余命4ヶ月の彼と余命半年の私の恋物語*短編集収録予定
今作は前作、「余命4ヶ月の僕と余命半年の君の恋物語」の白井結菜視点となっています!
朝起きて顔を洗い、朝ご飯を食べ、歯磨きをし、着替えて、学校に行く。そんな日常のありがたさを痛感したのは小学6年生の夏休み直前のことだった。
1.始まり
私の名前は白井結菜。花を見るのが好きなおとなしい中学二年生だ。
花畑の中で、絵を描いている。そんな幸せな風景が黒いクレヨンで塗りつぶされたところで目が覚めた。目を覚ましたのは、海浜公園ではなく、いつもの病院のベッドの上。
なぜ私がここにいるのかというと、夏休み直前の休日、みんなで海浜公園の花畑を見に行く途中で私は体調が悪くなり、近くの病院へ行き、そのままドクターヘリでここに担ぎ込まれた。しばらく集中治療室にいたみたいだけど、もう元気になったので、一般病棟の個室に移った。そんなことを思い出していたら、
「にぃに~早くいこ~よ!お寿司食べれるんだよ!」
という声が聞こえ、
「皐月静かにしなさい!」
たしなめるこえがした。
「もてる?無理しないでよ」
「大丈夫だよw」
聞きなれた声。この声は病院に最近入院してきてであった、蒼太だろう。こっそりのぞいてみると、
彼が持つ紙袋の中には、パソコンとタブレット端末が入っている。彼は夏休み中、暇すぎて「余命4か月の初心者によるゲーム実況」というチャンネル名で色々なゲームをやっていた。夏休みという時期と、チャンネル名のインパクトが手伝って、登録者は1万5320人。最高視聴回数は78万回を突破したそうで、1万人を超えた時には、私と一緒にお祝いした。
そして今日で退院して、明後日から学校らしく、今日はお寿司を夜ご飯に食べにいくらしい。いいなぁ、お寿司、全然食べてない。
実は蒼太のことが私は少し気になっている。理由は、面白いけど実はよく考えてしゃべっている所、話してて退屈しないこと、私の人生に生きる意味を教えてくれたことだ。
ある日、蒼太から
「今日はお見舞い行くね~」
とメールで言われたので、今か今かと廊下を覗いていると、ライラックをもって歩いてくる蒼太が見えた。急いで扉の陰に隠れて息をひそめる。心臓がバクバクする。
「結菜~来たよ~」
「・・・」
蒼太がドアをスライドさせて入ってくると、ドアの影から
「わっっっ!!」
と驚かせた。そして驚いてしりもちをついた蒼太を見て、
「どぉ?びっくりした?あれ、そのお花、もしかして私に?」
と知らないふりをしていった。声が上ずっているのが自分でもわかった。
「うん!そうだよ」
「ありがとう!ライラックか~いい匂いだね!」
そのあと私たちは面会終了時間までたっぷりと話した。そして帰る間際、
「これからこれたら毎日来るね」
と蒼太が言ったので、
「りょーかい!毎日楽しみに待ってるね!」
と言っておいた。
彼は約束を守り、毎日彼は私の病室に通い詰め、面会終了時間になったらメッセージでやり取りをしている。その時間は嫌なことを忘れられて、幸せになれる。
翌日もライラックを買って来てくれた。
「結菜〜?入っていい?」
「い~よ~!」
ついさっきまでカーテンを全開にして外を見ていた私は振り向いた。
病室に入ってきた蒼太と目があった。空になった花瓶にライラックを入れてくれ、暇つぶしのカラオケ大会が始まった。蒼太は意外とうまかった。途中で来た看護師さんも一曲だけ参加するという異例の事態になり、とても歌がうまかった。そして面会時間が終わった後、私はネット上で見つけた9/14にある花火大会に蒼太から誘われた。
「9/14にさ、花火大会があるんだって!一緒に行かない?」
「いいよ!てか行きたい!」
「ありがと!まぁ、体調によってかな?無理だけはしないでね!」
「は~い」
1週間後、花火大会の日になった。病院に迎えに来てもらい、私も蒼太も浴衣を着て、2人でバスに乗って東京駅へ。そしてそこから1時間半くらい電車で行くと、花火大会がある所につくらしい。午後6時、花火大会が始まった。周りの人たちはワイワイ言いながら見ていたが、私たちは二人だけの世界にいるような感覚で、何も言わず、ただ静かに涙をそっと流して感動していた。これが、私が人生で最後に見る花火かもしれないと思うと、涙がこぼれてきた。帰りのバスで、
「今日は楽しかったね~一生の思い出になったよ!いつ死んでも悔いはないなぁ~」
と言うと、蒼太は不安になったようで、
「来年も来ようよ!次はもうちょっと高いところから」
「・・・、そうだね、私頑張るね!」
「うん!」
私たちは決して来ることのない来年の約束を結んだ。多分私抜きで見ることになるだろうなぁと思い、寂しくなった。
