魔王姫だって恋がしたい!
今回は魔王姫とカイの出会い編です。
モノ作りは関係ないです。すみません。
何故こんなことになったのかしら。
私は静かに暮らしていたかったのに。
全ては叔父様の謀反から始まったーー。
*****
闇に包まれる魔界。
ここは世界から隔離された、欲望と憎悪の渦巻く魔境。
地上世界の負の感情が落ちてきて、この世界の魔素を闇に染めていく。
闇に染まった魔素は我々魔界の住人へ強い影響力を及ぼす。
ときに力になり、ときには破滅させる。
私の父はそんな魔界を治める魔王だった。
強い魔素の影響で暴走してしまった魔族を抑えたり、
闇に包まれた世界でも住みやすい国を作ろうと日々研鑽していた。
重鎮たちとの関係も良好だと思っていたのに、ある日突然裏切られた。
王弟が謀反を起こしたのだ。
次元に亀裂が入り、魔界と地上が繋がる隙間ができてしまったことで魔界はふたつの意見に割れた。
反乱軍はこの亀裂の向こうにある地上の世界も手に入れようと声を上げ、強硬手段に出たのである。
反乱軍を率いていたのは王弟。
子供のころは優しい叔父様だと思っていたのに・・・
裏で糸を引いていた悪魔がいたことは調べがついている。
闇の魔力に完全に飲まれ悪鬼となってしまった「悪魔」と呼ばれる存在。
ーー叔父様をそそのかし、父を殺めたあの悪魔だけは、絶対に許さない。
どうにか反乱は収まったけれど、魔界は混乱したまま。
私は亡くなった父の後を継いで魔王に就任したが、未だに混乱が続く状況に頭を抱えていた。
・・・こんな小娘が魔王じゃ反発が多くても仕方ないわね。
でも、仕方ないなんて言ってられない。
どうにかしなくては。
そんなとき、父の右腕だった宰相から縁談を持ちかけられた。
「一緒に魔界を治めましょう」ですって。
しらじらしい。冗談じゃないわ。
私はこの宰相も謀反に一枚噛んでいると疑っている。
丁重にお断りしたら「何もできない小娘のくせに!」と罵倒された。
しかも周りの重鎮も一緒に。本性を現したわね。
混乱が続いているのだってあなた達が裏で手を回していることは分かっているのよ。
そんなに魔界が欲しいのなら、いっそくれてやろうかしら。
「そんな風におっしゃるということは、混乱を治める策があるのかしら。貴方はよほど自信があるのね?」
「ならばこの混乱を収めてみせなさい。私はあの悪魔を討つために地上へ行きます」
父の形見を握りしめながら、そう言い放って魔界を後にした。
父の直属だった魔王第一軍団も一緒について来てくれた。
主君の仇を討つのだ、士気も高い。
それに子供の頃から見知っている顔も多く、
城の倉庫から大量の食料と野営道具、魔法具など持ち出して駆けつけてくれた強者達なのだ。
悪魔討伐の心強い味方。
「姫様、亀裂を出てすぐ近くに小さな無人島があります。そこを本拠地にしましょう」
土魔法で簡易的な住居をつくり、衣食住を確保する。
さすが魔王直属。連携が取れていて手際も良い。
「しかし、魔王城をやつらに渡してしまって良かったのですか?」
「かまわないわ。父と一緒に政を執っていたんですもの。私より適任じゃないかしら」
「魔界を留守にしている間に、また何か企むかもしれませんぞ」
「やつらが亀裂を通って攻めてきたら・・・」
「ふふふ」
私は小さく笑って、父の形見の箱を開けた。
「これさて、これは何でしょ〜か?」
箱の中には黄金に光る腕輪。
蔓のような細かい細工が施されており、色とりどりの魔石が埋め込まれている。
「それは、魔王の証ではないですか!」
「魔界から持ち出しておったとは・・・」
「今はまだ私が魔王なのよ。これをどうしようが私の自由だわ」
「なんと!父上も驚いておられることでしょうな」
この腕輪を持つ限り、私が魔王である。
魔王の力を数倍にも引き上げてくれる魔法具。
魔界における王の権利は渡さない。
あの人達の思い通りになんてさせるものですか!
