魔族領へようこそ〜sideカイ
あの日、俺とヒナとショウはこの世界にやってきた。
一番年上の俺があいつらを守ってやらなきゃ・・・ずっと、そう思ってた。
騎士団と一緒に鍛錬して、魔法と剣の使い方を教えてもらって、魔獣の住む森で実践訓練した。
俺達は召喚されたからなのか、普通の人間よりも成長が早いと言われた。
魔法も剣も、使うたびにどんどん成長していった。
強ければ強いほどヒナとショウを守れる。
そう思って必死に自分を鍛えた。
だが実際はどうだ。
ショウのほうがチートじゃないかと叫びたい。
あいつの成長ぶりのほうが異常。
それなのに当の本人はあまりわかっていない。
まあ、小学校のときからマイペースな奴だったしな。
そして実はヒナの初恋の相手だと俺は知っている。
なんか教室の空気が悪くなったときに助けてもらったとかなんとか。
小学生のときの話だから詳しくはわからん。
今はヒナの心の支えになっているようだから、ショウが一緒で本当に良かったと思う。
それにあいつなら、なんかスゴイ魔道具を作ってヒナを守ってくれそうな気がする。
そんなことを思い始めていたとき、魔王領へ使者として行くように厳命が下った。
ヒナも一緒だ。
護衛として騎士団も数人同行するらしい。
そして、そのリーダーを務めるのは騎士団副団長ルーク。
この国の第二王子だそうだ。
実践訓練では何度か一緒になったことがあるが、この男はすごい。
剣や魔法の腕はもちろんだが、彼が指揮をとった時の統率力には感心する。
人心掌握術に長けているのだろう。
護衛としては人望もあるし頼りになるし、とても有り難い人選だ。
ただひとつ。
問題があるとすれば、彼はチャライ。
人心掌握は王族として重要なことはわかる。
だからといって、あの人たらしっぷりはどうなんだ。
男も女も心酔していく。
おかげで女性関係の噂が多いという。
噂はあくまでも噂だから、事実かどうかは不明だ。
だが、もしもということがある。
ヒナは絶対に俺が守らなくては。
魔王領に向かって出発してからは、慣れないことの連続だった。
まっすぐ南に進んだほうが早いのに、そっちは戦争中だとかで遠回りになった。
東側の森を抜けるまで野営が続いた。
食事は質素だし、寝床は硬いし、風呂にも入れない。
風呂に入れないのって日本人にはつらい。
ヒナは大丈夫かと心配したが、自分に浄化魔法をかけてしのいでいた。
森を抜けて他国の領土をいくつか進んでいるときもトラブルは多々あった。
そこは王子様の本領発揮と言うか。
ある時は領主と話し、交渉し、取引をしたり。
道中に倒した魔獣や連行した野盗を引き渡して感謝もされた。
ルークは女性とたびたび一緒に出掛けているとの話しも聞いた。
砂を吐くほど甘いセリフを口からスラスラと出しているのを何度か見かけた。
女性のほうも違和感なく受け取っていたし、この世界では普通なのだろうか?
そんなかんじで大陸の南に着くと、魔王領が海の向こうに見えた。
くやしいことに、船を準備して乗り込もうとしているところを悪魔に襲われた。
魔物も次々と湧いて襲ってくる。切っても倒しても魔法を放っても襲ってくる。
キリがない・・・と思っていたところに別の魔族集団が現れた。
俺は「ここまでか・・・」と腹をくくった。
ところが、新しく現れた魔族集団は魔物たちを倒して加勢してくれた。
彼等は魔族領の警備兵だった。
気がつくと最初に襲ってきた魔族はどこかへ消えてしまっていた。
その後は魔族領に招待され、丁重にもてなされて今に至る。
魔界からやってきたという姫さんは、とても可憐な女性だった。
艷やかな黒髪、滑らかな肌、赤い瞳は妖艶な雰囲気をかもしだしている。
見た目だけでなく、ひとつひとつの所作ですら美しい。
だがそれに反して純情そうな反応。
ルーク王子の「ごあいさつ」のような口説き文句にすら顔を真赤にさせているのだ。
扇を広げて必死に誤魔化していたが、きっと耐性がないのだろう。
彼の毒牙にかからないように俺が守ってあげなくてはっ!
晩餐会が開かれ、魔王姫とゆっくり話をする機会に恵まれる。
王国と魔王領は悪魔討伐に向けて協力体制を築き、連携を取ることを約束。
ルークが魔族の重鎮たちとなんやかんや情報交換している間、俺は魔王姫と話をしていた。
王国のこと、魔法のこと、魔道具のこと、地球のこと。
姫さんは俺の話に興味津々で、初めて知る地球やこの世界の話がよほど興味深かったのだろう。
まるで少女のように目を輝かせていた。
それはもう、ルビーが光を放っているかのように。
彼女の話を聞くと、かなりの箱入り娘だ。
身分が違う者と話すことを禁止されていて今まで友だちがいなかったらしい。
ほとんど城から出たこともないなんて。
箱入りというより鳥籠じゃないか!