瞼の裏には蒼太の涙がこびりついて頭から離れない。
2.再会
翌日、朝から私はソワソワしていた。今日から新しい高校へ行くのだ。皇帝で校舎を眺めていると、お母さんが私の肩をたたいた。どうしたのかなと思い、指さされた方向を見ると、肩で息をしている蒼太と久しぶりに再会した。少しやつれてはいるけれど、あの時のまんまだった。しばらくして、ホームルームが始まって、転校生の紹介が始まった。私が入ると、教室がざわめき、女子たちは
「かわいい~」
「めっちゃかわいくない!?」
といった反応で思わず照れて笑ってしまった。
黒板に白井結菜とかいて、今までにないくらい明るい声で、
「白井結菜です!今日からこの学校に転校してきました!これからよろしくね!」
といい、クラス中が大喝采に包まれた。ホームルームの後、蒼太が来てくれた。
「蒼太この学校なんだね!しかもおんなじクラス~よろしく!」
「まさかこの学校に来るとは思ってなかったよ!よろしく!」
「お~い蒼太もう仲良くなったのかよ~」
「まぁね、長い間知ってるし」
「ずり~ぞ!俺は康太!よろしく」
「僕は寛治!よろしくね!」
周りに群がってきた男子たちと話し終わったころ、
「蒼太のクラスって面白い人多いんだね」
「そう?いっつもはもっと野獣みたいなんだけど、今日は天女が来たからね(笑)」
と言われ、恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
2日後、早くもクラスでは、
「蒼太と結菜さんいい感じじゃない?」
「お似合いだね~」
噂好きの女子たちが話し始めている。否定するのも面倒だし、あながち間違えてないので聞いてないふりをしていた。
今の学校生活はとても楽しく、席替えをして私と蒼太はまさかの隣になり、運動会での係も一緒、文化祭も一緒に回る約束をした。
体育の時間、私は理由も特に言わずに見学していた。その時は体力測定で男女ともグラウンドで授業をしていて、女子は50m走、男子は1500m走をしていた。蒼太はずっと見学しているらしく、暇そうにしていた。蒼太が私の方を見ているので、そっと微笑んでみた。康太くんと寛治くんはにやにやしながら蒼太のことを見ていた。
私と蒼太は時々一緒に早退したり、病院に行ったりした。転向してから、もう1週間たとうとしているが、順調に友達を作っていった。そしてクラスにもなじんでいった。相変わらず私たちは二人で病院から登校し、二人で病院に帰っている。体調が思わしくなくなり、入院してから3週間後、蒼太が来てくれた。ちょうど部屋の掃除をした後で、リハビリに行っていたので私の部屋は生活感が全くなかった。
「ごめんね~実は掃除したあとでリハビリ行ってて~」
蒼太は泣いていた。。
「どうした?蒼太、痛い?」
「いや、安心しちゃって、」
「も~男なんだから、ほら、泣かない泣かない」
その日、私たちは談話室でいつもの10倍はしゃべった。病室に移っても話し続け、私はしゃべり疲れて寝てしまい、起きると蒼太はいなかった。
文化祭の日、私は結菜と一緒にいろんなクラスを回った。いろんな出し物があったが、やっぱり一番良かったのは休憩できる自クラスのカフェだった。
3.暖かい冬休み
私たちは運動会での係も一緒に仲良く全うし、続く文化祭も一緒にいろいろなものを試したり、食べたりして今までで一番楽しんだ。そして期末試験後、冬休みに二人で遊びに行く予定をたてた。あのテーマパークに行こうという悲願。
「初めて二人で遊びに行くからちょっと緊張するね~」
「え?前花火大会行ったじゃん!」
「あ、そうでした(笑)」
「お~い、、」
なんてことをメールで話してるうちについに旅行当日になった。
東京駅で会う私服姿の蒼太はいつもよりも大人っぽく見えた。電車に20分くらい揺られてついたテーマパークで1日中遊んで、そろそろ帰ろうかというときになって雨が降り始めた。二人で仲良く相合傘をしてから電車に乗った。私は疲れて寝てしまい、駅につく寸前に起こしてもらった。帰った後、私からクリスマスの夜ご飯を一緒に食べようという誘いを送った。すぐに返事がきた。
「一緒に食べよっか!」
旅行の翌日から、私たちは1日に何十回もメールを送りあった。
「今日は晴れだね!お日様がまぶしくてカーテンを突き抜けてきますw」
「へぇ~俺の家は厚いカーテンだからそんなことないなぁ~」
「うわ!うらやましぃ~そいえば、最近お花がなくて寂しいから、今度ライラック買ってきてくれない?」
「いいよ~何色がいい?」
「やっぱ紫かな!」
「りょーかい」
