。みんなによろしくな」


「ああ、ありがとう。今度はこっちにも遊びに来いよ。じゃあ、またな!」


カイは慌ただしく転移門をくぐっていった。




上を見上げると、降り注ぐ太陽の光の中を小さな魚たちが泳いでいた。

揺れる海面には海鳥の姿も見える。

ゆらゆら、キラキラ。

俺はこのテラスから見える景色が心地よくて好きだ。



揺れる海面を見ていると時間が止まっているような錯覚に陥る。

もうすぐショウが帰ってくる。

そんな気がするんだ。

読んでいただき有難うございます!

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