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ミッドナイト喰らい夢 ~夢喰い姫は見目麗しい殿方を鑑賞したい~  作者: 柏井猫好


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26.  目には目を歯には歯を、茶番には茶番を【1】【バルバラ視点】

 黒い灰と化したシモンを目にした時、バルバラの中で湧いてきたのは達成感でも怒りでもなく、憐みだった。


 ――夢魔らしからぬ感性を持つ自分に執着した奇特な男。

 ――圧倒的な力の差を前にしても己の分をわきまえず、姑息な手段で挑んできた愚かな男。

 ――何事も成せず、何も残せずに逝く、哀しい男。


 彼が自分に対して抱いていた執着が何に起因しているのか、バルバラには分からない。

 真っ赤に焼けた鉄のごとく熱く、狂気すら孕んだあの感情は恋情故なのか、強い子孫を残したいという雄の本能故なのか、はたまた馬鹿にしていた幼馴染に力で勝ることのできなかった劣等感故なのか――。


 兎にも角にも、シモンは過ちを犯した。序列が自分より上に位置するものが文字通り唾をつけた獲物に手を出すというのは、面と向かって宣戦布告しているのと同義と見做される。

 彼は直接手を下した訳ではなかったが、人間たちの心につけ込んでヘンドリックを排除しようとした事は言い逃れができない事実なのだから。


「……さようなら、お馬鹿さん」


 天に昇っていくかつての幼馴染を見守りながら、溜息に紛れて虚しさを押し出した。




 ヘンドリックが無事に大聖堂内の一室に運ばれ、手当を受けるところを見届けたバルバラは、聖職者や審問官、衛兵たちが冷静になる前に彼らの目を盗んで自分の領域へと戻った。急ごしらえの計画だったため、かなり杜撰で大雑把な救出劇だった自覚はある。粗を探され矛盾点などを追及されては堪ったものではない。


 異端審問が行われていた広間をそっくりそのまま写し取った領域は、手を振れば瞬時に普段と同じ、木々が青々と茂った森へと姿を変える。

 地面に敷いたタペストリーの上に配置されている長椅子に腰かけると、どっと疲労が押し寄せてきた。あっという間に全身に脂汗が浮かび、息が荒くなる。


「――流石に疲れましたわね」


 独り言ちて苦笑する。


 異端審問が行われていた広間で、バルバラはシモンを含めた全員を自分の領域へ引きずり込んだ。領域内は広間をそっくりそのまま模したので、シモンやヘンドリック以外の人間たちは一瞬眩暈を感じただけだと思い込んでくれたようだ。


「そりゃあ、いくら序列三位の夢喰い姫だからって、あれだけのことをやりゃあ疲れるだろうね」


 呆れたような声に、バルバラは顔を上げた。


「ヒルデガルド」


 床に届きそうなほどに長い白髪にゆったりとした白い長衣を身に纏ったヒルデガルドは、眠たそうに目を擦りながら長椅子の隣に置いてあるひとり掛けの椅子に腰を下ろした。


「ご協力感謝いたしますわ」

「あんなんで良かったの?」


 ヒルデガルドは金の柄に銀色の刀身の剣を何処からともなく取り出す。これはヒルデガルドの力で作り出し、ヘンドリックに与えたものだ。


「ええ。完璧でしたわ! 彼らはまんまとあなたを天の使いと思い込んでくれました」


「とんだ茶番だったけどねぇ」


「あら、目には目を歯には歯をといいますでしょう? 茶番には茶番をもって応じたまでですわ」


 バルバラはにやりと口の両端を吊り上げる。




 満身創痍のヘンドリックと審問室で話をした日、彼はバルバラに犯人を特定するための鍵となる三つの言葉を齎した。


  ――バルバラそっくりな女が犠牲者の夢にでる。

  ――犠牲者は全員、以前バルバラが夢の一部を切り取っていた人間である。

  ――犠牲者は全員、過去二週間以内に大聖堂を訪れていた。


 バルバラはすぐさまシモンを疑った。シモンは変身術を特に得意としている。長年バルバラと接してきた彼にとって、彼女の姿に化けるなど容易なはずだ。


 そう推測したバルバラは、過去に自分が夢を切り取っていた美青年たちの夢や白昼夢をしらみつぶしに当たった。その過程で訪れた白昼夢のひとつで、ヘンドリックが捕らえられた後も夢に紫色の髪と金色の瞳の女が夢に現れ、亡くなった団員がいるという話を聞いた。


(――ヘンドリック様が捕まったというのに、引き続きあたくしの姿で人間の精気を食べ続ける理由は何でしょう……)


 夢魔にとって、死ぬまで相手の精気を喰らうのは愚行と言ってよい。わざわざ獲物に「捕食者が近くにいますよ、警戒してください」と大声で警告してまわっているようなものだからだ。


 捕らえられても尚、ヘンドリックが悪魔と繋がっていると印象付けるためにしては、あまり利点がないように思える。彼は既に拷問を受けて衰弱しているし、放っておいてもほぼ確実に有罪と判定されて処刑されるのだから、これ以上状況を悪化させようがないのだ。


 モヤモヤとした疑問を抱えつつ夢から夢へと渡り歩き、ついに昨夜、そのうちのひとりの夢の中でバルバラに化けて現れたシモンを見つけたのだ。


(やはり、あの気配はシモンで間違いなさそうですわね……)


 幸いにも、彼はその夜、夢の主の精気を喰いつくすことはなかったため、バルバラは気配を消して物陰に潜んで一部始終を監視した。


(それにしても、シモンは襲った団員達全員と会ったことがあるのかしら……)


 夢魔が人間の白昼夢や夢に侵入するためにはまず、その人物の姿を目視している必要がある。そのため、話に聞いただけの人物や、本人の姿絵――その姿絵が実物を切り取ってキャンバスに張り付けたかのように鮮明であれば別だが――を見ただけでは夢に侵入することができない。


 バルバラの領域に保管してある「見目麗しい殿方蒐集」であれば、切り取った夢の一部を貼り付けてあるが、序列が遥かに下に位置するシモンがバルバラに気付かれずに領域に侵入してコレクションを盗み見たとは考え難い。


 ――だとすれば、犠牲者たちが大聖堂を訪れた際に顔を見ているのではないだろうか。

長いので、途中ですがここで区切ります。次回に続きます。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

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