続2・精霊の森で出会ったのは〜マーメイド・クイーン〜
ーーれかーー
ーーたすけてっ誰かーー
『助けてって、言ってる!?』
光の精霊が勢いよく奥の岩場のほうへ飛んでいったので、ショウ達も慌てて追いかける。
浜がないところは身体強化で岩場を駆ける。忍者になった気分。
だが、いくつかの岩場を越えたところで慌てて飛んでいったはずの光の精霊は立ち止まっていた。
「誰かいた?」
『ううん。声はもっと向こうからみたいだ』
「じゃあ、早く助けに行こう!」
ヒナが進もうとしたが、精霊達は動こうとしない。
「どうしたの?」
『ボク達はここから先へは行けない。精霊の森の守護が切れてしまうから・・・』
「そうなの!? じゃあ、どうしよう。代わりに私達だけで行くしかないかな」
『ボクが助けてあげられたら良いんだけど』
「精霊の森の守護が切れると、具体的にはどんな支障があるの?」
『森を出ると魔素が極端に減ってしまうから、力を維持できなくなったり、身体が小さくなってしまったり・・・』
「あ、じゃあ、俺が魔力を供給できたら問題ない? 魔力量には自信があるんだけど」
「『『その手があったー!』』」
ショウはルーヴィッヒを頭に乗せ、光の精霊と手を繋いで魔力を送りながら走ることにした。
繋いだ小さな手は、幼かった頃の妹との記憶を思い起こさせたが、今は助けを求めている人がいる。
ショウは首を振って走ることに集中した。
ーーたすけてーー
今度は全員に聞こえた。
「近いぞ!」
辺りを見回すが誰もいない。
光の精霊は集中して音を拾う。
風の音、木々の揺れる音、葉の擦れる音、波の音、涙が岩場に打ち付ける音・・・
『あそこだ!!』
精霊が指差したのは、海の中にいくつもそびえ立つ岩場の真ん中。
トンネル状になっている岩場の向こう側。
黒い影が見える。
どす黒い、嫌な気配。
「たぶん魔素溜まりができている」
「大変!早く助けなくちゃ!!」
身体強化を維持したまま全力で海上を走る。
うわぁ、俺ってば本当に忍者になっちゃった!?
なんて呑気なことを考えていたショウは、魔素溜まりの中に誰かがいるのを発見して衝撃を受けた。
鱗がある。耳がヒレみたいだ。本当に魚の尾ビレみたい。
うわーっ人魚!? この世界にいるの!? まじでー!!?
あ、でもこの展開はもしかして・・・
横を向くと、ヒナも目をキラキラさせていた。
ーーですよね〜! プリンセスとか大好きだったもんなぁ。
それよりまずは救助だ。
岩場にくくり付けられたようにもがいている人魚は、どうやら魔素溜まりに捕まって抜け出せなくなってしまったらしい。
魔素溜まりの闇に飲まれると魔物化して自我を失い凶悪になってしまう。
ーー早く助けてあげなくちゃ!
