020
X月X日
カイは帰って来なかったけど、元気だと聞いて安心した。
ヒナは怒っていたけど寂しいのだろう。
兄妹でこっちの世界に来たのに、バラバラになったら一人になってしまう。そりゃ寂しいよね。
でも俺はカイが決めたことなら応援したいと思ってる。
小学生の時、学校から帰ったら漫画本が全部捨てられていたことがあった。
あのときは悲しくて悔しくて落ち込んだけど、カイとヒナが遊びに誘ってくれて漫画やゲームを貸してくれた。
家で理不尽に怒られ公園で隠れて泣いていたときも、カイが俺を見つけてそばにいてくれた。
妹がいるから面倒見が良いだけなのかもしれない。
近所だからもしかしたら我が家の事情も伝わっていたのかもしれない。
でも気にかけてもらえたことが嬉しくて、一緒にいるとホッとした。
それに自分の意見をハッキリ言えるカイは格好いいと思う。
だから、カイが決めたことなら俺も全力で応援する。
そう伝えたら、ヒナは「そっか」と静かに言った。
そして、うつむいたまま聞いてきた。
「ショウ、私と一緒にこの国を出ない?」
ーーーへ?この国を出る?
「ヒナさんや。それは魔族領に行くってことかい?」
「ううん。あそこには行けない。カイに会いにいくだけならいいけど、魔素が濃すぎて居づらいし、魔族もやっぱりちょっと怖いもん」
「じゃあどこに行くのさ?」
「わかんないけど、旅でお世話になった宿屋とかで働けないかなって。だって私、このままじゃ第二王子と結婚させられちゃう」
ーーー王子と結婚!?ヒナが?
たしかに、カイがいなくなった今、救世主を国に繋ぎ止めるには王族と結婚させるのが一番だろう。
でも、ヒナが結婚・・・けっこん・・・
頭の中がグルグルまわって思考が追いつかない。
「だって。カイが好きな人といるっていうなら、私だって好きな人と結婚したいよ。私は、私はショウがいい」
睨まれながら言われてしまった。
「は・・・・え?俺? 今、なんて言った!?」
「結婚するなら、ショウがいいって言った。」
ヒナは真っ赤な顔してそっぽ向いた。
俺は頭が真っ白だ。
「・・・でも、俺なんか・・・」
「ショウは小学校のとき、クラスで一番優しかったよ。優しくて頑張りやのショウが好きだったもん。俺なんかじゃないよ」
「3日後、婚約式の打ち合わせをするって言われてるからその前にこの国を出ようと思うの」
ヒナは隠密ローブのフードを被りながら少し震える声で言った。
「もし一緒に来てくれるなら、その前に迎えに来て」
椅子に座ったままぼんやりとしていた。
どのくらいの時間がたったのだろう。
テオドールが夜食にと雑炊を用意してくれた。
そして、俺の頭に手をぽんっと置いて言った。
「俺は国を出るのも良いと思うぞ。お前はこの知らない土地で良くやったよ。」
身体に血が巡る感覚が戻って来る。
なんでか涙が出そうになって、雑炊をすすって誤魔化した。
あったかくて余計に泣きそうになるのを我慢してたら鼻水が出そうになった。
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