27. 目には目を歯には歯を、茶番には茶番を【2】【バルバラ視点】
異端審問にはシモンが関わっていると考えたバルバラ。続きです。
(大聖堂には、あのラードの塊がいるはずですわね)
彼なら何か知っているに違いない。そう思ってクピドスの夢へ跳ぼうとして、バルバラは愕然とした。
クピドスの白昼夢も夢も、この世のどこにも存在しなかったからだ。
それは偏に、彼が死去していることを意味している。
(司教が亡くなっているのなら、人間たちが騒ぐはずですわ。それなのに、誰一人、教会の関係者すらそれを話題にしていないということは、緘口令が敷かれているか、あるいは亡くなったこと自体が知られていないか……)
二週間以内に大聖堂に行った者が死んだ。
クピドスの夢がこの世に存在しない。
ヘンドリックが捕らえられても尚、増え続ける犠牲者。
――それらが示すこととは。
ドキリと心臓が嫌な音を立てた。
(まさか、シモンが司教の精気をすべてたいらげて殺害した、ということ……!? でも、そうであれば、全ての辻褄が合う……)
夢魔とはその種族名の通り、夢の中でこそ力を発揮できる生き物だ。人間の夢や夢魔の領域の中では大した苦労もなく身体の一部を変えたり、誰かに化けたりすることができるが、そのままの姿で現に降り立った場合、本来の自分の姿からかけ離れていればいるほど、大量の精気を必要とする。
つまり、バルバラが紫色の髪を茶色くし、金色の瞳を琥珀色にした状態で現に出てもそこまで消耗しないが、全くの別人の姿になりすまし、尚且つそれを長時間維持するためには多くの人間から精気を喰う必要があるのだ。
地位が高く、人間社会での影響力も大きいクピドス司教は、ヘンドリックを嵌めるためにはお誂え向きの人物である。何処かでクピドスに出会ったシモンはそれに気付いたのだ。そしてクピドスに接触する中で、シモンは彼が以前バルバラと会っていたこと、ヘンドリックが第二騎士団長であり、悪魔祓いに関して訊くために大聖堂を訪れていたことなどを知った。
そして偶然訪れたのか、故意におびき寄せたのかは分からないが、第二騎士団員たちが大聖堂を訪れた際にクピドスに化けたシモンが彼らの姿を目視し、夢に侵入する手立てを得たのだろう。
(団員たちの白昼夢を覗いて気付いたのか、もしくは人を使って調べたのかは定かではありませんけれども、兎に角彼は以前あたくしが騎士団の殿方の夢を切り取っていたことを何らかの手段で知り、それを今回の企みに利用したといったところかしら……)
団員たちの精気を喰らうことで現でクピドスの姿を保つための糧を得ることができたし、彼らをすぐに喰い殺さず、バルバラの姿に化けた自分を目撃させることでヘンドリックが関与しているという噂を流すことができた。また、バルバラ好みの外見の男たちを獲物に選ぶことで、ヘンドリックに彼女に対する不信感を植え付けることもできる。一石三鳥の作戦だと考えたのだろう。
(ヘンドリック様を異端審問で裁くためには、現で司教の姿を保ち続ける必要がある。だからヘンドリック様が囚われた今も、日々大量の精気を必要としているのですわ……)
あくまで状況から推測したに過ぎないが、異端審問はこの時既に翌日の昼間に迫っていた。未だどのような手口でヘンドリックのチェストに悪魔が描かれた木札を入れたかは分かっていないが、今からシモンを問い詰める時間はない。
だがバルバラには、推測がそれほど事実から外れていないという確信があった。
(やれるだけのことをやるしかありませんわ)
バルバラは、ヘンドリックに対する疑惑が人間たちの頭から吹き飛ぶくらい衝撃的な茶番を演出しようと、すさまじい勢いで今回の計画を立てた。
しかしいくら彼女の力が強大であるとはいえ、異端審問に出席するであろう多数の人間と伯爵位の夢魔を一度に自分の領域に引きずり込み、おまけに領域を現と全く同じ状態に変化させるのは骨が折れる。
更に、「夢の中に出てきた紫色の髪と金色の瞳の女の正体も、クピドス司教に化けている悪魔でした」と口頭で説明しても人間たちは信じない可能性が高い。それを避けるためにも、自分に似た女をシモンの「使い魔」と称して登場させなくてはならない。これら全てを自分一人の力で賄うには、いくらバルバラといえきついだろう。
(事後処理もしなくてはなりませんし、そのためにも力を温存する必要がありますわね)
そこでバルバラは金色に光り輝く女の役をヒルデガルドに依頼したのだ。幼馴染のシモンを討伐すると聞いた彼女は当初協力を渋っていたが、最終的には彼の凶行に怒髪天を突く勢いだったバルバラに折れてくれた。
文字数はそこまで多くないのですが、説明が多かったので、またここで区切ります。次回は回想終了後、自分の領域でヒルデガルドと会話を続けるバルバラです。
誤字脱字は見つけ次第修正していきます。