「あとは亀裂に結界を張っておけば簡単には通れないし、向こうもしばらく大人しくしてくれるでしょう」
「さぁ、こちらは悪魔討伐に集中するわよ」
「はっ!」
魔王第一軍団は「魔族警備団」と名前を変えて悪魔の捜索に全力を出した。
なかなか見つからないが、たまに魔族が現れたとの連絡が入って警備団が出動する。
情報をまとめると次元の亀裂を抜けた悪魔は一人だけではなさそうだ。
地上の民に迷惑をかけている話を耳にするたび、申し訳無さで胸が痛くなる。
魔王の私が不甲斐ないばかりに・・・
そんな時、大陸中央に位置する王国から使者がやってきた。
魔獣や魔族が暴れるため被害が増えているのでどうにかしてほしいとのこと。
本当に、本当に申し訳ありません。
「我が領の者が迷惑をかけている件につきましては対策を進めております。申し訳ありませんが、もうしばらく我慢していただけますでしょうか。」
「辿り着いたばかりでお疲れでしょう。客室をご用意しましたので本日はゆっくりとお休みください」
使者一行は騎士団と若い男女だった。
男女の方は兄妹らしい。
うらやましいわ。
私はひとりっ子だったし、魔王城の中は年配のおじさまばかりだったもの。
たまに若い子も見かけたけど身分が違うから安易に話しかけてはいけないと言われていたし。
・・・そういえば、お友達っていたことないわね。
ここは魔界ではないもの。
もしかしたら、仲良くなれるかしら。
そんな期待も込めて、晩餐会を催した。
食事をしながらいろんなお話をした。
王国のこと、魔法のこと、魔道具のこと、異世界のこと。
初めて聞く話ばかりで胸が踊る。
視界にピカリ、ピカリと眩しい光が走る。
すごいわ。
世界にはこんなにも知らないことが溢れてる。
私は、なんてちっぽけだったのかしらーー
使者殿との話し合いの結果、王国と魔王領は悪魔討伐に向けて協力体制を築き、連携を取ることになった。
その流れで魔界のことも説明した。
謀反が起きたこと、私が新魔王になったばかりだが情勢は不安定ということも伝えた。
父と叔父様の件は思い出すたびに今でも胸をえぐられる。
でもお客様の前で暗い顔をしてはいけないと思い、慌てて笑顔を作った・・・が。
それがいけなかったのかもしれない。
「こんな可憐で美しい女性を泣かせるなんてありえない。これからは俺が側で支えましょう。あなたとこの魔族領を守ってみせます。」
使者の男性の方が片膝をつき、私の手の甲に口づけをした。
えっ。待って。ちょっと待って。
それって騎士の忠誠の誓い!!!
「なっなっ何をおっしゃってるの? あなたは人間でしょう?」
「種族なんて関係ありません! あなたを守りたいと思ったから、自分の心に従うまでです」
「そっそんなことを突然おっしゃられても・・・」
「美しいあなたに相応しい人間になると誓いますます。どうか側においてください」
美しいとか、守りたいとか、そんなこと言われたの初めてなんですけどー!
冗談・・・ではなさそうね。
熱のこもった真剣な眼差し。
え。困るわ。
こんなの、どう対応すれば良いかなんて教えてもらったことないもの。
お友達が欲しいとは思ったけど、これはお友達・・・ではないわよね!?
はっ恥ずかしくて、なんて返事をすれば良いのかわからな・・・
チラッと横目で彼を見れば、照れつつもニコニコの笑顔。
まるでシッポを振って懐いている大型犬だわ。
はわわわわわ。。
思わず可愛いと思ってしまった。やめてよ〜!
こちらが恥ずかしくなっちゃうじゃない。
こんなのっ こんなのっ どうしようっっっっっ
真っ赤になった顔を見られまいと背けたけれど、周りのみなさんにはバレバレで。
もう、魔王の威厳も何もあったものじゃないわ。
ぐぬぬぬぬぬ。
今さら取り繕っても手遅れでしょうけど。
「ここに居たいというなら、好きにしてくださって結構よ」
ああ・・・何故こんなことになったのかしら。
私は魔王城で静かに暮らしていたかったはずのに。
もうあの日々は戻らないけれど、新しい風が吹く予感。
私は魔王。
魔族の頂点に立つ者。
簡単に絆されたりなんかしないんだから!
でも、魔王だって恋をしてみたいの。
だから、少しだけ、ほんの少しだけ。
この胸の高鳴りに素直になっても良いですか。
「その代わり、悪魔討伐に協力していただきますからね」
「喜んで!」
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時の精霊ルーヴィッヒの曾孫が旅をするお話のプロローグを公開しております。
第一章は12月から連載予定です。こちらもどうぞ宜しくお願いいたします。
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