なんて感じで、ちょっとだけ恋人っぽいかななんて思える。私の好きはどう思ってくれるかなぁと思いながらいつもメールを打ってはにやついている。
そんななか、約束の2日前、12/23。蒼太は外出先のショッピングモールで倒れてしまった。
翌日、蒼太は目を覚ました。横には蒼太の家族と、私の家族がいた。私は泣いていた。蒼太はかすれた声で、
「俺の、、、アカウントを、、結菜に、、」
とかろうじて伝えてくれたところで病室の中に音が響いた。命の終焉の音だ。
蒼太のいない日々
蒼太は12/24、私との約束の1日前にあの世へと飛び立った。安らかな顔で、苦痛を忘れ去ったような、でもまだ声をかければ目を覚まして冗談を言ってきそうな顔だった。倒れる前日に会ったときは普通の蒼太だった。
蒼太がなくなった翌日、私に一通の手紙が届いた。
『拝啓、結菜へ
あなたよりも先に天国へ行くことになりました
あなたはどうか、いつまでもあなたらしく、周りの人を笑顔で元気づけてください
できればあなたとずっと一緒にいたかった、ごめんね、
僕は心臓病で余命が4か月しかありませんでした。
君との日々は僕が失った青春と言える日々だったよ。ありがとう。
では、遠くからあなたのことを見守っていられることを願います
蒼太より』
私は泣き崩れた。なんで蒼太は私のことを勇気づけてくれたんだろうか、自分だってつらかっただろうに、私の行きたいところや、したいことをかなえてくれたんだろう、家に帰る途中、自己嫌悪になりそうな中、私がスマホで蒼太のアカウントを見ていると、大好きなライラックの写真があり、その下には見慣れた写真があった。その下にはメッセージがあるが、鍵がかかっている。蒼太の誕生日でも、クリスマスでもなかった。もしかしてと思い当たった数字を入れてみた。私の誕生日だった。ロックが解除された。
『僕を元気づけて励ましてくれた君へ』
そんな題名で始まったメッセージは蒼太のものだった。
『僕を元気づけて励ましてくれた君へ
僕は、余命宣告をされた日から一回も楽しいと思う事もなく、自分の世界に引きこもり、死ぬ前に認められたい、自分の生きた証を残したい、そう思って生きてきた。でも、結菜が来てくれたから、暗い病室に光がさしたんだよ、生きる意味を見つけられた。本当に感謝してる。だから、お母さんから結菜の余命を聞いたときは驚いたし、今まで助けてもらったからには今度は僕が結菜の行きたいところに連れて行ってあげようと思って、海とか、遊園地とかに行ったよね。楽しそうな結菜を見て、とても救われたよ。できるだけ、長く生きてほしい。生きて、あなたの笑顔で元気づけてほしい。
この投稿は見られたら恥ずかしいので、結菜の誕生日をパスワードに設定しておきました。じゃあ、天国でのんびり寝るとしますか~』
読み終えて、私はもっと涙がこぼれてきて、もはや息もできなくなった。蒼太らしい。あまりにも蒼太らしすぎる。悲しくなって、耐えきれなくなって、この世界が嫌になって、私はあの病院へ、蒼太のいた部屋に向かって走り出した。ドアを開けると、蒼太がベッドに眠っていた。私が蒼太の頬に触れようとすると、蒼太は消えてしまった。私は蒼太がさっきまで寝ているように見えたベッドに倒れこんで意識を失いそうになった。そして意識を失う直前、
「結菜、生きてよ」
聞きなれた声がした。優しい、子供をあやすような、温かい声。私が大好きな声。絶望のどん底から引き揚げてきてくれた声。
「蒼太!!」
自分の声で目が覚めた。日付は意識を失った翌日だった。病室の椅子を見ると、蒼太が座っていた。スケッチブックをもって絵をかいていた。私が蒼太に触れようとすると、蒼太は消えてしまった。私の幻だったのだろうか、いや、そんなはずはない、椅子には人のぬくもりが残っていた。きっと蒼太があいにきてくれたのだ。最期に。
私は最後に蒼太の投稿にコメントを残すことにした。
『ありがとう、蒼太。蒼太はよくやったよ。最後に蒼太に会えてよかった。天国でこの世界であったことを笑いながら、泣きながら話そうよ。ありがとう。おやすみなさい。』
1時間後、私の意識は徐々に薄れてゆき、視界は白くなっていき、私の意識ははるか彼方へと飛び去った。虹色の階段の前には花火大会の日の蒼太が手を振って待っている。私は蒼太の腕の中へと迷うことなく飛び込んだ。蒼太の腕の中は暖かく、ホッとするような感じがした。私と蒼太は見つめあって、どちらともなく手をつないで空へと続く階段を昇って行った。
それと同時に、
病室内に、尊い期限付きの恋物語の終わりと永遠の終わりなき恋物語の始まりを知らせる音が鳴り響いた。
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