人魚は助けがきたことに気づいて笑顔になったが、グッタリしていて顔色が悪い。
光の精霊が魔法で闇を払おうとするが、上手くいかない。
今度は3人で力を合わせる。
さっきより多い魔力をショウから受け取った光の精霊は、ヒナと一緒に光魔法を放つ。
魔素溜まりは霧散し、闇が消えて穏やかな海が戻ってきた。
『良かったー! 人魚さん、大丈夫ですか?』
『助けてくれてありがとう。あなた達は命の恩人よ』
「無事でなによりです。怪我はありませんか?」
『あちこち痛いけれど、このくらいで済むなんて奇跡だわ』
「大変!人魚さんの綺麗な鱗が・・・!!」
よく見ると、鱗も尾ビレも傷ついてボロボロだ。
ショウはマジックバックから小瓶をひとつ取り出す。
ーー前に作った初級ポーションなら残ってるけど・・・これじゃ効果が弱いか。うーん。
ーー魔素溜まりに捕らわれてたから浄化魔法をプラスしたい。治癒のために回復魔法の効果も上げたいけど・・・
「ヒナ、ちょっと協力してほしいんだけど、いいかな?」
ポーションの効果を上げるための説明をする。
「うん?でも、それだと私だけじゃ難しいかも。光の精霊さんにも協力してもらおう」
小瓶に向かって手をかざし、ヒナが浄化魔法、光の精霊が治癒魔法をかける。
それをショウが自身の魔力と混ぜ合わせ、両手で圧縮するように小瓶の中の液体へ溶け込ませた。
「できた! 擬似的だけど、中級ポーションの出来上がりだよ!」
『えっもう?』
「浄化と治癒の他に、体力回復と再生の効果もついてるよ」
「いや、もう、それ上級ポーションじゃない!!」
即席ポーションを手渡された人魚は一気に飲み干す。
すると、傷つきちぎれていた尾ビレは再生され、欠けていた鱗も修復、虹色へと変化した。
ーーん? 虹色の鱗??
見ると、髪色は水色へと変化し、耳のヒレも虹色になって大きくなっている。
ふつうの人魚はマーメイド・クイーンへと進化した。
「ちょっとショウ! 一体なにしたのよ!?」
「ごごご・・・ごめん!! こんなはずではっっ」
『えっなんで? なんでこうなった!?』
慌てふためく3人と、唖然とするマーメイド・クイーン。
『・・・・あの、ごめんなさい。ボクのせいかも』
ルーヴィッヒが申し訳なさそうに声をかける。
「ボクのせいってどういうこと?」
『ボクが、ショウと繋がってたから・・・ボクの魔力が干渉して時が進んじゃった・・・ごめんなさい』
ーー時の精霊の魔力が干渉して、時間が早送りされたってこと?
ーーん? それって・・・
「それって、彼女はいずれマーメイド・クイーンになる予定だったってことだよね?」
『うん、そう。』
「な〜んだ、とんでもないことやらかしたかと思ったけど、予定がちょっと早まっただけだからセーフだよね!」
「いやいや、とんでもないことやらかしてるから! 自覚して!」
セーフだよ!と主張するショウと、つっこみを入れるヒナ。
光の精霊はついていけなくて気を失いそうだ。
『あの、本当にごめんなさい』
しゅんと落ち込む小さな精霊に、マーメイドは優しい笑顔を見せる。
『大丈夫よ。そこの彼が言うように、予定が少し早まっただけなんでしょう?』
『私が別の何かになってしまったわけじゃないもの。問題ないわ。』
『でも、家族とかに怒られない?』
『上位種になったんだもの、きっと喜んでくれるわよ』
『そっか〜!良かったぁ』
安心したルーヴィッヒはショウの頭上を跳ね回った。
『みなさん、本当にありがとうございました。何かお礼をさせてください』
「いいって、気にしないで」
『そんなワケにはいきません! 命の恩人に礼もせず帰っては同胞たちに顔向けできませんから』
「困ったときはお互い様って言うし、助けられて良かったよ。本当に気にしないで」
『そんなっーーでは、せめてこれを受け取ってください。』
そう言って1枚の鱗を剥ぎ取り差し出した。
ーーああ・・・せっかく治癒したのにっ! そこだけハゲちゃうっっ〜
『虹の鱗は特別で、高級な薬にも、錬金の素材にもなると聞きます。受け取ってください。』
ショウが受け取るのをためらっていると、ヒナが手を伸ばして受け取る。
「私が預かるよ。また会えるかな?」
『呼んでくれれば海のあるところならどこへでも会いに行きます!』
「ありがとう、楽しみにしてるね」
『困ったことがあれば呼んでください。助けに行きますから』
『海の中ならマーメイド・クイーンは無敵です。困ったときは必ず呼んでくださいね。約束ですよ!』
そう言うと彼女は大きくジャンプして海に帰って行った。
「さて、俺達も帰るか」
マーメイド・クイーンを見送って振り向き、光の精霊と左手を繋ぎ直した途端。
精霊は眩しいくらいに輝いた。
「うっなに? まぶし・・・」
とっさに右手で光を遮り目をつむるショウ。
少しして、なんとなく光が収まったのを感じて片目をそ〜っと開けて確認すると・・・
7歳くらいだった少年の姿は、12歳くらいに変化していた。
ーーえっ。もしかして精霊も進化するの?