なるほど、それでルークの甘々セリフにあの反応。
王子様だしイケメンだしな。
でもあいつチャライんだよ。
姫さんの相手としてはどうかと思うぜ。
世の中は広いから、もっとお似合いの男がいると思うぞ。
ルークと重鎮たちがやってきて姫さんに話しかける。
姫さんの父である前魔王と、逃走中の悪魔の話題に姫さんは顔を曇らせた。
さっきまではキラキラの目をしていたのに。
ーー俺とあまり年齢が変わらないだろうに、つらい思いをしたんだな。
気持ちを押し込めて笑顔を作る彼女の姿に胸が痛む。
「これから連携と親交を深めていきましょう」とルークが言った。
嫌な予感がした。
ルークは王国の第二王子で、姫さんは魔王という立場だ。
国同士の親交を深める場合、この世界でよくあるのは「婚姻を結ぶ」ということだろう。
ルークに姫さんをまかせることなんて出来ない!
「こんな可憐で美しい女性を泣かせるなんてありえない。これからは俺が側で支えましょう。あなたとこの魔族領を守ってみせます。」
気がつくと、ルークのようなセリフを吐いていた。
ヒナがなんとも言えないような顔でこっちを見ている。
恥ずかしい・・・
ーーだが、後悔はない!
片膝をつき、姫さんの手の甲に口づけをする。
「あなたを幸せにすると誓います」
正直に言うと、この世界を守ることにあまり興味はなかった。
けれど、今俺の目の前にいる可憐な姫さんを守りたいと思った。
俺はきっと、この姫さんを守るためにこの世界に来たんだーー!
数日後、ルーク達が王国へ戻る日になった。
ヒナは怒っていたが、俺はひとりでここに残ることを選んだ。
「いやぁ、君があんな行動に出るなんてビックリしたよ。実は密命で、私か君が魔王姫と縁を結ぶように言われていたんだ。君が自分から残ると言ってくれて助かったよ。」
別れ際に爽やかな笑顔で「ありがとう」と言うルーク。
そして堪えきれないとばかりに思いっきり笑いやがった。
ずいぶんと楽しそうに。
「おい」というと、必死に笑いをこらえながら「元気で」と船に乗りこんていった。
なんだよ、くっそー。あのときの俺、そんなに変だったか!?
・・・まぁいいや。
とりあえず、俺はここで出来ることを頑張るさ。
ヒナのことはショウのところに送り届けて欲しいと頼んである。
ルークならきっと約束を守ってくれるだろう。
それに、ルークが女性とよく出掛けていたのは。
あれは女にだらしないのではなく、交渉材料のひとつとして王子である自分を利用しているのだと理解した。
王子様も大変だなと思いながら船を見送った。
*****
あれから数ヶ月、ヒナとショウが遊びに来た。
王国を飛び出してきたそうだ。
空を飛ぶ絨毯に乗ってやってきたのだ。
ヒナの好きなものを把握しているショウは流石だ。
魔族領は魔素が濃いからと、身体を保護する魔道具を持ってきてくれた。
普通の人間は濃い魔素の中で長期間は耐えられないらしい。
ルーク達も数日で帰って行ったしな。
俺は気にしないようにしていたが、そのバングル型の魔道具を腕に装着すると身体が軽く感じた。
これは有り難い。
せっかく来たついでにと、魔族領内の建設も手伝ってくれた。
魔族領は開発途中だ。
次元の亀裂から入り込んだ悪魔を追いかけてきて、近くにあった島を拠点にした姫さん達。
この島は魔族領と呼ばれてはいるが、領土としてはあまり整っていない。
今でも時々魔界から迷い込んでくる魔族がいるから、彼等の保護もしているそうだ。
衣食住の安定は必須だろう。
ショウはまず、島をぐるっと一周、塀で囲んだ。
海の潮風で建物がダメージを受けてしまうからだと言っていた。
次に、大陸側の海岸に港を作った。
そして港から姫さんたちが住む仮王城までのメイン街道を作ってくれた。
これならメイン街道から左右に細道を作って区画を整理することが出来る。
今は手当たり次第に複数の家屋が島の好きなところに立てられている。
商業地区や住居地区と畑に分類すると生活しやすいだろうということで、住民たちと一緒に開発計画を立てた。
日本の街並みをイメージしながら、みんなが安心して暮らせる島にしたいと思った。
一緒に生活して思ったが、魔族も人間もたいして変わらない。
ちょっと見た目が違うだけだ。
能力と寿命は・・・ちょっと違うかもしれない。
だが、嬉しければ笑うし、悲しければ泣く。
怒ると・・・ちょっと怖いかもしれないが、人間にだってそんな奴はいる。
人間と同じように感情があって、一緒にご飯を食べて、寝て、働いて、遊んで。
この島に来る前は魔族は怖いものと思っていたが、今はここの連中が大好きだ。
そういうと、ヒナとショウは安心したように旅に出ていった。
「また遊びに来るよ。街作り頑張ってね」と。
「人間と魔族だと寿命の長さが違うから、寿命を延ばせる魔道具も研究してみるね」とも言っていた。
ショウのチート能力には恐怖すら感じる。
頼むからあまりヘンな物は作るなよ・・・
少し不安になった俺の後ろで、姫さんがポツリと言った。
「ずっと一緒にいられたら・・・嬉しい・・・」
しょうーがねぇなぁ。
その魔道具、期待して待っててやるか〜!
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