PROLOGUE
前から書こうと構想していた作品です。
プロットは既に出来上がっておりますが、どうしてもここだけは先に残しておきたかったため投稿させていただきました。
2話以降の更新は未定です。
───見渡す限りの人ヒトひと。
色も、性別も、年齢すら異なる無限に思える後ろ姿。ただそこに、年老いた者の姿は無い。
白い空間の中で、ぼんやりとした意識を持ったソレは、その人影を眺め、ポツリと思考を巡らせる。
──最期に見たのは、頭を抑えつける母親の大きな手。
──最期に聞いたのは『お前なんて産まなきゃよかった』と叫ぶ声。
──最期に感じたのは、息も抵抗もできず、浴槽の中に沈められる無力感。
嗚呼、私はまた死んだのだ、と。その事実を受け入れた刹那、するりと己が身体を抜け、1歳児ほどの幼子が人影に向かって歩き出す。
「───幸せになりたい」
誰が最初に言い出したか。不意に重なったその声が真っ黒なソレを震わせる。
それは願いであった。
それは呪いであった。
それは本質であった。
一斉に振り返った人影共が、異口同音を吐き捨てる。
ソレは佇む。無数の人影の中を。
ソレは佇む。純粋な悪意の中を。
──黒く、暗く、そして冷たいモノ。
ソレが欠けた何かを埋めた時、また世界に一つの産声が上がった。
ーーー
とある小さな村の一角に、芽吹きを伝える脈動が響く。
方や陽の光すら跳ね返す褐色の肌を持つ耳先の尖った女。
方や透き通ったように明るい肌を持つ耳先の尖った男。
種族のせいもあるだろう。美しい2人の男女は、ただそこにいるだけで幻想的な空間すら創り出している。
───おぎゃぁ。おぎゃぁ。
周囲の者たちが息を呑む中、空気を震わせた元気な産声。
元気な男の子ですよ、と。へその緒を切った女が、褐色の彼女へと抱えた命を差し渡す。
「ありがとう、ライラ」
「ふふっ、大袈裟よ。ヴァン」
男女のそんな声が、部屋の中に木霊する。
ライラと呼ばれたダークエルフの女と、ヴァンと呼ばれたエルフの男。その手の中には、そんな2人を混ぜ合わせた色の肌を持つ耳先の尖った赤子が寝息を立てている。
名は『カーティス・ミリア・ヴ・オウトポス』。
ソレが今世で得た最初の贈り物であった。
主人公の名前は『カーティス』。エルフとダークエルフのハーフで、肌の色はその中間(作中の人族やハーフエルフと同じ)です。
現行作品が完結し次第随時更新していく予定です。
少しでも気になった方がいれば気長に待っていただけると嬉しいです。