「なになに? もしかして大精霊ってやつになったの?」
『いえ、ボクはまだ精霊です。大精霊に一歩近づいたってことですね』
「そうなんだぁ。でもすごいね。おめでとう!」
『ありがとうございます。』
『あの、人魚さんを助けられたのはお2人のおかげです。ありがとうございました』
「みんなで協力したからだよ。助けられて良かったね!」
『人間が魔素溜まりの闇に奥せず救助するなんて、なかなか出来ることではありませんよ。』
「そうかな?」
照れるヒナに、光の精霊はニッコリと笑って言った。
『お礼に、ボクからの祝福を贈らせてください』
「精霊の祝福ってこと!?」
『はい。ショウさんは時の精霊と契約してますので、ヒナさんにどうでしょう。』
「えっ私!?」
『ボクは光の精霊なので白魔道士と相性が良いと思うのですが』
「たしかに・・・!」
一瞬喜んだヒナだが、少し考えて悩む。
「でも・・・」
『あなたはすでに精霊の加護を受けているから、光の祝福も受ければ聖魔法を使えるようになりますよ。』
『この世界は少し歪になってきています。今回のように困ってる人がいても聖魔法なら助けてあげられる確率が高い。勇敢なあなたに祝福を受け取ってほしいです』
「じゃ・・・じゃあ。もらっといてあげようかしら」
勇敢と言われて照々なヒナは精霊と目を合わせられないようだ。
『素直じゃないですね』
「本当に」
光の精霊とショウは顔を合わせ、笑って頷きあう。
精霊はヒナの頭上に光の球を作り両手で受け止める。
光はやがて、王冠の形に変化。
その王冠をそっとヒナの頭の上に乗せた。
『この者に光の精霊の祝福を』
光の王冠に呼応するように、ヒナの中の魔力が変化するのが伝わってきた。
濁流のように勢いを増す魔素が、光も、風も、水も、全てを飲み込むように絡め取って渦を巻く。
時間を早送りするかのような感覚。
初めて体感する大きな力に圧倒される。
気がつくと風は収まり、穏やかな波の音だけが聞こえていた。
呆けていたショウは、我に返ると同時に大興奮。
「なんか・・・すごかったね! 俺の契約のときと全然違ったけど!?」
『ルーヴィッヒはまだ小さいですから。ボクは大精霊に近い存在なので』
光の精霊はドヤ顔。
精霊のドヤ顔なんて初めて見たわ。
ルーヴィッヒはちょっとくやしそうにショウの頭の上で転がっている。
「すごい、身体の奥に新しい力を感じる」
ヒナは自分の両手をマジマジと見て関心した。
『聖魔法があれば小さな厄災には一人でも対応できるかと思います』
「うわ〜責任重大! でも、頑張るね!」
加護と祝福をもらったなんてバレたら大変なことになりそうだから、こっそり正義の味方をやるつもりだったのに。
癒やしと浄化の力がマシマシになったヒナは、その後、聖女と呼ばれることになるのでした。
『ボクが、ショウと繋がってたから・・・』とルーヴィッヒは言っていますが、ヒナも加護を受けているのでヒナとショウ、どちらも原因なのですよ。それに気づかないヒナさん・・・! 気づいて!
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◯お知らせです
時の精霊ルーヴィッヒの子孫が旅をするお話のプロローグを公開しております。
第一章は12月から連載予定です。こちらもどうぞ宜しくお願いいたします。
https://ncode.syosetu.com/n5138jp/




