変わったところ、変わらないところ
「俺も結構早く来たつもりだったんだけどな」
「全体からみたらそうですね。入学式まではまだ2週間程度ありますし」
「とりあえず寮の中探検しようぜ」
そんなことはとっくに済んでいる。
寮に来て最初にすることが探検って小さな子供みてぇ。
……いや、俺も同じことをしたんだった、今のなしで。
「まずは荷物を置いてきては? 部屋はどこです?」
「ん、ちょっと待てよ……。ああ、隣だ」
「じゃあはい、待っていてあげますから、荷物を置いてきてくださいね」
「なんか偉そうだな。もう昔の俺じゃないぞ、伯母上と一緒に地獄の魔法訓練をこなしてきたんだ。寮と学校の探検が済んだら、訓練場で勝負だからな!」
いや、俺は今訓練場に顔を出したくないんだよなぁと、返事をする前にヒューズは自分の部屋へ吸い込まれていった。誰もいないからまだいいけれど、廊下で大声でしゃべりながら移動するのは、恥ずかしいからやめてほしい。
でもなんだかちょっと元気になったわ。
見た目はちょっと成長してるけど、中身あまり変わらねぇや。
にしてもあいつの伯母上っていえば、あの【皆殺し平原】のオートン伯爵閣下だ。
そんなに悪い人じゃなさそうだったけど、訓練で容赦するタイプには見えなかった。
きっとそれなりに強くなってんだろうな。
扉を施錠して寄りかかって待っていると、勢い良く扉が開いて、ヒューズが部屋から飛び出してきた。本当に荷物を置いただけで整理も何もしてなさそうだ。
「片付けなくていいんですか?」
「そんなの後だ。これから暮らすところくらいちゃんと調べときたいだろ」
「そうですね、それじゃあお好きなように」
「なんだよ、相変わらずすかしてるな。ワクワクしないのか? 探検だぞ」
なんで俺が先にいたって分かってるのに、すでに探検を終えてるって発想が出ないんだろうか。俺ちょっとこいつの将来が心配だよ。
首を振りながら歩いていくヒューズを追いかけていると、まるで犬の散歩をしている気分になる。
今日は女子寮に行くつもりだったけど諦めだな。
このまま学園全体の探索もすることになる気がする。
ぐるりと寮の中を上から下まで見て回ると、自分一人で調べた時よりも気づきがある。ヒューズは俺があまり気にしない掃除用具入れやら、物品保管庫やらまでよく調べるのだ。
俺はと言えば相変わらずすれ違う生徒からの視線とかを気にしている。
態度が悪い相手は一応顔を覚えるようにしているけれど、あまりにあからさまだと普通にヒューズがそちらを睨みつける。
すると意外なことに喧嘩を買うものは一人もおらず、さっと退散をしていくことが分かった。ヒューズがやっているからいいけれど、俺がやったらきっとさらに嫌なうわさが広まるんだろうな。
しかしまぁ、アウダス先輩ほどではないにしろ、虫よけには十分な効果があった。
1階まで全て調べ終えると、ヒューズは腕を組んで首をかしげる。
「どうしたんです?」
「ん、いや、ちょっと外見てもいいか?」
「何か気になることでも?」
「少しだけな」
外へ出ると、ヒューズは寮を見上げながら周りをぐるりと歩いて回る。
その表情は真剣で、何かを調べるような視線は鋭い。
その間にあったことと言えば、テラスからこちらを見下ろしていた生徒が、俺の姿を見て嫌そうな顔をして引っ込んだくらいか。俺だって気分悪いからお前らの顔なんかみたくねぇよ。
でも顔は憶えたからな。
「よし、4階戻るぞ」
寮の入り口まで戻ってきたヒューズは、今度は中にずんずんと入っていく。
「探検は満足したんですか?」
「ん? あれ、ルーサーは気づかないのか?」
「何をです?」
「……ふーん、気づかないのか、意外だ」
本当に驚いた顔をして、ヒューズは階段を昇っていく。
もったいぶるなよ、気になるな。
「僕だって何でもできるわけじゃありませんし、分らないことも多いですよ」
「……そっか。俺はルーサーって何でもできる奴だと思ってた」
「だからなんの話ですか」
「ああ、4階の間取り変じゃないか?」
「どこがです?」
頭に思い浮かべてみるけれど、特におかしな点は見当たらない。
部屋がいくつもあるから、そもそもあまり間取りなんか気にしたことがなかった。
「見た方が早いか」
4階まで上がってテラスがある方と反対側の奥へ向かいながらヒューズが話す。
「この寮は同じフロア内なら、どの部屋も同じ広さで、同じ間取りだって聞いた。外から見る限り、この突き当りにはもう二部屋あるはずなんだ。外を確認したら、こっちの面にだけ窓がなかった。だから……」
ヒューズは突き当りに並べてある棚と壺を邪魔そうに見ながら、腕を伸ばして壁をノックして見せる。
「……音は普通、な気がする。扉っぽいのもない」
「部屋の中に扉があるのでは?」
「そうかもしれないけど、だとしたら、この廊下の突き当たりがここで終わる理由はないだろ? 壁の長さが変だ。俺は隠し部屋があると見てるね、間違いない」
腰に手を当てて胸を張ったヒューズは、自信満々にそう言い切った。
貴族の寮の中に隠し部屋って結構問題があると思うけどな、俺は。
どうなっているのか考えていると、後ろから足音が聞こえてくる。
ああ、そろそろ昼過ぎになるから、アウダス先輩の巡回の時間だな。
振り返ってみると、案の定先輩が廊下の角から曲がってくるところだった。
先輩は足を止めずに俺たちの方までやってくると、少し手前でぴたりと足を止める。なんだか少しだけピリピリした雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。
「何をしている?」
「友人が来たので、改めて寮内の確認を」
『友人が来たので』と言ったところで、俺の後ろに隠れているヒューズが、背中を小突いてくる。
ビビッて隠れてるくせに生意気な。
「そうか。こちらへ来ても何もないだろう。歩くのならテラスがある方にしておけ」
くるりと回れ右して先輩はすたすたと去っていく。
なんか変な感じだったな。
ヒューズの言う通り、この突き当りには何かあるのかもしれない。
「……ふー」
「ふーじゃないですよ。ヒューズは変わらないですね」
「は? 何が?」
「もう少し壁を調べていきますか?」
「い、いやぁ? お腹が空いたし食事にしよう、そうしよう」
はいはい、アウダス先輩に睨まれるのが怖いのね、わかったよ。
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