016
X月X日
執務室で宰相さんと対峙した。
「お茶を用意するから少し待っていてくれ」と一人にされた時はどうやって逃げ出そうかと思ったけれども、宰相さんは気が抜けるほど優しかった。
部屋の外で少し話し声がした後、ティーセットを持って戻ってきた宰相さんは防音結界を張って話し始めた。
なんと!宰相さんの父親は江戸から来た人だったらしい!
次元の亀裂からこの世界に迷い込んで困っていたところを旅商人に拾われてこの国に来たようだ。
本人は「神隠し」にあったと話していたそうで、寺子屋の帰りに迷い込んできたとのこと。
寺子屋ってことはまだ子どもだったのかな?
なんだか可愛そうだけど、いきなりチョンマゲの人が現れたらこっちの人達もビックリだよね!
亀裂の中は時空が歪んでいて、迷い込んでくる人は過去だったり未来だったりから来ていて時間軸が一致しないそうだ。
この国では過去に3人、神隠しで迷い込んだ人が確認されているらしい。
その人達は残念ながら亡くなっていて会えないけれど、宰相さんは「父から話を聞いて育ったから力になりたい。いつでも相談してほしい」と言ってくれた。
宰相さんが親切だったのは俺達が父親と同じ出身地から来たからかな?
今まで裏があるかもなんて疑っててごめんなさい!
その後はカイとヒナにマジックバックを渡して、詰め込んだ武具や魔道具やらを説明。
武器には万が一奪われたときのために魔力のヒモ付けをして持ち主専用の魔法陣を刻む。
「騎士団の人も一緒だと聞いたから、防具は少し多めに作ったんだ。みんなの役に立つと良いのだけど。」
次々とバッグから引っ張り出していたら、宰相さんが嬉しいような、羨ましいような、怒ったような、困ったような、おかしな顔になっていた。
外がすっかり明るくなった頃に食事が運ばれてきて、食後のお茶をしていたら騎士団の人が救世主2人と宰相さんを迎えに来た。
少し汗ばむような日差しの中、城内の広場で「旅立ちの式典」が行われる。
俺は宰相さんの執務室から隠れて見ていたのだけど、広場には騎士団や貴族、国のお偉いさんなどたくさんの人が集まっていて、壇上の右側にはカイ、ヒナ、同行する騎士団と思われる5人の姿が見える。みんな俺が渡した防具を付けてくれている。
カイは西洋風の鎧で、重さが負担にならないように軽量魔術をかけてある。帯剣していると本物の騎士みたいだ。
ヒナは白魔道士だから、白い生地に金糸で刺繍したローブ。ヒナ専用の杖をかかげれば偉大な魔道士に見える。
2人とも腕輪と通信指輪もしてくれているのを見てホッとした。
ーーーこれだけの装備があればきっと無事に帰ってこれるはず。金属のアイテムは俺が錬金した素材を使った特別性だ。性能はバッチリだろう。
騎士団のみなさんも身につけてくれているけれど、こちらの世界の鎧とは少しアンバランスな気がする。まあいいか。
壇上の一段高いところにいる国王様や偉そうな人達が羨ましそうにチラチラ見ているけど欲しいのかな?
国王様の激励の挨拶が始まったところでテオドールが迎えに来てくれた。
ーーーみんなの出発を見送り出来ないのは寂しいけれど、通信指輪もあるし大丈夫。
まだ式典が続く中、2人でこっそり城を抜け出した。
使者の出発から2日後、王城から召喚状が届いた。国王名義の絶対断れないやつだ。
ーーーーーですよね~・・・!!
大丈夫、覚悟はもうできている。
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